
カネコアヤノ×松本穂香 器用に生きられない二人のもがき方
『わたしは光をにぎっている』- インタビュー・テキスト
- 村尾泰郎
- 撮影:馬込将充 取材協力:小杉湯 編集:久野剛士(CINRA.NET編集部)
大事な一歩を踏み出したくても踏み出せず、不安に押しつぶされそうになった経験は誰にもあるはず。11月15日に公開される中川龍太郎監督の映画『わたしは光をにぎっている』は、そんな壁にぶつかりながら「光」を探したヒロインの物語だ。故郷を離れて、やりたいこともなく、仕事を見つけるために長野から東京にやってきた20歳の宮川澪。彼女は新しい街で新しい友達に出会いながら、自分の居場所を見つけて行く。澪を演じたのは、テレビドラマ『この世界の片隅に』でヒロインのすずを演じた松本穂香。
今回、あえて役を作り込まずに撮影に挑んだ彼女は、「この映画に出会えてよかった」と思えるほど澪というキャラクターになりきった。そして、もう一人、澪を自分のことのように思ったというのが、主題歌“光の方へ”を手掛けたシンガーソングライター、カネコアヤノだ。中川監督は、偶然ライブで聴いたカネコの歌声に惚れ込み、直接、カネコに主題歌を依頼。カネコは映画を観て澪に深く共感したという。二人は澪の中になにを見出したのか。映画の舞台を思わせる下町の銭湯で、初めて顔を合わせた二人に話を訊いた。
現在は自分を表現するシンガーと役者が、自分を守って生きてきた時代を振り返る。
―まず、映画をご覧になった感想から伺いたいと思います。ヒロインの澪を演じた松本さんはいかがでした?
松本:自分が出ている作品って、なかなか客観的に観られないんですよ。どうしても「この演技はダメだ」とか「緊張してるな」とか自分の演技が気になってしまって。でも、この映画は客観的に観ることができました。「きれいな画だなあ」とか「寂しいなあ、悲しいなあ」とか、いろんな感情が自然にわきあがってきて。それで映画が終わったときに、こんな純粋に好きだって思える映画に出られて幸せだなって、温かな涙がこぼれたんです。
『わたしは光をにぎっている』予告編
カネコ:私は主人公の澪がちょっと前の自分にすごく似てると思って観てました。いまはこうやって自分が考えていることを……ちぐはぐだったり、支離滅裂だったりしながらも人に話せるようになったけど、3年前までは澪みたいに表に出さないことで自分を守っていたんですよ。
松本:意外です! そうなんですか。
カネコ:「自分がやりたいと思ってることを否定されたらどうしよう」と思ってなにもいえなかったり、人からこうするべきだよっていわれたら「そうなのかな」みたいな感じで合わせていました。本当は嫌なのにいえなくて、どうしよう……みたいなタイプの人間だったから、澪ちゃんが最後に自分の居場所を見つけて、顔が晴れやかになっているのがすごい気持ちよかったです。
―カネコさんは澪に自分を重ね合わせて観ていたんですね。
カネコ:そうですね。終盤、おじさんに「最後までやりぬきましょうよ」っていうじゃないですか。それまでは絶対いえなかったことがいえるようになったところとか、「ああ、昔の私と一緒だ」って思いました。だから自然に映画とリンクして、主題歌もすっと書けたのかもしれません。
松本:もともと澪は監督が私にあてがきして下さったんです。監督とは数回しか会ってないのに、私のことをわかってくださって。だから、この映画は役作りとかしなくても大丈夫でした。私も以前はカネコさんみたいに「自分を守っている」部分がかなりあったんです。いまもそれは完全にはなくなってはいないかもしれません。
カネコ:みんな大なり小なりそういう部分を持ってる気がします。いまやりたいことをやって生きてる人も、自分を変に守ってしまって、思うように前に進めない時期があったんじゃないかな。

カネコアヤノ
弾き語りとバンド形態でライブ活動を展開中。2016年4月には初の弾き語り作品『hug』を発表、その後、続々と新作をリリースする。2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』、2018年4月に新作アルバム『祝祭』を発表し、このアルバム2作は各所で高い評価を獲得する。そして2019年1月に7インチ『明け方/布と皮膚』を、さらに4月にはシングル『愛のままを/セゾン』をリリース。9月にフルアルバム『燦々』を発売し、11月13日に弾き語り再録アルバム『燦々 ひとりでに』をCDとカセットで発売する。
松本:バイト、すぐ辞めちゃったり……。
カネコ:私もすぐ辞めちゃうんです。しかも、辞める理由がバックレとかケンカとか(笑)。
松本:後味の悪い辞め方ですね(笑)。
カネコ:そう、悪いんですよ。喫茶店でバイトしてたんですけど、ヒドい接客で。店に来てくれた友達に「よくあんな接客でお客さんが怒らないね」っていわれました。
松本:でも、音楽の才能が本当にすごいから。
カネコ:音楽だけは中学の頃から好きでしたね。これまでで、いちばん続いたのが音楽だった。
松本:好きじゃないことって続かないですよね。バイトを辞めたりしたとき、「自分ってダメだな……」って思ったりするんですけど、本当はそういうことじゃなくて。好きなことは続くし、好きじゃないことは続かないっていう単純なことだと思います。
作品情報

- 『わたしは光をにぎっている』
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2019年11月15日(金)から新宿武蔵野館ほか全国で公開
監督:中川龍太郎
脚本:末木はるみ、中川龍太郎、佐近圭太郎
脚本協力:石井将、角屋拓海
主題歌:カネコアヤノ“光の方へ”
出演:
松本穂香
渡辺大知
徳永えり
吉村界人
光石研
樫山文枝
配給:ファントム・フィルム
イベント情報
- 『カネコアヤノ TOUR 2019“燦々”』
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2019年11月22日(金)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO
料金:前売4,000円(ドリンク別)
※ソールドアウト2019年11月30日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
料金:前売4,000円(ドリンク別)
※ソールドアウト2019年12月4日(水) 会場:東京都 赤坂BLITZ 料金:前売 1階立ち見4,000円 2階指定席4,500円(共にドリンク別) ※ソールドアウト
プロフィール
- カネコアヤノ
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弾き語りとバンド形態でライブ活動を展開中。2016年4月には初の弾き語り作品『hug』を発表、その後、続々と新作をリリースする。2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』、2018年4月に新作アルバム『祝祭』を発表し、このアルバム2作は各所で高い評価を獲得する。そして2019年1月に7インチ『明け方/布と皮膚』を、さらに4月にはシングル『愛のままを/セゾン』をリリース。9月にフルアルバム『燦々』を発売し、11月13日に弾き語り再録アルバム『燦々 ひとりでに』をCDとカセットで発売する。
- 松本穂香(まつもと ほのか)
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1997年2月5日生まれ。大阪府出身。2015年主演短編映画『MY NAME』でデビュー。その後、出演したNHK連続テレビ小説『ひよっこ』の青天目澄子役の好演が話題になる。映画『恋は雨上がりのように』『あの頃、君を追いかけた』などの映画に出演した他、日曜劇場『この世界の片隅に』(TBS)、『JOKER×FACE』(CX)などの連続ドラマの主演を務める。2019年には主演を務める映画『おいしい家族』『わたしは光をにぎっている』が公開。2020年は1月期連続ドラマ『病室で念仏を唱えないでください』(TBS)に出演する他、主演映画『酔うと化け物になる父がつらい』『みをつくし料理帖』が公開予定。