
永原真夏が語る、SEBASTIAN Xの10年。活休、活動再開を経た今
SEBASTIAN X 結成10周年企画第三弾「ワンマン X」- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:馬込将充 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部) 取材協力:吉祥寺Warp
燃え上がるものがないと、どれだけやっても伝わらない。
—翻弄されながらも、動き続けてきた10年だったと。
永原:今ってみんな簡単に「もうメジャーも個人も変わらない」みたいに言うけど、それは違うと思う。だって、インディーズのレーベルには一つひとつ思想があるし、メジャーはメジャーのネットワークがあって、自主でやるとお金が回りやすいし、直接想いを伝えることができる。全部マジで違うから、そのなかから「自分はこれ」って選ぶのって、これからどんどん大変になっていく気がする。
—「選択肢が増えた」というのはすごくいいことだと思うけど、「選ぶ大変さ」は昔以上なのかもしれない。
永原:私たちはMD世代なんですよ。今、YouTubeやApple Musicで何でも聴けるよさもわかるし、「アルバム1枚じっくり聴かないとわかんねえことがあんだよ!」っていうのもわかる。そういう狭間の世代だからこそ、音楽業界を漂流することができたのかなって思うんです。でも、私たちは10年かけて「あっち行って、こっち行って」ってできたけど、今のスピード感でそれができるのかなとも思う。
—ああ、それは確かに。
永原:私たちファースト(2009年11月発表のミニアルバム『ワンダフル・ワールド』)からセカンド(2010年8月発表のミニアルバム『僕らのファンタジー』)を出すまで9か月空いてて、今の基準で考えると珍しくないんですけど、あの頃は「わずか9か月」って言われるタイム感だったんですよね。どっちがいい悪いじゃないけど、今のほうが漂流はしづらいかもしれないですよね。
—翻弄されながらも動き続けて、漂流してきた10年を経て、今は自分たちのペースでバンドを動かせている実感がある?
永原:ありますね。自分の結論としては、燃え上がるものがないと、どれだけのスパンで、どれだけやっても伝わらない。そこは本当に、音楽のリアリティーだと思うんですけど、自分の気持ちが強く強くないと伝わらないので、結局その強さが一番大切なんじゃないかなっていうのは、10年やってみて思いましたね。「俺はこれが好きで、こういう人間なんです」って言える人はやっぱり強い。私も「これ!」って言える人が好きだし、そういう人の音楽を聴き続けたい。
私たち、大人になるタイミングがなかったんですよね。
—2018年3月にはソロアルバム『GREAT HUNGRY』をリリースしていて、あのアルバムは永原真夏という人間がよく見える作品だったと思います。
永原:ソロでアルバムを作る前は、自分がどんな音楽をやっていくのか、すごく悩んだんです。やっぱり、ミュージシャンとか歌手って、私にとって永遠に「憧れ」なので、「なりたい!」って今でも思ってるんですよ。
—「もうなってるじゃん」って言う人もいると思いますけど、真夏さんにとっては今も「憧れ」のままだと。
永原:そこが、私が悩みはじめたきっかけで……私、フライヤーの絵を描いたり、グッズのデザインもしてるから、「まなっちゃんは音楽じゃなくてもよかったんでしょ?」って言われることも多くて。どれだけ真摯に音楽をやっても……なめられるっていうか、そういう感覚があって。
でも、少しずつ認めてもらえるようになって……そこで一度自分でもわかんなくなって、混乱しちゃったんですよね。でも、「歌手になりたい」「バンドがやりたい」「音楽を作りたい」っていう、憧れとか理想をパッと思い出したときに、視界がクリアになったんです。なので、私にとって『GREAT HUNGRY』は超デカくて、あれを作る前と作ったあとで、自分の人生は変わったと思う。
永原真夏『GREAT HUNGRY』を聴く(Apple Musicはこちら)
—憧れや理想を思い出せたのは、何が大きかったと思いますか?
永原:バンドを休止して以降、新しい人たちにたくさん出会えたことが大きかったです。私、自分のなかでどれだけ考えても、解決できないタイプの人間なので、新しい人たちと出会うことで、やっと今の自分が見えた感覚があって。
これはどうやら他のメンバーも言っているみたいなんですけど、私たち、大人になるタイミングがなかったんですよね。正直な人たちの集まりだから、嫌なことがあると嫌な顔しちゃうんです。それ自体はいいことだと思うけど、SEBASTIAN Xによって守られてきたことでもある。活動休止期間は、そこから離れて、1人の人間として新しい人たちに出会って、4人それぞれ自分を見つけていった時間だったんだと思うんです。
アイテム情報

- 「☆と詩によるスマホオーケストラ」
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SEBASTIAN Xの約3年半ぶりの新曲“愚かなる大人たちへ”の一節をあしらった、CINRA.STOREオリジナルiPhoneケース
ケース価格:4,500円(税込)
イベント情報
- 『SEBASTIAN X 結成10周年企画第三弾「ワンマン X」』
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2018年12月23日(日・祝)
会場:東京都 渋谷 WWW X
料金:前売3,300円 当日3,800円(共にドリンク別)
プロフィール

- SEBASTIAN X(せばすちゃん えっくす)
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2008年吉祥寺にて結成。ボーカル、キーボード、ベース、ドラムスからなる男女4人組。独特の切り口と文学性が魅力のVo.永原真夏の歌詞と、パワフルだけど愛らしい楽曲の世界観が話題となる。これまでにミニアルバムを含め7作品をリリースしながら精力的なライブ活動を展開。2015年赤坂ブリッツでのワンマンライブののち2年間の休止期間に入るも、2017年4月に活動再開、"TOKYO春告ジャンボリー2017"を主催し、自主制作音源『メトロポリス』をリリース。2018年、結成10周年を迎えマイペースに活動中。