インタビュー

tomad×藤城嘘×齋藤恵汰 激動の2010年代カルチャーシーンを辿る

tomad×藤城嘘×齋藤恵汰 激動の2010年代カルチャーシーンを辿る

インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影:江森康之 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

それぞれの震災と以後。変化したポップカルチャーの役割

―2010年ごろの雰囲気で印象深いのは、各自がやってるUstreamやライブ配信を見聞きしながら、実際にクラブイベントや展覧会やシェアハウスに出かけていったことです。ネット空間と現実空間のあいだの相互浸透が、今よりも強くあったように感じるんですよ。

tomad:インターネットに特別感があったんじゃないですかね。でも、おそらく震災後にSNSもインフラとして普及するようになって、親戚なんかも含めて、誰でもアカウントを持つようになりますよね。それ以降、インターネットの持っていた特別な部分がどんどん日常化していった。

tomad
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藤城:これはよく言われることですが、信頼性の高い情報を得られるということで、シリアスな情報を求める人がダーッと大量に流入してきたのが、2011年の東日本大震災のときでした。その後のインターネットはどちらかと言えば「マナーを守る公共の場」になっていく。

あとはスマホが広く普及して、TikTokとかInstagramとか本当に誰でもやるようになった。むしろぼくたちの方が分からないような状態。インターネットというものが、もうURLでアクセスしない世界になりましたよね。みんなアプリから直接アクセスしている。

齋藤:もちろん震災は地理的なものなので日本人にとって影響は大きかった。ですが、震災よりも世界的に大きかったのって、やっぱり2008年のサブプライムローンの崩壊だと思うんですよ。結局それによって中産階級というものがある種の幻想だったということが暴露されてしまった。ぼくとしても渋家の立ち上げと同年だったのでインパクトを受けました。

2011年初頭、3軒目の渋家(現在は4軒目)。この頃から定期的にDJイベントが開かれるようになる
2011年初頭、3軒目の渋家(現在は4軒目)。この頃から定期的にDJイベントが開かれるようになる

―なるほど。とはいえ、たとえばカオスラは震災後に福島で芸術祭を3年に渡って開催するなど、震災以後の社会を意欲的に取り扱ってきましたよね。嘘さんは震災をどのように捉えていたんですか?

藤城:ぼくはすごく無力さを感じていました。もちろんChim↑Pomのようなジャーナリスティックな手法はあるにしても、美術がすぐには役に立たないんだと気づいたからです。また、ぼくらの場合は著作権の問題も含めて、震災をテーマとしたことによる炎上もありましたから。

そこで改めて、ポップカルチャーという分野と現代アートというフィールドにおける作品の流通の仕方が、システムとして全然違うということを思い知らされました。そこから4~5年は、オタク的なモチーフを伴う表現はもうできないかもしれない、という気持ちもありましたね。ただそれらによって、ぼくの場合は自分の足場を再確認する時間にはなりました。

藤城嘘
藤城嘘
藤城嘘『いわき勇魚取りグラフィティ』 Photo:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「小名浜竜宮」』
藤城嘘『いわき勇魚取りグラフィティ』 Photo:中川周 / 『カオス*ラウンジ新芸術祭2016 市街劇「小名浜竜宮」』

―まさにポップカルチャーの場にいるtomadさんは震災とそれ以降をどのように感じていたのでしょう? tofubeatsのヒット曲“水星”のリリースも、震災後の2011年ですよね(2011年末アナログリリース、2012年6月配信バージョンリリース、2013年アルバム収録)。

tomad:ぼくの場合はちょうど大学を卒業した頃に震災が起きたのかな。なんだろう……結構どうでもよくなってきたというか(笑)。超当事者というわけでもなかったので社会的なことにコミットするのも違うし、かといって自粛するのも違うと思っていました。

その頃は渋家に住んでいたので、ひたすら毎週パーティで爆音を流しつづけてたんです。特に仕事もしてなかったから、渋家にあった無料の米を食って、ローソンで1個50円の唐揚げと、栄養をとるために豆腐を買って……。

―tofubeatsならぬ、リアルな方の豆腐の話(笑)。

tomad:そんなフラフラした生活をしてました(笑)。日本はある意味で震災が起きたことによって、逆に地に足が着いちゃったというか、インターネットと実生活の繋がりが早くなってしまったのだと思います。

震災後の時代をグローバルな目線で見ると、たとえばヴェイパーウェイヴが流行します。1980~1990年代の高度成長期のCMや表層をサンプリングして現代を皮肉るような、ノスタルジックなカルチャーですね。あれが出てくるのは2011年なんですよ。だから震災以後の文化なんですね。

tomad
tomad
dj newtown『sweet days, sweet memories』(2011年)
dj newtown『sweet days, sweet memories』(2011年 / サイトを見る

tomad:あと、ぼくは広義のEDMも地域関係なく同時代的に生まれたインターネットカルチャーだと思ってるので、2010年過ぎにSkrillexやZeddが出て、さらにSoundCloudのダンスミュージック文化が発達して、フューチャーベースが出てきて……。それが2010年代前半。世界的にはインターネット以後の新しい雰囲気が徐々に共有されだして、かなり面白かったんです。

東京にいながらもそういった情報を追っかけたり、リリースもそういうものに寄っていきました。2010年代後半はヒップホップでトラップが流行ったり、とにかくちょうど音楽的に面白かった時期でした。ぼく個人としては震災などで動いている周囲のリアルな状況を眺めつつも、抗う意味も含めてファンタジックな方向に向かっていった気はしますね。

Maltine Recordsのイベントの様子 Photo:fumiyas
Maltine Recordsのイベントの様子 Photo:fumiyas

齋藤:ポップカルチャーというのは、ある社会の構造の中から出てくるものですよね。その意味で2010年代のカルチャーの方向性を決定づけたのは、やっぱりサブプライムじゃないかな。ぼくからするとヴェイパーウェイヴは、「ぼくたちはもう中産階級ではない」と主張しているように聞こえるんですよ。

それ以前のポップカルチャーって、ある種の肯定性によって運動してたと思うんです。でもポップカルチャーがノスタルジーやアイロニーといったネガティブなものさえも引き受けなければならなくなった。それがここ10年で大きく変わったことなんじゃないでしょうか。

藤城:カルチャー全体を通して、ここ数年は政治的正しさみたいなものが全面化してるように見えるんですが、どうですかね?

tomad:IT技術やSNSが世界を変えると考えられていた楽観的な時代が終わって、その後はリアリティーが重要になってきた。例えば全身タトゥーをしたラッパーが、日々の生活の切実な想いを代弁するみたいな形になっていったと思っています。そうなると、2010年代の前半と後半でかなり色合いが違ってくる。

藤城:エレクトロミュージックだとか欧米のポップシーンでは、LGBTQ的なアーティストがフィーチャーされることが多くなってきた。映画やドラマなどエンターテイメントの分野でもすっかりジェンダーバランスが意識されるようになりましたね。

左から:tomad、藤城嘘、齋藤恵汰
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イベント情報

MALTINE RECORDS PRESENTS『CUBE』
MALTINE RECORDS PRESENTS『CUBE』

2019年9月15日(日)
会場:東京都 代官山 UNIT
出演:
tofubeats
パソコン音楽クラブ
abelest × 諭吉佳作/men
長谷川白紙
Tomggg × yuigot × Hercelot
Kabanagu
料金:前売4,000円 当日4,500円

『TOKYO 2021 un/real engine - 慰霊のエンジニアリング - 』

2019年9月14日(土)~10月20日(日) / 火曜定休
会場:東京都 京橋 TODA BUILDING
キュレーション:黒瀬陽平
会場構成:西澤徹夫
参加作家:
会田誠
飴屋法水
磯村暖
宇川直宏
大山顕
カオス*ラウンジ
キュンチョメ
今野勉
SIDE CORE
高山明
竹内公太
寺山修司
DOMMUNE
中島晴矢
中谷芙二子
八谷和彦
檜皮一彦
藤元明
HouxoQue
三上晴子
MES
山内祥太
弓指寛治
渡邉英徳
ほか

プロフィール

tomad(とまど)

インターネットレーベル「Maltine Records」主宰。2006年頃からラップトップを使ったDJ活動開始。2009年から都内のクラブにて年数回のペースで自身レーベルのイベントオーガナイズもしている。

藤城嘘(ふじしろ うそ)

1990年東京都生まれ。2015年日本大学芸術学部美術学科絵画コース卒業。
都市文化、自然科学、萌えキャラから文字・記号にいたるまでの「キャラクター」をモチーフに、インターネット以後の日本的/データベース的感性を生かした絵画作品を制作。2008年より、SNSを通してweb上で作品を発表する作家を集めた「ポストポッパーズ」「カオス*ラウンジ」など、多数の集団展示企画活動を展開。主な個展に2018年『「絵と、」 Vol.2藤城嘘』(galleryαM)、2017年『ダストポップ』(ゲンロン カオス*ラウンジ 五反田アトリエ)、2013年『芸術係数プレゼンツ藤城嘘個展「キャラクトロニカ」』(EARTH+GALLERY)。「カオス*ラウンジ」として参加した主な展示に、2018年『破滅*アフター』(A/D GALLERY)、2015~2017年『カオス*ラウンジ新芸術祭』(福島県いわき市)、『Reborn Art Festival2017』(宮城県石巻市)、2016年『瀬戸内国際芸術祭2016』(香川県高松市女木島)、『風景地獄-とある私的な博物館構想』(A/D GALLERY)、2014年『キャラクラッシュ!』(東京都文京区湯島)など。

齋藤恵汰(さいとう けいた)

1987年生まれ。美術家。発表形式はキュレーション、編集、劇作など多岐にわたるコンセプチュアル・アーティスト。活動において共通しているのは、そのすべてが共同作業であるということであり、全体として機能が果たされる表現を生み出している。2008年、都市空間におけるランドアート作品として『渋家』を制作。2013年ころまで渋家名義にて多数の展覧会を企画。2013年、『アートフェア東京』にコレクティブ・ハウジングを不動産取引の手法で売買するコンセプチュアルアート作品『オーナーチェンジ』を出品、NHKニュース7などで報道。同時期、NHK Eテレ「ニッポンのジレンマ」に出演し話題となる。その後、演劇作品『機劇』(森下スタジオ、2015年)、『非劇』(吉祥寺シアター、2015年)の劇作を行う。2015年より若手批評冊子「アーギュメンツ」を企画・制作。主な展覧会に『私戦と風景』(原爆の図 丸木美術館、2016年)、『自営と共在』(BARRAK、2017年)、『構造と表面』(駒込倉庫、2019年)など。

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