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美術家・遠藤利克が表現する、日本人が忘れていた芸術の本当の姿

美術家・遠藤利克が表現する、日本人が忘れていた芸術の本当の姿

『遠藤利克展―聖性の考古学』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

たまたま立体だったから彫刻と呼ばれたけど、私にとっては、原初性自体に関わることの方が重要だった。(遠藤)

―遠藤克利さんのその後の転換点となった『水蝕V』とはどんな作品だったのでしょうか?

遠藤:このときも水を用意して制作をはじめたんだけど、どうしても作品が成立しなかったんです。そこで、苦し紛れで円状の穴を掘って、中心に水を入れたアルミ缶を埋めてみた。当時、私にとって作品が成立したことの指標は、作品から身体的に垂直性がすーっと突き抜けていく感覚を受けることだったんですが、それがあったんです。

さらに、メンテナンスをしたり眺めたりするうちに、この水が、それまでの作品で使ってきた水とは違うものだと思えてきた。これはある種、考古学的に発掘された遺跡のような水なんじゃないかという、個人的なひとつの幻想を見たわけです。

遠藤利克

―つまり、もの派的な、純粋に対象化された物質とは異なるものに見えてきたと。

遠藤:水が、自分の幻想的なイメージと重なったんです。実際、日本では水はずっと象徴的に扱われてきた物質でした。この作品の水は、そうした日本という共同体のなかで、共同幻想として連綿と扱われてきた、言葉の集合としての水の文脈に近いものだと思えたわけです。そのとき完全に水の位相が変わり、もの派と決別しました。

もの派は、そうした物語性を孕んだ物質の捉え方はまったく許容しないんです。たとえば李禹煥(日本を拠点に世界的に活動している美術家で、もの派を理論的に主導した)が、ガラスに石を落として、その作用でガラスが割れた作品を提示するとき、そこには物語性は介在せず、ただ他者化された物質同士が出会って名状しがたい場が生まれたという捉え方をします。私はこの作品で、とくにタブーを犯すような意気込みもなく、そうしたもの派の捉え方をすっと通過したんです。

遠藤利克

『Trieb-ナルチスの独房II』展示風景
『Trieb-ナルチスの独房II』展示風景

:実際、その後の「寓話」シリーズで、遠藤さんの作品は一気に物語性を帯びていくことになります。そこでは水のほかにも、たとえば火の要素も登場してきますね。

遠藤:この領域を掘ってみようと思ったんです。「寓話」シリーズでは、蛇の巻き付いた桶を作って各地で水を汲んだり、船や壺を燃やす儀式めいたことをやったり、道具としての彫刻を作りはじめました。四元素(水、火、土、空気)に人間を加え、そこに男女の性や生死、共同体や共同幻想の問題が重なり、原初性に関わる構造が生まれた。それ以後の作品は、自分で仮設したこの構造のなかから生まれてきたものです。

―今回の展示作品もその延長にあるものですが、原初性に向かうことで彫刻のなにを考えたいと思ったのでしょう?

遠藤:当時、「彫刻とは何か」という問いが追及されたりもしたけど、私にはそれはなかったんです。たまたま立体だったから彫刻と呼ばれたけど、私にとっては、原初性自体に関わることの方が重要だった。

というのも、日本には西洋的な文脈での神的なもの=宗教は欠落しているのに、近代以降、形式としてのモダニズムだけが入ってきた。でも、私はモダニズムとキリスト教は本来一体であって、その背景を捨象して形式だけを輸入するのはおかしいと考えていたんです。だから、彫刻だなんだと言っても、それは借り物だろうと。

何回見てもペラペラなんです、『ヴェネツィア・ビエンナーレ』の日本館と韓国館は。(遠藤)

―そもそも「彫刻」というジャンル意識自体が、輸入されたものだということですね。

遠藤:そうです。だけど、その日本にとっての「近代」という問題は解決していないし、いまだに乗り越え難い深遠として続いている。そこに対してなにかの橋をかけなければ、自前の美術なんてものはありえないわけだ。みんな借り物の、発泡スチロールみたいな土台の上に建物を建てている。その土台を、なんとかしようという発想なんです。

宗教的なレベルや、超越的なものにつながらないで、美術をやるのは限界があるでしょう。その部分を、原初の次元まで立ち返って、仮設でもよいからひとつの場として設定することで考える。そこから、結果としての彫刻が生まれているんですね。

『泉』(東京都現代美術館蔵)展示風景 巨大な作品が展示空間の導線を遮るように置かれる
『泉』(東京都現代美術館蔵)展示風景 巨大な作品が展示空間の導線を遮るように置かれる

―その場合の原初性というのは、限定的に日本という土地に関わるものなのか、より普遍的なものなのか、どちらなんでしょうか?

遠藤:私は、日本ということは超えた意味での原初性を考えている。だから、手つきとして日本的なものは現れるけど、作品のなかにはそういうものは現れない。原初的な状況では、どの文明も私の考える時期を経験しているだろうという想定ですね。

―このインタビュー前に行われたトークイベント(遠藤利克と森啓輔、埼玉県立近代美術館館長の建畠晢が出演し、埼玉県立近代美術館にて行われた)で、かつて何度も『ヴェネツィア・ビエンナーレ』に通うなかで、日本館はペラペラだったと発言されたのが印象的でした。

遠藤:何回見てもペラペラなんです、日本館と韓国館は。これが世界のトレンドだと解釈したそのままを出しているけど、世界と比べると、そのトレンドから二歩三歩遅れたものしか出ていない。しかも、背景にあるべき根源的なものに対する問いかけとか、自分の文脈の尻尾を持っていないから、糸を切られた凧みたいに浮遊してペラペラなんです。

遠藤利克

―本当は、その尻尾こそが重要だろうと。

遠藤:日本もいろんな知恵を持って生きてきたのだから、固有の尻尾が想定できるはずなんです。そこにキリスト教などのお仕着せのものを持ってこようとするから軽薄になる。宗教的なものに傾倒する心性というのは、普段は話題にしないけど、誰しもなんらかの局面で経験しているものです。そこに杭を打てばいいんだと考えてきたわけです。

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イベント情報

『遠藤利克展―聖性の考古学』ビジュアル
『遠藤利克展―聖性の考古学』

2017年7月15日(土)~8月31日(木)
会場:埼玉県 埼玉県立近代美術館
時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜
料金:一般1,100円 大学・高校生880円
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方と付添者1名は無料

プロフィール

遠藤利克(えんどう としかつ)

飛騨高山の宮大工の家に生まれ、少年時代に地元の仏師(ぶっし)に弟子入りし一刀彫りの技術を身につけたが、その伝統的な手わざに縛られ表現の可能性が狭まることをおそれ、立体作品の純粋な表現方法に移行した。『人間と物質展』(1970年)に触発され、原初的な物質、地・水・火・風のイメージの虚構性や幻想性に目を向けたという。1970年代より焼成した木、水、土、金属などを用い、『円環』、『空洞性』等を造形の核とし作品を発表。物質感を前面に押し出そうとしながらも、遠藤の問題意識は物質の背後にある身体感覚や物語性を追求する方向へと向っている。原美術館や欧米の美術館を巡回した『プライマル・スピリット展』などでもの派に続く世代と位置づけられた時代もあったが、もの派・ポストもの派の枠を超えて人間の生と死、芸術の根源を問う作品を発表している。

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