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やなぎみわが後世に説く「死んだ人に聞きなさい」その真意は?

やなぎみわが後世に説く「死んだ人に聞きなさい」その真意は?

『やなぎみわ展 神話機械』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

人外の場所で、機械が演じることを実現したとき、人間が愛おしくなると思う。

―一方、この会場の代名詞である二層の大展示室では、ギリシア神話の女神の名前が与えられた4台のマシンによる無人の演劇空間『神話機械』が展開されています。

やなぎ:2010年に演劇を始め、はじめて本格的に手掛けたのが、1920年代のドイツ表現主義やロシア・アヴァンギャルド、大正期の日本の前衛美術などを題材にした『1924』三部作(第一部『Tokyo–Berlin』(2011年)、第二部『海戦』(2011年)、第三部『人間機械』(2012年)からなる演劇シリーズ)でした。この時代はマシーナリーな美学が流行しており、芸術家のあいだで自動劇場の夢が盛んに描かれました。バウハウス(第一次世界大戦後、ドイツ中部の街・ワイマールに設立された造形学校)の初代校長ヴァルター・グロピウスも、「トータルシアター」という劇場機械を計画しています。

やなぎみわ『1924 海戦』(KAAT神奈川芸術劇場 / 2011年 / 撮影:川村素代)
やなぎみわ『1924 海戦』(KAAT神奈川芸術劇場 / 2011年 / 撮影:川村素代)

やなぎ:機械が永久機関のごとく動き続けるこうした夢は、実現化したわけではないですが、のちの劇場機構の発展につながりました。また、アントン・チェーホフのような内的な心理描写による演劇もありますが、それとは対極の「型」でやる演劇もある。私にはそうした演劇への憧れがあるんです。

たとえば『南極ビエンナーレ』(2017年、ロシアの美術家アレクサンドル・ポノマリョフが企画した南極が舞台のプロジェクト)も人外の世界をテーマにしていますね。

私もいずれは参加したいと思っているのですが、そうした人外の場所で機械がずっとハムレットやギリシャ悲劇を演じるというのは面白いと思っていて。というのも、おそらくそれを実現したとき、人間が愛おしくなると思うからです。近年では宇宙に美術作品を送り込む試みもありますが、それにも近いかもしれません。

『南極ビエンナーレ』の様子

―宇宙や南極など、一度人間の認識の外を感じさせる場所に出ることで、あらためて「人間」が見えてくる、と。

やなぎ:そうです。ただ、演劇でそれをやるのは通常は無理なんですよ。複製芸術の小説や音楽ならできるけれど、演劇は絶対的に人の肉体がないとできないから。しかし、機械を通すことで可能になるかもしれない。「演劇の複製芸術化」の試みとも言えます。

大衆の逆鱗に触れれば制作ができないので、芸術家の意志はだんだん薄れていくんです。

―舞台ではない場所に劇場空間を立ち上げるという意味では、やなぎさんが2016年から手掛ける中上健次原作の『日輪の翼』も、巨大なステージトレーラーで巡礼しながら上演されるキャラバン形式の野外劇です。

やなぎ:そうですね。今年10月に神戸で行なった『日輪の翼』は、新幹線車両などの重機運送に使われる巨大で平らな船を客席に、半分海、半分陸のような場で上演しました。舞台となる陸側は中央卸売市場で、どこまでが演出で現実かわからないような感じでした。

通常の劇場とは、演劇をやるための機械です。相応の設備やスタッフを備えていて、毎日間違いなく上演できるようになっている。だけど、裏を返せばその範疇でしかないとも言える。一方で野外劇では、何が起こるかわかりません。とくに今回は市場を舞台にしたことで、芸術と労働の関係について考えるきっかけにもなりました。

『日輪の翼』(2016年公演 / 撮影:表恒匡)
『日輪の翼』(2016年公演 / 撮影:表恒匡)

―というのは?

やなぎ:一般的に芸術は、毎日の反復からなる労働とは対極のものと考えられています。ただ演劇の再演は、毎日同じことをするわけですから、その意味では労働に近い。

それに野外劇では、地元の人に可愛がってもらうことが決定的に重要です。可愛がってもらい、おひねりをもらってご飯を食べる。これは非常に古典芸能的な発想のように聞こえるかもしれませんが、野外に舞台を作るには、その土地から認証されることが必要です。よそ者が、いきなりやってきて、生者や死者が集う「斎庭(ゆにわ)」となる場所を作るわけですからね。土地の歴史と交わったり、または国家的なプロジェクトに参加してしまうと大衆と交わることになる。大衆の逆鱗に触れれば制作ができないので、芸術家の意志はだんだん薄れていくんです。

―大衆との距離感が徐々に曖昧になっていくんですね。

やなぎ:演劇の歴史は、スペクタクルをはさんで芸術家と政治と大衆が激しくせめぎあった歴史でもあります。美術史よりもそれは顕著ですが、さまざまな時代で芸術家がどうやって「個」と「孤」を守るために戦ったか。その上に私たちがあります。

一方で野外劇をしていると、天災などともできる限り共存していこうという気持ちになるんです。でも、ヨーロッパでは決してそうではなく、「自然とは戦うもの」という意識が強い。私にはそれらを両方やりたい気持ちがあって、『神話機械』で旧東ドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの『ハムレットマシーン』(1977年)を題材にしたのもそうした想いがありました。機械になっても生き延びることを描くこの物語は、とてもヨーロッパ的ですから。

『神話機械』(写真提供:神奈川県民ホールギャラリー)
『神話機械』(写真提供:神奈川県民ホールギャラリー)

―『神話機械』の展示室の壁には、海洋博物館で女性の船首像を撮影し、それを上下逆さまに展示した「アルゴー船の船首像」という写真シリーズもありました。

やなぎ:あれも去年から始めたシリーズで、今後もどんどん増えていくと思います。船首像というのは大航海時代に多く作られたもので、動物像などもありますが、私は女性像を選んで撮影しています。船の舳先は一番雨や風を受ける場所で、海がシケっていると完全に海のなかに潜ってしまうそうですが、そうした一番きつい場所に女性像があった。このシリーズでは、それらをまとめてアルゴー船の船首像と言っています。

こうした個人制作と野外劇を並行できることは、とても贅沢なことであり、同時に矛盾した活動です。その矛盾については、つねに自覚しておくべきだと思っています。

『アルゴー船の船首像』シリーズのうちのひとつ
『アルゴー船の船首像』シリーズのうちのひとつ
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イベント情報

『やなぎみわ展 神話機械』
『やなぎみわ展 神話機械』

2019年10月20日(日)~12月1日(日)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
時間:10:00~18:00
11/29(金)、30(土)はライブパフォーマンス開催のため17:00に閉場。(入場は16:30まで)
休館日:毎週木曜日
料金:一般1,000円 学生・65歳以上750円 高校生以下無料

『やなぎみわアーティスト・トーク』

2019年11月16日(土)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー 6階大会議室
時間:14:30~15:45
料金:無料

『MM』

2019年11月29日(金)、11月30日(土)
会場:神奈川県 横浜 神奈川県民ホールギャラリー
時間:各日19:00受付開始、19:30開演
料金:ベンチ席2,000円、立見1,500円

プロフィール

やなぎみわ

1967年神戸市生まれ。1991年京都市立芸術大学大学院(工芸専攻)修了。1990年代半ばより、若い女性をモチーフに、CGや特殊メークを駆使した写真作品を発表。制服を身につけた案内嬢たちが商業施設空間に佇む『エレベーター・ガール』シリーズ、2000年より女性が空想する半世紀後の自分を写真で再現した『マイ・グランドマザーズ』シリーズ、少女と老婆が登場する物語を題材にした『フェアリー・テール』シリーズ等により国内外で個展多数。2009年第53回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表。2010年には福島県立美術館で開催された『胸さわぎの夏休み』展に出品。2011年より本格的に演劇プロジェクトを始動。大正期の日本を舞台に、新興芸術運動の揺籃を描いた『1924』三部作を美術館と劇場双方で上演し話題を集めた。あいちトリエンナーレ2013にて上演した『ゼロ・アワー 東京ローズ 最後のテープ』は2015年アメリカ数か所を巡回した。横浜トリエンナーレ2014を皮切りにステージトレーラー・プロジェクトが立ち上がり、2016~19年には野外劇『日輪の翼』となって横浜・新宮・高松・大阪・京都・神戸への移動公演を行った。また2018年高雄市美術館(台湾)の国際企画展に招待され、新作写真シリーズ『女神と男神が桃の木の下で別れる』等を発表した。

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