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チェコ映画を岡田利規とペトル・ホリーが語る。テキトーさが魅力

チェコ映画を岡田利規とペトル・ホリーが語る。テキトーさが魅力

『60年代チェコスロヴァキア映画祭 チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:沼田学 編集:久野剛士、野村由芽

特定の時代背景にこだわってしまうとかえってつまらなくなる。(ホリー)

岡田:『パーティーと招待客』は、一緒に送っていただいた書籍(『チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』国書刊行会)の中で、周防正行監督がコメントを寄せていましたよね。それが素晴らしくて、これ以上言うことはないんじゃないかって思ってます。

岡田利規

―(笑)。周防監督は『パーティーと招待客』について「とりあえず歴史的、政治的に読み解くことを禁じてみよう。映っているのは『空気』だ。(中略)見た者に問われるのは、その『空気』をどう吸って、どう吐くかだ。今という時代に。」とコメントされています。

ホリー:おっしゃる通りです。この作品は、時代や国の違いを問わない、普遍性を感じる映画です。1960年代のチェコというと、共通したイメージがあると思うのですが、特定の時代背景にこだわってしまうとかえってつまらなくなる気がするんです。

書籍『チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』書影
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岡田:もちろん、「ニェメツのような空気感の作品を現在の日本で作れるか?」 って問われたら、難しいんですよ。この空気を成り立たせているものは、確実に当時の社会状況や政治体制ではあって。とはいえ、僕にとってここで重要なのは、映画を通じて、現代では作り得ないものを見られる喜びです。なんというかなあ……。すごい「テキトーさ」に溢れていて!

ホリー:それがチェコなんです(笑)。

岡田:今朝、『皇帝の鶯』(1948年公開)を見てきたんですよ。

ホリー:イジー・トルンカ監督のアニメーション作品ですね。チェコでは超有名な脚本家イジー・ブルデチュカの作品でもあります。

映画『皇帝の鶯』の一場面(©NFA)
映画『皇帝の鶯』の一場面(©NFA)

岡田:ラスト部分が実写じゃないですか。部屋の室内にいる男の子が窓の柵ごしに女の子にボールを投げるんですが、カットが変わると、それまで斜め格子だったはずの柵が、わりと幅の広い縦だけの柵に変わっちゃうのに気づいたんですよ。格子だと狭くてボールが通らないから変えちゃってるんでしょうけど(笑)。

ホリー:よくお気づきになりましたね。岡田さんが世界ではじめて気づいた事実だと思います。

岡田:絶対そんなことないですよ(笑)。「うわ! なんてテキトーなんだ!」ととても感動しました。その「おおらかさ」が象徴しているものに。

芝居の上手い下手は本質的な問題じゃない。(岡田)

ホリー:『パーティーと招待客』では、俳優でない人を起用するノーアクターの発想も、1960年代の世界的な動向としてあります。主人役は、ニェメツ監督の知り合いの舞台演出家で有名な俳優でもありますが、花嫁役など多くは素人。

岡田:出てる人、基本的に演技がド下手(笑)ですよね。でも全然オッケーです。僕の中で、演技の下手さが気にならないタイプの作品と、絶対に許せないタイプとがありますけど『パーティーと招待客』は完全に前者。

『パーティーと招待客』一場面(©State Cinematography Fund)
『パーティーと招待客』一場面(©State Cinematography Fund)

ホリー:意外ですね。

岡田:その違いを自分でもうまく説明できないんですけどね。僕はどちらかというと完成度を高めていきたいタイプの演出家なんですよね、だからかえってチェコスロヴァキア映画の「テキトーさ」はすごく心地よい。

―岡田さんは、12月からツアーが始まる『三月の5日間 リクリエーション』の制作中ですよね。稽古を拝見させていただいたのですが、20代前半の若い俳優たちとの制作作業は、すごく精緻な演技を求める瞬間もあれば、即興的な空間の使い方を委ねる場合もあって、個人的にチェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグの風通しのよさに通じる印象を持ちました。

岡田:風通しへの意識は、たしかにありますね。

ホリー:それはニェメツ監督の性格でもあるんですよね。2016年に亡くなるまで、本当に自由奔放な人でした。2002年に当時の大統領から功労勲章をもらっているのですが、2014年に政府の体制が変わると、それに抗議して勲章を返しちゃったんです。しかも、一人でふらっとプラハ城に出向いて、受付で「これ返します」って置いてきたっていう。

ペトル・ホリー

岡田:めちゃくちゃカッコイイですね。

―ニェメツ監督のような、チェコ人の肩肘はらない生き方ってどこから生まれてくるのでしょう?

ホリー:うーん。切羽詰まっても「まあいいや!」ってなれるケセラセラなところがあるんですよ。それはたとえば、ドイツ人とは全然違う。

岡田:(笑)。

ホリー:べつに批判するわけじゃないですよ。ドイツはリズムが正確でズレない。それに比べると、チェコはちょっとだけ南にある国だから、イタリア人とかスペイン人に近い気質がある。

岡田:なるほど。でもドイツでもベルリンなんかはユルい雰囲気じゃないですか。だからなのかな? ベルリンの人たちが飲んでるのってだいたいチェコのビールですよね。

『パーティーと招待客』一場面(©State Cinematography Fund)
『パーティーと招待客』一場面(©State Cinematography Fund)

ホリー:それは安くて美味しいから(笑)。ビールもチェコの文化ではとても大事なんです。いろんな映画にも描かれていますが、政治の話はだいたいビールを飲みながらするんですよ。

岡田:だとすると、飲み屋にも秘密警察が潜入していたりするのでは?

ホリー:その人も飲ませて酔っ払わせればいいかっていうね。善人と悪人の区別もやっぱり「テキトー」。その精神が顕著に現れているのが、チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグなんだと思います。

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イベント情報

『60年代チェコスロヴァキア映画祭 チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』
『60年代チェコスロヴァキア映画祭 チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』

2017年11月11日(土)~12月1日(金)
会場:東京都 渋谷 シアター・イメージフォーラム
Aプロ『パーティーと招待客』(監督:ヤン・ニェメツ)
Bプロ『ひなぎく』(監督:ヴェラ・ヒティロヴァー)
Cプロ『愛の殉教者たち』(監督:ヤン・ニェメツ)
Dプロ『狂気のクロニクル』(監督:カレル・ゼマン)
Eプロ『大通りの商店』(監督:ヤーン・カダール、エルマル・クロス)
Fプロ『受難のジョーク(冗談)』(監督:ヤロミル・イレシュ)
Gプロ『火葬人』(監督:ユライ・ヘルツ)
Hプロ『つながれたヒバリ』(監督:イジー・メンツェル)
Iプロ『闇のバイブル/聖少女の詩』(監督:ヤロミル・イレシュ)

※下記会場では、A~Cプロのみ上映
2017年12月2日(土)~12月8日(金)会場:名古屋シネマテーク
2018年1月13日(土)~1月26日(金)会場:京都みなみ会館
2018年3月10日(土)~3月23日(金)会場:神戸アートビレッジセンター
大阪シネ・ヌーヴォ

『生誕100年 ブルデチュカ映画祭』
『生誕100年 ブルデチュカ映画祭』

2017年12月2日(土)~12月15日(金)
会場:東京都 阿佐ケ谷 ユジク阿佐ケ谷
上映作品:
『レモネード・ジョー 或いは、ホース・オペラ』(監督:オルドジヒ・リプスキー)
『皇帝の鶯』(監督:イジー・トルンカ)
『ほら男爵の冒険』(監督:カレル・ゼマン)

書籍情報

『チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』
『チェコスロヴァキア・ヌーヴェルヴァーグ』

2017年10月27日(金)発売
価格:1,944円(税込)
発行:国書刊行会

イベント情報

『三月の5日間』リクリエーション
チェルフィッチュ
『三月の5日間』リクリエーション

2017年12月01日(金)~12月20日(水)
会場:神奈川 KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ
作・演出:岡田利規
出演:
朝倉千恵子
石倉来輝
板橋優里
渋谷采郁
中間アヤカ
米川幸リオン
渡邊まな実
舞台美術:トラフ建築設計事務所

プロフィール

岡田利規(おかだ としき)

1973年横浜生まれ、熊本在住。演劇作家、小説家、チェルフィッチュ主宰。活動は従来の演劇の概念を覆すとみなされ国内外で注目される。2005年『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞。同年7月『クーラー』で「TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD 2005ー次代を担う振付家の発掘ー」最終選考会に出場。07年デビュー小説集『わたしたちに許された特別な時間の終わり』を新潮社より発表し、翌年第2回大江健三郎賞受賞。2012年より、岸田國士戯曲賞の審査員を務める。初の演劇論集『遡行 変形していくための演劇論』と戯曲集『現在地』を河出書房新社より刊行。2015年、初の子供向け作品KAATキッズプログラム『わかったさんのクッキー』の台本・演出を担当。2016年よりドイツ有数の公立劇場ミュンヘン・カンマーシュピーレのレパートリー作品の演出を3シーズンにわたって務める。

ペトル・ホリー

1972年、プラハ南西に位置するドブジーシュ市生まれ。プラハ・カレル大学哲学部の日本学科に入学。17歳の時に日本から送ってもらったビデオで三代目市川猿之助の『義経千本桜』に触れ、歌舞伎の魅力に開眼した。数度の日本留学を経て、早稲田大学大学院にて歌舞伎を研究、博士課程を修了。大学院在学中からシュヴァンクマイエルの映画字幕作成やカレル・チャペックの翻訳監修など、チェコ文化紹介も積極的に行ってきた。早稲田大学第一文学部助手を経て2006年からチェコセンター東京所長を7年間務める。現在は埼玉大学教養学部兼任講師として歌舞伎を講じながら、「チェコ蔵」主宰者として、日本におけるチェコ文化発信に尽力している。

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