
小林清乃が関心を持つ、市井の人が残した記録物と世界との関係
Shiseido art egg- インタビュー・テキスト
- 島貫泰介
- 撮影:前田立 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)
「『手紙の語り』そのままに再現するためには……考えたのがサウンドです」
いくつかの作品と、作家のこれまでの遍歴をたどってきたが、再び今回の『Polyphony 1945』に話を戻そうと思う。終戦直後から始まる同作に収められた時間と物語には、日常のささやかな喜びだけでなく、喪失も語られている。
小林:手紙を読み進めていくと、卒業後の東京大空襲の話も出てきます。東京への空襲は1944年の11月から始まりますが、特に翌年の3月から5月にかけての大規模な空襲は大きな被害をもたらしました。女学生たちが卒業した学校も4月15日の空襲で燃えていて、そのときにまだ東京に残っていた人たちは、複数の手紙のなかで「音楽室のピアノが燃えてしまった」「作業台が燃えてしまった」という風に書いています。
また、広島に疎開したひとりにも大きな変化が訪れます。広島の田舎に疎開したものの、田舎にいるのはつまらないと言って都会で働きたかったその方は市中心部の県庁に就職して7月から勤めはじめるんですね。そして・・・。
―その内容も手紙に書かれていたのでしょうか?
小林:本人の手紙は5月で途切れているのですが、9月にその方のお姉さんから手紙が届いているんです。そしてその9月から10月にかけて、友人からもその方の消息を伝える複数の手紙が届いています。
50数通の手紙には、こういった意図しない共通の符号のようなものが多く記されていて、積み重なることで集合的な語りが生まれていくような感覚を覚えました。読んでいるときは、私の頭のなかに複数の物語りが進行していく風景は生まれているのですが、それを「手紙の語り」そのままに再現するためにはどうすればよいのか……そして考えたのがサウンドです。
以前から人の声を使ったボイスサウンドインスタレーションのアイディアはありました。それは、日記を読むような一人称の語り。今回はその一人称の語りの集積、複数の物語りで作ってみようと思った訳です。
また、複数の映像を使って表現することもできたかもしれませんが、視覚だけでは、情報の全部はとらえきれない。けれども、同時に複数の旋律を聴かせることができる音であればそれができるなと思いました。
―なるほど。映像は自分で目を開かなければ見えませんが、音は耳を塞がないかぎり自ずと届きますからね。
小林:今いる室内から外の風景を見ることはできないですけど、聞き取ることさえできれば、音はどんなに遠くても、同時に、共時的に聞くことができます。そして、音という抽象性の高いメディアなら、過去に起きたこと、現在に起きていること、そして未来の予感のようなものも表現することができるんです。
イベント情報
- 『shiseido art egg 13th』
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小林清乃展
2019年8月2日(金)~8月25日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料遠藤薫展
2019年8月30日(金)~9月22日(日)
会場:東京都 資生堂ギャラリー
平日11:00~19:00 日・祝 11:00~18:00
毎週月曜休(祝日が月曜にあたる場合も休館)
入場無料作家によるギャラリートーク
小林清乃
2019年8月3日(土)14:00~14:30
会場:東京都 資生堂ギャラリー遠藤薫
2019年8月31日(土)14:00~14:30
会場:東京都 資生堂ギャラリー※事前申し込み不要。当日開催時間に直接会場にお越しください。
※予告なく、内容が変更になる場合があります。
※やむを得ない理由により、中止する場合があります。
中止については、資生堂ギャラリー公式Twitterにてお知らせします。
※参加費無料
プロフィール
- 小林清乃(こばやし きよの)
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1982年生まれ。日藝映画学科卒。市井の人々が残した記録物から、特に日記や手紙などに書かれた言葉、話された会話に関心を持ち、パーソナルな語りを集め展開していくことで、個人の視点からみた世界と俯瞰的または普遍的な観察点からみた世界との内的関係を探る。2017年、第二次世界大戦中に書かれた手紙の音声化を手掛けたボイスサウンド作品《Polyphony1945》を制作。2018年夏はポートランドのレジデンスプログラムEnd of Summerに参加。