特集 PR

アートが健常者と障害者の垣根を越えるには?現在の課題を語る

アートが健常者と障害者の垣根を越えるには?現在の課題を語る

『障害者芸術支援フォーラム ~アートの多様性について考える~』
インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:豊島望 編集:宮原朋之、久野剛士

受け取る側がただのアートとして価値を見い出せば、自然と「障害者アート」というくくりから解放されます。(中津川)

中津川:ただし、障害者の中には自分のことを「アーティストだ」と思っていない人は多いし、自分のしていることを「表現活動だ」と認識していない人も多い。それくらい自由なものだから、その自由さを尊重して、作りたい作品を作ってもらい、発表したい人にはその機会を用意することが必要だと思う。その先に自立の道が開かれれば何よりです。

:ただ最近、それが逆行していますよね。支援をしようとする人たちがいるのは理解できるんですが、中には「自分たちが存在しないと障害者のアーティストは社会的に大変だ」という立場の人たちがいる。それが結果的に障害者の自立を奪っているケースも目立つようになってきました。

竹村:障害のある人の芸術活動を支援する動き自体は、以前からあるものです。各団体が考える障害者アートの魅力を、良い意味で楽しんで、活動が継続することを真剣に考えてきたと思います。

その様子が変わってきたのが、日本がオリパラ(オリンピック・パラリンピック)を目指し始めた頃からですね。純粋な文化活動や芸術活動とは異なるような動きが徐々に現れてきていて……。公共の支援の対象になるためのカテゴリーのようなものが生まれてきてしまったんです。

竹村利道

:2020年に向けて、急にオリパラカルチャーが注目されて、障害のある作家さんの作品を扱う人が増えたんですね。それは良いことなんですけど、正確な知識がないまま「アール・ブリュット」という名前を使い始めた人たちが少なからず出てきてしまった。今、それも問題になっているんです。

—「アール・ブリュット」という名称は一般的なものだと思っていましたが、どんな問題があるのでしょうか?

中津川:軸は2つあります。「アート・美術」の軸と、「福祉」の軸。アール・ブリュットは、「正規の美術教育を受けずに、独学で開発した表現力で作品を作る人の創作物だ」と、提唱者のデュビュッフェ(ジャン・デュビュッフェ。20世紀のフランスの画家)が定義しています。日本語に訳すと「野生の芸術」で、囚人や精神障害者などの作品も含みます。ところが日本で「アール・ブリュット」と言うと障害者アート、しかも実質的には、ほぼ「知的障害者の作品」のみを指すもので、そのままブランディングが進んでしまったんです。

中津川浩章

中津川:それが問題なのは、彼らの創作が、知的障害者施設の枠組みの中で発達支援の1つに振り分けられてしまうこと。発達支援というのは、障害のある人たちがより良く生きていけるように、いろいろな形でサポートしていく。二次障害が軽減されるとか、言語表現能力が増えるとか、コミュニケーション能力が高まるように。でもそれだと、デュビュッフェが言う「教育しない芸術」とは矛盾するんです。

竹村:つまり日本のアール・ブリュットは世界基準とは異なっているんです。そうすると、この先、少なからず問題が起きることは目に見えている。

中津川:デュビュッフェの提唱には、現代文明批判も含まれていてかなり大きな話なんですが、今、日本では、かなり限られた範囲の「福祉の障害者アート」という形になっていて、そこで貴重な才能や作品が消費されていく流れになってしまっているんですね。あともう1つは、フランス発祥のアール・ブリュットということで、パリで展覧会をやると「本場で認められた!」と、いきなり評価されるんです。

:たくさんの人に見てもらえて評価されるのは良いことなんですけどね。

中津川:そう、良いこともあるんです。ただ「アール・ブリュット」を名乗っていないアーティストの作品は、注目してもらえなくなってきてしまっているんですよ。

竹村:私たちが何よりも大切にしたいのは、「アートはとても自由なものだ」ということなんです。それなのに行政の問題がアートの世界に入り込んできた。それも障害者という、最もいろいろなものに縛られなくていいはずの人たちのところに持ち込まれ始めてきた。「アール・ブリュット」という言葉の定義を知らないまま、全国の自治体も動き始めて、その名前を使わないと展示会を開催できないところまで出てきてしまっています。

—問題はかなり複合的なんですね。

:問題は、こういう議論がなされないまま、ここまで来てしまったことだと思います。だから「1回リセットして、みんなで考えましょう」と。そのきっかけを作るためのフォーラムにしたいんです。カジュアルに「アール・ブリュット」という言葉を使うのは別に悪くないんですよ。でも行政の問題が混ざり合ってきてしまっているので、ちょっと改めてリスタートしましょうと。

竹村:2020年という、これほど世界から注目されることはない時期に、日本でのアール・ブリュットが曲解されて使われているのは恥ずかしいことですし、多様な支援のあり方も狭めることにつながってしまう。障害者アートの支援にいろいろな形があっていいことを認め合って、アートやアーティストの魅力をどう広めるか、協力するきっかけに、私たちのフォーラムがなるといいと思っています。

:私が今日着ているこのトップスとストール、「やまなみ工房」さんでアート活動をする作家さんの作品をデザイナーさんがデザインして、パリコレで発表。障害があるとかないとかは全く関係なく、スタイリッシュ! 「カッコいいなあ」と気に入って購入しました。こんなふうに、障害者アートが日常に溶け込むチャンスがもっとあればいいなあと思います。

東ちづる

中津川:受け取る側が、「健常者も障害者も関係なく、アートはアートだ」と認識して、普通の作家と同じように取引されるようになったら、きっと自然に「障害者」というくくりが取れて、「アール・ブリュット」というジャンルも消えていくでしょうしね。

:今、オリパラ関連の話はみんな「~2020年」と表記してあって、2020年がゴールのようになっていますけど、むしろそこがスタートで、障害者アートが当たり前に多くの人の目に触れられるものにしていくのが目標ですね。

左から:竹村利道、中津川浩章、東ちづる

Page 3
前へ

イベント情報

『障害者芸術支援フォーラム ~アートの多様性について考える~』

2017年9月9日(土)
会場:東京都 六本木ヒルズ ハリウッドプラザ ハリウッドホール
登壇者:
村木厚子(ビデオメッセージ)
服部正
山下完和
今中博之
中津川浩章
東ちづる
エドワード・M・ゴメズ
櫛野展正
齋藤誠一
杉本志乃
田口ランディ
鈴木京子
竹村利道
料金:無料
※当日の会場の様子はFacebookライブで生配信

プロフィール

東ちづる(あずま ちづる)

女優。一般社団法人Get in touch 理事長。広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。ドラマから、司会、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは骨髄バンクやドイツ平和村等のボランティアを25年以上続けている。2012年10月、アートと音楽等を通じて、誰も排除しない、誰もが自分らしく生きられる“まぜこぜの社会”を目指す、一般社団法人「Get in touch」を設立し、代表として活動中。著書に、母娘で受けたカウンセリングの実録と共に綴った『〈私〉はなぜカウンセリングを受けたのか~「いい人、やめた!」母と娘の挑戦』や、いのち・人生・生活・世間を考えるメッセージ満載の書き下ろしエッセイ「らいふ」など多数。

竹村利道(たけむら としみち)

日本財団公益事業部国内事業開発チーム チームリーダー。1964年、高知県生まれ。1988年よりソーシャルワーカーとして地域の障がい者支援を行う。2003年に「特定非営利活動法人 ワークスみらい高知」を立ち上げ、自ら事業者として、弁当やケーキなどの製造・販売を通して、障がい者の就労機会、自立支援を行う。グループ全体の年商や約4億円超。藁工ミュージアムの立ち上げにも参加した。障害者就労支援プロジェクト「はたらくNIPPON!計画」および「日本財団DIVERSITY IN THE ARTS」のリーダーとして活動中。

中津川浩章(なかつがわ ひろあき)

1958年静岡県生まれ。美術家として国内外で、個展やグループ展多数。ブルーバイオレットの線描を主体とした大画面のドローイング・ペインティングと呼ばれるアクリル画を制作発表。代表作「クラトファニー(力の顕現)」「新世紀」「考古学」など。静岡県立美術館、筑波大学、川崎養護学校などで、現代アートやアウトサイダーアートについてのレクチャー、ワークショップ。震災後の神戸での展覧会がライブペインティングを始める契機となり、震災後のトルコでライブペインティングやワークショップを実施。エイブルアートスタジオにて主に精神障害を持つ人達の制作サポート。福祉とアート、教育とアート、障害とアートなど、具体的な社会とアートの関係性を問い直すことに興味を持っている。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

岩井勇気(ハライチ)『ひねくれとか言われても俺はただ自分が進みたい道を選んでるだけ』

ドリームマッチでの『醤油の魔人 塩の魔人』、ラジオで突如披露した推しキャラケロッピをテーマにしたEDM調楽曲『ダメダメケロッピ』など、音楽的な才能に注目が集まる岩井勇気。今回はミツカン「こなべっち」とタッグを組み、自らがマイクを取ってラップに挑戦。しかもこの動画、岩井がこれまでラジオや書籍の中で言及してきた、珪藻土のバスマットや、海苔、メゾネットタイプの部屋、クラウス・ノミなどのネタが詰まっていて、まさか岩井さんの自宅なのでは……? と隅々まで見てしまう。つぎはぜひ、自作のトラックとリリックによる曲が披露されることを待っています。(川浦)

  1. 映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が突きつける、社会に深く根づく性差別 1

    映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が突きつける、社会に深く根づく性差別

  2. 横浜流星が「つらいかぜ」を打ち砕く プレコールの新CM「闘い続ける」篇 2

    横浜流星が「つらいかぜ」を打ち砕く プレコールの新CM「闘い続ける」篇

  3. ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの 3

    ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの

  4. 木村拓哉を操上和美が撮影『SWITCH』原宿特集に小泉今日子、池田エライザら 4

    木村拓哉を操上和美が撮影『SWITCH』原宿特集に小泉今日子、池田エライザら

  5. King Gnu井口理が獣医師役 野村不動産「プラウド」ブランドムービーが公開 5

    King Gnu井口理が獣医師役 野村不動産「プラウド」ブランドムービーが公開

  6. 高橋一生主演×荒木飛呂彦原作ドラマ『岸辺露伴は動かない』12月NHKで放送 6

    高橋一生主演×荒木飛呂彦原作ドラマ『岸辺露伴は動かない』12月NHKで放送

  7. カルティエの新作キャンペーンに常田大希、池田エライザ、野田洋次郎ら起用 7

    カルティエの新作キャンペーンに常田大希、池田エライザ、野田洋次郎ら起用

  8. 大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤が全音楽記録媒体でリリース 8

    大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤が全音楽記録媒体でリリース

  9. YOASOBIがGoogle PixelのCMソングを担当 新曲“アンコール”を起用 9

    YOASOBIがGoogle PixelのCMソングを担当 新曲“アンコール”を起用

  10. スピッツ、全着席のコンサートを11月に東京ガーデンシアターで開催 10

    スピッツ、全着席のコンサートを11月に東京ガーデンシアターで開催