
Yasei Collectiveは4人から3人へ。10年の足跡と今後を語る
KORG- インタビュー・テキスト
- 黒田隆憲
- 撮影:豊島望 編集:山元翔一、矢島由佳子
変幻自在のビートを操り、ジャンルの垣根を次々と打ち壊しながら、唯一無二のサウンドスケープを作り出すジャムバンド、Yasei Collective。今年7月にリリースされた、前作からおよそ2年ぶり通算5枚目のアルバム『stateSment』は、米国ニューヨーク州はロチェスターにあるレコーディングスタジオへと赴き、レコーディングからミキシング、マスタリングまで行った意欲作です。先日、メンバーの1人である別所和洋さん(Key)の脱退が報じられたばかりですが、11月のツアーファイナル以降、3人編成となる彼らの「次の展開」にも期待が集まります。
そこで今回、バンドのメインコンポーザーであり、ギタリストの斎藤拓郎さんの自宅を尋ね、これまでのバンドの軌跡を振り返ってもらいつつ、「新生Yasei Collective」への意気込みについても話してもらいました。
ギターキッズだった斎藤を変えた、『Kenny Burrell & John Coltrane』との出会い
埼玉県本庄市出身の斎藤さんが、音楽に目覚めたのは中1の頃。4つ年上のお姉さんからエレキギターの「お下がり」を譲り受けたのがキッカケでした。やはりお姉さんの影響で、その当時流行っていたGLAYやHi-STANDARD、hide(X JAPAN)などを聴いていた斎藤さんは、彼らの曲をコピーしながらギターを練習するようになります。
斎藤:高校生くらいの頃から友達とバンドを組んで、ジャムセッションなどしながらオリジナル曲を作っていました。ジャンルはメロコアですかね。Hi-STANDARDの曲を全てコピーし終わって、「次は何やろうか」っていうときに、自分たちで作りはじめた感じです。
その頃の斎藤さんにとって、音楽は「好きなものの1つ」くらいでした。中学の頃はサッカーに夢中で、高校時代には家から学校まで、およそ30キロの道のりを毎日自転車で往復していたそうです。音楽を真剣にやりはじめたのは大学に入ってからで、メロコア以外の音楽を聴くようになって興味の幅がどんどん広がっていきました。
斎藤:なかでもジャズが気に入ったんですよ。それでいろいろ聴いているうちに、ジョン・コルトレーンとケニー・バレルの共作アルバム『Kenny Burrell & John Coltrane』(1963年)に収録されている、“Lyresto”という曲に出会ったんです。たしか、ディスクユニオンで安く売っていたのをジャケ買いした記憶がありますね。
Kenny Burrell & John Coltrane“Lyresto”を聴く(Apple Musicはこちら)
斎藤:ケニー・バレルのアドリブに魅せられて、「こんなふうに自由にギターが弾けるようになりたい」と思ってジャズ研に入部しました。ただ、ジャズ研はいわゆるコンボ系(少人数で、各プレイヤーのアドリブソロが演奏の中心の編成)ではなくビッグバンド(大人数によるアンサンブル形態の編成)が主体で、自分がやりたかったものとは少し違ったのですが、それはそれでいい経験になりました。
それまでは歌モノの、ポップな楽曲を作っていた斎藤さんでしたが、ジャズ研に入りジャズのコード理論を学んでいくうちに、それが曲作りや演奏にも活かされるようになっていきました。もちろん、今でもポップミュージックは大好きで、なかでもThe Beatlesの影響は大きいそうです。高校生の頃に購入した『ビートルズ・ベスト曲集』(シンコーミュージック)は、部屋の目立つところに置かれており、「Yasei Collectiveでも曲によってはかなり意識して作っている曲もある」と話してくれました。
アメリカ仕込みの2人のジャズメンが斎藤にもたらしたもの
そんな斎藤さんが、Yasei Collectiveを結成したのは2009年。米国より帰国した松下マサナオ(Dr)さん、中西道彦(Ba,Syn)さんとジャムセッションを行なったのが全てのはじまりでした。
斎藤:マサナオくんは同じサークルだったし在学中から知っていて、渡米するときにも送別会をしたりしているんですよ。当時、僕は別のバンドを組んでいたのですが、彼が帰国した頃ぐらいに買ったマルチエフェクターのサウンドをすごく気に入ってくれたんですよね。彼がやりたかったバンドのイメージに近かったらしくて。それでマサナオくんの、長野の実家近くにある山小屋みたいなところで、ミチくんと3人で合宿したんです。そのときに、アメリカ仕込みのジャズの知識を叩き込まれました。
2010年には、別所和洋さん(Key)が加入し4人編成に。そのときから、サウンドのコンセプトは明確にあったそうです。Yasei Collectiveは、Steely DanやTOTOのサポートでも知られるキース・カーロックが率いるギターレスのジャムバンドRudderや、ドラマーのネイト・ウッド率いるKneebodyのようなバンドを目指して始動しました。とりわけRudderの影響は大きく、初期Yasei Collectiveの楽曲“MML”は、Rudderを雛形にして作った曲です。
斎藤:とにかく、キース・カーロックのドラムには痺れました。まるで重戦車のようなビートで、YouTubeで見せられたときには衝撃が走りましたね、「なんだこいつら!」って(笑)。まだ日本では、ロバート・グラスパーやクリス・デイヴが今ほど浸透していなくて、彼らとRudderやKneebodyは、ジャズとエレクトとの折衷、ポリリズムや変拍子の面白さを教えてくれたという意味でも同じ文脈で聴いていました。
Rudder『Matorning』(2009年)を聴く(Apple Musicを開く)
「音楽というのは、繰り返しのなかに楽しさがある」と斎藤さんは言います。
斎藤:たとえば、いきなり「4拍5連」(4拍を5等分したリズム)をやろうとしたり、「7拍子と11拍子の変拍子」と言われても、すぐには演奏なんてできないんです。でも、それをマスターして繰り返すことによって、その気持ちよさが理解できる。それはポリリズムも同じなんです。
最初は全く理解できないし演奏もできなかったフレーズが、やっているうちにだんだんと身についていく喜び……困難を克服するアスリートみたいな気持ちになっていくというか(笑)。そこをあまりにもストイックに追求しすぎると、今度は「踊れないよ!」と言われてしまうので、その辺はバランスが大事ですね。
Yasei Collectiveの音楽は、そうした最先端のジャズミュージックの要素をいち早く取り込みつつも、あくまで「日本の音楽」として鳴らされているところにも大きな魅力があります。
斎藤:僕らは日本人なので、意識しなくても日本っぽくはなるんです。あと、実を言うと僕自身は、ジャズに対してそこまで入れ込んでいるわけでもなくて。というのも、ジャズ自体がそんなに向いてないというか……コピーしたそばからどんどん「抜けて」いくような感覚があるんです。ジャズはあくまでもエッセンスであり、テクニックの1つとして取り入れています。そのあたりは、メンバーそれぞれ距離感は違うと思いますけど。
機材リスト
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コンピューター
WindowsDAWソフト
Steinberg「Cubase」オーディオインターフェース
Steinberg「UR22」MIDIキーボード
M-AUDIO「Code49」シンセサイザー / キーボード
エフェクター
Line 6「Helix」
Electro-Harmonix「V256」音源
SPECTRASONICS「Omnisphere」
Steinberg「HALion」
XLN Audio「Addictive Drums」マイク
Electro-Voice「ND967」スピーカー
YAMAHA「MSP5」
リリース情報

- Yasei Collective
『stateSment』(CD) -
2018年7月18日(水)発売
価格:2,800円(税込)
YCCA-00011. Trad
2. Combination Nova
3. The Golden Fox
4. Splash
5. Okay
6. Snow
7. O.I.A.K.A
8. Three Heads
9. Silver
10. African Doorz
11. David
イベント情報
- 『Yasei Collective Live Tour 2018 “stateSment”』
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2018年10月5日(金)
会場:栃木県 宇都宮 studio baco2018年10月13日(土)
会場:北海道 札幌 くぅ2018年11月2日(金)
会場:愛知県 名古屋 TOKUZO2018年11月3日(土・祝)
会場:大阪府 大阪 BEYOND2018年11月9日(金)
会場:福岡県 福岡 ROOMS2018年11月10日(土)
会場:熊本県 熊本 ぺいあのPLUS2018年11月11日(日)
会場:広島県 広島HIROSHIMA4.142018年11月24日(土)
会場:東京都 新代田 FEVER料金:各公演 前売3,500円 当日4,000円(ドリンク別)
プロフィール

- Yasei Collective(やせい これくてぃぶ)
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2009年に米国より帰国した松下マサナオ(Dr)、中西道彦(Ba, Syn)が斎藤拓郎(Vo, Gt, Syn)と共に結成。2010年、別所和洋(Key)が加入。自主制作盤『POP MUSIC』をリリースし、都内を中心にライブ活動をスタートさせる。2018年7月に5thアルバム『stateSment』をリリース。また、メンバーはそれぞれYasei Collective以外にも多数のバンド(GENTLE FOREST JAZZ BAND、ZA FEEDO、Pontadelic、HH & MM他)に参加、客演やCM、レコーディング参加等多岐にわたる活動も並行して行っている。