
曽我部恵一と語る、個に還れない時代のリアル 人はなぜ踊るのか?
曽我部恵一『永久ミント機関』『LIVE IN HEAVEN』『戦争反対音頭』- インタビュー・テキスト
- 田中亮太
- 撮影:池野詩織 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
曽我部恵一が8月に配信で発表した「2020年夏の3部作」を、限定プレスでフィジカルリリースした。ハウシーな“永久ミント機関”、終戦記念日に作られた“戦争反対音頭”、そして2018年作『ヘブン』をバンドで再現したライブ盤『LIVE IN HEAVEN』。サウンド面での志向性は異なった3作の共通項をあえて挙げるならば、ダンス、あるいは踊るための場所への再考察を内包した音楽、と言えるのかもしれない。お祭りやフェス、イベントが軒並み中止になるなど、このコロナ禍は、ダンスの場を我々から奪った。今では、多くのクラブやライブハウスが最大限の配慮をしながら営業を再開しているものの、大半の人々にとって踊ることへのハードルは依然高いままだろう。
そんな2020年の秋、曽我部恵一に話を訊きに下北沢へと向かった。場所は、曽我部が春にオープンした「カレーの店・八月」の上階に位置するPINK MOON RECORDS。所せましと並ぶ中古レコードに囲まれながらの取材には、クラブミュージックから音頭や民謡までダンス音楽に精通しており、日本各地のさまざまな「踊りの場」を見てきたライターの大石始も参加。ふたりの対話は、コロナ禍の時代にリアルな音楽とはどんなものかに、思索を巡らすものとなった。まずは、『LIVE IN HEAVEN』“戦争反対音頭”を中心に、人はなぜ踊るのかを考察した前編から。

曽我部恵一(そかべ けいいち)
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのボーカリスト / ギタリストとして活動を始める。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル『ギター』でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント / DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス / ソロと並行し、形態にとらわれない表現を続ける。
ダンスミュージック、クラブ、音頭、盆踊り……私たちはなぜ踊るのか、踊ることは生きるのに必要か?
―いろいろと制限された世の中ですけど、曽我部さんと大石さんは最近踊れていますか?
曽我部:踊れてないですよ。
―そうですよね。
曽我部:だって盆踊りとかお祭り系も全部中止ですからね。
大石:ほとんど中止か、神事だけはやるとか。人が集まるお神輿とかはなかなかやれない。結果として何のためにお祭りや盆踊りをやっているのかを見つめ直す時期になっている。
―大石さんは盆踊りに足を運ぶことがライフワークのひとつにもなっていると思うんですけど、今年行けないことの影響はありますか?
大石:毎年夏になると盆踊りに行ってたから、単純に盆踊りに行かないと、調子が悪いんですよね。踊ることによって精神を保ってた感じがします。
曽我部:やっぱストレスとかから解放されるんでしょうね。
大石:まさにそうですね。おそらくクラブも同じだと思うんですけど。
曽我部:うんうん。たぶんイギリスの1960年代に労働者が週末ノーザンソウルのパーティーで踊ったり、1990年代の若者がレイヴに行ったりするのと同じ理由なんでしょうね。
―若いDJの子やイベンターと話しても、コロナ以降、パーティーがいかに自分の肉体的 / 精神的な健康に必要だったかを実感したと言っていました。自分の生活習慣のなかにあったものがパッとなくなっちゃうと、当然負荷はかかりますよね。
曽我部:ライブもそうですよね。平日働いて、週末はライブに行く人たちも多いだろうし。
大石:ライブの場とかクラブって音を浴びることもそうですけど、友人たちと集まって他愛のない話をするのも大きいですよね。酔っ払って次の日には忘れちゃうような話をすることが大事だったんだなって。
曽我部:大石さんは盆踊りに行ったとき、お酒も飲むんですか?
大石:飲みますね、でもなぜかあまり酔わないんですよね。飲んで高揚はするんだけどだんだん気持ちは内に入っていくっていうか、だからクラブで踊ってる感覚に近いと思う。みんなでわーわー話すより、ループするビートに合わせて踊りながらだんだん一人になってく。
曽我部:へーそうなんだ。意外。
大石:そういうのがなくなったときにどうやって精神を保つのか。盆踊りを含めたダンスミュージックがなぜ人間に必要なのか、すごく考えていますね(関連記事:もう一度私たちが集まれるように。祭り、盆踊り開催の行方)。
―曽我部さんは、踊れない状況が自分に与えている影響はありますか?
曽我部:俺はないな。踊りに行く習慣がそもそもないから。ダンスミュージックも好きだし、クラブに好きなDJを聴きに行ったりはするけど、週に1回は踊んなきゃとかはない。
大石:たとえばクラブに行くとき、曽我部さんは踊ること以外に何を求めて行くんですか?
曽我部:僕は音楽ですね。家でレコードを聴くのとそんなに変わらない。それが知らない音楽であっても。
大石:知らない音楽に出会える場って側面もありますよね。
曽我部:踊ることによって精神が変容していくような体験を求めてるわけではないですね。単純にいいDJがいい音楽をかけて一晩で空気を作るのを体験する。演奏会を観に行く感じと一緒かもしれない。この音楽のここいいなとか、このDJはこういうふうに世界観を作っていくんだなとか。それはバンドを観るときも一緒ですね。僕はどこで音楽聴いてもそういう感じかもしれない。どっかで自分にフィードバックさせようと思ってる。
リリース情報

- 曽我部恵一
『永久ミント機関』(限定盤12インチ) -
2020年10月16日(金)発売
価格:1,870円(税込)
ROSE 253[SIDE-A]
1. 永久ミント機関[SIDE-B]
1. MELTING 酩酊 SUMMER

- 曽我部恵一
『戦争反対音頭』(限定盤7インチ) -
2020年10月16日(金)発売
価格:1,100円(税込)
ROSE 254[SIDE-A]
1. 戦争反対音頭

- 曽我部恵一
『LIVE IN HEAVEN』(限定盤LP) -
2020年10月16日(金)発売
価格:2,970円(税込)
ROSE 255X[SIDE-A]
1. 野行性
2. フランシス・ベーコンエッグ
3. 文学
4. mixed night[SIDE-B]
1. Gravity Garden
2. Big Yellow
3. 花の世紀
- 曽我部恵一
『LIVE IN HEAVEN』(限定盤CD) -
2020年10月16日(金)発売
価格:2,200円(税込)
ROSE 2551. 野行性
2. フランシス・ベーコンエッグ
3. 文学
4. mixed night
5. Gravity Garden
6. Big Yellow
7. 花の世紀
プロフィール

- 曽我部恵一(そかべ けいいち)
-
1971年8月26日生まれ。乙女座、AB型。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト / ギタリストとして活動を始める。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル『ギター』でソロデビュー。2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント / DIYを基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス / ソロと並行し、形態にとらわれない表現を続ける。2020年8月、『永久ミント機関』『LIVE IN HEAVEN』『戦争反対音頭』を立て続けに発表。10月にはこれら3タイトルを「2020年夏の3部作」と銘打って限定プレスでフィジカルリリースした。