インタビュー

黒瀬陽平が語るカオス*ラウンジ新芸術祭。震災後のアートを問う

黒瀬陽平が語るカオス*ラウンジ新芸術祭。震災後のアートを問う

インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影・編集:宮原朋之

痕跡を残すための受け皿自体を作る。そう考えた時に、寺を作ることが一番自然で合理的な解答であると気づいたんです。

—『新芸術祭』は3年間連続の開催でした。3回目の『百五〇年の孤独』では泉という土地に対してどのようにアプローチしていったのでしょう?

黒瀬:泉に入ったのは「廃仏毀釈」(明治維新の神仏分離によって起こった仏教破壊運動)が入口でした。水沢松次さんの『泉藩領廃仏毀釈 消えた寺院考察』という自費出版本の存在を知って、こんなにも徹底的な「廃仏毀釈」が被災地で行われたにも関わらず、それがどの文献にもほとんど登場しないことに驚いたんです。

水沢松次『泉藩領廃仏毀釈 消えた寺院考察』(1989年) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017』の会場でも手にとることができた
水沢松次『泉藩領廃仏毀釈 消えた寺院考察』(1989年) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017』の会場でも手にとることができた

黒瀬陽平

—泉では密嚴堂の建立のように、自分たちで新たなモニュメントを立ち上げていましたね。その意図はどこにあったのでしょう?

黒瀬:『怒りの日』を行って、今、被災地で市街劇をやる意味がちゃんと伝わったという手応えはありましたが、これをどう着地させるかずっと考えていたんです。終わってしまったら全部消える夢みたいな経験ではなく、痕跡をちゃんと残したいと思っていた。

たしかに地元の人に買ってもらった作品はあるし、未だ現地にいくつかの作品も残っている。その意味で痕跡は残ったけど、市街劇の体験自体が残るわけではない。作品がバラバラに残っても、それはちょっと違う気がしていました。

現地に、市街劇の体験を留めておけるギャラリーや美術館のようなプラットフォームを作りたい、と考えていましたが、そもそも市街劇のような形式を収蔵できるギャラリーや美術館はありません。ということで、その受け皿自体を新しく考えることになった。結論から言えば、ギャラリーや美術館ではなく、寺を作ることが一番自然で合理的な解答であると気づいたんです。

『カオス*ラウンジ新芸術祭2017』を契機に泉で150年ぶりに作られた新しい寺院、密嚴堂
『カオス*ラウンジ新芸術祭2017』を契機に泉で150年ぶりに作られた新しい寺院、密嚴堂

『カオス*ラウンジ新芸術祭2017』展示風景 / 密嚴堂のご本尊である大日如来の白描画。周囲にはアート作品が並ぶ
『カオス*ラウンジ新芸術祭2017』展示風景 / 密嚴堂のご本尊である大日如来の白描画。周囲にはアート作品が並ぶ

日本で現代美術が成立するとしたら、どのようなスタイルがあり得るか。

—寺を作ることがリサーチを重ねる中で行き着いた答えだった?

黒瀬:僕らがいわきに入ってから、菩提院袋中寺の副住職である霜村真康さんをはじめ、仏僧の方々にお世話になることが多くなりました。寺院や墓地、旧跡を巡りながら過ごしてきて気づいたことは、ギャラリーや美術館といった施設が輸入される以前は、寺院こそがその役割を担っていた、ということでした。寺には宝物がある。そして常駐して管理している人、つまり住職さんがいる。そこでは芸術が守られ、人が集まり、コミュニティの拠点になっているという意味で、寺はすでに昔からギャラリーであり美術館だったわけです。

にもかかわらず現在、寺に現代美術が入っていないのはなぜなのか。たしかに、現在美術とコラボレーションしている寺はあるし、寺院建築を活かした展覧会なども少なくない。でも、そのような企画をやっている現代美術家やキュレーターのほとんどは、仏教について考えるだけの知識を持っておらず、きわめて表面的なレベルでコラボレーションしているケースがあまりに多い。

今の現代美術と仏教の関係は、お互いビジョンや理念をほとんど共有しないまま、「オルタナティブ」なアート活動のバリエーションに堕してしまっている。そればかりか、寺の側も動員が欲しくて現代美術家やキュレーターに声を掛けているだけのケースすらある。そうなったらもう「地域アートで町おこし」と何も変わらない。

—両者の現状でのズレが明らかになった、と。そこでどんなことをしようと思ったのでしょうか?

黒瀬:仏教とアートの「死者への想像力」が呼応した状態で、寺に現代美術がある、という状況を作りたかった。それを本当にやるのであれば、単に話題作りのための表面的なコラボレーションではなく、場所を立ち上げるところからアーティストが一緒に関わることが絶対に必要でした。

そして立ち上げにあたっては、様々なことを話し合わなければならないし、試される。そのハードルをお互いクリアして、一緒に作りたかった。そういう意味で寺を立ち上げることは『新芸術祭』での大きなテーマでしたね。

鈴木薫『60』撮影:水津拓海(rhythmshift) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』
鈴木薫『60』撮影:水津拓海(rhythmshift) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』

井戸博章『未仏』、HouxoQue『You are (not) broken』撮影:水津拓海(rhythmshift) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』
井戸博章『未仏』、HouxoQue『You are (not) broken』撮影:水津拓海(rhythmshift) / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』

—この3年間の『新芸術祭』は「震災後の時代」に対するカオス*ラウンジの実践の総決算だったように思いますが、今後の展開について具体的な構想はありますか?

黒瀬:色々なレベルであります。カオス*ラウンジは、ネットから生まれたアーティストコレクティブを超え始めて、法人であり、小さなギャラリーを運営し、哲学者の東浩紀さんが経営する「ゲンロン」という会社とともに『ゲンロン カオス*ラウンジ 新芸術校』というスクールも開講しています。

もちろん、やみくもに事業拡大しているわけではありません。これらの活動はすべて、「日本で現代美術が成立するとしたら、どのようなスタイルがあり得るか」という実験なのです。その自然なフォームを見つけ、名指して実践することは、まだ誰もできていない。

かつて、村上隆さんはそれをやろうとしましたが、欧米で完成したフォームを輸入して啓蒙する、というやり方だった。もちろん、そこから日本のオリジナルのフォームを作ろうとしたし、今も部分的にそのプロジェクトを続けていることも知っています。むしろ僕は、その想いを自分なりに引き継ぐつもりでやっています。新芸術祭を3年やって、村上さんのやり方とは違うやり方が、少しずつ見えてきた気がする。

カオス*ラウンジが一体どういう集団で、どういうムーブメントだったのか。言葉や言説が残ることだけでなく、それが定期的に思い出され、誰かが継承して、また誰かに影響を与えるという運動自体を作らなければいけない。作品が美術館に入ることや、美術年表に名前が残ることは、本当の目標じゃない。そうじゃなくて、自分たちなりの現代美術のあり方、その原型を作らないと、カオス*ラウンジのプロジェクトは完結しないですから。

黒瀬陽平

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イベント情報

『カオス*ラウンジ新芸術祭2017 市街劇 「百五〇年の孤独」』

2017年12月28日(木)~2018年1月28日(日)
主催:合同会社カオスラ
会場:福島県 いわき市 zitti

プロフィール

黒瀬陽平(くろせ ようへい)

1983年、高知生まれ。美術家、美術評論家。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程修了。『思想地図』公募論文でデビュー。美術からアニメ・オタクカルチャーまでを横断する鋭利な批評を展開する。また同時にアートグループ「カオス*ラウンジ」のキュレーターとして展覧会を組織し、アートシーンおよびネット上で大きな反響を呼ぶ。著書に『情報社会の情念 —クリエイティブの条件を問う』(NHK出版)。

カオス*ラウンジ

ネットを中心に活動するアーティストたちが集まる、カオス*ラウンジ。2008年にアーティストの藤城嘘が展覧会&ライブペイント企画として立ち上げたところからはじまり、2010年から黒瀬陽平がキュレーターとして参加して以降、さまざまなプロジェクトを展開し、日本現代美術の歴史や文脈に対する批評的な活動で議論を呼んできた。

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