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内沼晋太郎と吉田昌平が考える、ネット以降の丁寧な本の作り方

内沼晋太郎と吉田昌平が考える、ネット以降の丁寧な本の作り方

CAMPFIRE
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:鈴木渉 編集:宮原朋之

多くの人が気づいていない隙間が無数にあって、うずうずしている状態なんです。誰もやらないなら俺がやっちゃうよと。(内沼)

―『新宿(コラージュ)』のあと、考えている本の案はありますか?

内沼:作りかけている本が2冊ありますし、企画もいっぱいあります。でも、順番をかっちりと決めているわけじゃないんです。いまはとりあえず、面白い人と会えばいつでも本が作れる体制に入ったという気持ちで、そこにノルマはない。アートブックの出版社や詩の出版社など、内容を限定するほうがブランドとしての強さは出ますが、それもやるつもりはないんです。

小説や漫画も出すかもしれないし、もしかしたら数学の問題集を出すかもしれない。そのくらい幅があっていいし、その方ができる実験の幅も広がると思います。僕は本の作り方、売り方、人への届け方、とにかく本にまつわるあらゆる実験をしたい気持ちが、ずっとありますね。

内沼晋太郎

―内沼さんをそれほどの実験精神に向かわせた、最初のきっかけは何だったのでしょうか?

内沼:学生時代に、ジャーナリストの佐野眞一さんによる『だれが「本」を殺すのか』というベストセラーを読んだあたりから、本の届け方に興味を持つようになりました。出版業界の状況が描かれていて、僕はそこで初めて一読者ではなく、業界側の世界を覗いたんです。大学生ですから、自分に旧態依然とした体制が変えられるような気持ちになってきたんですよ(笑)。

実際に始めたら、そんな簡単じゃないとすぐにわかったんですが。でも、通り一遍のことしかやらないから衰退していくわけで、実験をして次の道を探らないといけない。その最前線でいろいろ試す立場に自分を位置付けようと、そのときから思っています。

内沼晋太郎

―さきほどの『本の逆襲』には、そうした古い体制への怒りと動機が一体になったような思いが読み取れます。今回の出版の背景にも、業界への怒りはありますか?

内沼:その怒りは僕にとって、半分はポーズなんです。僕はまだ業界内では若いほうで、そもそも誰にも相手にされない時代が長かったですから、怒っていた方がいい(笑)。20代のころは怒りもあったけど、最近は多くの人が気づいていない隙間が無数にあること、もしくは面倒臭くて誰も突かない隙間があることが見えてきた。

そこを突きたくて、うずうずしている状態なんです。誰もやらないなら俺がやっちゃうよと。この十数年間、選書の仕事や新刊書店のあり方を模索してきて、やれることが増えてきたんです。

左から:内沼晋太郎、吉田昌平

今後は自己満足だけじゃなく、そのさきにも関わらないといけないと思います。(吉田)

―今回の試みは、日本でも数年前から新しいマネタイズの方法として注目される、寄付や投げ銭に近い部分もあるかと思います。現状、実感としてはあまり定着している印象はありませんが、今回の出版を通して、新しい経済のかたちも考えていますか?

内沼:そこまで大げさなことは考えていないですね。僕はそこはシンプルに、多様になっていくと思うんです。人の消費行動はトレンドや時代でも変わる。そろそろコンテンツにお金を払うことがかっこいい時代がやってきているけれど、そのあとに、「やっぱり広告がクールだよね、いまは逆にテレビが新しいよね」となる人が現れることだって起こり得る。大きな会社であれば、そこを予想して戦略を立てなければならないかもしれないけど、小さい僕らはそれを追いかける立場になってもあまり面白くならない。それより、「いまこれが面白い」と思うことをやりたいんです。

いまは単純に、いい本を作りたい。そして、それに適正な価格を付けて、ちゃんと流通させたい。お金のことばかりではないんですが、本屋をやっていると、絶妙な値段のつけ方が、商品が受け入れられるかどうかの大きな鍵になっているのがわかるんです。そこが不思議で、お金から自由になりたいけど、その適正値を巡る実験をやってみたい。

吉田:その実験に参加できるのは、とても面白いですね。正直に言えば、僕は目の前の仕事に精一杯で、業界の未来はあまり考えられていない。自分では何も変えられないと思いつつ、ちょっとずつ動けば、変わるかもしれないとも思っている。

今後は自己満足だけじゃなく、そのさきにも関わらないといけないと思います。そもそもこれまでは、デザイナーは売る現場まではなかなか関われなかった。だけど、本当はその現場まで知らないとデザインもできないわけで、いろいろ学ぶことは多いです。なにより本作りが大好きなので、それを続けられる道を少しずつ模索したいですね。

左から:内沼晋太郎、吉田昌平

―ノルマに追われる編集者も多いと言われるなか、今日は「本を作りたい」という根本的で強い思いを持った人たちがいることを、目の当たりにできた気がします。

内沼:もちろん、既存の出版社にも、そういう人はたくさんいるんです。最初はみんなそうした思いを持って、出版の道に入ったはず。でも、どこかにそれを忘れさせてしまう仕組みがあるんじゃないかと。その仕組みに少しずつ自分なりの仮説をぶつけながら、気がついたら何十年も続いていたという出版社になったらいいな、と思っていますね。

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プロジェクト情報

森山大道『新宿』
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森山大道『新宿』をまるまる一冊吉田昌平がコラージュした作品集出版プロジェクト

写真家・森山大道の写真集『新宿』(月曜社)を解体し、全ページを素材としてコラージュした128点からなる作品集『新宿(コラージュ)』出版に向けたプロジェクト。デザイナーとして働くかたわら、アーティストとしてコラージュを制作・発表する吉田昌平による大胆かつ自由で美しい自装の作品集をお手元にお届けします。

書籍情報

『新宿(コラージュ)』

2017年7月より全国書店で一般発売
著者:吉田昌平、森山大道
価格:6264円(税込)
発行:NUMABOOKS

イベント情報

吉田昌平 展覧会 『Shinjuku(Collage)』

2017年5月19日(金)~6月4日(日) 会場:東京都 新宿 B GALLERY

プロフィール

内沼晋太郎(うちぬま しんたろう)

1980年生まれ。NUMABOOKS代表。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。一橋大学商学部商学科卒。某国際見本市主催会社に入社し、2ヶ月で退社。往来堂書店(東京・千駄木)に勤務する傍ら、2003年book pick orchestraを設立。2006年末まで代表をつとめたのち、NUMABOOKSを設立。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。

吉田昌平(よしだ しょうへい)

1985年、広島県生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイン事務所「ナカムラグラフ」での勤務を経て、2016年に「白い立体」として独立。カタログ・書籍のデザインや展覧会ビジュアルのアートディレクションなどを中心に活動。そのかたわら、アーティストとして字・紙・本を主な素材・テーマとしたコラージュ作品を数多く制作発表する。2016年、雑誌『BRUTUS』(マガジンハウス)No.818「森山大道と作る写真特集」への参加を契機に、森山大道氏の写真集を素材としたコラージュ作品の制作を始める。作品集に『KASABUTA』(2013年 / WALL)。

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