
羊文学・塩塚が語る、愛と許し 聴き手の「よりどころ」となる歌を
羊文学『ざわめき』- インタビュー・テキスト
- 金子厚武
- 撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
オルタナティブな感性を持つ若手バンドが数多く台頭するなかにあって、塩塚モエカ、ゆりか、フクダヒロアによる3ピース・羊文学は、特別な輝きを放っている。大人と子どもの間の揺らぎを描いた1stアルバム『若者たちへ』(2018年)以前の楽曲も色褪せない魅力を放っているが、バンドの知名度を上げた名曲“1999”、「本当の自分を認めることに挑んだ」というEP『きらめき』と、リリースごとに作品の強度を高め、新作『ざわめき』では2020年の時代の空気を見事に射抜いている。
中心人物であるボーカル / ギターの塩塚モエカは、かつてキリスト教系の学校に通い、インディーロックとゴスペルを同時に愛好する人物。今回の取材のテーマとなった「許し」と「祈り」の感覚は、彼女のバックグラウンドと密接に関係しつつ、同時代の表現者との確かな共振も感じさせる。穏やかな口調とは裏腹な、意志の強さを感じさせる塩塚の眼差しに、羊文学のさらなる飛躍を期待せずにはいられない。

羊文学(ひつじぶんがく)
左から:塩塚モエカ、ゆりか、フクダヒロア
塩塚モエカ(Vo,Gt)、ゆりか(Ba)、フクダヒロア(Dr)からなる、柔らかくも鋭い感性で心に寄り添い突き刺さる歌を繊細で重厚なサウンドにのせ、美しさを纏った音楽を奏でる3人組。2012年結成。2017年に現在の編成となり、EP3枚、フルアルバム1枚、配信シングル1曲、そして2019年12月にクリスマスシングル『1999 / 人間だった』をリリース。生産限定盤ながら全国的なヒットを記録。2020年2月5日に最新EP『ざわめき』のリリース、そのリリースより先行してのワンマンツアー(1/18大阪・梅田シャングリラ、1月31日東京・恵比寿LIQUIDROOM)はSOLD OUTに。2020年、しなやかに旋風を巻き起こしていきます。
売れなければ、という焦りを振り払って。羊文学がより真摯に作品作りに向かう、転機の1年について
―2018年は1年間大学を休学して、1stアルバム『若者たちへ』のリリース後に、それまで所属していた事務所を離れたそうですね。2019年は7月にEP『きらめき』のリリースがありましたが、音楽を続けることの意味と改めて向き合った1年だったのではないかと思います。そのなかでどんな気づきがありましたか?
塩塚:『きらめき』の前に『1999』をカセットテープでリリースしていて、それが事務所を辞めてから自分たちで出した最初の作品だったんです。そのときは、やろうと思ったことにすぐ取りかかれるのが楽しかったんですけど、そこから先は大変なこともいっぱいありました。
それまではリリースの予定が決まってるなかで動いていたんですけど、「とりあえず、やるしかない」という状況になったら、「どうやって人気を勝ち得るのか?」みたいなことばっかり考えちゃって……だから正直、焦りもあったんです。
羊文学“1999”を聴く(Spotifyで聴く / Apple Musicで聴く)
―若くして地に足の着いた活動をしているイメージもあったので、ちょっと意外です。
塩塚:でも、『きらめき』を出して以降は、ちゃんと反応がもらえている実感も湧いてきて……まだ全然満足しているわけじゃないんですけど、だんだんと「売れよう」とか「どうやったら人気が出るんだろう?」とかよりも、自分が長く音楽を続けていくためにやるべきことを考えるようになりました。
普通の会社はマーケティングの結果とか、人の気持ちとは別のところで物事が動くこともあるけど、音楽は扱うものが「人」だったりするじゃないですか? 数字とか常識よりも、もっと気持ちとか愛情を大切にしたいなと思ったんです。
―その気づきを得たきっかけとして、何か具体的な出来事があったのでしょうか?
塩塚:私、今は大学4年で、卒業論文でマルセル・デュシャンについて書いたんですけど、彼はレディ・メイドみたいな、便器を作品として発表したかと思えば、実は何十年も地下に籠って作品を作ったりもしていて。
そういう芸術家のことを研究して、ミュージシャンは表に立って何かを表現する立場でもあるけど、もっと真摯にひとつの作品と向き合っていかないと、失われていくものもあると思ったんです。
塩塚:リリースって「情報」だから、速く回さなきゃいけないっていう理屈もわかるんです。でも、そうじゃないし、もっと大きなものも作っていきたい。ただ、自分のバンドを「芸術」と思っているわけではなくて。
ある程度は商業的な部分もあるというか、「わかりやすくしよう」と思ってやっている部分もあって……その両方を忘れずに、丁寧に作品を作っていきたいです。今までもそうやってきたつもりですけど、改めてそう思いました。
リリース情報

- 羊文学
『ざわめき』(CD) -
2020年2月5日(水)発売
料金:1,540円(税込)
PECF-1178 felicity cap-3251. 人間だった
2. サイレン
3. 夕凪
4. 祈り
5. 恋なんて
イベント情報
- 『felicity live 2020』
-
2020年3月12日(木)
会場:東京都 渋谷 WWW X出演:
七尾旅人
羊文学
ROTH BART BARON
料金:4,000円(ドリンク別)
プロフィール

- 羊文学(ひつじぶんがく)
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塩塚モエカ(Vo,Gt)、ゆりか(Ba)、フクダヒロア(Dr)からなる、柔らかくも鋭い感性で心に寄り添い突き刺さる歌を繊細で重厚なサウンドにのせ、美しさを纏った音楽を奏でる3人組。2012年結成。2017年に現在の編成となり、EP3枚、フルアルバム1枚、配信シングル1曲、そして2019年12月にクリスマスシングル『1999 / 人間だった』をリリース。生産限定盤ながら全国的なヒットを記録。2020年2月5日に最新EP『ざわめき』のリリース、そのリリースより先行してのワンマンツアー(1/18大阪・梅田シャングリラ、1月31日東京・恵比寿LIQUIDROOM)はSOLD OUTに。2020年、しなやかに旋風を巻き起こしていきます。