アイナ・ジ・エンドの心の内を込めた『THE END』 亀田誠治と語る

BiSHのアイナ・ジ・エンドが、初のソロアルバム『THE END』をリリースした。

アルバムは、収録された全12曲すべての作詞作曲をアイナ自らが手掛けた1枚。2018年9月にリリースされたソロデビュー曲“きえないで”でもタッグを組んだ亀田誠治が、既発曲“死にたい夜にかぎって”以外全曲の編曲とサウンドプロデュースを担当している。

BiSHとしての活動と並行し、天性のハスキーボイスを活かしてボーカリストとしても活躍するアイナ・ジ・エンド。ソロ活動は彼女の「本心」を綴る場として、どんな意味合いを持ったのか。コロナ禍の制作環境は楽曲にどんな表情をもたらしたのか。

アイナ・ジ・エンドと亀田誠治の2人に、心血を注いで作り上げた1枚を語ってもらった。

亀田誠治が、椎名林檎をカバーしたアイナの歌声に感じた衝撃。「『人類、進化したな』と思ったんです(笑)」

―まずは亀田さんとアイナさんが出会ったきっかけについて教えてください。

亀田:2018年の『VIVA LA ROCK』というフェスですね。フェスの中で「VIVA LA J-ROCK ANTHEMS」という、J-POPやJ-ROCKの名曲をアーティストが生演奏でカバーするというステージがあって、そこで椎名林檎さんの“本能”をやりたいというアイデアが出てきた。「誰が歌うのがいいだろう?」という話の中で、僕とスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)の加藤(隆志)くん、ピエール中野(凛として時雨)、残念ながら亡くなってしまった津野米咲(赤い公園)というメンバー全員一致でBiSHのアイナちゃんがいいという話になって、それでオファーしました。

そのステージで僕は初めてアイナちゃんのソロの歌声を聴いたんですけれど、それが正直、本当に素晴らしくて。「人類、進化したな」と思ったんです(笑)。それまで、林檎さんの曲をカバーすることを自分の中で封印してきたんですよ。それはオリジナルを超えられない気がしていたから。でもアイナちゃんとのステージで、初めて超えられた気がした。それくらい素晴らしいパフォーマンスでした。

亀田誠治(かめだ せいじ)
1964年生まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。2019年より自ら実行委員長を務める日比谷音楽祭を開催。同年、世界に挑む若手音楽家とアスリートや彼らを支え育成に努めるコーチ、その発展・改革に挑むリーダーに贈られる「第2回服部真二賞」を受賞。

アイナ:あの時は緊張しすぎて直前まで胸をさすってたんで、過呼吸の人みたいになってました。でも、いざステージに上がってみたら、一人ひとりパワーがすごくて。演奏しているというよりみんなで歌ってるくらいの熱量があって、すごく心強かった。その頃は1人で歌った回数もそんなになかったので「こんな世界があるんだ」みたいに感じました。ありがたい経験でした。

アイナ・ジ・エンド<br>“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。全曲作詞作曲の1st AL
アイナ・ジ・エンド
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。
全曲作詞作曲の1st AL"THE END"を2021年2月3日にリリースし、ソロ活動も本格始動。

―2018年9月にはソロデビュー曲“きえないで”がリリースされています。これも亀田さんのプロデュースですが、『VIVA LA ROCK』の手応えから話が進んでいったんでしょうか。

アイナ:そうですね。お忙しいですし、安易にお声がけできるような方ではないとは思うんですけど、私も「亀田さんじゃなきゃイヤだ」って思ってたし、社長の渡辺淳之介(WACK代表取締役)さんも「亀田さん以外はない」っていう強い意見があって。沢山打ち合わせをして、お願いしようということになりました。

アイナ・ジ・エンド“きえないで”MV

―“きえないで”はアイナさん自身が作詞作曲した曲ということですが、亀田さんはソングライターとしてのアイナさんには、どんな印象がありましたか?

亀田:“きえないで”はアイナちゃんが生まれて初めて作曲した曲なんだよね?

アイナ:はい、そうです。

亀田:どの曲も、そういう曲の誕生のストーリーや背景になることを、アイナちゃんの口から丁寧に話してくれるんです。デモ音源は本当にボイスレコーダーで録った日常のメモみたいなものなんですけれど、そこにすら1人の人間の人生が詰まってるみたいな感じがあって。アルバムもそうなんですけど、“きえないで”のときは、とにかく「この子はやっぱりすごいんだ」と思いました。音源はすごくプリミティブなんだけど、めちゃくちゃアーティストとしてのポテンシャルがある。下手すると火傷するくらいの熱量を感じました。

取材はリモートで行なわれた

BiSHで担う振り付けと、ソロでの曲作りの違い。「絶対に言いたくないことばっかり歌にしています」(アイナ)

―アルバムの制作はどんな風に始まったんでしょうか。

亀田:“きえないで”の時点では、アルバムの話は僕のところには届いていなくて。『VIVA LA ROCK』で出会って「次世代はこの子に任せる」みたいな気持ちを、作品として爪痕に残せて、そこで一度完結してるんです。そこから時間が経って、2020年の夏くらいにアルバムのプロデュースのお話を改めていただきました。

―アイナさんはBiSHのメンバーとしての活動と並行してずっと曲作りをやってきたということなんでしょうか?

アイナ:そうですね。前に渡辺さんと個人面談したときに、「アイナはどうなりたいのか?」って言われて。「歌を歌っていきたいです」って言ったら「だったら曲を自分で作って歌うのが一番いい」って言われたんです。

で、その時はアルバムの話もなかったんですけど、とりあえず3日に1回曲を作って渡辺さんとエイベックスの人に送ろうと思って。結局そんなにコンスタントにはできなかったんですけど、曲ができて送るたびに、渡辺さんから「お前は暗い曲しか書けないのか」とか「もっとBPMを速くしてみたら」とかメールで返事をいただいたり、エイベックスの人からも「こういう曲はいいね」とか返事をもらえるんです。それでやる気が出て、とりあえず何曲か揃った時点でエイベックスの人に「アルバムを出そう」って言われました。それが去年の6月ぐらいですね。

―アルバムを出すというような目的とは関係なく曲作りをやってきたわけですね。

アイナ:そうですね。そもそも世に出る予定もなかったんですけど、曲を作ることで自分も救われる気持ちがしていたので、ちょいちょいやってました。踊っても、友達に話しても、何も楽にならなかったことが、自分で曲に乗せて言葉にして歌ってみたりすると、なぜか楽になる瞬間があったりする。それに気付いてから、曲作りは大切な時間になりました。

―アイナさんはBiSHの振り付けも担当しているわけですが、振り付けを考えているときと作詞作曲するときで、自分の中でのモードの違いはありますか?

アイナ:全然違います。振り付けに関しては、人が愛されるポイントとか、この人のこういうところは美しいな、格好いいなって思う仕草の延長線上が振り付けになるんです。でも、歌は全然違っていて。音楽を作るのはまだ勉強中で、セオリーも全然わかってないし、それこそ亀田さんの編曲がなかったら本当にボイスメモくらいのものですけれど。

―アルバムを聴いて感じたんですが、アイナさんにとって振り付けは人のチャームポイントを引き出す仕事で、それとは逆に曲を作るのは自分の中にあるあまり人に見せたくない部分とか、普段はなかなか言えないことを形にする作業、という真逆の感じがあるんじゃないでしょうか?

アイナ:本当にそうですね。絶対に言いたくないことばっかり歌にしています。

「アイナちゃんの曲に対してはセオリーを超えるようなアプローチが自由にできるんです」(亀田)

―亀田さんはそれを受け取って、どういうイメージで曲にしていったんでしょうか。

亀田:プリミティブとはいえ、曲が育っていく先みたいなものは、アイナちゃんからの念のようなもので授かっている気がするんですよ。僕はアイナちゃんの現場ではものすごく自然にトラック作りをやることができていて。僕自身、なかなか開けられないゾーンというのがあるんです。アーティストによってはこのゾーンを開けるとちょっと行きすぎてデンジャラスになってしまうような部分がある。アイナちゃんの場合はそこが遠慮せずにどんどん開けられるんですね。音色にしても音の激しさ一つにしても、アイナちゃんの曲に対してはセオリーを超えるようなアプローチが自由にできるんです。

アイナ・ジ・エンド『THE END』を聴く(Apple Musicはこちら

―亀田さんとしては、アルバムを制作していく中でキーになると思った曲はありましたか?

亀田:何回かにわかれてデモが届いたんですけれど、その中には書き下ろしたばかりの曲も、“金木犀”のように6年前に書いた曲もあって。僕の中では1曲1曲に本当に愛着があります。だから1曲選ぶようなことは難しいんですよ。自分でもなぜこんなに愛着があるんだろう? って考えたんですけど、コロナ禍で制作が始まったっていうことが大きい気がします。

“きえないで”は僕のところにアイナちゃんが来てフェイス・トゥ・フェイスで細部まで語り合ってから作りましたけど、今回のアルバム曲はリモートでの打ち合わせだけで作っていった。もちろんその時に話はするんですけれど、基本的には2、3曲トラックを作って、それにボーカルを入れてもらって、みたいなことを何回か繰り返していく中で作っていったんです。だから、圧倒的に、届いた曲と歌詞そのものを信じるしかない。一方で、僕は音で見せるしかない。そうやってやり取りしながら作っていったんです。

―これまでの制作環境とは違っていた。

亀田:そう。最初はプリミティブな音源と歌詞が届く。そこから、それだけを頼りに、僕は自分の全力を投入してその曲に向き合う。で、本番のボーカルが乗るときに、初めていろんな話をする。歌詞についても、毎回「これはどういう気持ちで作った歌なんですか」とか「ここの歌詞はどういうこと?」みたいなのを訊いて、そうすると、アイナちゃんは、その曲のストーリーを話してくれる。だから、1曲1曲に対しての向き合い方が刹那的かつ濃密なんですよ。今日このタイミングで聞かなきゃ、今日このタイミングで作らなきゃ、っていう覚悟でやってるんで。僕の中では一つひとつの機会が一期一会でした。

コロナ禍の不自由な環境で行なわれたアルバム制作。なかなか会えないからこそ、濃密なコミュニケーションが生まれた

―アレンジやバンドでのレコーディングはどうでしたか?

亀田:どうやったらリモートの状況でバンドサウンドを活かせるかというプロデューサーとしての危機感もあって、何年か前から自分の仲間たちと始めていたリモートでのレコーディング環境をフル動員しました。

スタジオに入ったのはストリングスを録ったときを含めて2回くらいですね。あとは基本的にリモートでやりとりをして作っていった。だから、スタジオに入って「今日はいいレコーディングだったね」って言って1日で作り終わるんじゃなくて、一曲一曲に時間がかかって、熟成されていて。なおかつ、アイナちゃんと会話ができるのは一期一会。そこで全部を感じ取らなきゃいけない。そういう「これっきり感」のような気持ちがずっと根底にありました。

―アイナさんは制作状況を振り返ってどんなことを感じましたか?

アイナ:本当だったらもうちょっとお会いして話をできてたんだと思うんですけれど。でも、リモートでしかお話できなかったからこそ、私も「今日このタイミングで亀田さんにこの話を聞こう」とか「この話は絶対に言おう」とか、そういう風に向き合ってました。そうやって人に会うのってあんまりなかったんですけれど、一緒にいる時間が大切に思えたし、濃密でした。逆によかったかなとか思います。

―これは聴いた側の印象ですが、アイナさんの曲は、どの曲にもすごく切実さがある気がするんです。自分の内側にある心情が曲になっている。そういう曲だからこそ、「このタイミングで伝えなきゃいけない」っていうコミュニケーションが影響して、サウンドの切実さにも繋がっている気がしました。

亀田:それは僕も実感しています。たとえば“金木犀”の間奏はベースソロを弾いてるんですけれど、僕自身もベーシストとしてのベストパフォーマンスが出てくるんですよ。コンピューターの前に座って1人で弾いてるにもかかわらず、アイナちゃんに引き出されるようなものがあって。そこが相乗効果になっているんだと思います。

ボーカルのレコーディングのときも、本当に歌に力がこもっていて、歌のアベレージも本当に高いんで、だいたい2時間ぐらいで1曲終わっちゃうんです。その間に、歌詞のことを話したり歌のことを話したり、「この1週間何があった」みたいな話をしたり。そういう密度が濃いんです。かと言って、お互い忙しいんだから1日に2曲録りましょうとか、1日でまとめてレコーディングしましょうということにはなれない。僕もアイナちゃんも本気だから、無理なんですよ。それをやると命が終わっちゃいそうなくらい、本気で向き合ってる時間でした。

アイナ:BiSHだと多くて1日3曲歌ったりするんですけど、6人いるので、自分の声が全部採用されるわけじゃないのをわかった上での歌録りなんです。全力ではあるけれど「ここはチッチが歌うから歌わなくていい」というところもあって、だからこそ3曲録れるんですけど。1人で歌うとなると、1曲歌い切るのでも精神的な疲労感があるので、これを3曲やるのは無理だなって思います。あと、亀田さんとレコーディングしてると、言ってくれることが多くて、メモがノートにびっしりになって。それもあって、1曲やるのがギリギリでした。このやり方は、本当にすごく良かったです。

亀田:アイナちゃんは、ちゃんと逆算して、レコーディング当日の何時に起きて声出しをしたり、曲によっては喉を開きすぎない方がいい場合もあるんですけれど、そういうことも自分で考えながら、しっかりコンディションを整えてくるんです。それくらいの覚悟を持って臨んでくれる。だから、楽しい一方で、良い意味でのピリッとした緊張感みたいなものがずっとあった感じがします。穏やかな中、空気は透明で、だからこそしっかりと透明な気持ちで臨まなきゃいけないみたいな。そういう気持ちはお互い保てたような気がします。

―先行配信された“虹”は非常にダークでヒリヒリとした感触が印象的な曲ですが、これはどういう風に作った曲なんでしょうか?

アイナ:これは自粛期間中に映像監督の山田健人さんに「もし東京ドームに立ちたいんだったらTHE YELLOW MONKEYのドキュメンタリーを見た方がいい」と言われて、見たんです。そうしたら「自分は何をやってるんだ!」って思って。東京ドームに立ちたいって言ってた自分がすごく情けないっていうか。スターしか立っちゃいけないところなんだっていうのを改めて実感して。何かしなきゃと思って作った曲でした。希望に満ち溢れた感じじゃなかったですね。すごく混沌とした気持ちが“虹”になりました。

亀田:これもボイスメモで届きました。アイナちゃんも「お経のような始まりですいません」ってメッセージが添えられていて。でも、すぐにサウンドスケープが思い浮かんで、トラックの方向性が見えました。デモは打ち込みで送ったんですけれど、歌入れの時に生音のバンドサウンドに差し替わったのをアイナちゃんが聴いた瞬間に「きゃーっ!」って喜んで。間奏に入るところでスクリームしてみようとか、楽器のみんなが炸裂してるから私も炸裂しますとか、いろんな歌い方のアイディアを出してくれて。ゴールで伸びた感じがありますね。僕も本当に大好きな曲です。

アイナ・ジ・エンド“虹”MV

―“金木犀”についてはどうでしょうか? これはだいぶ前にあった曲ということですが。

アイナ:これはBiSHに入って2週間くらいのときに作った曲でした。私は渡辺さんにも松隈(ケンタ、BiSHのサウンドプロデュースを手掛ける)さんにも「こいつはBiSHにいらない」みたいな感じで受かっちゃったので、当時はそんなに居場所を感じられなくて。今より子供だったし「私なんて」みたいに思って拗ねてたんです。そういう風にずっと泣いて暮らしていたころに作った曲で。秋になるくらい、金木犀が揺れる頃には渡辺さんとか松隈さんとかうまくいったらいいなって。最初のテーマはそんな感じでした。

その時にスキップしながら歌って元気を出そうって思って。スキップしながら作ったんで自然と3拍子になってたんですけど、それに気付かずに歌いきったら“金木犀”ができました。

アイナ・ジ・エンド“金木犀”MV

―“NaNa”に関してはどうでしょう?

アイナ:この曲は仮タイトルが“小松菜奈にラブリー”なんです。サビも最初は「♪小松菜奈にラブリー」って歌っていて。とにかく小松菜奈ちゃんが好きだっていう、それだけの歌なんです。もし亀田さんがアレンジしてくれてなかったら、本当に世に出せない、ただのオタクの叫びで(笑)。

亀田:これ、もう一つのアイナちゃんの最大の魅力なんですよ。たとえば「小松菜奈ちゃんのここが可愛い」とか、いろんな可愛いポイントを探すのがすごく上手い。それは人だけじゃなく、音楽にも、生き物やモノに対してもそう。心の闇みたいな部分を吐き出してるだけじゃなくて、キュートなもの、自分がいいと思ったものをちゃんと吸収した結果アイナ・ジ・エンドというアーティストになっている。

「『がんばろう日本』みたいな曲は1曲も書けなかったんですけど。『がんばろう、友達』くらいの感じで聞いてくれたら」(アイナ)

―全曲を一球入魂で作っていったとは思うんですが、アイナさんの中で特に思い入れのある曲は?

アイナ:自分が一番好きなのは“ハロウ”という曲で。デモと完成した曲が全然違っていたんですね。デモはゆったりした曲だったんです。でも、亀田さんが、そのデモのアレンジのおかげで今のアレンジを呼んだんだよっていう言葉をくれて。「『呼んだ』ってなんだろう?」って思ったんですけれど、音楽って音楽を呼ぶこともできるんだっていうのを知って、自分になかった着眼点が増えた。亀田さんの演奏も格好よくて、自分で振り付けをして踊ったりしてるんです。それくらい“ハロウ”は大好きですね。

アイナ・ジ・エンド“ハロウ”を聴く(Apple Musicはこちら

亀田:これは完全に僕の自由演技です。僕が「こうしたい」って思ったことしかやってないです。でもさっきアイナちゃんが言った「呼ばれてる感じ」っていうのは、本当にあって。意図も何もなく、コンピューターと向き合いながら音楽を作る時間が増えたこの自粛期間中に、自分の中でこの状況でもハッとするものを本能的に求めていた。そういうところもあって出てきたかもしれない。そういった意味では、デスクトップから生まれたスリリングさだとは思いますね。

―これは批評家的な見方でいうと、すごく今っぽいと思いました。世界的にコロナ禍の環境でどうエモーションを表現するかということをいろんなアーティストがトライしているムードが結果的にトレンドや潮流になっているとも言えるわけで。“静的情夜”もそういうタイプの曲だと感じました。

亀田:そうですね。とはいえ、今の音楽のトレンドを意識してるっていうことではなくて、今あるこの環境の中で最大限のグラデーションを表現するにはどうすればいいか、単純に今の自分がいい感じと思えるかどうかを突き詰めたらこうなったという感じです。

“静的情夜”に関しては、歌詞も面白くて、仮タイトルが“ヴィレッジヴァンガードの女”だったんですよね。そういう話のツボのポイントが共有できるのもあって。「わかる、こういう女性、いるよね!」って(笑)。

アイナ・ジ・エンド“静的情夜”を聴く(Apple Musicはこちら

―“スイカ”はどうでしょうか。これもアルバムを締めくくるバラードとしてすごく大事な役割を持ってると思うんですが。これはどういう風に作っていった曲ですか?

アイナ:“スイカ”も大好きな曲です。これは原型は8年ぐらい前に書いた曲で。その時はお客さんが1人とか5人しかいないのが当たり前だったんです。そういう曲を大好きな亀田さんにアレンジしてもらえること、ファンの人に聞いてもらえること、それを5人以上のお客さんの前で歌えること、その全部に現実味がなくて。そういう気持ちを汲み取ってくださったのか、アレンジにも感動しました。これからもずっと大切に歌っていきたい曲の一つです。

アイナ・ジ・エンド“スイカ”MV

亀田:まず、この曲をアレンジしてほしいっていうときに“スイカ2020”って書いてあって。「2020ってどういうことですか?」って訊いたら、実はBiSHに入るオーディションで歌った楽曲という話で、友達と作ったYouTubeのMV映像も見せてもらって。「なるほど、この間にアイナちゃんはアイナ・ジ・エンドになったんだな」と思ったんです。だから、元の曲が生まれた時にあった良い部分は残そうって言いました。全部変えるんじゃなくて、あの頃のアイナも今のアイナ・ジ・エンドも、1人の人間としてつながっている、そういう連続性を感じられるものにしようと。

―アイナさんはどうでしたか? BiSH以前の自分と同じ気持ちで歌えた実感はありましたか? それとも何か変化がありましたか?

アイナ:サウンドは変わったんですけれど、歌っている心情は変わってなかったです。でも、そこにもいろんな葛藤があって。曲中でもそれを歌っているんです。

昔は夕日を観ただけで泣いてたり、クラシックピアノが綺麗で大阪に帰りたくなったり、感性がすごく鋭かったんです。でも、6年で大人にもなったし、夕陽を見ても泣かなくなったし、「私の感性は死んだのかな」みたいに思ったときがあって。でも、もし感性が死んでたとしたら、こうやって亀田さんと一緒に音楽を作ったりできてないだろうし。独りよがりでそう思ってる自分が情けないというか、全然生きてるわって気付いて。いい意味でも、悪い意味でも、変わってなかったです。

―わかりました。最後に、アイナさん、亀田さん、それぞれアルバムが完成してどういう思いや実感がありますか。

アイナ:この1年、コロナで当たり前だった日々が全部なくなって。普通に会えてた友達にも会えなくなったり、「あの子、生きてるのかな」なんて、今まで考えたこともないことばかり考えて生きてたんですよ。でもそんな中だからこそ人を大切に思う感情も強かった。亀田さんと一緒にアルバムを作れたことっていうのは、私にとってすごく、奇跡くらいの出来事で。去年じゃなかったら生まれてない曲も沢山あったりしたので。

今は世界的にも悲しいことが多い時期だと思うんですけど、だからこそ聴いてほしい曲たちが一杯あるので、このタイミングで届くといいなって思います。かといって、「がんばろう日本」みたいな曲は1曲も書けなかったんですけど。「がんばろう、友達」くらいの感じで聞いてくれたらいいなと思います。

亀田:僕自身もこの1年で様々な思いを経験する中で、制約のあった環境だからこそ、アイナちゃんと2人で一緒に作りきった手応えがある。楽曲のクオリティは勿論ですけれど、今日お話しした途中の濃密な過程も含めて、僕の中でも、アルバムという単位がこの世の中に存在し続ける限り、自分の代表作と思える1枚になったと思います。

リリース情報
アイナ・ジ・エンド
『THE END』初回生産限定盤(2CD+Blu-ray)

2021年2月3日(水)発売
価格:11,000円(税込)
AVCD-96646/7/B

[CD1]
1. 金木犀
2. 虹
3. NaNa
4. 粧し込んだ日にかぎって
5. ハロウ
6. きえないで
7. 日々
8. STEP by STEP
9. 静的情夜
10. 死にたい夜にかぎって
11. サボテンガール
12. スイカ

[CD2]
1. 20-CRY- / アイナ・ジ・エンド [from 加藤ミリヤトリビュートアルバム『INSPIRE』]
2. 不便な可愛げ feat. アイナ・ジ・エンド / ジェニーハイ
3. 光の涯 feat. アイナ・ジ・エンド / SUGIZO
4. SING-A-LONG feat. アイナ・ジ・エンド / DISH//
5. 2 FACE / MY FIRST STORY
6. Bacteria / SEXFRiEND [from『hide TRIBUTE IMPULSE』]
7. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
8. パート・オブ・ユア・ワールド / アイナ・ジ・エンド [from『Thank You Disney』]
9. Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid
10. TO THE END feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid

[Blu-ray]
・a-nation 2020
1. スパーク
2. 死にたい夜にかぎって
3. きえないで
・HINA-MATSURI 2020
1. SMACK baby SMACK
2. きえないで
・GREEN ROOM FESTIVAL'18
1. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
2. 光 [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
・Music Video
1. 金木犀
2. 虹
3. 死にたい夜にかぎって
4. きえないで
・スペシャルコンテンツ『アイナのすべて』

アイナ・ジ・エンド
『THE END』Music盤(2CD)

2021年2月3日(水)発売
価格:4,290円(税込)
AVCD-96648/9

[CD1]
1. 金木犀
2. 虹
3. NaNa
4. 粧し込んだ日にかぎって
5. ハロウ
6. きえないで
7. 日々
8. STEP by STEP
9. 静的情夜
10. 死にたい夜にかぎって
11. サボテンガール
12. スイカ

[CD2]
1. 20-CRY- / アイナ・ジ・エンド [from 加藤ミリヤトリビュートアルバム『INSPIRE』]
2. 不便な可愛げ feat. アイナ・ジ・エンド / ジェニーハイ
3. 光の涯 feat. アイナ・ジ・エンド / SUGIZO
4. SING-A-LONG feat. アイナ・ジ・エンド / DISH//
5. 2 FACE / MY FIRST STORY
6. Bacteria / SEXFRiEND [from『hide TRIBUTE IMPULSE』]
7. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
8. パート・オブ・ユア・ワールド / アイナ・ジ・エンド [from『Thank You Disney』]
9. Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid
10. TO THE END feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid

アイナ・ジ・エンド
『THE END』CD盤(CD)

2021年2月3日(水)発売
価格:3,300円(税込)
AVCD-96650

1. 金木犀
2. 虹
3. NaNa
4. 粧し込んだ日にかぎって
5. ハロウ
6. きえないで
7. 日々
8. STEP by STEP
9. 静的情夜
10. 死にたい夜にかぎって
11. サボテンガール
12. スイカ

プロフィール
アイナ・ジ・エンド

“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。天性のハスキーボイスとエモーショナルなパフォーマンス、表現力が高く評価されMONDO GROSSO、SUGIZO(LUNA SEA)、ジェニーハイ他、数々の外部アーティストとコラボや、企業TVCMソングを担当する等、業界内の評価も高い。2020年2月3日に、約1年に及ぶ制作活動から生まれた本人作詞作曲による全12曲を収録した初のソロアルバム「THE END」のリリースが決定。いよいよソロ活動を本格化。2月19日より初のソロツアーを名古屋、大阪、東京で開催。チケットは既に全公演即日完売。2021年、最も注目の表現者。

亀田誠治 (かめだ せいじ)

1964年生まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。2007年第49回、2015年第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。2019年より自ら実行委員長を務める日比谷音楽祭を開催。同年、世界に挑む若手音楽家とアスリートや彼らを支え育成に努めるコーチ、その発展・改革に挑むリーダーに贈られる「第2回服部真二賞」を受賞。



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