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あらゆる角度から窓を考える「窓学」とは? 五十嵐太郎に訊く

あらゆる角度から窓を考える「窓学」とは? 五十嵐太郎に訊く

窓学10周年記念『窓学展―窓から見える世界―』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:永峰拓也 編集:野村由芽、川浦慧

小さなパーツである窓から、想像と思考が広がっていくことこそが「窓学」の醍醐味

多様な窓リサーチが進むなか、五十嵐自身はどのような研究を選んだのだろうか?

五十嵐:最初に取り組んだのは「窓の歴史学」です。窓の起源はいつなのか、現在につながるガラス製造の技術はどこで生まれたのかなどを年表にまとめていきました。そうすると、例えば紀元前4000年頃のメソポタミアではガラスが使われていたらしいという記述を見つけたり、さらに世界最古の板状ガラスがつくられたのが西暦79年以前のポンペイであったことがわかったりする。ベスビオ火山の噴火に呑み込まれて一夜にして滅んだ、イタリアの古代都市ですね。

このようにして歴史を知ろうとすると、そのままの姿で窓やガラスが現存している例は非常に少ないですから、資料である文献や絵が頼りになります。そして、そこから次のテーマである「窓の表象」へと発展していったのです。

五十嵐太郎

表象とは、おおまかに言えば「イメージ」のこと。オランダの画家ヨハネス・フェルメールの有名な絵画『牛乳を注ぐ女』は、ツボから器へと牛乳を注ぎ替える女性が描かれているが、その左側には格子窓があり、まだ人工照明が発達していない時代だからこそ、自然光によって、ありふれた生活の情景を劇的に変化させている。窓の存在によって、絵画のイメージは特徴付けられているのである。

Johannes Vermeer - De melkmeid 『牛乳を注ぐ女』
Johannes Vermeer - De melkmeid 『牛乳を注ぐ女』

五十嵐:写真や映像がなかった時代の窓を知るために、絵画は有効な歴史資料になります。例えば、16世紀ドイツの画家アルブレヒト・デューラーの銅版画『書斎の聖ヒエロニムス』でも、やはり左側に窓が描かれていますが、ここで設えられているのは「ロンデル窓」です。

ロンデル窓とは、瓶底のような円形のガラスを金属の枠にはめて連結させたもので、大きな一枚ガラスをつくる技術がなかった頃の主要な窓の一つです。『書斎の聖ヒエロニムス』には、ロンデル窓がかたちづくる印象的な影のかたちまでが丁寧に描写されていて、描き手であるデューラーが、美的なものとして窓と影を捉えていたことが察せられます。

アルブレヒト・デューラーの銅版画『書斎の聖ヒエロニムス』を見ながら
アルブレヒト・デューラーの銅版画『書斎の聖ヒエロニムス』を見ながら

4世紀に活躍した神学者ヒエロニムスは、聖書研究に大きな足跡を遺した偉人として知られる。その聖人が、研究に打ち込むなかでインスピレーションを得た瞬間を捉えたかのようなこの銅版画では、光と、光を室内に導き入れる窓は大きな役割を担っている。『書斎の聖ヒエロニムス』は、建築史の貴重な資料としてだけでなく、窓が絵画空間において象徴的な役割を演じていることを教えてくれる。

五十嵐:窓を描いた画家といえば、シュルレアリスムを代表するルネ・マグリットの『田園の鍵』も有名です。割れた窓、その下には粉々になったガラスが散乱していますが、その表面には外の風景が張り付いたままになっています。これはもちろん現実にはありえないシュールな風景ですが、窓と絵画はいずれも室内に異世界をもたらすフレームであることをふまえた批評的な作品になっています。

ルネ・マグリットの『田園の鍵』を見ながら
ルネ・マグリットの『田園の鍵』を見ながら

五十嵐:窓の基本的な機能として、視線を建物の内から外に誘導したり、逆に外から内に誘う役割があります。これをふまえて、室内にいる女性を窓から覗き込む男性のイメージはよく登場します。

あるいはさらに歴史を遡ると、古代ローマの壺に、外で決闘する2人の男と、それを窓の内側から見守る女性像が描かれていたりする。こういった「外 / 内=男 / 女」という関係性は、「窓辺にたたずんで外を眺める女性像」といった定番の主題となって現在まで続いています。これも、窓をめぐる文化史の一つと言えるでしょう。

この他にも、五十嵐は『ドラえもん』『サザエさん』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』を研究対象に、漫画における窓の表象も研究している。のび太が二階の窓からタケコプターで出入りする振る舞いは、SF的な想像力によって窓を「出入り口」に読み替えたものであるし、アクション漫画でもある『こち亀』では、破壊される対象として窓を効果的に活用することで物語を突き動かしていく。

このように、なんの変哲もない窓から、さまざまに想像と思考が広がっていくことこそが、「窓学」の醍醐味なのだ。

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イベント情報

窓学10周年記念『窓学展―窓から見える世界―』ビジュアル
窓学10周年記念
『窓学展―窓から見える世界―』

2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン
時間:11:00~20:00
出展作家:
レアンドロ・エルリッヒ
鎌田友介
ホンマタカシ
ほか
料金:無料

プロフィール

五十嵐太郎(いがらしたろう)

1967年、パリ生まれ。1990年、東京大学工学部建築学科卒業。1992年、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。現在、東北大学大学院教授。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞。『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)、『窓へ 社会と文化を映しだすもの』(日刊建設通信新聞社)、『窓と建築の格言学』(フィルムアート社)ほか著書多数。

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