特集 PR

宮内悠介がエミール・クストリッツァを直撃 監督の発想の源は?

宮内悠介がエミール・クストリッツァを直撃 監督の発想の源は?

『オン・ザ・ミルキー・ロード』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之、久野剛士

長い内戦の影響で、誰も寄り付かない地域になっていた「ノーマンズランド」を、私は「文化的な要塞」とも呼ぶべきものに作り変えたんだ。(クストリッツァ)

宮内:監督が仰られている「人間性」の問題と、現在クステンドルフを拠点に活動されていることには、もしかしたら関係があるような気がしてきました。

クストリッツァ:今、こうして高層ホテルの一室の窓から、東京の景色を眺めても、私は特に何も感じない。だけど、クステンドルフでは、そうじゃないんだ。私は、あの場所でいつも自然に立ち戻ることができる。そこで暮らしていると、無数のインスピレーションを得ることができる。自然の景色から、さまざまなものを感じるんだ。そこで私は、本を読み、文章を書いて過ごしている。それは自由で人間的な生活だと言えるかもしれない。

コスタを見つめる花嫁/©2016 LOVE AND WAR LLC
コスタを見つめる花嫁/©2016 LOVE AND WAR LLC

宮内:ええ、憧れます。

クストリッツァ:私がここで「自由」という言葉を持ち出すのは、今の世の中、「自由」について、人々がほとんど語らなくなってしまったという思いも関係しているんだ。誰もが「自由」についてではなく、「混沌とした未来」について、あるいは「安全性」についてばかり語っているように思える。

エミール・クストリッツァ

クストリッツァ:かつて町には、その町ごとに「気配」のようなものがあった。そして私たちは、それを日々感じることができたように思うんだ。しかし、現在の大都市は、ただただ延長して広がっていくだけだ。その場合、町の終わりはどこにあるのだろう? そういう場所で、「生きる感覚を得る」というのは、非常に難しいことだと思う。

宮内:私自身、自分の感覚としてよくわかります。

クストリッツァ:空間を支配することなんて、本来人間にはできないことであるはずだ。しかし、この物質主義の世界では、とりわけこの世界を牛耳っている資本家や多国籍企業にとって、空間を支配することは、非常に重要なことのようだ。なぜならそれは、彼らの「経済」にとって、欠かせないものだから。

そう、……今の話で思い出したよ。1990年代、多くの人々が「歴史の終わり」を声高に叫んでいた。「民主主義と自由経済が勝利し、国際社会では歴史的な大事件は、もはや生じなくなる」とね。

宮内:フランシス・フクヤマ(アメリカの政治学者、1952年~)の著書『歴史の終わり』(1992年)などでしょうか。

クストリッツァ:しかし人々は、2000年代になってから、再び「歴史」を作り始めた。つまり、彼らの言う「歴史」は、資本主義が必要としている空間を、小さな国々から掠め取るためのトリックだったんだ。けれども空間は、先ほど言ったように、本来人間の手で支配できるものではない。

だから私は、都会から離れた場所、自然に囲まれた場所に、小さな自分の町を作った。それは本当に特別なことだと思っているし、そこで生活することは、私の喜びでもある。たった50軒の家しかないその町で、私は自分の人間性というものを保つことができているんだ。

エミール・クストリッツァは、2人の美女から想いを寄せられるコスタ役を自ら熱演 / ©2016 LOVE AND WAR LLC
エミール・クストリッツァは、2人の美女から想いを寄せられるコスタ役を自ら熱演 / ©2016 LOVE AND WAR LLC

宮内:少々立ち入った話になってしまうのですが、監督は一時期、祖国(旧ユーゴスラビア)を失い……、いわゆる「ディアスポラ」(所属していた国家や民族の居住地を離れて暮らす、集団ないしコミュニティーを指す)の状態にあったと思うのです。今のお話を聞いていると、現在は自分の居場所というものがあり、そこで穏やかに過ごせているような印象を受けました。もしそうであれば、私自身も嬉しいのですが……。

クストリッツァ:ドイツの詩人リルケは、「家を持たないものは、死ぬまでそれを見つけることができない」と書いた。だけど、私は自分の家を見つけることができたんだ(笑)。

私が作った2つの町は、いずれもボスニアとセルビアの国境の近くの「ノーマンズランド」と呼ばれている地域にある。そこは長い内戦の影響で、誰も寄り付かない地域になっていた。その場所に、「文化的な要塞」とも呼ぶべきものを作ることができて、とても満足している。「ノーマンズランド」を、平和な土地に作り変えたかったからね。そして、それは今のところ、うまくいっているよ。

宮内:映画と町作り、どちらにも監督の「人間性」に対する姿勢が共通しているように感じます。では、最後の質問になります。監督の映画は、ここ日本でも多くのファンがいますが、今回初めてリアルタイムで見ることができるという若いかたも、きっと多いことと思います。彼らに向けて、何かメッセージをいただけますか?

宮内悠介

クストリッツァ:私はテクノロジーに関しては、多くの点で賛同しかねるところがある。けれども、テクノロジーの進化にいくつか良い点があるとするならば、それは私の作品に世界中からアクセスがしやすくなったということだ。

若い人々は、新しい作品を発見することが大好きだ。彼らはいろんなやり方で、私の作品を発見してくれるだろう。それはまさにテクノロジーの進化によって、かつてよりも格段にアクセスしやすくなったことが関係している。このインタビューを読む人も、ひょっとしたらちょっとしたこときっかけに、私のことを知って、興味を持ってくれたのかもしれない。それは、とても素晴らしいことだと思っているし、感謝もしているよ。だから、誰かの意見や感想など気にせず、まずは自分の目で、この『オン・ザ・ミルキー・ロード』という映画を確かめてみてもらいたいね。

コスタと村娘ミレーナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)。祝祭シーンにバルカンミュージックが華を添える / ©2016 LOVE AND WAR LLC
コスタと村娘ミレーナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)。祝祭シーンにバルカンミュージックが華を添える / ©2016 LOVE AND WAR LLC

Page 3
前へ

作品情報

『オン・ザ・ミルキー・ロード』

2017年9月15日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
監督・脚本:エミール・クストリッツァ
音楽:ストリボール・クストリッツァ
出演:
モニカ・ベルッチ
エミール・クストリッツァ
プレドラグ・“ミキ”・マノイロヴィッチ
スロボダ・ミチャロヴィッチ
ほか
上映時間:125分
配給:ファントム・フィルム

プロフィール

エミール・クストリッツァ

1954年生まれ、ユーゴスラビア・サラエヴォ出身。1978年にプラハ芸術アカデミー(FAMU)の監督学科を卒業。在学中に『Guernica』(1978年)を含む短編映画を数本制作し、カルロヴィヴァリの学生映画祭で最優秀賞を受賞。卒業後、故郷(当時はユーゴスラビア)でテレビ映画を何作か監督し、1981年に『Do You Remember Dolly Bell?(Sjecas li se Dolly Bell?)』で長編映画デビュー。成功を収め、ヴェネチア国際映画祭で新人監督賞を受賞した。その後、『アンダーグラウンド』(1993年)『黒猫・白猫』(1998年)『ライフ・イズ・ミラクル』(2004年)などの作品で、人気監督として不動の地位を築いている。

宮内悠介(みやうち ゆうすけ)

1979年、東京都生まれ。92年までニューヨーク在住、早稲田大学第一文学部卒。2010年、「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞しデビュー。第1作品集『盤上の夜』で第147回直木賞候補、第33回日本SF大賞受賞。第2作『ヨハネスブルグの天使たち』で第149回直木賞候補、第34回日本SF大賞特別賞受賞。他の著書に『エクソダス症候群』『彼女がエスパーだったころ』『アメリカ最後の実験』『スペース金融道』『月と太陽の盤 碁盤師・吉井利仙の事件簿』。最新作の『あとは野となれ大和撫子』(2017年)は、第157回直木賞候補に選出された。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

Nova Heart“My Song 9”

盛り上がりを見せる中国ミレニアル世代のなかでも要注目のバンド、Nova Heartの“My Song 9”MV。今週末開催の、中国ユースカルチャーを代表する実力派ミュージシャンが出演するイベント『秋音之夜』にも登場する彼女たちが、日本の夜にどんな姿を見せてくれるか楽しみだ。中国ミレニアルズの勢いは止まらない。(川浦)

  1. 『紅白歌合戦』出演者にWANIMA、三浦大知、エレカシ、竹原ピストル、TWICEら 1

    『紅白歌合戦』出演者にWANIMA、三浦大知、エレカシ、竹原ピストル、TWICEら

  2. 菊地成孔×湯山玲子対談 「文化系パリピ」のススメ 2

    菊地成孔×湯山玲子対談 「文化系パリピ」のススメ

  3. 長澤まさみが高橋一生の腕の中で眠る、映画『嘘を愛する女』新ビジュアル 3

    長澤まさみが高橋一生の腕の中で眠る、映画『嘘を愛する女』新ビジュアル

  4. 西野七瀬がドラマ『電影少女』でビデオガール・アイ役 初ショートカットに 4

    西野七瀬がドラマ『電影少女』でビデオガール・アイ役 初ショートカットに

  5. のんが少年ヒーロー・クボに変身 『映画秘宝』表紙&巻頭グラビア 5

    のんが少年ヒーロー・クボに変身 『映画秘宝』表紙&巻頭グラビア

  6. カクバリズムの新鋭・mei eharaが明かす、デビューまでの葛藤 6

    カクバリズムの新鋭・mei eharaが明かす、デビューまでの葛藤

  7. 最果タヒ×山戸結希 この時代の一番の共犯者たち「言葉」を語る 7

    最果タヒ×山戸結希 この時代の一番の共犯者たち「言葉」を語る

  8. 吉本ばなな×岡村靖幸×のん×川島小鳥のグラビア小説も 『Maybe!』第4号 8

    吉本ばなな×岡村靖幸×のん×川島小鳥のグラビア小説も 『Maybe!』第4号

  9. ジョン・レノン&オノ・ヨーコのベッドイン写真展 世界初公開作含む約40点 9

    ジョン・レノン&オノ・ヨーコのベッドイン写真展 世界初公開作含む約40点

  10. 『ファンタスティック・ビースト』最新作が来冬公開 主要キャストの初写真 10

    『ファンタスティック・ビースト』最新作が来冬公開 主要キャストの初写真