
OAU・TOSHI-LOWが自由を掴むまで。バンドで旅した人生の証
OAU『OAU』『New Acoustic Camp』- インタビュー・テキスト・編集
- 矢島大地(CINRA.NET編集部)
- 撮影:新保勇樹
2019年の9月14日と15日に開催された『New Acoustic Camp』。誇張でもなんでもなく、そこには人の心を自由に解き放ち、そして優しさの意味を再確認できるような桃源郷が広がっていた。TOSHI-LOWたちOAUが主催して10周年を迎えた同フェスは、当初から「壁がない」「ルールもほぼ設けない」という限りなく自由な場所をイメージして作られたものだったし、実際に、集った人々が能動的に助け合い、ルールを示さなくても自発的に考えて「自分の自由」と「他人の自由」を尊重し合う場所として開かれている。壁を壊す、自由になれる――そういう理想を掲げて多くの音楽フェスが開催されているが、大きく見れば、制限や画一化の向きが強まっていく一方なのが現実だ。しかしなぜ、この場所は本当の意味でルールのない「自由」を体現し続けられるのか。
TOSHI-LOWが、BRAHMANと並行してOAUでの活動をスタートし、元来のストイックなハードコアパンクとは真逆の穏やかなメロディをケルトフォークに乗せて歌い始めたのが15年前のこと。「ここで死んでも構わねえ」と叫びながら、生きる意味を求めてステージに立ち続ける死生観の揺れ。それが刹那的なライブに映っていたBRAHMANに対して、普遍的な歌の追求を軸にしたのがOAUの音楽である。その極端な二面性――というか、刹那的な衝動も優しさも、「矛盾」ではなく「人間として持っているもの」と受け入れて、それを余すことなく表現するための道を作ってきた歴史そのものが、OAUとしての道のりになってきたのだと思う。その過程を紐解きながら、『New Acoustic Camp』、そして人間・TOSHI-LOWの深奥を覗いた。
『New Acoustic Camp』がイメージしてきた「自由に遊ぶ」っていうことも、結局は自分の人生に対する覚悟ひとつなんだよね。

TOSHI-LOW
BRAHMAN、OAUのボーカリスト。BRAHMANは1995年に結成、これまでに6枚のアルバムをリリース。全国のライブハウスを中心に活動する中、幕張メッセでのセンターステージライブも開催。2018年2月には初の日本武道館単独公演を行った。OAUは2005年にOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND名義でスタート。アコースティック楽器を使用した6人編成で活動を展開し、OAUが主催するキャンプフェス『New Acoustic Camp』は2019年の開催をもって10周年を迎えた。そのほか、息子へ作り続けた弁当とその手記をまとめた『鬼弁 ~強面パンクロッカーの弁当奮闘記~』を刊行するなど、活動の幅を広げている。
―まず、10周年の開催を終えられた『New Acoustic Camp』(以下、ニューアコ)。全力で楽しませていただきました。TOSHI-LOWさんにとっては、OAUとニューアコの10年はどういうものだったと振り返れますか。
TOSHI-LOW:お前、サラッと流して質問にするなよ(笑)。そこはプロとして、来年もみんながニューアコに行きたくなるような感想をビシッと言うところだろ。
―失礼しました(笑)。音楽のための場所という以上に、アーティストと人が優しくし合える距離感、人と人が思いやりを持ち合うための距離感、大人が子供を全力で愛するための距離感を大事に育てている場所だと感じて。それが心地よかったし、だからこそ音楽の楽しみ方も自由で寛容なイベントになっていると思いました。心底安らいだし、心底音楽と人が愛しくなる場所でした。
TOSHI-LOW:よし(笑)。俺としては1年1年やってきたのが10年積み重なった結果っていう感じではあるんだけど、それが今言ってくれたような場所になっているんだったら嬉しいね。ニューアコを始めた当初から「できるだけルールを作らない」「エリアの垣根をセキュリティが仕切るようなものにしない」みたいな理想があったから。で、その理想を叶えるためにどうしたらいいかと思ったら、結局、一人ひとりが気づいて行動に移してくれることが大事になってくるわけだよね。
―信頼が大事になってきますよね。
TOSHI-LOW:そう。じゃあそこで問われるのは何かって言ったら、各々の「人生に対する覚悟」だと思うんだよ。「自分で選択してここに来た」っていう覚悟があるからこそ、どうするべきか。もちろん不備があればこちらが悪いけど、天気とか、自分たちで解決できることに関しては、イベントや人のせいにしちゃいけない。そういう姿勢を徹底してきた結果が今だと思うんだよね。
TOSHI-LOW:それは、何かが起きたら全部があなたの責任ですっていう、今のご時世的な「自己責任」とも違ってさ。怪我したやつがいれば助けるべきだし、困った人がいたら手を貸す。そうやって自分たちの責任で遊ぶから楽しいし、その楽しさのために必要なのは、ルールによる制限じゃなくて。
自分も人も選択してここに来ているんだと自覚するからこそ、誰かに「これはダメだよ」って言う前に、「こうしたほうがお互いに楽しい」っていうことをそれぞれが選ぶ――それは生き方の話としてもそうだし、人と場を共有するっていう意味でもそうだしさ。「自由に遊ぶ」っていうのも、自分が選んだことに対しての覚悟ひとつだと思う。それがニューアコっていう場所、もっと言えば俺の「自由」とか「壁がない」っていうことに対する考え方なんだよね。
―それを叶えられるのは、何より音楽で覚悟を見せ続けたTOSHI-LOWさんだからこそだと思うし、それがニューアコを理想郷として成立させていると思うんですけど。そもそも、ニューアコを始められた頃に「自由」っていうテーマがあったのはどうしてだったんですか。
TOSHI-LOW:10年くらい前から、フェスっていう場所の認知が広がって。それによって「ライブマナーとは」とか、「金さえ払えばどう楽しんだっていいじゃん」みたいな、一見正しい意見だけど了見の狭い正論を振りかざす人も増えていったでしょ。そんでフェス側も、どんどんルールを増やして制限する方向にいった。だからこそ、そういうのとは違う、もっと根本的に自由を感じられる場所を作れねえのかなっていう理想を持ったんだよね。
―日本におけるフェスがより多くの人にとってのエンターテイメントになっていった結果、単なる快適さだけを追求するルールが増えて、音楽の楽しみ方・遊び方自体も制限されるようになりましたよね。
TOSHI-LOW:そうそう。そういう制限が増えると、今度は人それぞれがお互いに対してギスギスし出すじゃん。ちょっとはみ出した人がいたら、すぐに叩いて。それは今の世の中全体に通ずる空気でもあると思うんだけどさ。各々が、自分の覚悟じゃなくてルールしか拠り所にできないっていう状況になっていってるでしょ。
そういう息苦しさを10年前の時点でちょっとずつ感じてたから。だったら自分たちで、制限や壁を一切取っ払った場所を作ればいいと思ったんだよね。ルールもほぼなくて、壁がなくて、それぞれが心から自由になれる場所。当時、周りからは「そんなの絶対無理っす」って言われたけどさ。でもそれが今、こうして形になってるわけだから。「北風と太陽」じゃないけど、強く風が吹けばみんな襟を立てる。でも、温かくて朗らかなものに照らされれば、それぞれが1枚、2枚と脱いでいく。その結果、みんなが軽やかになれて笑えたら最高じゃん。そういう理想を持ってニューアコをやってきたつもりなんだよね。
―そもそもOAUが始まった14年前(当時はOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)とニューアコが始まった10年前は、BRAHMANでは『THE MIDDLE WAY』と『ANTINOMY』をリリースした頃ですよね。『THE MIDDLE WAY』にしろ『ANTINOMY』にしろ、いつか死んでしまうのになぜ自分は生きているのか、というTOSHI-LOWさんの死生観の揺れが最も色濃く歌に出ている時期だったと思うんです。それで言うと、BRAHMANでは表現し切れない感情を解き放つものとして「自由」を求めていた部分もあったんですか。
TOSHI-LOW:紐解けばきっとそうなんだと思う。まさに『THE MIDDLE WAY』から『ANTINOMY』の頃が一番揺れ動いてたからね。もちろん『THE MIDDLE WAY』の前にも「いつか死んじまうのに、なぜ俺は生きてるんだろう」っていう揺れはあったし、それを表現にしてたとも思うの。ただ、その頃は自分にハマる哲学的な言葉さえあればそれだけでよかったんだけど……そこからさらに溢れるものも出てきたのが、その頃だったんだよね。
BRAHMAN『THE MIDDLE WAY』(2004年)を聴く(Apple Musicはこちら)BRAHMAN『ANTINOMY』(2008年)を聴く(Apple Musicはこちら)
リリース情報

- OAU
『OAU』初回限定盤(CD+DVD) -
2019年9月4日(水)発売
価格:4,180円(税込)
TFCC-86688[CD]
1. A Better Life
2. こころの花
3. Midnight Sun
4. 帰り道
5. Banana Split
6. All I Need
7. Again
8. Traveler
9. Akatsuki(冬が始まる日の暁に降り立つ霧の中に現れた光の輪)
10. Where have you gone
11. Americana
12. ~tuning~
13. I Love You[DVD]
・OAU ~The premium release party~ @Billboard Live TOKYO(2019.7.4)
イベント情報

- 『New Acoustic Camp 2019』
-
2019年9月14日(土)、9月15日(日)
会場:群馬県 水上高原リゾート200出演:
9月14日
ACIDMAN
秋山璃月
安藤裕子
Awesome City Club
BIG AUDIO acoustic DAINI-NITE
cinema staff
Czecho No Republic
DEPAPEKO(押尾コータロー×DEPAPEPE)
EGO-WRAPPIN'
G-FREAK FACTORY
go!go!vanillas
HY
片平里菜
きいやま商店
OAU(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)
Rei
Ryu Matsuyama
スガ シカオ(solo)
スガダイロートリオ
SPECIAL OTHERS ACOUSTIC
田島貴男(ORIGINAL LOVE)
the telephones
渡辺俊美&THE ZOOT16
山口洋(HEATWAVE)9月15日
藤原さくら
ハナレグミ with U-zhaan
HEY-SMITH
H ZETTRIO
IKE(SPYAIR)
カネコアヤノ
Keishi Tanaka
木村カエラ
LOW IQ 01
真心ブラザーズ
みゆな
MONOEYES
ORANGE RANGE (ACOUSTIC SET)
ストレイテナー
谷本賢一郎
THE NEATBEATS
柳家睦とラットボーンズ
- 『Tour 2019 -A Better Life-』
-
2019年9月28日(土)
会場:沖縄県 流れ星の丘くうら(※「ぬあしび~CAMPING EARTH 2019~」出演)2019年10月4日(金)
会場:岡山県 ルネスホール2019年10月6日(日)
会場:広島県 Live Juke2019年10月11日(金)
会場:宮城県 Darwin2019年10月12日(土)
会場:岩手県 Club Change WAVE2019年10月19日(土)
会場:福島県 猪苗代野外音楽堂(※「音仕舞い」出演)2019年10月25日(金)
会場:大阪府 Shangri-La2019年10月27日(日)
会場:福岡県 Gate's72019年11月2日(土)
会場:愛媛県 WStudioRED2019年11月9日(土)
会場:新潟県 ジョイアミーア2019年11月15日(金)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO2019年11月17日(日)
会場:京都府 磔磔2019年11月21日(木)
会場:茨城県 mito LIGHT HOUSE2019年11月29日(金)
会場:群馬県 高崎clubFLEEZ2019年12月5日(木)
会場:東京都 東京国際フォーラム ホールC※全公演ソールドアウト
- 『OAU Hall Tour 2020 -A Better Life-』
-
2020年2月3日(月)
会場:大阪府 サンケイホールブリーゼ2020年2月5日(水)
会場:福岡県 イムズホール2020年2月7日(金)
会場:愛知県 名古屋芸術創造センター2020年2月10日(月)
会場:宮城県 トークネットホール仙台(仙台市民会館) 小ホール2020年2月12日(水)
会場:東京都 渋谷 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)2020年2月15日(土)
会場:新潟県 りゅーとぴあ・劇場
プロフィール
- TOSHI-LOW(としろう)
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BRAHMAN、OAUのボーカリスト。BRAHMANは1995年に結成、これまでに6枚のアルバムをリリース。全国のライブハウスを中心に活動する中、幕張メッセでのセンターステージライブも開催。2018年2月には初の日本武道館単独公演を行った。OAUは2005年にOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND名義でスタート。アコースティック楽器を使用した6人編成で活動を展開し、OAUが主催するキャンプフェス『New Acoustic Camp』は2019年の開催をもって10周年を迎えた。そのほか、息子へ作り続けた弁当とその手記をまとめた『鬼弁 ~強面パンクロッカーの弁当奮闘記~』を刊行するなど、活動の幅を広げている。