インタビュー

文化が衰える前に公共でできること 佐藤直樹×岸野雄一×出口亮太

文化が衰える前に公共でできること 佐藤直樹×岸野雄一×出口亮太

インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:豊島望 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部) 撮影協力:美学校

地域の人からモチベーションが出てこないと始まらない。大切なのは本当に「人」なんだと感じます。(佐藤)

—いっぽう「3331」では、佐藤さんはどのように地元との関係を作ったのでしょうか?

佐藤:「3331」は統括ディレクターの中村政人や、運営するコマンドA(展覧会や催事、各種普及活動をアートな視点から企画、制作を行っている会社)の力が大きいのですが、彼らは地域のお祭りに参加するなど、本当に地道に関係作りをしていましたね。

佐藤直樹
佐藤直樹
「アーツ千代田 3331」外観 ©3331 Arts Chiyoda
「アーツ千代田 3331」外観 ©3331 Arts Chiyoda

岸野:「3331」の場合、施設の入口にあたる部分に門を付けていないことが大きいですよね。敷地内の公園の部分はどんな人でも使える。それは地元の人にとって嬉しいことで、あの公園が無くなっては困る人がいる。だから、施設全体のことも肯定的に見ることができるんだと思う。

佐藤:文化施設というと敷居が高いけど、公園で遊ぶ人、建物の入口にある階段でご飯を食べる人、建物内に目的がある人という感じで、グラデーションがあるのが良いですよね。

出口:いきなり新しいものを押し付けるのではなくて、古くからあるものも混ぜながら「軟着陸」を目指すという発想は、岸野さんの『DJ盆踊り』にもつながります。

岸野:そうですね。東京の中央区で盆踊りの会場を借りて『中洲ブロックパーティ』というイベントをやったのですが、使える時間が6時間あったんです。6時間をクラブミュージックのDJで埋められたんだけど、あえてそれをしなかった。でないと「今年から若い人たちが別なことをし始めた」となってしまい、ご年配の方やお子さんが帰ってしまう。そこで、2時間は新しいダンスミュージックをやるけれど、4時間は既存の盆踊りをやりました。そうしたら、盆踊りの手ほどきを受けた子供たちが、MOODMANのDJでめちゃくちゃ踊り始めたんですよ。何の仕掛けも仕込みもしていないから驚きましたが、その自然発生的な空気にとても感動しました。

岸野雄一
岸野雄一

—参加者の内側に、自然に動機が生まれたわけですね。チトセピアも移動式の客席やロビーをうまく利用して、空間に多様な価値や住民との接点を生み出しています。

出口:たとえば、チトセピアは客席をすべてなくすと体育館のようになるのですが、ならば利用の少ない平日の午前中は本当に体育館として、園庭が狭くて困っている地域のこども園に使ってもらったり。空間の見方や席の組み方を変えることで、ライブハウスにも、円形劇場にも、トークライブ会場にも、寄席にもなる。公共施設の使い方はどの自治体でも今後の課題ですが、運営しながら新しい用途を増やしていくことで、地域内でのプライオリティを高めようとしています。

佐藤:面白いですね。地元の人の視点に立ったとき、若い人たちがやってきて文化的なことをやっても、それが一時的な盛り上がりにしかならないものなら、不安を感じますよね。地域の人からモチベーションが出てこないと始まらない。ベタだと言われるかもしれないけど、大切なのは本当に「人」なんだと感じます。

岸野:本当にそう思います。最終的には「人×場所」だよね。

大事なのは、SNSより趣味の違う身近な他者の方で、そこを何とかしたい。(岸野)

出口:他にもチトセピアでは、公共ホールはただ上映や鑑賞の場所であるだけでなくて、意思を持って企画運営を行う事業主体でもあっていいという考えから、ホールの外でも積極的に企画を行なっています。先日、佐世保市で行われた『桃源郷の秋祭り』もそのひとつ。

これは佐世保市主催の公募事業『させぼ文化マンス』の一環で、さきほどのDJチーム「桃源郷」のDJイベントに、岸野さんとチトセピアで肉付けをしました。具体的には『DJ盆踊り』と新しい公共空間を考える岸野さんのレクチャー、レコードコンサート、蚤の市の4つのイベントを行いました。蚤の市とDJ盆踊りを行ったことには、会場である公共ホール「アルカスSASEBO」前の広場という公共空間をより魅力的に活用するための社会実験という意図があります。

『させぼ文化マンス』アルカス広場には、雑貨、陶器、古本、焼菓子などのお店が立ち並んだ
『させぼ文化マンス』アルカス広場には、雑貨、陶器、古本、焼菓子などのお店が立ち並んだ

岸野:レコードコンサートでは、ご当地モノのレコードをかけました。歌詞に「長崎」が出てくる曲とかね。

佐藤:それは喜ばれそう(笑)。

出口:岸野さんのレクチャーには多くの行政マンが参加してくれました。地方では珍しい光景ですよ(笑)。

岸野:それに、『させぼ文化マンス』全体がバラエティーに富んでいて面白かったですね。『空の大怪獣ラドン』みたいな現地で撮影された映画の上映や、ビブリオバトルもあった。

させぼ文化マンス参加事業である『桃源郷の秋祭り』での一コマ
させぼ文化マンス参加事業である『桃源郷の秋祭り』での一コマ

佐藤:「見たいものが一個はある」くらいに複合的な方がいいのかもしれないですね。

岸野:「これが見たいから行く」でいいんですよ。あとは、その後の動線をどう描いてあげるか。『DJ盆踊り』には、当日別会場で行われていたヒップホップダンスのイベントに来ていた子供たちも参加してくれました。

出口:市民文化祭にありがちなのは、参加者のマンネリ化だと思うんです。また、ジャンルごとの横のつながりの不足もある。そこをどう広げるのかはいつも考えます。

出口亮太
出口亮太

岸野:僕が公共空間でイベントをやるうえで大切にしているのは、全員の居場所を作るということなんです。だけど、だからと言って「音楽はすべての人をつなぐ」なんて考えてはいない。黒人が独自に生み出したジャズにせよ、大人に理解されない大音量のエレキギターによるロックにせよ、音楽は一種の排他性によって成り立つ部分があるから。

でも、「今回は僕の好きな音楽をやるけど、次回はあなたの好きな音楽をやります」という、継続的な機会における保証があればいいんですよね。そうしたいろんなものがある場所で、どう全員が楽しめる状況を作るのか。最近はSNSで、音楽の趣味の合う人だけつながることができるでしょう。だけど、それではやっぱりダメなんです。

佐藤:そういう考えに至ったきっかけはなんだったんですか?

岸野:やはり東日本大震災は大きくて、地縁の重要さに気づいたんです。よく話すエピソードなんですが、友人が震災のとき、趣味のDVDや本に埋もれてしまった。そこで彼は、「俺はいままで散々これらの話をSNSでしてきたけど、いま助けてくれるのは、一階にある中華屋の、自分は嫌いだけどJoy DivisionのTシャツを着ているあの兄ちゃんだ」と気がついた。

佐藤:音楽の趣味が違う人こそ、いま助けてくれる存在だと(笑)。

岸野:そうなんです。いまは、近所の人をあまりに知らなすぎる。いざというときに「我々」というフレームを築けない状況はとてもまずいと思います。私ごとですが、道路拡張で実家の立ち退きがあった時に痛感しました。そこで大事なのは、SNSより趣味の違う身近な他者の方で、そこを何とかしたいという思いはありますね。

左から:岸野雄一、佐藤直樹、出口亮太
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イベント情報

『平成30年度 全国劇場・音楽堂等職員 アートマネジメント・舞台技術研修会2019』

日本国内の劇場・音楽堂等の活性化と地域の文化芸術の振興を目的とした、アートマネジメントに関する専門的研修会。2月6日(水)に出口亮太が講師として登壇。

2019年2月6日(水)、7日(木)、8日(金)
会場:東京都 代々木 国立オリンピック記念青少年総合センター

プロフィール

佐藤直樹(さとう なおき)

1961年東京都生まれ。北海道教育大学卒業後、信州大学で教育社会学・言語社会学を学ぶ。美学校菊畑茂久馬絵画教場修了。1994年、『WIRED』日本版創刊にあたりアートディレクターに就任。 1998年、アジール・デザイン(現アジール)設立。2003~10年、アート・デザイン・建築の複合イベント『セントラルイースト東京(CET)』をプロデュース。2010年、アートセンター「アーツ千代田 3331」の立ち上げに参画。サンフランシスコ近代美術館パーマネントコレクションほか国内外で受賞多数。アートプロジェクト「トランスアーツ東京(TAT)」(2012~17年)を機に絵画制作へと重心を移す。3331デザインディレクター。美学校講師。多摩美術大学教授。

岸野雄一(きしの ゆういち)

1963年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科、美学校等で教鞭をとる。「ヒゲの未亡人」「ワッツタワーズ」などの音楽ユニットをはじめとした多岐に渡る活動を包括する名称としてスタディスト(勉強家)を名乗る。銭湯やコンビニ、盆踊り会場でDJイベントを行うなど常に革新的な場を創出している。2015年、『正しい数の数え方』で第19回文化庁メディア芸術際エンターテインメント部門の大賞を受賞。2017年、さっぽろ雪まつり×札幌国際芸術祭2017「トット商店街」に芸術監督として参加。

出口亮太(いでぐち りょうた)

1979年長崎市生まれ。東京学芸大学で博物館学を学ぶ。表参道・桃林堂画廊の運営、長崎歴史文化博物館の教育普及研究員を経て公共ホール管理会社・ステージサービス入社。2015年に若干35歳で長崎市チトセピアホール館長に就任、60本あまりの自主事業を実施。先鋭的な企画を外部資金に頼らず独立採算で実施する事業計画が、指定管理者制度下の地方中小規模館の先進的な運営スタイルとして注目を集める。近年では大学や医療福祉機関、NPOなど他ジャンルとの協働事業を展開しつつ、現場の知見をもとにホール運営についての講演を各地の大学、文化施設協議会等で行う。また、近隣の施設・団体と連携した事業巡回のネットワークづくりも行っている。

長崎市チトセピアホール

長崎市千歳町に1991年に開館した500席を擁する多目的ホール。平成27年度より自主事業を本格的にスタートさせ、先鋭的な企画と助成金に頼らない運営スタイルで注目を集める。これまでの出演者は伊藤ゴロー、神田松之丞、岸野雄一、スガダイロー、高浪慶太郎、瀧川鯉八、立川吉笑、玉川太福、内藤廣、中島ノブユキ、中村達也、二階堂和美、柳亭小痴楽、渡辺航など。また、既存の「舞台 / 客席」の関係性にとらわれず、「公共ホールでブロックパーティ」をテーマに、客席内に舞台を仮設したり、ロビースペースを寄席やダンスフロアに転用するなど、オルタナティブスペース的発想に基づいた公共空間の新たな活用法と利用価値を模索している。事業内容は舞台芸術の分野だけでなく、まちづくり、建築、福祉、医療、食育分野とのコラボレーション企画も多く、公共ホールの可能性を拡張する活動を続けている。

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