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ピアニスト・清塚信也はなぜバラエティ番組に出る?意外な狙い

ピアニスト・清塚信也はなぜバラエティ番組に出る?意外な狙い

清塚信也『SEEDING』
インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:豊島望 編集:矢島由佳子(CINRA.NET編集部)
2019/08/14

今ベートーヴェンが生きていたら、ロックをやっていたんじゃないかと思う。

―『SEEDING』に収録されている“Dearest "B"”は、その名の通りベートーヴェンのフレーズをオマージュした楽曲です。ベートーヴェンには特別な思い入れがありますか?

清塚:持論ですが、僕はベートーヴェンの音楽を「ロック」だと思っていて。今彼が生きていたらロックをやっていたんじゃないかと思うし、「アコースティック楽器なんてもう古いよ」と言って、シンセや打ち込みに手を出していたような気がするんですよ。

清塚信也
清塚信也“Dearest "B"”を聴く(Apple Musicはこちら

―なぜですか?

清塚:もともとベートーヴェンって、ものすごく新しもの好きだったんです。当時も既存のピアノの機能に満足していなくて、「もっとこうして欲しい」「こういうことができるようにして欲しい」という要望を、工場まで行ってやっていた。相当面倒臭がられていたみたいですね(笑)。

特にこだわっていたのは鍵盤の数。低い音から高い音までの幅を、とにかく広げて欲しいと。当時はまだ鉄の加工技術がそれほど進んでいなくて、銅や真鍮で弦を作っていたんですね。広げれば広げるほど張力が必要なのですが、その張力に耐えうる素材が当時はまだなかった。「でもなんとかして欲しい」と。そうやって無理を言いながら、鍵盤をひとつずつ増やしていった。そしてそのときに作る楽曲では、両端の鍵盤を必ず使っているんですよね。一番低い鍵盤から一番高い鍵盤まで。なのでベートーヴェンの楽曲は、使っている鍵盤の幅でいつの時代か大体分かる(笑)。

そういうベートーヴェンのこだわりが、ピアノというポテンシャルを引き上げるのに、ものすごく大きく貢献しているわけです。その後、産業革命があって、鉄を利用した弦を作るようになり、鍵盤の量もかなり増やせるようになる。他にも、交響曲の最後に合唱を入れるという型破りな編曲をするなど、人がやっていないことをどんどんやってきたんです。

清塚信也

―とても興味深いです。

清塚:専門的な話をすると、たとえば“月光”という曲の第3楽章は、バンドアレンジに近い構造なんですよ。ベースがリズムを刻み、そこにメロディが入ってくる……とか。あと、“戦争交響曲”(“ウェリントンの勝利”)という、ベートーヴェンの9つの交響曲には含まれていない番外の作品があるんですけど、この曲では本物の大砲を用いていて、曲のなかで「ドーン!」と鳴らすんです。今の時代でいう「サンプリング」ですよね。現在はシンセなどで代用できますが、そんな先進的、実験的なこともやっていたんですよね。

―実験的といえばTHE BEATLESも、新しい機材や楽器は率先して試したし、レコーディングではエンジニアに無茶苦茶な要求をして、そのおかげでレコーディング技術が進歩したとも言われています(インタビュー記事:ポール・マッカートニーが日本で語る、感受性豊かな若い人たちへ)。そういう部分では、THE BEATLESとベートーヴェンって共通していますよね。

清塚:まさに。THE BEATLESってすごく「実験的」な側面もあったバンドでしたよね。でも、ポップな側面もちゃんと持っていた。そういう部分でもTHE BEATLESとベートーヴェンは似ていますよね。

これは矛盾するかもしれないですが、音楽家は社会的な意見を持ち歩かない方がいいと思っているんですよね。

―清塚さんはテレビに出て時事問題を語ることも多いと思うのですが、そういう意味で気をつけていることはありますか?

清塚:発言する側の責任として、よく知らないことを適当に言ってはいけないと思っているので、昔より関心を持つようにはなりました。ただ、ちょっとこれは矛盾するかもしれないのですが、基本的に音楽家は社会的な意見を常に持ち歩かない方がいいと思っているんですよね。特に日本では、社会性や人間関係に疲れた人が逃げ込む場所として、「音楽」があって欲しい。

もちろん、パンクやフォークのような、メッセージ性が高く反骨精神にあふれた音楽には、言葉にしたら過激なことでも歌に乗せることで伝わりやすくなるという意味があったと思うんですよ。クラシックでも、たとえばセルゲイ・ラフマニノフやドミートリイ・ショスタコーヴィチ、セルゲイ・プロコフィエフのようなロシアの作曲家たちは、戦争や国家に対する思いを、さりげなく音に忍ばせていた。当時、共産主義国家だったロシアでは、発言の自由も厳しく取り締まっていましたから、わからないようにアホっぽい和音をひとつ入れるとかね(笑)。

そういう歴史はありますが、日本における音楽のあり方としては「憩いの場」というふうに、僕自身は感じるんですよね。「ここは安全地帯であって欲しい」というか。

清塚信也

―とてもよくわかります。

清塚:ただ、僕は松本人志さんをリスペクトしていますので、『ワイドナショー』に出るからにはそのルールに従うべきだなと思って。「知りません、ごめんなさい」はないだろうと思って、自分なりに勉強するようにしていますね。

―8月16日には、日本人男性クラシックピアニストとして史上初の武道館ワンマンが開催されます。最後に意気込みを聞かせてもらえますか?

清塚:武道館では新作の楽曲ももちろんやるし、クラシック曲も演奏するつもりなのですが、今考えているのは、ピアノを10台以上並べてピアノだけで“第九”(ベートーヴェン“交響曲第9番”)を演奏するというもの。しかもピアニストはプロではなくて、日本各地にいる中高生くらいの優秀な子どもたちを呼ぼうと思っているんですよ。

―それは斬新かつ、素敵な試みですね。

清塚:その子たちが今後の人生のなかで、「武道館でピアノを弾いたことがある」と自慢できるなんて素晴らしいじゃないですか。夢がありますよね。しかしみんな、僕の子どもの頃よりもレベルが高くてびっくりしますよ。きっとインターネットの力が大きいのでしょうね。情報が広まるって、悪いことばかりじゃないのかも知れないなあ。

清塚信也
武道館公演『清塚信也KENBANまつり』のサイトを見る
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リリース情報

清塚信也『SEEDING』
清塚信也
『SEEDING』(CD)

2019年7月17日(水)発売
価格:2,700円(税込)
UCCY-1099

1. Dearest "B"
2. Drawing
3. Inst Heroes
4. Members
5. See you soon
6. ハレナハレ feat. NAOTO

イベント情報

『清塚信也KENBANまつり』

2019年8月16日(金)
会場:東京都 日本武道館

プロフィール

清塚信也
清塚信也(きよづか しんや)

1982年11月13日 東京都生まれ B型/蠍座。5歳よりクラシックピアノの英才教育を受ける。中村紘子氏、加藤伸佳氏、セルゲイ・ドレンスキー氏に師事。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を首席で卒業。1996年第50回全日本学生音楽コンクール全国大会中学校の部第1位。2000年第1回ショパン国際ピアノコンクール in ASIA 第1位、2004年第1回イタリアピアノコンコルソ金賞、2005年日本ショパン協会主催ショパンピアノコンクール第1位など、国内外のコンクールで数々の賞を受賞。2019年7月17日に、MBSお天気部 春のテーマ曲“ハレナハレ feat. NAOTO”など計6曲を収録したアルバム『SEEDING』をリリースした。

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