
Ryohuが追求するヒップホップのフォルム 立役者・冨田ラボと語る
Ryohu『DEBUT』- インタビュー・テキスト
- 天野史彬
- 撮影:小田部伶 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
ジャンルでもスタイルでもない「ヒップホップ」の現在について。畑の内外から見つめる
冨田:僕もそういったRyohuさんのバランス感覚と近いんですけど、歌パートの部分もご自分で担おうという姿勢には感激しましたね。ラッパーの方の中には、ラップしかやりたくない人もいっぱいいると思うし、たとえ「フックにメロディがほしい」となったとしても、「じゃあ、フィーチャリングボーカルを誰にお願いしようか?」という発想になる人が多いと思うんですよ。でもRyohuさんは、ご自分で「歌」も担う心構えだった。
Ryohu:正直、自分で歌うことに対して恥ずかしさは全然あるんですよ。でも、音楽的にあったほうがいいと思うから、やってるっていう。
Ryohu(リョフ)
ヒップホップクルー・KANDYTOWNのメンバーとしても活動するラッパー / トラックメーカー。2017年にはソロとして本格始動する。Base Ball Bear、Suchmos、ペトロールズ、OKAMOTO'S、あいみょんなど様々なアーティストの作品に客演する。2020年11月、1stアルバム『DEBUT』をリリースした。
冨田:Ryohuさんのラップ自体、メロに寄るラップをすることが多いよね。音階があるようなラップというか。
Ryohu:こういう部分も、冨田さんがいてくれたからこそ方向性として固まっていったのかなと思いますね。ヒップホップって、ジャンルとしては若いから、どうとでもなるんですよね。普通にメロディを歌っている曲ですら、オートチューンをかけていたら「ヒップホップ」と括られたりするじゃないですか。
冨田:そうだよね。もはや、「ヒップホップ=ラップ」ではないから。普通にメロディを歌っているような音楽でも、その人の出自やトラックのテイストで「ヒップホップ」と括られる人もいるし、ロックバンドみたいなトラックでラップをやっていても、音処理や演奏者のマインドにヒップホップがあれば、好きな人はそれを嗅ぎ取って、「ヒップホップ」の範疇に括っていく場合もあるし。
もちろん、ヒップホップというジャンルの定番や伝統的なアプローチもあるけど、ある音楽を挙げて「これはヒップホップか否か?」みたいな質問だけされたら、結構難しいんだよね。もはや、単純にスタイルだけでは答えられない。
Ryohu:ホント、そうなんですよね。それぞれが、それぞれの誇りや心を持ってやっていると思うんですけど。そういう意味で今回のアルバムは、特に日本のヒップホップにはあまりない感じのものができたんじゃないかと思うんです。
たとえばヒップホップって、大抵は低域中心に作るじゃないですか。でも、僕は中域を中心に作っている。日本で中域を中心に作られたヒップホップって近年あんまりないんじゃないかと思うんですよね。そういう部分でも、このアルバムを作ってよかったなと思いますね。こういうハイブリッドな感じ、他にはあんまりないと思う。
Ryohu“GMC”を聴く(Apple Musicはこちら)
質感やメロディ、リズム……冨田ラボがポップスの現場で実感するラップからの影響
Ryohu:……(インタビュアーに向かって)すいません、間髪入れずに話しちゃってますけど、大丈夫ですか?
―大丈夫です(笑)。お話を聞いていて、たとえば、近年のメインストリームのポップス作品のクレジットにも、illicit tsuboiさんのようなヒップホップ畑の方の名前を見ることが多かったりもしますよね。そういう状況を見ても、ヒップホップ的な要素というのは今、ポップスを作るうえで大きく入り込んでくるものなのかなと思うんです。『M-P-C』で冨田さんがラップを必要とし、今回、Ryohuさんが冨田さんを必要としたのも、やはり「ポップス」という大きな視点で見たときに、時代的な必然性もあることなのかなと思いました。
冨田:今の日本のメインストリームはtsuboiくんかD.O.I.さんがやっているんじゃないかっていうくらいだけど(笑)、やっぱり日本のメインストリーム音楽にも、ヒップホップやR&B、ブラックミュージックの影響がすごく強いですよね。それはトラックの質感に関してもそうだけど、もっとベーシックにあるメロディに関しても、ラップの影響は大きいと思いますね。
日本に限らずですけど、ラッパーがラップをやっているうちに歌メロに近づくのと同じように、ソングライティングをして歌を歌う人のメロディにも、確実にラップの影響が現れている。
たとえば、歌の中に2拍3連っぽい譜割りが出てきたり、音程があまり動かないAメロが多くなったり。それは明らかにラップの影響だし、最近急に起こったことというよりは、もう10年以上続いていることだと思います。僕が作曲するときにも、メロディを考えるとき、「ラップっぽくしよう」という意識はなくとも、知らず知らずのうちにラップの影響を受けて変形したメロディだなと自分で感じるものはありますからね。

冨田ラボ(トミタラボ)
音楽家、音楽プロデューサー。冨田ラボとして今までに6枚のアルバムを発表、最新作は2018年発売の『M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”』。音楽プロデューサーとしても、数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供。音楽ファンに圧倒的な支持を得るポップス界のマエストロ。
―去年、冨田さんがプロデュースされたbirdさんのアルバム『波形』は、「語るように歌う」ということや、「言葉とリズム」という部分にフォーカスされていたと記事で読みました。そういう部分も、どこか今のお話と繫がるところがあるのかなと。日本語のポップスの自然な形が、徐々に変形していっているというか。
冨田:birdさんはご自身で作詞をなさる方だから、メロディと、言葉のもともと持っているリズムの乗せ方にすごく意識的だったんだと思います。もちろん、そういうこととはまったく関係のない、いわゆるJ-POP的なメロディの音楽は今もあるんだけど、そことは離れた、いわゆる洋楽的なというか、ラップの影響を受けたメロディに意識的であれ無意識的であれ近づいているアーティストは多いような気はしますね。
リリース情報

- Ryohu
『DEBUT』初回限定盤(2CD) -
2020年11月25日(水)発売
価格:4,180円(税込)
VIZL-1824[CD1]
1. The Moment
2. GMC
3. Heartstrings
4. You
5. Tatan's Rhapsody
6. Somebody Loves You
7. No Matter What
8. Foolish
9. Anytime, Anywhere, Anyone
10. True North
11. Level Up
12. Eternal
13. Rose Life[CD2]
1. Flower
2. Thread
3. Cloud

- Ryohu
『DEBUT』通常盤(CD) -
2020年11月25日(水)発売
価格:3,300円(税込)
VICL-654381. The Moment
2. GMC
3. Heartstrings
4. You
5. Tatan's Rhapsody
6. Somebody Loves You
7. No Matter What
8. Foolish
9. Anytime, Anywhere, Anyone
10. True North
11. Level Up
12. Eternal
13. Rose Life
プロフィール

- Ryohu(リョフ)
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ヒップホップクルー・KANDYTOWNのメンバーとしても活動するラッパー / トラックメーカー。10代より音楽活動を始める。OKAMOTO'Sのメンバーと共にズットズレテルズとして活動。2016年、KANDYTOWNとして1stアルバム『KANDYTOWN』をリリース。2017年にはソロとして本格始動し、EP『Blur』(2017年)、ミックステープ『Ten Twenty』(2018年)を発表。Base Ball Bear、Suchmos、ペトロールズ、OKAMOTO'S、あいみょんなど様々なアーティストの作品に客演する。2020年11月、1stアルバム『DEBUT』をリリースした。

- 冨田ラボ(とみた ラボ)
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音楽家、音楽プロデューサー。冨田ラボとして今までに6枚のアルバムを発表、最新作は2018年発売の『M-P-C “Mentality, Physicality, Computer”』。冨田ラボの元に今の音楽界に欠かせないアーティストたちが集結、次の時代のPOPSを提示する名盤として話題となる。音楽プロデューサーとしても、キリンジ、MISIA、平井堅、中島美嘉、ももいろクローバーZ、矢野顕子、RIP SLYME、椎名林檎、木村カエラ、bird、JUJU、坂本真綾、夢みるアドレセンス、Uru、藤原さくら、Negicco、鈴木雅之、VIXX、スガシカオ、新しい地図、Naz、kiki vivi lily、高野寛、数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供する他、自身初の音楽書「ナイトフライ -録音芸術の作法と鑑賞法-」が、横浜国立大学の入学試験問題にも著書一部が引用され採用されたり、音楽ファンに圧倒的な支持を得るポップス界のマエストロ。