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美術家・遠藤利克が表現する、日本人が忘れていた芸術の本当の姿

美術家・遠藤利克が表現する、日本人が忘れていた芸術の本当の姿

『遠藤利克展―聖性の考古学』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之

常識を超える過剰さは、位相が異なる身体と精神の経験を呼び起こす。聖なるものはつねに過剰なんだよ。(遠藤)

―遠藤さんの作品では、とりわけ近代以降の日本で、美術をやることの土台が問われている。一方で、そもそも日本には近代という時代がなかったという議論もあります。

遠藤:そう語る人は多いですね。だけど、日本では近代がはじまってすらいなかった、という議論で終わってはいけないと思うんです。仮設されたもの、捏造されたものでもいいから、魂のある場所を立ち上げていくことこそが、日本の近代だと思います。でも、それがやられていない。

遠藤利克

:その仮設された場で、物語性を帯びた作品を作るとき、展示されていた「空洞説」シリーズのいくつかの作品に特徴的なように、円環という形態を多用されますよね。あのかたちはどこから発想されたのでしょうか?

遠藤:円環はそれ以上に還元できない、幾何学的には究極的なかたちで、世界のどの地域でもシンボリックに扱われてきた。それがなぜかを考えながら、この形態を扱ってきました。円環の作品は何度も作ってきたけど、その内部はたしかに外部と空気が違います。中心に入ると、垂直的な気体がすーっと立ち上がる。

そんな風に考えていたあるとき、石川で円環状の遺跡が発掘されて、その下に無数のイルカの骨が埋まっていたことを知って、驚愕すると同時に納得した。円環のイメージのなかで、殺戮と聖なる時空はどこか近い場所にあったんだと思ったわけです。

『空洞説-円環⇔壷』展示風景 巨大な「円環」の形態をとった作品
『空洞説-円環⇔壷』展示風景 巨大な「円環」の形態をとった作品

―聖性と暴力性は結びついていると。それで言うと、焼かれて炭化した表面やタールの香りもそうですが、作品の圧倒的な大きさも暴力性を感じさせるものです。

:通路を塞ぐように巨大な作品が設置されていて、非常にドラマチックであり、過剰さを感じさせました。美術館という場の性格をまったく変えてしまっていますね。

左から:遠藤利克、森啓輔

『空洞説』展示風景 空間を圧迫するように作品が置かれる
『空洞説』展示風景 空間を圧迫するように作品が置かれる

遠藤:スケールというものは、意味と位相を完全に転覆させるわけです。今回、「なにもあんなにでかいものを展示しなくてもいいのではないか」という意見も聞きましたが、大きさが違うと同じ形態でも身体経験としては、まるで違う。

ピラミッドでもなんでも、古代的なものは、すべて身体性に重きをおいて巨大に作られているわけです。常識を超える過剰さは、位相が異なる身体と精神の経験を呼び起こす。聖なるものはつねに過剰なんだよ。ジョルジュ・バタイユ先生も言っているように。

暴力も、生々しい性や悪の問題も、聖なるものにすごく密接に有機的に関与している。(遠藤)

―一方で、その過剰さが、遠藤さんの個展を美術館がなかなかやることができない一因にもなっているとも思います。今回も、大量の水流の音を聞かせる『Trieb-振動2017』という作品がありましたが、作品には美術館で敬遠される要素を含むものも多いですね。

遠藤:私の作品は、美術館からすると非常に嫌われ者です。汚いし、でかいし。いつも個展をしないかという話があっては、途中で「やっぱりやめます」と言われる。展示設営も、ほかの作家より圧倒的に多くの時間がかかります。だから、埼玉県立近代美術館の学芸員は頑張ってくれたわけです。無謀な決断だったとは思うけど(笑)、そのおかげでできました。

『Trieb-振動2017』展示風景 静謐な展示空間に大量の水の音が響き渡る
『Trieb-振動2017』展示風景 静謐な展示空間に大量の水の音が響き渡る

―遠藤さんが聖性の問題をずっと扱ってきたことは承知の上で、それでも個展がこのタイミングで開かれたことには、時代的な意味があるようにも感じます。というのも、東日本大震災のような災害を経験して、あらためて死や、そこに連なる聖の問題を考えはじめた人は多いのではと思うからです。こうした意見をどう感じられますか?

遠藤:もちろん私は「いま」というより、聖性や原初性はもっと重要なものとして捉えられるべきだと、「つね」に考えてきました。日本に神はいないとか、宗教の問題はないとか言い切れないのは、日常を超えた凄惨なレベルを経験したとき、宗教に向かう心性は近くに発生しているからです。それはとても大事なことだと思う。

ただ、それを体系的に捉えて見る地点まで行けていないのが、「いま」だと思います。宗教というと、忌まわしさを排除したイメージがあるけど、そうではない。

遠藤利克

―契機としては現れるけど、冷静には見られていない、ということですね。

遠藤:オウム真理教の問題が起こったときも、宗教ではなくて暴力だと言う人がいたけれど、やっぱり宗教です。暴力も、生々しい性や悪の問題も、聖なるものにすごく密接に有機的に関与している。それを理解できていない人が多い。しかし、そうした聖性や原初性についてあらためて思考して、体系化して、表現の土台にしていくことは、日本の美術を打ち出していくために欠かせないと思います。

―展示会場では、遠藤さんのその一貫した思考を感じることができますね。

遠藤:私の場合、ほとんど同じことをずっと繰り返しているわけです。微かでもいいから、なにか名状し難いものが伝わればいいかなと思う。その名状し難いものというのは、解釈ではない。「わかったわかった」という解釈ではなくて、わからないレベルが永遠に続くような経験をしてほしい。そんな場を作れたらと思っています。

遠藤利克

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イベント情報

『遠藤利克展―聖性の考古学』ビジュアル
『遠藤利克展―聖性の考古学』

2017年7月15日(土)~8月31日(木)
会場:埼玉県 埼玉県立近代美術館
時間:10:00~17:30(入場は17:00まで)
休館日:月曜
料金:一般1,100円 大学・高校生880円
※中学生以下、障害者手帳をご提示の方と付添者1名は無料

プロフィール

遠藤利克(えんどう としかつ)

飛騨高山の宮大工の家に生まれ、少年時代に地元の仏師(ぶっし)に弟子入りし一刀彫りの技術を身につけたが、その伝統的な手わざに縛られ表現の可能性が狭まることをおそれ、立体作品の純粋な表現方法に移行した。『人間と物質展』(1970年)に触発され、原初的な物質、地・水・火・風のイメージの虚構性や幻想性に目を向けたという。1970年代より焼成した木、水、土、金属などを用い、『円環』、『空洞性』等を造形の核とし作品を発表。物質感を前面に押し出そうとしながらも、遠藤の問題意識は物質の背後にある身体感覚や物語性を追求する方向へと向っている。原美術館や欧米の美術館を巡回した『プライマル・スピリット展』などでもの派に続く世代と位置づけられた時代もあったが、もの派・ポストもの派の枠を超えて人間の生と死、芸術の根源を問う作品を発表している。

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