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だじゃれで超える分断。音が繋ぐ人。『だじゃれ音楽祭』のロマン

だじゃれで超える分断。音が繋ぐ人。『だじゃれ音楽祭』のロマン

『千住だじゃれ音楽祭 “千住の1010人 in 2020年”』
インタビュー・テキスト
大石始
撮影:南阿沙美 編集:矢島大地(CINRA.NET編集部)、宮原朋之(CINRA.NET編集部)

『千住の1010人』を開催して実感した、「私はここにいる」という個々の声。地域に根ざすことで見える社会の縮図

―これまでの音楽の歴史を振り返ってみると、冗談音楽が音楽表現の新たな地平を切り開くこともありますよね。たとえばスパイク・ジョーンズや三木鶏郎がやってきたこともそういうことだと思うんですが、だじゃれ音楽もそうした冗談音楽の系譜にあるんじゃないかと思っているんです。

野村:あ、そういうやり方で音楽史を語るのも面白い切り口ですね。誰かに研究して、まとめて欲しい。とにかく「だじゃれ音楽」は、逆風を浴び続けてきましたから。だじゃれって基本的に評価の対象にならないんですよね。それどころか、「あのおじさん、だじゃれさえ言わなければいい人なのに」と言われてしまう(笑)。だじゃれってそうやって虐げられることが存在意義みたいになっていて、差別されて、文化としてスルーされがちだと思うんです。文化庁がだじゃれ文化を国際的に広めるために予算をつけることもないし(笑)、文化的側面からの研究もそれほど進んでいないように思う。

でも、表立って国も文化機関も広めようとしているわけじゃないのに、だじゃれって勝手に増殖してあらゆる場所にはびこっている現在形の文化だと思うんですよ。

―そういう意味で、野村さんのなかには手付かずの領域に足を踏み入れるおもしろさがある?

野村:うん、本当におもしろいと思いますよ。現代アートや現代音楽の業界からは見向きもされないですけど(笑)。

野村誠

―2013年3月には『千住だじゃれ音楽祭』の第1回定期演奏会「音まち千住の大団縁」が開催されましたが、反響はいかがでしたか。

野村:地元の人たちを中心にするお客さんであっという間に定員をオーバーしちゃって。現代アートや現代音楽のイベントに来るようなお客さんがほとんどいなくて、ちょっと見たことのない客層でした。年配の人たちや若い人も多くて、手応えを感じましたね。地域をテーマにしたイベントをやっても、東京だとその手のイベントが好きな人たちで会場が埋まることがほとんどなんですけど、『千住だじゃれ音楽祭』の場合は地元の人たちが来てくれたんです。

―2014年10月には『千住の1010人』の1回目が開催されました。1010人で音を鳴らすことは当初からの目標のひとつだったそうですが、やってみていかがでしたか。

野村:東京の人たちってパッと見は均一化されていて、誰もが目立たないように振る舞ってると思ってました。空気を読みながら、周囲に溶け込んで暮らしているというか。でも、『千住の1010人』をやってみたら「こんなに変な人がいっぱいいたんだ!」と気づかされた。それがまず感動的でした。

あと、その光景が「私たちはここにいますよ」というデモをしているようにも見えたんです。何かのポリシーを訴えるんじゃなくて、「私たちは私たちとして生きています」と無言で主張しているような感じで、一人ひとりの個性が光っていた。そういうシーンを演出するつもりはなかったんだけど、ある種勇気付けられる感じがしたんです。「僕もここにいていいんだ、私もいていいんだ」という。

『千住だじゃれ音楽祭 “千住の1010人 in 2020年”』キービジュアル。中心には、だじゃれの「だ」が。
『千住だじゃれ音楽祭 “千住の1010人 in 2020年”』キービジュアル。中心には、だじゃれの「だ」が。

―自身の存在を肯定し、主張する感覚。

野村:そうですね。仮に「1010人の合奏団をやる」という企画だったら、ある程度楽器を演奏できて、音楽の知識がある人が来るだろうし、当日はテーマに合わせた服装でやってくると思うんですね。でも、『千住の1010人』には縄跳びをしている人もいるし、鍋を叩いてる人もいる。楽譜を読める人も読めない人もいる。既存のコミュニティーに居場所がない人も、ここだったらいやすいんじゃないかと思ったんですよ。いろんな思想、立場、思考の人が集まっていて、『千住の1010人』に集まった1010人はまさに社会の縮図だったんですよ。

―さらに、だじゃれ音楽を追求するなかで、地元住民を中心とする「だじゃれ音楽研究会」が発足しますよね。

野村:「だじゃ研」はいつのまにかできてたんです(笑)。要はだじゃれ音楽を追求するための研究会ですね。100人ぐらいの集団をまとめるだけだったら僕ひとりでもできるかもしれないけど、1010人になるとひとりで指揮するのは不可能。だから、だじゃ研のメンバーがそれぞれのパートをまとめてくれたんですね。パートリーダーというか、クラスの担任の先生みたいな感じというか。

当初、だじゃ研は僕のワークショップに参加する、ある種「受け取る側」の方々だったんです。でも、パートリーダーになることによって、立場が変わってくるんですね。「自分たちでこのパートを何とかしなきゃ」と考えるようになって、それぞれのやり方で指示を出すようになったんです。僕は普段京都に住んでるんですけど、僕が東京にいないときにだじゃ研だけでテレビやラジオに出演したり、外に向かってみずから発信していく自立したチームになっていったんです。

『千住だじゃれ音楽祭』のインドネシアツアー。だじゃれ音楽を日本固有の文化として打ち出し、東南アジアの音楽家との交流も盛んに行う。その成果を発表したコンサートは、その名も「ジャワで交流したんじゃわ」

野村誠

―先ほど『千住の1010人』に集まった1010人はまさに社会の縮図だったとお話しいただきましたが、だじゃ研を中心とするだじゃれ音楽祭自体がひとつの「社会」を形成しはじめたわけですね。

野村:うん、まさにそうですね。だじゃ研の中には83歳で元音響技師だったけど、定年後に楽器を始めた人もいれば、会社員、学校の先生もいて、藝大の学生、小中学生もいる。男女比も半々くらいで、おじさんの多様性も幅広く、ミュージシャン、カウンセラー、プログラマー、公務員、音楽にまったく関心のなかった人だっているし、夫婦で参加しているケースもあれば親子で参加しているケースもある。なんでもありですよ。

―ふだんは街中で一緒に何かを生み出すことのない人たち同士ですよね。

野村:そうそう。音楽を知ってる人と知らない人が対等の関係にあって、ごく自然に意見を言い合っている。ちょっと不思議な集団だと思いますよ。

「だじゃれ音楽研究会」による“ドローンでおドローン”。言葉から連想される動きによって、ドローン音楽が「参加しやすい音楽」に。

野村誠
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イベント情報

野村誠『千住だじゃれ音楽祭 “千住の1010人 in 2020年”』
野村誠
『千住だじゃれ音楽祭 “千住の1010人 in 2020年”』

日程:2020年10月頃を予定
会場:千住まちなか、台東区、墨田区各所を予定
プロジェクトHP:https://aaasenju.wixsite.com/dajaremusic
Facebookページ:https://www.facebook.com/dajare.music/
※出演応募は上記HPより
※新型コロナウイルス感染症の影響を受け、当初予定していた日程を延期しました

プロフィール

野村誠(のむら まこと)

作曲家、鍵盤ハーモニカ奏者、ピアニスト。8歳より独学で作曲を始める。京都大学理学部数学科卒業後、ブリティッシュ・カウンシルの招聘で英国ヨーク大学大学院にて研修。動物との即興セッションを行った映像作品『ズーラシアの音楽』や『プールの音楽会』などを国内外で発表。その後も既成概念にとらわれない音楽活動、アートプロジェクトを展開する。近年はだじゃれから音楽を生み出す「だじゃれ音楽」を手がけ、ディレクターを務める『千住だじゃれ音楽祭』では2020年、まちの人々1010人が同時多発的に音楽を奏で、一箇所へ向かっていく壮大なプロジェクトを企画している。

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