柳亭小痴楽、瀧川鯉八、神田松之丞が語る、勢い増す古典芸能の魅力

「古典芸能は渋くて古いもの」なんて考え方は笑われてしまうくらい、今の落語には勢いがある。熟練のベテラン勢の層の厚さはもちろんだが、30代、40代の若手~中堅勢はそれぞれ独創的なアプローチで落語表現を開拓し、幅広い人気を獲得している。

落語家の格付けでいう「二ツ目」だけで構成されたユニット「成金」のメンバーである柳亭小痴楽と瀧川鯉八は、その代表的なプレイヤーといえるだろう。さらに、同ユニットに参加する神田松之丞は、歴史物を朗々と語り上げる「講談」というジャンルに新風を巻き起こしつつある若手のホープだ。今、落語と講談は、かつてない勢いで成長し、広がりつつある。

柳亭小痴楽、瀧川鯉八、神田松之丞。この3人が組むユニット「旅成金」の全国ツアーが2018年8月1日よりスタートする。都市部の芸能とされる落語・講談の魅力を地方に伝えるこの試みはTwitterを介して伝播し、これまでになかった芸能の潮流を生み出している。同ツアー、九州エリアのオーガナイズに加わる長崎市チトセピアホール館長・出口亮太(前回のインタビュー:地方都市文化の鍵を握るのは公共ホール? 岸野雄一×出口亮太 )を交え、SNSが育む古典芸能の新しい時代を展望する。

旅をそのまま仕事にできたら楽しいし、お金も入るんじゃないか?(松之丞)

—「成金」で検索すると、だいたい「お金持ちになろう!」「成金になれるのはこんな人!」みたいな怪しげなサイトがヒットして、非常に紛らわしいのですが、実際は落語芸術協会に所属する二ツ目の落語家と講談師11人で組んだユニットなんですね。

小痴楽:ほぼ同世代の若い連中で、誰か1人でも真打にあがったら解散だぞ、っていう期間限定ユニットみたいなものですね。

左から:神田松之丞、柳亭小痴楽、瀧川鯉八、出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)
左から:神田松之丞、柳亭小痴楽、瀧川鯉八、出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)

—「旅成金」っていうのは、さらにそのなかにあるユニットですか?

松之丞:名前のとおり、もとはプライベートで旅行に行く3人だったんですよ。気の合う者同士、タイやフィリピンへ遊びに行っていたんですけど、ふと「旅をそのまま仕事にできたら楽しいし、お金も入るんじゃないか?」と思いついてはじめたのがきっかけです。あと、この3人だと古典、新作、講談とバラエティーに富んでいて、ジャンルの被りで食いあうこともない。

小痴楽:ギスギスしない旅なら最高でしょう? まずは飛行機で西に飛んで、新幹線で東に向かいながら1駅ごとに途中下車して公演する、ツアー形式にしちゃおうと。

松之丞:でも、地方在住で落語会を主催してくださるような方が、どこにいるのかわからない。なので、SNSで「誰か主催してくださる人いませんか?」と投げかけたんです。そこで最初に手を挙げてくださったのが、長崎市チトセピアホールの出口館長でした。

神田松之丞
神田松之丞

出口:そのツイートを見たのが2016年の8月16日。そして翌年2017年の2月7日に『千歳公楽座 九州旅成金の会』で来ていただきました。

長崎市チトセピアホール 『千歳公楽座 九州旅成金の会』(2017年2月) / 会場となったのは、ホールのなかではなくロビー。特別に設置した高座で公演が行われた
長崎市チトセピアホール 『千歳公楽座 九州旅成金の会』(2017年2月) / 会場となったのは、ホールのなかではなくロビー。特別に設置した高座で公演が行われた

松之丞:ほとんど馴染みのない土地でしたから、出口さんが手を挙げてくださったのは心強かったですよ。以来、何度もお邪魔させていただいて、今度で4回目。普通、同じ場所に4回も、しかも半年に1回、同じ顔ぶれで行くなんてあり得ないですよね。

出口:長崎は落語の会自体が少ないんです。あったとしても、テレビで顔を見たことのあるような人気噺家をお招きして、ホールで行う大規模なものばかりで、落語の魅力がいちばん伝わる近い距離感の公演は、現実問題不可能だったんです。

だから旅成金のプロジェクトでは、ロビーを会場にしつらえて、小規模な寄席っぽい雰囲気を作ってみたわけです。おかげさまで人気になって、ホール内でないとお客様が収まらなくなっちゃいましたけど(笑)。

出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)
出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)

『千歳公楽座 旅成金 in 長崎』
『千歳公楽座 旅成金 in 長崎』(サイトを見る

生の落語って、映像の100倍、いや1000倍は面白いからね。(小痴楽)

—SNSで呼びかけて、ツアーが実現するっていうのは現代的な現象ですよね。落語家・講談師が発信しているっていうのも面白いのですが、ツイートを最初に目にして、出口さんはどんな風に思いました?

出口:なんか偉そうですみませんが(苦笑)、まずSNSで発信する時点で「信用できるな」って思いました。僕はライブに通い詰める青春期を過ごした人間なので、バンドが各地のオーガナイザーをつないで旅費や経費を折半するかたちで全国ツアーを企画する、っていう慣習をごく当たり前に目にしてきたんですね。

これはインディーシーンでは普通のことですけど、僕の知る限りで落語の人たちでそれをやる人は旅成金以外にありませんでしたから、同世代として強い刺激を受けました。で、そういうことを実現しちゃう人たちならネタも面白いに違いない! とも思ったんです。

松之丞:でも一般的にいって、ネットで知り合ったよくわからない3人を呼ぶとか不安だったでしょう。

神田松之丞
神田松之丞

出口:そこも現代的で、すぐにYouTubeで活動の一部を知ることもできますからね。むしろ、SNSを活用できる人であれば、細かいやりとりもきちんとできるだろうって考えたんです。

出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)
出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)

—時代の変化のなかで、表現者のスタンスや発信方法も変わっていますからね。成金や旅成金の活動は、古典芸能の側からのビビッドな反応だなと思います。

小痴楽:でもね、あたしは機械がけっこう苦手なんですよ。だから現代的なつながり方っていうのは個人的にはちょっと無理。なので、旅成金の事務的なことは、松之丞さんと鯉八さんに全部まかっせきり。旅成金に関しては、あたしゃ、金魚のフンです(笑)。明日どこに行くかもわからないんだから!

松之丞:旅の醍醐味ってそういうものでしょ。全部周到に準備するのって気持ち悪いし、1人くらいそういう人がいてもいいんです。

小痴楽:ありがとよ(笑)。まあ、そんな自分なので、YouTubeもちょっと苦手かな。生の落語って、映像の100倍、いや1000倍は面白いからね。

柳亭小痴楽
柳亭小痴楽

今の落語って東京のローカルな芸能ですから、それが地方にも広がったのはすごいことだと思います。(鯉八)>

—みなさんはYouTubeの存在はどう思っていますか?

松之丞:YouTubeは功罪ありますよね。落語に興味を持つための入り口としては最高の宣伝ツールだけど、実際のところアップされているものの多くは違法です。かといって小痴楽兄さんのいうように、映像じゃあ1割も面白さは伝わらないから、公式チャンネルを作る気持ちはない。

長崎市チトセピアホール『千歳公楽座 旅成金 in 長崎』(2018年2月) / 神田松之丞による、寛政力士伝より「雷電の初土俵」
長崎市チトセピアホール『千歳公楽座 旅成金 in 長崎』(2018年2月) / 神田松之丞による、寛政力士伝より「雷電の初土俵」

鯉八:ネットを介してポジティブな効果を感じる機会も多いよ。僕のやっている新作落語は同世代に向けて作るものだから、これまで地方に呼ばれるなんて考えられなかった。おじいちゃんやおばあちゃんからの需要がありませんから。

でも渋谷らくご(渋谷ユーロスペースで毎月開催される落語会。動画やポッドキャストの配信も行う)の影響力で、地方の若い人たちが落語に足を運ぶようになったのは、とても大きい変化。今の落語って東京のローカルな芸能ですから、それが地方にも広がったのはすごいことだと思います。

瀧川鯉八
瀧川鯉八

小痴楽:地方で40人規模の小さいスペースで高座を打つこと自体、経済的に難しいんですよ。入場料収入も限られるし、移動費や宿泊費もかかっちゃうから。だから地方では大ホールを埋められる人気のある噺家しか呼べない、という状況があったんだけど、旅成金のシステムなら経費を各地の主催者さんで折半になるから、実現の可能性はグッと上がるんです。

松之丞:実際、黒字が続いているしね。

小痴楽:いちばん恩恵を受けてるのは古典のあたしだと思うよ。他の2人と一緒だからついでに呼んでやろうってなる。もう、おんぶにだっこで「よろしくぅ!」って感じよ。

長崎市チトセピアホール『千歳公楽座 納涼成金夏祭』(2017年8月) / 柳亭小痴楽による「一目上がり」
長崎市チトセピアホール『千歳公楽座 納涼成金夏祭』(2017年8月) / 柳亭小痴楽による「一目上がり」

松之丞:いやいや兄さん。実際のところ、古典落語の人気は根強いですから。むしろ弱いのは新作や自分の講談で、各々の強みと弱みを補えるのが旅成金のよいところです。今でこそ講談は興味持たれるようになってきていますけど、ほんの3年前まで、講談の独演会を地方でやるのは無理でしたから。

鯉八:僕の新作落語も同じよ。

松之丞:それが今や、地方のおじいちゃんたちにもウケるようになったんだから、ネットの拡散効果、恐るべしですよ。そうやって芸のインフラを育てる「種まき」が、旅成金のもう1つの顔でもあって、我々が真打に上がったときに、ツアーで回った土地の人から呼んでもらえるわけですよ。

小痴楽:順番でいったら、次は鯉八さんが真打だから楽しみだよ! でも、まっちゃん(松之丞)は別に真打ツアーやらなくてもいいんじゃない~?

松之丞:なんでだよ! やりたいよ! この企画考えたの俺だよ!

左から:神田松之丞、柳亭小痴楽、瀧川鯉八

来るべき解散ツアーのときに、長崎の人たちは心から「おめでとう!」と祝福できる。そういうストーリーを期待してるんです。(出口)

—二ツ目の成長に寄り添えることも成金、旅成金の醍醐味ですよね。

出口:公共ホールが企画する鑑賞事業で同じ3人を2年間に4回も呼ぶって、かなり特殊なことなんです。普通だったら「今度は別の噺家さんをお呼びしましょう」ってバラエティーの豊かさを意識するんですけど、長崎の人がお三方の成長を見守る機会を生み出すことができるから、あえてやっています。

さっきも話に出たように、成金は誰か1人でも真打になったら解散すると宣言しています。その時間の限られた区切りのなかで、最初の公演では90人のお客様ではじまったのが、会を重ねるごとに120人、150人……と、成果が目に見えて現れてくる。その体験を共有していれば、来るべき解散ツアーのときに、長崎の人たちは心から「おめでとう!」と祝福できるわけですよ。そういうストーリーを期待しているんです。

—アイドルの成長を見守る気持ちですね。ファンと一緒に駆け抜けていく。

松之丞:二ツ目って何事にも挑戦して、恥をかく時期を味わう「青春芸」なんですよ。だからこの見せ方は正しいんです。若いからこそ、知らないネタにどんどんぶつかっていける。「点」ではなく「線」で見てもらうのが二ツ目の時代で、成金はそこを意識的に見せていこう、というのがユニット結成の原点でした。

神田松之丞
神田松之丞

小痴楽:「会いに行けるアイドル」っていいますけど、その最たるものが落語家なんです。寄席に来て、噺を聴いて、終わったら楽屋のところで待ってて「おい、飲みにいくぞ!」ってお客さんが連れていってくれるという文化。さすがに今、そういうのは廃れちゃいましたけど。

松之丞:会いに行けるどころか、打ち上げも一緒にできるアイドル(笑)。他業種の芸人さんからすると「お客さんと一緒に飲むなんてありえない!」みたいですよ。

小痴楽:時代の変化だよね。あたしもお客さんと打ち上げにいくのは苦手だし、ちょっと避けたいって気持ちもある。最近のお客さんのなかには、昔はお互いが暗黙の内に引いていた超えちゃいけない一線をズカズカ入り込んでくる人もいるからさ。

鯉八:昔は、近い距離で付き合って太客を繫ぎ止めるっていうのも、芸人の売り込み方ではあったよね。

左から:柳亭小痴楽、瀧川鯉八
左から:柳亭小痴楽、瀧川鯉八

小痴楽:うちの父親(五代目柳亭痴楽、2009年没)は本当に筆まめで、家ではずっと御礼状とか手紙を書いていましたね。そうやってお客さんとの関係を維持していて偉いなとも思ったけど、独演会当日になると常連さんは本番中もロビーにいて噺を聴いてなかったりするわけ。「何回も聴いてるんだから、いいんだよ」ってことなんだろうけど、芸人の側からすればガッカリじゃない。あたしの芸はどうでもいいってことか、と。

松之丞:そういう理由もあって、うちら3人は手紙でお客さんに呼びかけたりしないんですよ。それがSNSに変わったってことだけれど。

小痴楽:大事なことよ。あたしはSNSでも「来てください」とはいわない。「あります」くらいで、来るも来ないもみなさんの自由。贔屓の噺家からお願いされたら、熱心なファンは行かなきゃって気持ちになるでしょう。でも、そういう一方的な関係性では、本当に楽しい気持ちにはなれない気がする。

柳亭小痴楽
柳亭小痴楽

鯉八:僕らとお客さんの「気持ちの濃度が同じくらい」ってのがいいんですよ。旅成金のよさはまさにそれで、けっして超売れっ子ってわけではない僕らの高座を観に来てくださる時点で、かなり好奇心が強い前のめりなお客さん。だから、普通の高座以上に噺が伝わるんです。地方だと、行政主導で行われる無料の落語会がけっこうあるんですが、無料だとやっぱり空気が緩んじゃう。

瀧川鯉八
瀧川鯉八

出口:地方であえてお金を払って観るって、相当ハードルの高いことですからね。そうすると、例えば『笑点』に出演しているような評価の定まった人を、肉眼で観るってことがチケット購入の理由になることが多い。噺家さんの実力ももちろん保証されていますからね。

松之丞:お客さんも身銭をきって損はしたくないですもんね。

鯉八:旅成金でいろんなところに行かせてもらってから、別の高座で地方に行っても僕のことを知っている人が増えたんですよ。場合によっては、会場の半分くらいがすでに僕を知っていることもある。そういう環境で噺をやる、ってことは自分にとっても得るものが多いですね。

左から:神田松之丞、柳亭小痴楽、瀧川鯉八、出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)

原始的でアナログな出会いが、SNSで見つかっていく、旅成金って、いろんな素敵な人に出会える機会なんです。(松之丞)

—旅成金を受け入れる主催者側にも変化があったのでは?

小痴楽:会の盛り上がりに如実に反映しますね。もちろんうまくいかなかったことの主な責任はあたしらの腕なんだけど、よい空気が流れている会っていうのは、例外なく主催者さんの気合いが違う。

柳亭小痴楽
柳亭小痴楽

松之丞:席亭(寄席の主人のこと)自身の愛情やワクワク感って、客席にも伝わるんですよね。

2018年の2月に岡山で旅成金をしたんですけど、すごくよかった。500人キャパの会場しか抑えられなくて、動員が厳しかったんですよ。それで大赤字。「力足らずですみません……」って謝ったら、「落語とか講談が好きだから気にしないで。また来てよ」っていってくださって。それで、実際に今年7月にオファーがあってまた行くんですよ。

瀧川鯉八
瀧川鯉八

小痴楽:ありがたい話だね。

松之丞:その人も、点じゃなくて線で見てくださっているんです。「二ツ目の今はこれでいいんだよ」って。本当にありがたいです。旅成金って、いろんな素敵な人に出会える機会なんです。原始的でアナログな出会いが、SNSで見つかっていく、っていうのはちょっと面白い状況ですね。

出口:旅成金のお三方が来ることで街も変わっていくんですよ。例えば佐賀公演の会場になった「ON THE ROOF」は空きビルをリノベーションしたオフィスビル。10年くらい誰も使っていなかったんですが、最近ではおしゃれなカフェやフォトスタジオなんかもできちゃって。

2018年2月、佐賀市呉服元町 ON THE ROOF内のフォトスタジオ「Reminess」で開催された『寄席 オン・ザ・ルーフvol.2』
2018年2月、佐賀市呉服元町 ON THE ROOF内のフォトスタジオ「Reminess」で開催された『寄席 オン・ザ・ルーフvol.2』

小痴楽:そうそう。変わってましたよね!

出口:佐世保公演を主催する「桃源郷」はDJチームだし、もともと落語を特別に好きな人たちではないんです。でも、面白いことをしたい、街を盛り上げたいって気持ちを共有できる人たちだから、フォトスタジオで落語が聞けるように会場のしつらえを工夫したり、落語ファンじゃない人を呼び込むための活動を積極的にしてくれる。

そういう意識が、結果としてよい方向に進んでいくんです。そしてその変化は、半年ごとに必ずやってくる旅成金の噺の面白さによって加速していく。

『旅成金 in 佐世保』
『旅成金 in 佐世保』(サイトを見る

鯉八:これまでの演芸って、主催者さんが「ぜひ来てください」と誘ってくださるか、こちらが「行かせてください」とお願いする、その2種類しかなった。でもSNSはそれぞれの気持ちを投げ掛け合うことができるしょう。その熱量から生じた工夫の妙が、やって来るお客さんにも伝わるんでしょうね。

長崎市チトセピアホール『千歳公楽座 納涼成金夏祭』(2017年8月)瀧川鯉八による創作落語「おちよさん」でのひとコマ
長崎市チトセピアホール『千歳公楽座 納涼成金夏祭』(2017年8月)瀧川鯉八による創作落語「おちよさん」でのひとコマ

松之丞:Twitterだったら、一連の流れもタイムライン上で誰もが共有できますしね。自分らからの呼びかけに対して「長崎の主催者さんが手を挙げたぞ!」と盛り上がれる。プチドキュメンタリーみたいなものがSNS上で膨らんでいくんです。

—アートの世界では、アーティストがある地域に滞在して制作することを「アーティスト・イン・レジデンス」と呼ぶんですが、旅成金の各地の受け入れられ方はちょっとそれに似ていますね。

出口:たしかにそうですね。噺のマクラにご当地ネタを折り込むことはもちろん、佐賀公演では松之丞さんが佐賀が舞台になってる「鍋島猫騒動」という演目をかけたり、鯉八さんは「長崎」という創作落語までつくったりしている。地域と芸事(=アート)が結びついて、表現が生まれて、街が賑わって、落語好き同士のコミュニティーができあがっていく……というのは、今日本中で行われている地域芸術祭に期待されている効果と意外と合い通じるものがあるんじゃないかと。

長崎と福岡の落語好きがTwitterでつながって、旅成金の高座を観たついでにご飯を一緒に食べたりオフ会したりしてるんです。小さいながらも、こういう人と経済の循環が起こっているのは旅成金のこれまでの蓄積によるものだと思います。

—最後に、旅成金の今後の抱負を聞かせて下さい。

松之丞:この数年で、落語も講談も状況は大きく変わりましたね。講談のマイナーさに迷うことも度々ありました。でも、全国放送された『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ系列。2018年4年7月放送回に出演)でバズったり、旅成金の成功によって、「俺のやってることに間違いなかった! この楽しさは万人に伝わる!」って確信を持てるようになりつつあります。もちろん僕よりもさらにすごい講談の師匠はまだまだいますから、その人たちの芸にお客さんを導く導線になるようなアピールをしていきたいですね。

神田松之丞
神田松之丞

小痴楽:成金自体は近い将来に解散することが運命づけられてますけど、いちばんの理想は解散後も地方に呼ばれることですね。たまたま実力のある人たちを呼んでみたら「あれ。このメンバー、成金だったじゃねえか」ってなるのがいいよね。

—成金は、漫画でいうと藤子不二雄らを輩出したトキワ荘のような感じですね。

鯉八:でも、真打になったら3人揃うのは稀かな。そういう意味では、今しか観れないものですね。

出口:生の話芸に触れる機会の少ない地方に住んでいる人にとっては、旅成金が人生ではじめて観る落語、ご高齢の方だとひょっとすると人生最後に観る落語、ってことにもなるんですよね。でも、そういう一期一会の機会に十分に値する、このお三方の芸は全力でオススメしたいです。

左から:神田松之丞、柳亭小痴楽、瀧川鯉八、出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)
左から:神田松之丞、柳亭小痴楽、瀧川鯉八、出口亮太(長崎市チトセピアホール館長)

イベント情報
『旅成金 ☆ 小痴楽・鯉八・松之丞 九州・近畿・北陸・東海・群馬ツアー2018 夏』

出演:
柳亭小痴楽
瀧川鯉八
神田松之丞

2018年8月1日
会場:長崎 長崎市チトセピアホール

プロフィール
柳亭小痴楽 (りゅうていこちらく)

昭和63年生まれ、東京都出身。「旅成金」最年少ながら、芸歴は最も長い。古典落語を得意とする本格派。父も落語家の故・柳亭痴楽。NHK「おはよう日本」、「クローズアップ現代」の特集にも取り上げられる。平成23年 北とぴあ若手落語家競演会 奨励賞受賞。平成27・28年 NHK新人演芸大賞ファイナリスト。

瀧川鯉八 (たきがわこいはち)

昭和56年生まれ、鹿児島県出身。新作落語(自作の落語)をメインとする。コムアイ(水曜日のカンパネラ)はじめ、著名人にファンも多く、フジテレビ系「みんなのニュース」の特集にも取り上げられた。平成23年・27年 NHK新人演芸大賞ファイナリスト。平成27年 渋谷らくご大賞受賞。

神田松之丞 (かんだまつのじょう)

昭和58年生まれ、東京都出身。「旅成金」唯一の講談師。単独公演で銀座博品館劇場を完売させ、TBS「日立世界ふしぎ発見!」やNHKの「真田丸」関連特番などのTVやラジオなどメディアにも多く出演している。趣味は落語を聴くこと。若くして、連続物といわれる宮本武蔵全17席、慶安太平記全19席などを異例の早さで継承。持ちネタの数は8年で110を超え、講談普及の先頭に立つ活躍をしている。

出口亮太 (いでぐち りょうた)

1979年長崎市生まれ。東京学芸大学で博物館学を学び、卒業後は青山・桃林堂画廊の運営、長崎歴史文化博物館の教育普及担当研究員を経て、2015年に若干35歳で長崎市チトセピアホールの館長に就任。これまでに50本あまりの自主事業を実施、先鋭的な企画と自治体予算や助成金に頼らない運営スタイルで注目を集める。2016年にはDOMMUNEにて特集「公共ホールの新たな可能性を探す ~サードプレイスとしての劇場空間」を岸野雄一氏と共同で企画・出演し話題となる。近年では、教育機関や医療機関、地元のNPOとの協働事業も実施しながら、現場での実践をもとにした運営論の講義を全国で行う。また、近隣の公共施設と連携し自主事業を巡回させるネットワークづくりも行っている。



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