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高橋源一郎×贅沢貧乏・山田由梨 現実を作り変える作家たちの力

高橋源一郎×贅沢貧乏・山田由梨 現実を作り変える作家たちの力

贅沢貧乏『フィクション・シティー』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:野村由芽、宮原朋之

原発をテーマに扱う作品がすべて悲劇になって、すとんと消化されてしまうのはおかしいと思うんです。(高橋)

高橋:いま、朝日小学生新聞で『ゆっくりおやすみ、樹の下で』という児童小説を連載していて、それが『テンテン』とちょっと似ている話なんですね。ある女の子が主役で、クライマックスに向けて彼女はひいおばあさんが自分とそっくりな少女だった時代にタイムスリップするんです。

山田:へえ!

高橋:ここから先は秘密ね(笑)。でもちょっと話すと、みんな「過去は変えられない」って思っているでしょ? だけどね、ひょっとすると過去に行って、なにが起きたか確かめることはできるんじゃないかなって思うんです。

僕たちは作り手なので、「現実は変えられないよ」って言う人たちに対して「いや、そうじゃないんじゃないの? 話を作ることで、僕らの固定化した現実の考え方は変えられるはず」と伝えたいと思っている。だって、見る対象が違って見えるようになったら、それは「変わった」ってことだから。

山田:わかります。

左から:高橋源一郎、山田由梨

高橋:原発をテーマに扱う作品が、すべて悲劇になって「いやだね」で終わっちゃって、すとんと消化されてしまうのはおかしいと思うんです。もう一度その事件について聞き直すとか、なにかプラスの意味を付け加えることで世界を変わったかたちに見せられるかもしれないと僕たちは考えるわけですよね。

そこで、例えば子どもについて考えてみるでしょう。子どもは意味なく走るでしょう? でも走っているのが大人だと「なんで走ってんの?」と聞かれる。それがおかしいんです。意味を聞かなくたっていいじゃないか。

山田:意味の話、めっちゃしたいです。ちょっと感無量で、しばらく深呼吸させてください……。ふぅ。

高橋:(笑)。

国会で行われていることは茶番で、普通に考えて「こうすればよいのに」ってことができない社会や人間に疑問ばかりが浮かぶ。(山田)

山田:贅沢貧乏って、2012年立ち上げなんですけど、震災以前に作品を作ったことがないんです。

高橋:そうか。全部が3.11の後なんだ。

山田:戯曲を書いたのが20歳で大学3年の3月。公演をやったのが7月。被災地に行ったりもしていたのに、そのときは原発のことなんてまったく考えていなくて、いまとなっては不思議なんです。

20歳になって参政権を得て、それまで遠い話だと思っていた政治のこととか、急に考えなきゃいけないことがたくさんありすぎて、混乱したりして。それをなんとかするために作品を作ってきたんだな、って思うんです。

山田由梨

高橋:うん。

山田:どうしようもなく絶望するじゃないですか。国会で行われていることは茶番で、普通に考えて「こうすればよいのに」ってことができない社会や人間に疑問ばかりが浮かぶ。

そんなときに源一郎さんの本を読んで希望が持てたんです。一節読んで消化して、それから思ったことをメモして、またちょっと時間が経ってから読んで。一節一節読むたびにインスピレーションが湧くし、「ああ、こうやって考えればいいんだ」って光が見えた気がした。源一郎さんは、私のなかで希望を作れる人なんです。

高橋:……サンキュー(笑)。

山田:私たちの世代は高度経済成長期を知らない。それが普通で、嘆くことにもリアリティーがない。原発が爆発したのも普通だし、ガイガーカウンターで線量を測るのも普通だし、国会が茶番なのも普通だし。でも、それが本当に普通だと思っているわけでもない。それでも、それが私たちであることを受け入れなければいけない。

『テンテン』を書いたのは、これから未来を担うのは私たちだし、私よりも次の世代だし、ってことを考えたから。そのヒントになった源一郎さんの本は、「まだまだ考えられる転換の術があって、道はあるんだ」って言っている気がしました。

山田由梨

いろんな人の声に耳をすまして、その人になり替わるようにして書くってことは、つまり「作家として書く」ってこと。(高橋)

高橋:さっき山田さんが作品を書きはじめたのは3.11以降と言っていて、じつは僕が朝日新聞で『論壇時評』を連載しはじめたのも3.11以降なんですよ。

―『ぼくらの民主主義なんだぜ』はそれを集めたものですね。

高橋:しかも初回が2011年4月からだった。だから1回目が3.11の話なんです。でもね、『論壇時評』は本当にやりたくなかったんです。もともと僕は1960年代に学生運動をやったせいもあって政治嫌いになっていました。

高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』。東日本大震災直後からはじまった朝日新聞での連載『論壇時評』を加筆し新書化した
高橋源一郎『ぼくらの民主主義なんだぜ』。東日本大震災直後からはじまった朝日新聞での連載『論壇時評』を加筆し新書化した(Amazonで見る

―1960年代当時の若者には、「社会は変えられなかった」という落胆と幻滅を抱えた人が多いですね。

高橋:それも「逃げだな」と思うんだけど、それでも根本的に政治が嫌いって感情があるんです。それで『論壇時評』の依頼をもらったとき、いやだなと思いつつ、ほかの人とは違うやり方でやろうと考えていたタイミングで、3.11という日本の戦後最大の事件が起きた。

高橋源一郎

山田:運命的ですね。

高橋:そう、これもなにかの運命で「真剣にやれよ」ってことだと受け取りました。それで最初に書いたのが新幹線で東京を離れるお母さんたちの話。

山田:連載1回目の「ことばもまた『復興』されなければならない」ですね。

高橋:このときのことははっきり覚えています。なにも考えずに書き出したんです。この大事件が起きたときに母親たちが誰よりも敏感なアンテナを持っていて反応していた。それがなぜだろうと考えたかった。

そこからの5年間は、ずっと外に向かってアンテナを張って、1日24時間ある種の緊張状態のなかで、切実な「これだ!」という声をキャッチして書くってことを続けました。そういう声は逆に微弱な電波しか出してないので、すごく疲れました。

高橋源一郎

山田:読んでいて、本当に小さい繊細なものの声を拾っている感じがしました。ただの政治論ではなくて、源一郎さんを通した「作品」になっていたと思います。

高橋:さんざん悩んで書きはじめた『論壇時評』だったけれど、いろんな人の声に耳をすまして、その人になり替わるようにして書くってことは、つまり「作家として書く」ってことだったんですね。小説を書くときの気持ちとまったく一緒。正直な話、この5年間は作家マインドをかつてなく発揮してました。短編小説60回の連載を書いていたのと同じですね。

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イベント情報

贅沢貧乏『フィクション・シティー』
贅沢貧乏
『フィクション・シティー』

2017年9月28日(木)~10月1日(日)
会場:東京都 池袋 東京芸術劇場 シアターイースト
作・演出:山田由梨
出演:
田島ゆみか
大竹このみ
神崎れな
猪俣三四郎
和田瑠子
野口卓磨
森準人
猪瀬青史
山田由梨

公演日程:
2017年9月28日(木)19:30
2017年9月29日(金)14:00(アフタートークあり)
2017年9月29日(金)19:30
2017年9月30日(土)13:00
2017年9月30日(土)18:00(アフタートークあり)
2017年10月1日(日)13:00(アフタートークあり)

アフタートーク
2017年9月29日(金)14:00
ゲスト:香山リカ

2017年9月30日(土)18:00
ゲスト:岸政彦

2017年10月1日(日)13:00
ゲスト:高橋源一郎

『NEWTOWN』@多摩ニュータウン
『NEWTOWN』@多摩ニュータウン

日程:2017年11月11日(土)~12日(日)
時間:START 12:00 CLOSE 19:00(予定)
料金:入場無料(一部プログラムは有料)
場所:東京都 八王子 デジタルハリウッド大学 八王子制作スタジオ(旧八王子市立三本松小学校)

LINE UP:
演劇公演:贅沢貧乏『みんなよるがこわい』
フードマーケット『Gourmet Street Food』 by FOOD CART GASTRONOMIE
音楽市『INDIPENDENT LABEL MARKET:TOKYO』
カルチャーマーケット『Anonymous Camp』『東京カルチャーマーケット by CINRA.STORE』
and more

プロフィール

高橋源一郎(たかはし げんいちろう)

1951年生まれ。1981年『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長篇小説賞優秀作受賞。1988年『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞受賞。2002年『日本文学盛衰史』で第13回伊藤整文学賞受賞。著書に『ニッポンの小説』、『「悪」と戦う』、『恋する原発』ほか多数。

山田由梨(やまだ ゆり)

劇作家・演出家・女優。贅沢貧乏主宰。2012年の旗揚げ以来全ての贅沢貧乏の作品のプロデュース、舞台作品の劇作・演出を手がける。自身も役者として出演するほか、デザイナーとしても活動中。主な出演作に舞台ベッド&メイキングス『墓場、女子高生』(脚本・演出:福原充則)(2014年)、映画『みちていく』(監督:竹内里紗)(第15回TAMA NEW WAVEコンペティションベスト女優賞受賞)(2015年)など。2018年1月三島由紀夫×デヴィッド・ルヴォー『黒蜥蜴』出演決定。

贅沢貧乏(ぜいたくびんぼう)

2012年旗揚げ。山田由梨(劇作家・演出家・女優)主宰。舞台と客席、現実と異世界、正常と狂気の境界線をシームレスに行き来しながら、現代の日本社会が抱える問題をポップに、かろやかに浮かび上がらせる作風を特徴とする。2014年より一軒家やアパートを長期的に借りて創作・稽古・上演を実施する「家プロジェクト(uchi-project)」の活動を展開。一軒家を丸ごと使った観客移動型の群像劇『ヘイセイ・アパートメント』(第15回AAF戯曲賞ノミネート)や、アパートの一室で3ヶ月間に及ぶロングラン上演を実施するなど、既存の上演体制にこだわらない、柔軟で実験的な試みを行なう。2016年にはアトリエ春風舎にて、チェルノブイリや福島での出来事を題材にした『テンテン』を上演し話題となる。2017年9月28日より上演の新作『フィクション・シティー』では、史上最年少にて芸劇eyes単独公演に選出されるなど、劇場での活動にも注目が集まる。

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