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一柳慧×白井晃 「企業化」する社会。今必要なのは総合的に見る力

一柳慧×白井晃 「企業化」する社会。今必要なのは総合的に見る力

『Memory of Zero』
インタビュー・テキスト
宮田文久
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

汗をかき、血も出し、つばも吐くような肉体が目の前にある、という点で、ダンスに惹かれるんです。(白井)

—そうした折、一柳さんは、カニングハムのもと、ダンサーとの経験に触発された。

一柳:そうですね。カニングハムのスタジオはグリニッジ・ヴィレッジに近いところにあって、若い人たちが集まっていました。ダンスや、あるいはジャズも盛んで、その区域全体が盛り上がっていた。非常に見ごたえがあって、驚きをもって観られる演目がたくさんありましたよ。

その後、私は1961年に帰国したんですが、1960年代の日本でビックリしたのは、先ほど白井さんからお話が出たような、寺山修司さんや唐十郎さんのような人たちが活躍をされ、外国でも公演をしているような状況だったことです。ニューヨークで体験したようなことが日本で起こっているその渦中に戻ってきたことは、幸せなことだったと思っています。

一柳慧

白井:1960年代に唐十郎さんは「特権的肉体論」ということをおっしゃっていました。今は情報の価値が優先されて、肉体の感覚がどんどんなくなっている時代だと思いますが、そうした肉体――汗をかき、血も出し、つばも吐くような肉体が目の前にあって、それを共有する、という点で、ダンスに惹かれるんです。それは、寺山さんや唐さんの芝居で圧倒的なエネルギーをもつ肉体を見た時に引きつけられるものと、同じなのかもしれません。

一柳:今回行う『Memory of Zero』のように、いくつものジャンルの境界を突破した表現が生まれていた。違うジャンル同士、横の同時代的なつながりのなかでコミュニケーションをとって、一緒に共同作業していたのが刺激的だったんです。それまでは縦のつながりだったものを、横につなげていったのです。

白井さんも、脚本も書けば演出もされるし、演劇外の音楽やダンスの領域にも、どんどん関心を持って入っていかれますよね。あらゆる可能性に向けて押し出された形で活動していくあり方です。音楽の世界でも、昔はバッハ、ベートーヴェン、モーツァルト、ハイドン、ブラームス……みんな作曲もして、ピアノも弾き、演奏会のプロデュースまでしていた。しかし、このトータリティー(全体性)というものが、今は失われている、と私は危惧しているんです。

左から:一柳慧、白井晃

『Memory of Zero』フライヤー
『Memory of Zero』フライヤー(サイトを見る

熱狂的なファンの人たちは盛り上がっているけれど、分からない人にはまったく無縁、という状況がすごく多くなっている。(白井)

—トータリティーが失われた現代とは、どういうことでしょうか。

一柳:情報化社会がもたらしたものは、非常にメリットもあるとは思います。しかし……この表現が当たっているかどうかはわかりませんが、社会が非常に「企業化」した、と私は感じています。それはつまり、すべてのことが細分化されて、大きなものをトータルに見る目や力を失ってしまった、という懸念を抱くんですね。

白井:自分も、社会が細分化してしまったというのは、強く感じています。それは空気としかいいようがないのですが、人と会っていても、街でお店や広告を見かけても、一つひとつは特化しているのですが、本当は全体があるからこその特化であるはずなんです。舞台表現でも同様に細分化が始まっていて、熱狂的なファンの人たちは特化して盛り上がっているのだけれども、分からない人にはまったく無縁、という状況がすごく多くなっていると感じます。

—そうした時代の中で、「身体と記憶」をテーマにした今回の演目は、どのような意味を持つのでしょうか。

白井:今回は一柳さんから、ダンスに焦点を当ててみたい、というお話があったんです。最初は驚きましたが、僕も興味がある分野でしたので、それは面白そうだ、と。

一柳:言葉を持たないダンスの身体感覚というものを今、提示してみたかったんですね。今回の第一部では、クラシックバレエからモダンバレエ、モダンダンス、そしてコンテンポラリーダンスへという歴史が踊られるのですが、ダンサーの皆さんを見ていると、その歴史を辿って現代、あるいはもっと先の未来のことも意識しているように見えます。この公演をきっかけに、自然とそういった意識が生まれていくとよいですね。

左から:一柳慧、白井晃
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イベント情報

一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト『Memory of Zero メモリー・オブ・ゼロ』
一柳慧×白井晃 神奈川芸術文化財団芸術監督プロジェクト
『Memory of Zero メモリー・オブ・ゼロ』

2019年3月9日(土)、3月10日(日)全2公演
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホール

ピアノ:一柳慧
構成・演出:白井晃
振付:遠藤康行
指揮:板倉康明
演奏:東京シンフォニエッタ
出演:
小池ミモザ
鳥居かほり
高岸直樹
引間文佳
遠藤康行
梶田留以
木ノ内乃々
五島茉佑子
児玉アリス
佐藤明花
鈴木彩海
鈴木春香
平雛子
まりあ
米持愛梨
上田尚弘
大橋武司
掛場一慶
郡司瑞輝
ながやこうた
水島晃太郎
吉﨑裕哉
料金:一般6,500円 学生3,000円
※学生は24歳以下が対象・枚数限定
※未就学児は入場不可

プロフィール

白井晃
一柳慧(いちやなぎ とし)

1933年神戸市生まれ。ピアノを原智恵子、B・ウェブスターの両氏に師事。高校時代に毎日音楽コンクール(現日本音楽コンクール)作曲部門第1位入賞。1954年からジュリアード音楽院に学び、クーリッジ賞、クーセヴィツキー賞等を受賞。留学中にジョン・ケージと知り合い、不確定性の音楽を展開、61年に帰国。これまでに尾高賞、フランス芸術文化勲章、サントリー音楽賞等多数受賞。また紫綬褒章、旭日小綬章、文化功労者に顕彰される。平成28年度には第65回尾高賞、日本芸術院賞、及び恩賜賞を受賞。平成30年秋、文化勲章を受章。現在、日本・フィンランド新音楽協会理事長、神奈川芸術文化財団芸術総監督。(プロフィール写真撮影:Koh Okabe)

白井晃
白井晃(しらい あきら)

演出家、俳優。京都府出身。早稲田大学卒業後、1983-2002年、遊◎機械/全自動シアター主宰。劇団活動中よりその演出力が認められ、多くの演出作品を手がける。演出家として独立後は、ストレートプレイからミュージカル、オペラまで幅広く発表し、緻密な舞台演出で高く評価される。中でもポール・オースター作『ムーン・パレス』『偶然の音楽』『幽霊たち』やフィリップ・リドリー作『ピッチフォーク・ディズニー』『宇宙でいちばん速い時計』『ガラスの葉』『メルセデス・アイス』『マーキュリー・ファー』『レディエント・バーミン』など海外の小説・戯曲を独自の美学で演出し、好評を博す。神奈川県民ホール開館30周年記念事業 一柳慧作曲 オペラ『愛の白夜』(06年、09年再演)では演出を手がけ高い評価を得た。読売演劇大賞優秀演出家賞、湯浅芳子賞、佐川吉男音楽賞、小田島雄志・翻訳戯曲賞などの受賞歴がある。2014年4月KAAT 神奈川芸術劇場アーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)。2016年4月、同劇場芸術監督に就任。(プロフィール写真撮影:二谷友希)

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