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清川あさみ×いとうせいこう「伝統」化する芸能。どう更新するか

清川あさみ×いとうせいこう「伝統」化する芸能。どう更新するか

『淡路人形浄瑠璃再生プロジェクト』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:パクオクスン 編集:宮原朋之(CINRA.NET編集部)

淡路島は関西と四国を結ぶ、自然に恵まれた豊かな島だ。力強いうず潮や緑深い山々は、古代の人々にたくさんのインスピレーションを与え、そして国生みの神話や多彩な歴史を作り出してきた。

そんな淡路島に生まれ、南あわじ市のPRアンバサダー(正式名称:南あわじ市地域魅力プロデューサー)にアーティストの清川あさみが指名されたのは2020年のこと。自身が生まれ育った土地と人の素晴らしさを伝えるために、彼女を中心としたチームはさまざまなプロジェクトを立ち上げている。

その一つが「淡路人形浄瑠璃再生プロジェクト」。ダイナミックなパフォーマンスで知られる淡路島の伝統的な人形浄瑠璃に清川自らが手を加え、新しい表現を目指すという。

そこには舞台芸術の創造にはとどまらない広さと多様さが編み込まれているようだ。同プロジェクトに脚本家として参加することになった文筆家のいとうせいこうと共に、話を聞いた。

1000年前の人間の切ない気持ちと、いまの人間の切ない気持ちって変わらない。(清川)

―来年春に予定されている公演で『戎舞(えびすまい)』を新しく作ると聞きました。どんな内容になりそうですか?

清川:『戎舞』ってもともとは神事で、神様に奉納するものなんです。みんなの願いをかなえようと、戎さまはお神酒を飲み、幸せを運んできます。

酔った戎さまは、船に乗り、沖に出て、大きな鯛を釣り、メデタシ、メデタシと舞い納める――という話です。太鼓のリズムに合わせ、戎さまが楽しく舞うちょっとふざけたところのあるお笑いチックな演目なんですけど、そのぶんだけお客さんと舞台が一体化できるような内容で、淡路島の浄瑠璃にとっても強く推したい一本。ただ、なぜ戎さまが生まれたのか……みたいなことはあまり知られてないんです。

淡路人形浄瑠璃『戎舞』
淡路人形浄瑠璃『戎舞』

清川:それを物語で肉付けして掘り下げていこうとしているのが今回、2021年春に発表する『戎舞+(えびすまいプラス)』。その後、2021年秋にも新しい演目をプロデュースします。500年も続く淡路人形座の歴史や文化に興味のなかった人との距離も縮めていこう、というのが今回の「淡路人形浄瑠璃再生プロジェクト」の目的なんです。

左から:<br>清川あさみ(きよかわ あさみ)<br>アーティスト。日本、淡路島生まれ。2001年初個展。2003年より写真に刺繍を施す手法を用いた作品制作を開始。2011年水戸芸術館にて個展開催の最年少記録。2012 年、2018年東京の表参道ヒルズにて『美女採集』展開催。最多動員数を記録するなど展覧会を国内外で多数開催。代表作に『美女採集』、最新作にバーチャルモデルをテーマにした『imma』など。クリエイティブ、アートディレクターとしても活躍するほか、映像・空間プロデュースや地方創生事業にも取り組む。<br><br>いとうせいこう<br>俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。
左から:
清川あさみ(きよかわ あさみ)
アーティスト。日本、淡路島生まれ。2001年初個展。2003年より写真に刺繍を施す手法を用いた作品制作を開始。2011年水戸芸術館にて個展開催の最年少記録。2012 年、2018年東京の表参道ヒルズにて『美女採集』展開催。最多動員数を記録するなど展覧会を国内外で多数開催。代表作に『美女採集』、最新作にバーチャルモデルをテーマにした『imma』など。クリエイティブ、アートディレクターとしても活躍するほか、映像・空間プロデュースや地方創生事業にも取り組む。

いとうせいこう
俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。

いとう:僕は浄瑠璃や芸能に限らず、自分の持っていない情報の体系に触れるのが大好きなんですよ。例えばソウルミュージックが大好きでファンクとかヒップホップを聴いてきたことの理由のひとつも、黒人の歌い手や演奏者たちがどういう風に音や社会を感じてどう歌詞を書くのか、どういうリズムでやるのかが気になるからでもあるわけで。

浄瑠璃も同じことで、物語自体も現代人のセンスとはかなり違ってるわけじゃないですか。その違いが興味深いし、面白いんだよね。逆に言えば、現代の感覚で誰もがすんなり理解できる現代の物語や文化にわざわざ触れる必要は俺にはないな、って思ってすらいるの。

清川:なるほど。

いとう:つい最近、鶴澤清治さんという三味線界のなかでもトップ……というか、この数百年間の歴史においてもトップなんじゃないか、という方にインタビューさせていただいたのね。

で、清治さんもおっしゃっている通り、ボーカルである物語を語る太夫(たゆう)に対して、三味線は絶対に合わせに行ってはいけないんです。太夫側もそうだし、人形遣いもそう。それぞれ始まりのテンポ感は一緒だけれど、相手の雰囲気に負けちゃいけないし、自分が解釈している登場人物の感情を表すパフォーマンスに専念すると。

その結果として、どこかが偶然に重なることはあっても、ぴったりくっついてはダメだと文楽では考えるわけです。俺にとってそれはすごく都会的な考え方で、黒人の音楽にあるグルーヴもまさに同じ。つまりベタじゃない。それぞれがクールに冷めながらノる。

けれども同時にそこに、いかにも浪花らしい「死ぬか死なないか」みたいな泥臭い話が加わるのが文楽の面白いところで。東京・江戸に生まれ育った自分にはない、不思議な感覚があるんです。

今回のプロジェクトにしても、興味があるのは淡路島そのものでもあるし、同時に清川あさみって人がとらえている人形浄瑠璃の見方を知りたいってことなんだよね。自分とは違う見方に対して、じゃあ自分はどう返すことができるか? 例えば浄瑠璃の言葉を現代語訳して、いまの人が聞いてもわかる芸能を作ったらどうなるか? とか長年の望みをぶつけてみたり。

清川:現代語訳に関連して『千年後の百人一首』(2017年、リトル・モア)という本では、詩人の最果タヒさんに百人一首を現代語訳してもらったんですけど、そこからわかったのは1000年前の人間の切ない気持ちと、いまの人間の切ない気持ちって変わらないんだな、ってことでした。つまり、人間の深い感情は昔と比べてそんなに変わっていない。

今回のプロジェクトでも、最初の頃は最先端のテクノロジーとかポップカルチャーとのコラボみたいな案も出てはいたんです。たしかに流行ではあるけれど、残したいものをきちんと残したい自分にとってはもう少しありのままを生かしたいって思ったんです。その気持ちがせいこうさんと一致した。

昔からある技術の確かさ、そして素朴さの魅力ってあるじゃないですか。建築だとか、音楽や歌にも感じますよね。だから、せいこうさんから、「現代語訳をするけれど、でも大事なものはきちんと残したい」って聞いて、私もそれが見たい、一緒にやりたい、って!

いとう:最初から同じことを考えてたわけだよ(笑)。

ものすごい芸能が淡路島にはあるんだな、って衝撃を受けた。(いとう)

―清川さんは淡路島の生まれですよね。

清川:私は南あわじ市出身で、自然に囲まれて育ったんですよ。淡路島は海も山も豊かで、私はどちらかといえば海が多かったんですけど、釣りをしたり泳いだりカブトムシを採ったり、自然が芸術みたいに美しい場所だから、ひたすら山や海をずーっとスケッチしたり。

2009年に出した『銀河鉄道の夜』(2009年、リトル・モア)の絵本も、そこで描いてるような自然の景色は子供時代の記憶だけで描いています。

そのぐらい自然が染み付いちゃっている。もしも東京で生まれ育っていたらアーティストにはなってなかったと思ってます。

いとう:なるほどね。

左から:清川あさみ、いとうせいこう
左から:清川あさみ、いとうせいこう

清川:作家の湊かなえさんも淡路島に住んでいらっしゃるんですけど、「島にいるからこそ、自然だけじゃなくて人の本質が見えるようになったんじゃないか」っておっしゃっていたのが私と共通してました。東京は情報がすごくある分、意識が分散してしまう気がします。

私は1990年代後半に上京してきたんですけど、情報的に「無」の状態だった自分からすると、原宿に遊びに来ている人たちって全員がレディー・ガガみたいな感じでした。全身から情報を発信してる人たち。それが面白くて、今の自分は淡路の要素と東京の要素がないまぜになった感じです。

―人形浄瑠璃は子供の頃からご覧になっていたのですか?

清川:とても身近でした。でも、そこに宿ってる歴史とか伝統を本当に面白く感じるようになったのは、島を出て大人になってからですね。淡路島はイザナギとイザナミが日本で最初に作った島と聞いて、古事記を読んでみたり。

そういう環境で育ったのに、その伝統や歴史をきちんと知らずにいた子供時代の反省もしていて。PRアンバサダーになったからには、自分のできる方法で淡路の魅力を発信したい、と思ってるところです。

―いとうさんはみうらじゅんさんとの仏活『見仏記』(1997年、KADOKAWA)などでも全国を旅してますから、淡路島も来たことがあるのでは?

いとう:それがじつは意外にもなくて。瀬戸内海はめちゃくちゃ好きで、それこそ淡路のすぐ近くの、イザナギ・イザナミの国生みに関係している沼島のおのころ島神社まで訪ねてるんだけどね。

だから淡路とのいちばんの接点としては、人形浄瑠璃だね。俺は古典芸能好きだから、かなり昔だけど東京の国立劇場での公演を観たりしてた。それもすごい内容で、浄瑠璃ってふつうはもう少し落ち着いた印象があるじゃない? 淡路島のはかなり激しいのよ。

清川:そうそうそう!

いとう:絶叫してるようにすら感じる(笑)。ふつう文楽(人形浄瑠璃)はワンボーカルワンギターが基本でしょ。

淡路人形浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』殿中刃傷の段<br>写真 / 淡路人形座提供
淡路人形浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』殿中刃傷の段
写真 / 淡路人形座提供

―人形遣いの他に、物語を語る太夫、三味線という三業編成ですね。たしかにワンボーカル(=太夫)ワンギター(=三味線)。

いとう:淡路人形浄瑠璃は5人くらいでユニゾン、みたいなのもあるよね。しかも人形が普通よりデカイ。淡路島の伝統芸能繋がりで「淡路だんじり唄」を見たことがあるんだけど、ひな壇に20人くらいがずらーっと並んでパフォーマンスするわけ。「なんじゃこりゃあ!」ってなったのを覚えてる。ものすごい芸能が淡路島にはあるんだな、って衝撃を受けたのを覚えてます。

淡路人形浄瑠璃『「玉藻前曦袂」神泉苑の段』<br>写真 / 淡路人形座提供
淡路人形浄瑠璃『「玉藻前曦袂」神泉苑の段』
写真 / 淡路人形座提供

清川:すごいですよね。喧嘩のシーンは、本当に喧嘩してるようにしか見えない。

いとう:人形浄瑠璃というか、さらに古い傀儡(くぐつ)って人形劇は、最初はあのぐらいのサイズ感で始まったはずなんだよ。それがだんだんと洗練されていって、小さく、はんなりしていったはず。でも淡路島はその方向への変化を選ばずに、スペクタクル・インパクト重視で今に伝わってきた。そのことに興味が湧いちゃうんだよね。

清川:淡路島の浄瑠璃、500年以上の歴史があるんですよ。淡路人形浄瑠璃の前身の淡路人形芝居は、昔、全国を旅巡業して野掛け小屋(野外)で公演していたんです。それもあって、太夫は大きな声で豪快に語っていたとか。

いとう:どれだけ人を驚かせて惹きつけるか、っていうのは芸能の大切な要素だからね。よくぞほとんどそのまま残ってくれたな、っていう気持ちだし、そこに自分が関わることになったのが不思議だよ。

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プロジェクト情報

『淡路人形浄瑠璃再生プロジェクト』
『淡路人形浄瑠璃再生プロジェクト』

国の重要無形民俗文化財にも指定されている淡路人形浄瑠璃の新演目をプロデュースし、次の世代にその魅力を受け継いでいきます。500年受け継がれてきた伝統芸能の粋と清川あさみのコラボレーションを、是非、淡路島でご堪能ください。

イベント情報

『戎舞+(えびすまいプラス)』

縁起の良さや戎様のコミカルな動きから現在進行形で愛されている『戎舞』を、淡路島の物語「国生み神話」のオリジナルアニメーションも加え、清川あさみプロデュース、いとうせいこう脚本の次世代に伝えたい新演目にして公開します。詳細はHPにて随時情報更新中。

プロフィール

清川あさみ(きよかわ あさみ)

淡路島生まれ。2001年に初個展。2003年より写真に刺繍を施す手法を用いた作品制作を開始。水戸芸術館や東京・表参道ヒルズでの個展など、展覧会を国内外で多数開催。代表作に「美女採集」「Complex」シリーズ、最新シリーズにヴァーチャルモデルimmaを作品化した『imma』を2020年発表。絵本『銀河鉄道の夜』などヒット作も多数あり、作家・谷川俊太郎氏との共作絵本『かみさまはいるいない?』が2年に1度のコングレス(児童書の世界大会)の日本代表に選ばれている。絵本近著に『ちかづいて はなれて わお!』。『ベストデビュタント賞』受賞、『VOCA展』入賞、『VOGUE JAPAN Women of the Year』受賞、『ASIAGRAPHアワード「創(つむぎ)賞」受賞。平成28年度後期のNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』ではタイトルオープニング映像やポスターをディレクション、制作をトータルで手がけ話題に。広告・空間などのクリエイティブ、アートディレクターとしても活躍するほか、映像プロデュースや故郷淡路島の地方創生事業にも取り組む。

いとうせいこう

俳優、小説家、ラッパー、タレントとさまざまな顔を持つクリエーター。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集者を経て、1980年代にはラッパーとして藤原ヒロシらとともに最初期の日本語ヒップホップのシーンを牽引する。その後は小説『ノーライフキング』で小説家としてデビュー。独特の文体で注目され、ルポタージュやエッセイなど多くの著書を発表。執筆活動の一方で宮沢章夫やシティボーイズらと数多くの舞台・ライブをこなすなど、マルチな活躍を見せている。近年では音楽活動も再開しており、□□□やレキシ、dubforceなどにも参加している。

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