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あらゆる角度から窓を考える「窓学」とは? 五十嵐太郎に訊く

あらゆる角度から窓を考える「窓学」とは? 五十嵐太郎に訊く

窓学10周年記念『窓学展―窓から見える世界―』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:永峰拓也 編集:野村由芽、川浦慧

窓での人の振る舞い、視覚にフォーカスしたインスタレーションの展示

これらの10年間に及ぶ多彩な研究をふまえ、研究者、建築家による研究展示と、現代美術のアーティストらによる作品展示を合わせたものが、『窓学展』である。同展の見どころについて訊ねた。

五十嵐:窓と、それに類する事物に関心を持つアーティストの作品は、やはり大きなポイントですね。金沢21世紀美術館のプールの作品『スイミング・プール』で人気のレアンドロ・エルリッヒさんは、会場である表参道スパイラルの円形の空間に『Window & Ladder』を展示します。

レアンドロ・エルリッヒ〈Window & Ladder - Too Late to Ask for Help〉2008 © Lorenzo Flaschl, Courtesy of Galleria Continua
レアンドロ・エルリッヒ〈Window & Ladder - Too Late to Ask for Help〉2008 © Lorenzo Flaschl, Courtesy of Galleria Continua

五十嵐:何もないところに突然はしごと窓を出現させる同作は彼の代表作ですが、窓の持つフィクショナルで物語的な側面を強く印象付けてくれます。

窓学に参加している建築家の原広司さんは、「窓のものがたり学」というテーマで、グリム童話や宮沢賢治作品などに登場する窓の描写を抽出して、物語のなかで窓がどのような展開、想像力を駆り立てるかを研究し、データベース化していますが、物語には窓から人が出入りするモチーフがしばしば認められ、これはエルリッヒさんの表現とも共鳴しています。

展覧会に先駆けて、エルリッヒさんと原さんの対談を収録したのですが、原さん流のラテンアメリカの文化論やシュルレアリスムの分析を通じた「エルリッヒ論」が展開していて大変面白かったです。その模様を収めた映像も会場で見ることができます。

窓研究所のウェブサイトで「窓と写真」を連載するホンマタカシも出品する一人。2015年より研究者として窓学にも参画し、写真家の目線から、写真史の中でどんなタイプの窓があるのかを類型学的に分析し、研究している。

展示会場である表参道スパイラルの模型を使って、説明する様子
展示会場である表参道スパイラルの模型を使って、説明する様子(『窓学展』のオフィシャルサイトを見る

五十嵐:英語でWindowは、多くの場合「by」「with」「through」といった前置詞とともに使われますが、ホンマさんのリサーチでは、それを基準に写真における窓の表象を分類していました。今回の展示では、ル・コルビュジエのラ・トゥーレット修道院の窓と空間を題材にしたインスタレーションになる予定です。そして、鎌田友介という若手アーティストにも注目です。彼は金属でつくったフレーム、窓を思わせるかたちを用いて、建築的にも興味深い彫刻表現に取り組んでいます。

三名のアーティストの展示に加え、過去10年にわたる窓学の研究成果も展示するという。その一つが、小玉祐一郎による『窓の環境制御学』だ。

五十嵐:近代以降、冷房などの空調装置が発達して、外から外気や風を招き入れるものとしての窓の進化は足踏みしている印象があります。小玉さんは、それを改めてリサーチし、すべて機械に頼るのではないサスティナブルな空間のあり方を提示しています。

建築史家の村松伸さんと建築家の六角美瑠さんは「窓の進化系統学」という大きなテーマを。そして、大阪の国立民族学博物館の佐藤浩司さんは民族学の見地から研究の手法を展示します。彼は建築出身で民族学を展開する異色の研究者です。窓をめぐる、多様な思考・表現に触れていただくことができる展覧会になるのではないかと思います。

五十嵐太郎

五十嵐が驚いた「建築よりも大きい窓」とは?

少し話はずれるが、先日Appleから「iPhone Ⅹ」が発表されて話題を呼んだ。さまざまな新機能が加わって全世界のAppleファンの心は色めき立っていたようだが、個人的に興味深かったのは前面すべてがタッチパネル化されたことだ。

ホームボタンなどのインターフェイスが取り除かれたことで、情報にアクセスするディスプレイ=世界を覗く窓としてのスマートフォンの視覚的・体験的な埋没度は、よりいっそう高まるはずだからだ。パソコンの画面が「Window(窓)」に喩えられるように、人類はいまだかつてないほど無数の窓(的なるもの)に接し、日々を過ごしている。「窓の時代」とも言える2017年以降、建築における窓はどのように変化するのだろうか?

五十嵐:とても面白い例があります。建築家の、増田信吾+大坪克亘が設計した『躯体の窓』は、建築よりも窓の方が大きいんです。

建築よりも大きな窓が、建築物に付随している? どういうことだろう?

五十嵐:もとからあった矩形の建物をリノベーションした作品なのですが、ようするに、もとの建物の前面が巨大な格子窓で覆われているんです。見た目には幾何学的でモダンな建築に見えるけれど、じつはそれは窓である。壮大なギャグのようでもあるけれど「なんだこれは!」とたまげました(笑)。ここ数年で、いちばん驚いた作品です。

『躯体の窓』©高橋マナミ
『躯体の窓』©高橋マナミ(サイトで見る

光や風を招き入れる開口部として機能する、「建築を建築たらしめる本質的な条件」の一つであった窓。その常識を打ち破るかのような、『躯体の窓』の大きな窓は、「窓とは何か?」という窓学が取り組んできた問いに向かって、さらに挑発的な問いを投げかけているかのようにも思える。あるいは、空間の条理をぐにゃりと歪ませてみせたマグリットの絵画的冒険とも響きあうものとも言えるだろうか?

今回のインタビューの後、窓研究所が開発中のVR映像を体験させてもらうことができた。それは、世界の有名建築の窓辺を体感できるVRの第一作として、ル・コルビュジエが両親のためにフランス・レマン湖畔につくった『母の家』の一部を再現したものだ。ヘッドマウントディスプレイを介して覗く仮想空間のなかで、実際に窓を開けることができる体験は、視覚だけでなく、自らの振る舞いと、窓との関係を改めて考えさせてくれるものだった。

今のところ、生活空間における窓は最初から施工されたもので、住人が気軽につくったりすることのできるものではない。だが、こうやって窓の位置や開け閉めの感覚をシミュレーションすることで、自分と窓とのアクティブな関係を考える機会を持つことはできる。その先にあるのは、人と窓との、新しくて心地よい関係なのかもしれない。窓学は、そんな可能性へも開かれているのだ。

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イベント情報

窓学10周年記念『窓学展―窓から見える世界―』ビジュアル
窓学10周年記念
『窓学展―窓から見える世界―』

2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝)
会場:東京都 表参道 スパイラルガーデン
時間:11:00~20:00
出展作家:
レアンドロ・エルリッヒ
鎌田友介
ホンマタカシ
ほか
料金:無料

プロフィール

五十嵐太郎(いがらしたろう)

1967年、パリ生まれ。1990年、東京大学工学部建築学科卒業。1992年、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。現在、東北大学大学院教授。あいちトリエンナーレ2013芸術監督、第11回ヴェネチア・ビエンナーレ建築展日本館コミッショナーを務める。第64回芸術選奨文部科学大臣新人賞。『被災地を歩きながら考えたこと』(みすず書房)、『窓へ 社会と文化を映しだすもの』(日刊建設通信新聞社)、『窓と建築の格言学』(フィルムアート社)ほか著書多数。

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