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春ねむり、愛と怒りで叫ぶ激情 この世はクソ、でも優しく生きたい

春ねむり、愛と怒りで叫ぶ激情 この世はクソ、でも優しく生きたい

春ねむり『LOVETHEISM』
インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2020/04/30
春ねむり

たったひとつの正解なんてない不確かな世界で、強く、賢く、優しく生きるということ

―「世の中をフラットに見る」というのは、具体的にどういうことですか?

春ねむり:自分は、自分の立場でしかものを見ることができないじゃないですか。だから、不確かなことしかないなって思うんです。でも……私が大学生の頃に、障害者施設での殺人事件があったんですよ。犯人が、「障害者は生きていても価値がない」みたいなことを言ったっていう(2016年7月に起こった相模原障害者施設殺傷事件)。

あのニュースが流れたときに、私は母親とテレビを見ていて、殺人なんて絶対にしちゃいけないことだけど、犯人がそういうことをしてしまった理由が絶対にあるんじゃないかって思ったんです。だから、「なんで、犯人はそう思わないと生きていけなかったんだろう?」っていう話を母親に話したんですけど、そうしたら「あんたは人殺しの気持ちがわかるのか!」って、泣きながら言われてしまって。「そういうことじゃないんだけどな」と思って……。

―なるほど。

春ねむり:母親は間違っていないと思うんですよ。でも、「そう思わないと生きていけなかった人がいる」ということまで考える余白があることが、強くて、賢くて、優しいっていうことだと私は思うし、そういうふうに生きていきたいと思う。それが、世の中をフラットに見るっていうことだと思います。私にとっては、そういうふうに生きているミュージシャンが、一番かっこいいんです。

春ねむり
春ねむり『LOVETHEISM』(2020年)収録曲

―「人は人を殺してはいけない」と、今、僕は断言できます。でも、人を殺してしまう人と同じ気持ちが自分にないとは絶対に言い切れないし、どうしようもなく暴力に惹かれていく瞬間だって確実にある。恐らく、そういう気持ちの種みたいなものを抱えながら生きている人は、たくさんいると思うんですよ。

春ねむり:うん、そう思います。

暑苦しくても、ウザくても、春ねむりは歌う。まがいものの「丁寧な暮らし」には中指を

―ご自身の音楽は、そういう人たちにも開かれているものなんだという感覚はありますか?

春ねむり:ありますね。「どうしようもなくあいつが憎くて、あいつを殺してしまいたい」っていう気持ちがあったときに、それをわからない人の気持ちが、私にはわからないんですよ。「え、人を殺したいと思ったことがないの?」って思うタイプなんです。

私には、「この世に虐げられている」っていう、なにかを「被っている」っていう気持ちと、「加害している」っていう気持ちがどっちもある。だから、どこにいても吸い寄せられるというか……どこにいても、「それは自分じゃない」って思えないんです。線路に飛び込んでしまう人も、誰かを殺してしまう人も、「それは自分じゃない」って言い切れない。だから……生きづれぇ!

―ははは(笑)。

春ねむり:生きづらいんですよ、ほんと(笑)。……たまに、どうしようもなく腹が立つんです。すれ違う人、一人ひとりの胸ぐらを掴んで、「全部、自分のことなんだからな!」って言ってやりたくなる。

春ねむり

―「当事者」としての衝動ですよね、それは。

春ねむり:私、「丁寧な暮らし」っていう言葉が大嫌いなんですよ。自分の見える半径数メートルを大事にしながら生活していれば、やがて大きな悪にも抵抗できるだろうっていう……これって、最近の流行りでもあると思うけど、でも、それはもう思考停止だから。なにも感じなければ、楽なんでしょうけどね。

私、特に日本だと、ライブをしたあとに「ウザい」ってよく書かれるんです。「そりゃ、そうだよね」って思う。「考えたくないよね」って。でも、たとえ暑苦しくても、考えないと終わっちゃうから。だから干渉しなくちゃいけないし、関係しなくちゃいけないし、見なきゃいけないし、知らなきゃいけない。

それが辛くて苦しいことなのはわかるし、日々の生活で精一杯なのはわかるけど、お前を日々の生活で精一杯にして、思考を停止させているのは誰なんだ? それを奪われたままの「丁寧な暮らし」で満足なのか? って思う。私は、それはイヤです。

春ねむり『LOVETHEISM』(2020年)収録曲

「虚無そのもの、みたいな子どもでしたね」――自我がなかったという子ども時代から、ミュージシャンという道を選ぶまで

―ねむりさんのなかにある暴力性というのは、表現できないまでも、子どもの頃から自覚的なものではあったんですか?

春ねむり:いや、自覚はなかったです。自我がない子どもだったんですよね。ずっと、「親に言われたことをやって生きています」みたいな子どもでした。よく「勉強はできたほうがいい」って言う親だったんですけど、私はわりと勉強ができちゃったので、とりあえずOK、みたいな。

「これが好き」とか「これが嫌い」みたいなものも、あまりなくて。自分のことだけど、自分がなにを考えていたかわからない、みたいな……。虚無そのもの、みたいな子どもでしたね。高校生の頃に、モノを作るようになってから、「あ、私って悲しいんだ」とか「私って今、怒っているんだ」「私は今、嬉しいんだ」っていうことに気づくようになったなと思います。

春ねむり

―モノを作っていくことを決心した瞬間はあったんですか?

春ねむり:そんなにかっこいいことでもないような気がします。決まった時間に、決まった場所に行くのも苦手だし、いつの間にか消去法でこうなっていた感じですね。私、目が悪いんですけど、眼鏡やコンタクトをして電車に乗ると、過呼吸になっちゃうんですよ。人の顔が見えすぎて、気持ち悪くなっちゃうんですよね。

満員電車に乗っている人って、みんな人間を見る顔をしていないじゃないですか。「今すぐ、自分以外消えてくれないかな」って思っていそうな……でも、その気持ちは私もわかるから。「私も、こういう顔しているんだ」と思って、気持ち悪くなっちゃうんだと思うんですよね。

―満員電車は苦手でも、ステージの上から人の顔を見るのは平気なんですか?

春ねむり:そういえば、ステージからは平気ですね。

―なぜなんでしょうね。

春ねむり:……ステージから人の顔を見ているときは、自分のことを許してあげられるのかもしれない。許されることって、本当はそんなに難しいことじゃなくて。でも、覚悟が必要なことなんだと思う。他人に許されるよりも、自分で自分を許すことのほうが難しいですよね、きっと。

―そう思います。

春ねむり:だから、私が私を許してあげられるのは、きっとモノを作っているときと、ステージのうえで歌っているときだけなんだと思う。

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リリース情報

春ねむり『LOVETHEISM』
春ねむり
『LOVETHEISM』

2020年3月20日(金)配信

1. ファンファーレ
2. 愛よりたしかなものなんてない
3. Pink Unicorn
4. Lovetheism
5. 海になって
6. Riot
7. りんごのうた

春ねむり
『LOVETHEISM』(CD)

2020年6月12日(金)発売
価格:2,000円(税込)
TO3S-0014

1. ファンファーレ
2. 愛よりたしかなものなんてない
3. Pink Unicorn
4. Lovetheism
5. 海になって
6. Riot
7. りんごのうた

プロフィール

春ねむり
春ねむり(はる ねむり)

神奈川・横浜出身のシンガーソングライター / ポエトリーラッパー。2016年に“春ねむり”としての活動を始め、自身で全楽曲の作詞・作曲を担当する。2018年4月に初のフルアルバム「春と修羅」をリリースした。2019年にはヨーロッパを代表する20万人級の巨大フェス「Primavera Sound」に出演。さらに6カ国15公演のヨーロッパツアーを開催し、多数の公演がソールドアウトとなった。2020年3月に約2年ぶりとなるオリジナルアルバム「LOVETHEISM」を配信リリースした。

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