インタビュー

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

君島大空が照らす、生の暗がり 明日を繋ぐよう裸の音で語りかける

インタビュー・テキスト
天野史彬
撮影:松永つぐみ 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)
2021/04/26

「生きていてほしいし、生きていたらまた会える」

―すごく大きな出来事ですよね、それは。

君島:そうですね。……なんというか、「生きていてください」と言いたくて音楽をつくっているような気が最近すごくしていて。作品を世に出してから、「死にたいなと思っていたけど、その度に君島さんの曲を聴いて救われています」ということを何人かの人から言ってもらったことがあって。

そういう言葉を聞くと、「ああ、よかったな」って思うんです。特に『午後の反射光』って、そういう人を救えなかった自分が、どこか作品のテーマにあったんですよ。

君島大空“遠視のコントラルト”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

君島:それがいま、ひとりの人に対してでも「生きていてください」と言えるものになっているものであれば、よかったなと思う。生きていてほしいし、生きていたらまた会えるし。

―そうですね。

君島:……でも、「生きたい」と「死にたい」って、極端な欲求なんですが、強烈に同居しているなと思うんです。生死に関わらず、強烈な感情の二極が発作みたいに自分に対して見えてしまうことがよくあって。最近あったのは、めちゃくちゃぶん殴ってほしいし、ぶん殴るのと同時に、めちゃくちゃ撫でてほしいってことで(笑)。

どちらかだけじゃ絶対にダメで、セットじゃないと嫌なんです。いまよくわかんない話をしてるかもしれませんけど(笑)。すごく好きな人に対しても喧嘩なんかしたら「消えてしまえ!」と思うときもあるし、その次の瞬間に「僕が消えてしまえよ!」と思って、自分を殴っていたり……矛盾を抱えているのが人の常態なのだろうなと、最近はそんなことを、起きている間はずっと考えている気がします。

君島大空

海という存在に抱くシンパシー。境界線の上に立ち、「あわい」そのもののような音と声と言葉を紡ぐ

―それでいうと、さっき言っていた「海は見たくないけど、海のそばにいたい」という感覚もなかなか複雑そうですよね。

君島:海を見たいと思うこともよくあるんですけど、「そこに海があります」というところにいたい(笑)。そうすると、すごく安心するんです、昔から。海が見えてしまうとワクワクが終わっちゃう感じがあって。

この前、「海って、いろんなものの境目だから落ち着くのかな」って友達と話をしていたんです。海は命の源でもあるし、死んで帰っていく場所でもあるだろうし。その境界が浜辺だと、その友人は言っていて。死と生が当たり前にある場所。そういうところが自分を安心させてくれるのかなって思います。

―なにかとなにかの境界線や狭間にいる感覚って、君島さんの音楽に根深く刻まれているものでもあると思いますね。

君島:ああ、そうかもしれないです。境界線って、言葉からイメージにすると1本の線みたいな感じだけど、ぼくの思う境界線って、それこそ浜辺のような、ストロークがすごく長い帯のような、余白のようなものなんですよね。

「あっち」と「こっち」の間にある余白、空白……そこにあるもの、そこにいること、自分の音楽ってそういうものなのかなと最近思います。

君島大空“きさらぎ”を聴く(Apple Musicはこちら

君島:「あわい」に自分がいること、そこから声を出したり音を出したりすることが自分の仕事というか、自分の生命活動として、すごく自然なことなんだと思います。

人が心の内に隠してしまっている部分を愛おしく思うからこそ、君島大空には歌えることがある

―君島さんの音楽を聴いて、「自分」という存在のなかにもさまざまな境界線があることに気づく人は多いんじゃないかと思うんですよね。少なくとも、ぼくはそうでした。

君島:すごく抽象的な言い方になるんですが、ぼくは人と、何かを共有しようとすることが極端にできない気がしていて。でも、そんなことは誰にもできはしないんじゃないかって最近思います。ほとんどのことは共有できないんじゃないかって。最近気づいて、「悲しいな」と思ったんですけど。

どんなに仲がよくても、一緒に何かをつくっていても、価値観や感情でできた見えない自分の塊の、その30パーセントくらい共有できたらたぶんいいほうで、それ以外はほとんど共有なんてできない。誰もが言葉を過信しすぎているし、ぼく自身そうだった。人って、本当に誰ともわかり合えないんだろうなって思ったんです……強く。

言葉への諦めみたいなものを、すごく感じていて。でも、それでも、みんなが……「みんな」という言い方にも違和感があるんですけど、その、すごく底のほうに共通項がある気がするんです。

本当に誰にも言えないこととか、自分のなかで「人に言うにはくだらないことだ」と思ってしまったり、「大人だからこの気持ちはしまっておこう」と思ってしまったり、それだけの理由で、死ぬまで誰にも言えないことが人にはきっとあると思う。それはすごく些細なことなんだけど、ぼくはそういう打ち明け話のようなことを人から聞きたいし、人のそういう部分をすごく可愛いと思う。

君島大空“白い花”を聴く(Apple Musicはこちら

―うん。

君島:どんな音楽を聴いていても、「自分の、ここだけはやっぱりどうしても救ってもらえないんじゃないか」と思う、見えてしまう部分がいくつか明確にあって。でも、つくっている人と自分は違う人間だから。決して全ての音楽にその救済に似たものを求めているわけではないんですけど、ぼくは自分の音楽に、自分の「そこ」を救ってほしいから音楽をつくっているんだと思うんです。だから、すごく自己満足的な話なのかもしれないけど、まずは自分でそこを救えると思えるものをつくらないといけない。

まず圧倒的に、自分に向けてつくっているんだろうなと思う。……でも、遠く離れた誰かが内に隠してしまっている部分に、ぼくの音楽がもし入り込むことができるのだとしたら、それはすごく嬉しい、奇跡のようなことだなと思うんです。入り込んだあと、どうなるのかは、わからないけど。

君島大空“銃口”を聴く(Apple Musicはこちら

―“光暈(halo)”で、<聴いて>と歌うじゃないですか。歌詞としてすごく強い言葉だと思うんですけど、君島さんが歌うと、ある一方向へ向かうものとしてその言葉は歌われていないような気がして。この<聴いて>は、境界線から、その内側にも外側にも、あらゆる方向に向けて優しく発せられている感じがするんです。そこが、すごく心地いいなと思います。

君島:「自分には使えない」と思っていた言葉がたくさんあるし、それはいまもたくさんあるんですけど。いままで<聴いて>なんて怖くて書けなかった。自分が歌おうとすると「聴け!」みたいなことになっちゃうかもしれないと思い込みすぎたり、そうなってしまうことが怖くて使えない言葉がいっぱいあって。

たとえば、「愛してる」もそうです。でも最近は、自分の根本は絶対に変わらないし、ぼくが言えば、ぼくの響きになるんだろうなと思えている。だから書けたんだろうなと思う。本当に聴いてほしいから、<聴いて>と書けたんだと思います。

君島大空
君島大空『袖の汀』を聴く(Apple Musicはこちら

君島大空『袖の汀』ジャケット
君島大空『袖の汀』ジャケット(Amazonで見る
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リリース情報

君島大空『袖の汀』
君島大空
『袖の汀』(CD)

2021年4月21日(水)発売
価格:2,200円(税込)
APLS2015

1. 光暈(halo)
2. 向こう髪
3. 星の降るひと
4. きさらぎ
5. 白い花
6. 銃口

プロフィール

君島大空
君島大空(きみしま おおぞら)

1995年生まれ日本の音楽家。ギタリスト。2014年から活動を始める。同年からSoundCloudに自身で作詞 / 作曲 / 編曲 / 演奏 / 歌唱をし多重録音で制作した音源の公開を始める。2019年3月13日、1st EP『午後の反射光』を発表。2019年7月5日、1stシングル『散瞳/花曇』を発表。2019年7月27日『FUJI ROCK FESTIVAL '19 ROOKIE A GO-GO』に合奏形態で出演。11月には合奏形態で初のツアーを敢行。2020年1月、Eテレ NHKドキュメンタリー『no art, no life』の主題曲に起用。同年7月24日、2ndシングル『火傷に雨』を発表。2021年4月21日、3rd EP『袖の汀』を発表。ギタリストとして吉澤嘉代子、高井息吹、鬼束ちひろ、adieu(上白石萌歌)などのアーティストのライブや録音に参加する一方、楽曲提供など様々な分野で活動中。

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