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高橋源一郎×贅沢貧乏・山田由梨 現実を作り変える作家たちの力

高橋源一郎×贅沢貧乏・山田由梨 現実を作り変える作家たちの力

贅沢貧乏『フィクション・シティー』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:野村由芽、宮原朋之

私が普段目にするお芝居にも、単純で勝手な「物語」を抱かせてしまう危険を垂れ流しているものが多くあるように思えてきた。(山田)

―贅沢貧乏の新作『フィクション・シティー』が間もなく初日を迎えます。

高橋:今回は、小説家が主役なんですよね? 興味深いなあ。

山田:今年のはじめくらいに、物語を書くとか、お芝居するとか、なにもかも嫌になっていたんです。物語が人に与える効果や役割が、全てマイナスに思えてしまって。

例えば、子供の頃に見た『3年B組金八先生』の上戸彩さんが演じた役で、トランスジェンダーの存在をはじめて知りました。その後から、ほかのドラマや映画でもたびたびLGBT(レズビアンやゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーといった性的少数者の総称)の人たちが出てくるようになったと思うんですけど、ちょっと気を抜いただけで記号的に描かれちゃうんです。

本当はそれぞれ個々にさまざまな悩みや希望を抱いているはずなのに、それを画一化して単純で勝手な「物語」を抱かせてしまう。さっき源一郎さんが言っていたような、「大人に対して意味を問う」ってことも、単純で勝手な「物語」を前提にしていることがしばしば起こる。

山田由梨

高橋:やばいよね。

山田:そうすると、私が普段目にするお芝居にも、そういう単純で勝手な「物語」を抱かせてしまう危険を垂れ流しているものが多くあるように思えてきたんです。もちろんある程度のカテゴライズをしなければ、作品も仕事もなにもはじめられないんですけど。

そうやって鬱々と考えているなかで「ポストモダン主義」という言葉を知ったんです。モダンと呼ばれるような、すでにあるかたちを壊すことでなにかが見えてくるかもしれない。あるいは、感じているこの違和感をそのまま作品にできるかもしれない……、みたいなことを考えて『フィクション・シティー』を書きはじめました。

私たちは「ブラジャーしなきゃいけない」って自動的に着けているけれど、当然「しない」って選択肢もある。(山田)

高橋:「フィクションである」「フィクションじゃない」って区別がこの世でもっとも怪しいもののひとつだよね。

山田:『フィクション・シティー』で「わたしは、フィクションなんかに救われない」っていうキャッチフレーズを書いたんです。これにちなんで、9月7日発売の『新潮』に「ブラジャーなんかに救われない」ってエッセイを書いたんです。

山田由梨

高橋:いやぁ、救われないよね(笑)。

山田:私たちは「ブラジャーしなきゃいけない」って自動的に着けているけれど、当然「しない」って選択肢もあるんです。では、なぜそうしないかと言うと「女はブラジャーをするものだ」っていうひとつのフィクションがあるから。

高橋:まさにフィクションだよね。

山田:法律も、誰かが考えたフィクションで、まぁ従ってもいいけど「どうせフィクションなんだからいっか!」みたいな距離感。それこそ「浮気しちゃいけない」とか、誰が言い出したのか? もちろんそれが誰かを傷つけることになるならしちゃいけない。でも、それだって最終的には個々人の責任であって、法律、社会規範、風紀みたいなフィクションに左右される理由なんて本当はない。

高橋:そう考えると小説もやばいよね。「フィクションです」って名乗ることで安全なものとして社会に流通しているけど、本当にやばいフィクションはフィクションと名乗ったりはしていない。そのことを気づかせないために小説のフィクションが手助けしちゃってることが往々にしてあると思います。

左から:高橋源一郎、山田由梨

障がいのある子供がどういう風に生きていけばいいのか、親はどう関わっていけばいいかって情報は、どこにも書かれてない。(高橋)

―最近よく言われるポストトゥルースの問題ともキワどく接近していますね。オルタナティブな現実の可能性を投げかけていたはずの小説が、現実にすり替わってしまう。

高橋:新たにポストトゥルースと名付けるまでもなく、物語を作ることで社会を存続させるっていうのは、人間がずっとやってきた戦略ですよね。あらゆるところに物語がある。6歳になったら学校に行くとか、先生の言うことを聞けば高得点が取れるとか。まあそれは本当のことだけど(笑)。

山田:みんなが設定を守ってるから、本当になるんですよね。

高橋:でもいったんその設定の外に出ると、とんでもない。設定の外に出るとどうなるかわかる?

山田:どうなるんですか?

高橋:なにも書かれてないんですよ。僕の下の子供が9年前に急性小脳炎って病気になって死にそうになったことがあります。緊急入院して「助かる確率は3分の1です」と医者から告げられた。どうやら、ほとんど植物状態になるってことらしい。これから50年、60年、彼の人生の別のルートが突然突きつけられて、ガーン! ときました。

でね、障がいのある子供がどういう風に生きていけばいいのか、親はどう関わっていけばいいかって情報は、どこにも書かれてないんです。探せば奥の方にあったりするんだけど、僕たちがすぐにアクセスできる物語はどこにもない。通常のルートを外れると、なにも書かれていないんですね。

高橋源一郎

山田:源一郎さんが『さよならクリストファー・ロビン』で、「自分たちで自分の明日の物語を書かなきゃいけない」って書いてますよね。

高橋:毎日書かないと、自分の明日はない。でも多くの人たちは面倒くさくなっちゃって、じゃあどうしてるかって言うと、他人に書くことを任せている。これが分業ってことです。自分が会ったこともない人に、自分の物語を任せて、僕たちは生きているんだよ。超怖いよね、この話。

山田:怖い。だからなにも考えずにブラジャーを毎日するようになっちゃうんですよ。男は乳首を透かせていいのに、女は透かせちゃいけない。それは「男がエロい気持ちになるから」みたいなことを言われるけれど……。

高橋:幾重にも折り重なった、誰が書いたかわからないお話が僕たちの周りにはたくさんある。だからわからないものがあったら、誤魔化したり、安易にカテゴライズさせずに「わからない」とハッキリさせておいた方がいい。僕自身の作品にもそういうものが多くあります。飛び地のように、わからない場所があって、それは書いた自分にもわからない。

山田:『フィクション・シティー』にもわからないもの、不安になるような要素があるんですけど、稽古をしていて役者の「その不安な顔がいい!」って思うんです。まだ作品はどこに行くかわからないけれど、その作品の存在自体が希望につながる気がしています。

高橋源一郎、山田由梨

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イベント情報

贅沢貧乏『フィクション・シティー』
贅沢貧乏
『フィクション・シティー』

2017年9月28日(木)~10月1日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
作・演出:山田由梨
出演:
田島ゆみか
大竹このみ
神崎れな
猪俣三四郎
和田瑠子
野口卓磨
森準人
猪瀬青史
山田由梨

公演日程:
2017年9月28日(木)19:30
2017年9月29日(金)14:00(アフタートークあり)
2017年9月29日(金)19:30
2017年9月30日(土)13:00
2017年9月30日(土)18:00(アフタートークあり)
2017年10月1日(日)13:00(アフタートークあり)

アフタートーク
2017年9月29日(金)14:00
ゲスト:香山リカ

2017年9月30日(土)18:00
ゲスト:岸政彦

2017年10月1日(日)13:00
ゲスト:高橋源一郎

『NEWTOWN』@多摩ニュータウン
『NEWTOWN』@多摩ニュータウン

日程:2017年11月11日(土)~12日(日)
時間:START 12:00 CLOSE 19:00(予定)
料金:入場無料(一部プログラムは有料)
場所:東京都 八王子 デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧八王子市立三本松小学校)

LINE UP:
演劇公演:贅沢貧乏『みんなよるがこわい』
フードマーケット『Gourmet Street Food』 by FOOD CART GASTRONOMIE
音楽市『INDIPENDENT LABEL MARKET:TOKYO』
カルチャーマーケット『Anonymous Camp』『東京カルチャーマーケット by CINRA.STORE』
and more

プロフィール

高橋源一郎(たかはし げんいちろう)

1951年生まれ。1981年『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長篇小説賞優秀作受賞。1988年『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞受賞。2002年『日本文学盛衰史』で第13回伊藤整文学賞受賞。著書に『ニッポンの小説』、『「悪」と戦う』、『恋する原発』ほか多数。

山田由梨(やまだ ゆり)

劇作家・演出家・女優。贅沢貧乏主宰。2012年の旗揚げ以来全ての贅沢貧乏の作品のプロデュース、舞台作品の劇作・演出を手がける。自身も役者として出演するほか、デザイナーとしても活動中。主な出演作に舞台ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』(脚本・演出:福原充則)(2014年)、映画『みちていく』(監督:竹内里紗)(第15回TAMA NEW WAVEコンペティションベスト女優賞受賞)(2015年)など。2018年1月三島由紀夫×デヴィッド・ルヴォー『黒蜥蜴』出演決定。

贅沢貧乏(ぜいたくびんぼう)

2012年旗揚げ。山田由梨(劇作家・演出家・女優)主宰。舞台と客席、現実と異世界、正常と狂気の境界線をシームレスに行き来しながら、現代の日本社会が抱える問題をポップに、かろやかに浮かび上がらせる作風を特徴とする。2014年より一軒家やアパートを長期的に借りて創作・稽古・上演を実施する「家プロジェクト(uchi-project)」の活動を展開。一軒家を丸ごと使った観客移動型の群像劇『ヘイセイ・アパートメント』(第15回AAF戯曲賞ノミネート)や、アパートの一室で3ヶ月間に及ぶロングラン上演を実施するなど、既存の上演体制にこだわらない、柔軟で実験的な試みを行なう。2016年にはアトリエ春風舎にて、チェルノブイリや福島での出来事を題材にした『テンテン』を上演し話題となる。2017年9月28日より上演の新作『フィクション・シティー』では、史上最年少にて芸劇eyes単独公演に選出されるなど、劇場での活動にも注目が集まる。

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