蓮沼執太×和田永 変容する社会の中で、音楽を閉ざさないための実践

2013年、アメリカのロックフェスティバル『Lollapalooza』において、ケンドリック・ラマーは自身のステージに手話通訳を導入した。以降もスヌープ・ドッグやチャンス・ザ・ラッパーが同様の試みを行っている。日本のメディアでも報じられたそうした試みをはじめとして、障がいのある人々に対しても開かれた表現のあり方が世界中で探られている。

日本では今年2月、オンライン型劇場『THEATRE for ALL』がオープン。現代演劇やコンテンポラリーダンスの上演映像、ドキュメンタリー番組が配信されているほか、ワークショップやラーニングプログラムも重視されている。障がいや疾患がある人、日本語以外を母語とする人、あるいは芸術に対して「困難さ」がバリアとなってきた人に対しても開かれているのが、このプラットフォームの特徴だ。

『THEATRE for ALL』のウェブサイトにはこんな一文が記されている――「私たちはこの事業を通じて、より豊かな社会参加の回路を生み出し、自分だけでは気づけなかった世界の捉え方に出会うきっかけを作りたいと考えています」。音楽と表現は、変容する社会とどのような関わりを持つことができるのだろうか。『THEATRE for ALL』のプロジェクトに関わった蓮沼執太と和田永というふたりの音楽家の対話から、そのヒントを探ってみたい。

左から:蓮沼執太、和田永

「音が生まれる前に人がいて、そこには生活があるからね。コロナ禍以降、それが目に見えるようになった」(蓮沼)

―まず、コロナ禍におけるおふたりの活動を簡単に振り返りたいのですが、和田さんは去年の8月、『電磁盆踊り』のオンライン版をDOMMUNEで開催しました。2017年のリアル版『電磁盆踊り』とはだいぶ勝手が違ったと思うんですが、やってみていかがでしたか(編注:『電磁盆踊り』とは、古い電化製品を楽器へと蘇らせた「家電楽器」を用いて祭囃子を奏で、人々が踊る盆踊り大会。捨てられゆく生活家電を供養し、転生を祝う奇祭として、2017年に東京タワーの麓で和田が中心となって実施した)。

和田:あらゆる人がオンラインでできることを模索していたと思うんですよ。コロナ禍では誰もがある種、バリアの当事者になったと言えますよね。物理的に離れている状況で、どう繋がれるかをみんな模索していた。

盆踊りは密になって踊ることに醍醐味があるわけで、DOMMUNEのときは視聴覚に限定されたメディアで「リアル感」をどう打ち出すか考えさせられましたね。当然、オンラインによって削ぎ落とされる情報もあるし、知覚できるのが視聴覚に限定されるので、どうやってフィジカルな感触を表現すべきか頭を悩ませました。「この世とこの世とあの世を繋ぐ」「通信先にはあなたがいる」をテーマに家電の祭囃子を生配信して、見ている人々が「家で盆踊る」という試みとなりました。

役割を終えたブラウン管テレビや扇風機による祭囃子演奏の様子

和田:DOMMUNEでも紹介したのですが、もうひとつ偶然にもこの状況と重なるプロジェクトをコロナ前から立ち上げて取り組んでいました。僕が主宰している「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」という参加型のプロジェクトでは古い電化製品を楽器に改造しているわけですけど、楽器の作り方を書いた設計図と部品をダンボールに詰めて5か国のミュージシャンに送り、それぞれが古い家電を材料に楽器を組み立て、リモート合奏してみようという挑戦でした。

―おもしろいですね。コロナ以前から始めていたことなのに、結果的にコロナ禍ならではの企画になったという。

和田:そうなんです。家電がどこにでもあるなら、「国境無き電磁オーケストラ」ができるんじゃないか、という妄想から始めたことなのですが、ちょうどコロナ禍に突入して人が移動できない中で、設計図が旅して離れた場所に楽器が生まれるということが起きていきました。

それとコロナ禍でいろんな人とネット経由でやりとりをしましたけど、その人の日常が作品にダイレクトに染み出してくる感じがあるんですよね。このリモート企画でも、コロンビアの人は家族や犬がくつろいでる部屋でブラウン管をぶっ叩いて演奏していたりして、彼らの日常がまさに背景にありながら、その延長線上でクリエイションしていく感覚がありました。

蓮沼:音が生まれる前に人がいて、そこには生活があるからね。コロナ禍以降、それが目に見えるようになった。

和田:それはありますよね。あらゆる民族音楽は生活から生まれるものですけど、その根源に立ち返ったような感覚もありました。「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」はその点も想像していて、「現代生活の延長からはどんな民族音楽が生まれるんだろう?」と妄想してきました。コロナ禍でよりそのことに向き合う機会を得ましたね。

和田永(わだ えい)
1987年生まれ。大学在籍中より音楽と美術の領域で活動を開始。2009年より年代物のオープンリールテープレコーダーを演奏するグループ「Open Reel Ensemble」を結成してライブ活動を展開する。2015年より、役割を終えた電化製品を楽器として蘇生させ、徐々にオーケストラ形づくっていく参加型プロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を始動させ取り組んでいる。

―蓮沼さんは、蓮沼執太フィルのメンバー15名がそれぞれが自宅で録音を行い、リモートで完成させた新曲“Imr(In my room)”を昨年5月に発表しました。

蓮沼:一度目の緊急事態宣言が出たあとに行ったアクションのひとつです。我々は普段スタジオで「せーの」で録っているんですね。そもそも合奏ができない環境のなかで、こういうクリエイションもおもしろいかなと。あと、ライブがないからみんな暇なんです(笑)。やることないから曲でも作ろうかと。最初はそれぐらいの感覚でした。

和田:どういう手順で進めていったのですか?

蓮沼:蓮沼フィルの珍しいところだと思うんですけど、みんなプレイヤーであると同時に作曲活動もしているので、自宅で音を録れる環境が整っているんですね。なのでリモートで音のパーツを集め、ベーシックの上に音を重ねていく感じでした。

ただ、普段はエンジニアの葛西(敏彦)さんと現場でマイクの位置や角度をいじりながら調整していくんですが、当然それができないので、録音コンディションがバラバラのものを集めてまとめていくというやり方で。みんな環境が違うので本当にバラバラなんですよ。なかにはどうしても僕と電話で話しながら作りたいという人もいたし(笑)。それがかえって新鮮でした。

―J-WAVEのラジオ番組『INNOVATION WORLD』では、身近な音をリスナーから募集し、蓮沼さんがひとつの曲を作るプロジェクト「STAY HOME & MAKE A SOUND PROJECT」も行われましたね。

蓮沼:社会のムードがコロナ禍以降どうもギスギスしている感じがあって、これが長く続いたらきついなぁと思っていたんですね。息抜きできる人はいいけど、そういう人ばかりじゃない。そういうときに少しでも風通しのいいアクションができればいいんじゃないかと思って、あの企画はやらせてもらいました。家の音を送ってくださいというシンプルな企画でしたけど、楽しかったですね。ちゃんと曲になりました。

蓮沼執太(はすぬま しゅうた)
1983年、東京都生まれ。音楽作品のリリース、蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュースなどでの制作多数。近年では、作曲という手法を様々なメディアに応用し、映像、サウンド、立体、インスタレーションを発表し、個展形式での展覧会やプロジェクトを活発に行っている。

「僕はそれぞれの身体に合わせた楽器が創造されてもいいと思ってる」(和田)

―今回は「音楽とバリアフリー」というテーマでも話を伺えればと思っています。たとえば、盆踊りにはバリアがないとされるけど、実はさまざまなバリアが存在していますよね。身体的なハンデキャップがある人の場合、踊りの輪に入りにくいケースもあります。最近、車椅子専用シートが用意されたホールやライブハウスも増えてきましたが、音楽を取り巻くさまざまな種類の「バリア」がまだまだあると思うんです。

蓮沼:『対話する衣服』を監督した河合(宏樹)くんは「バリアフリーという言葉自体が嫌いだ」と言っていましたね。確かに彼が言うように、バリアフリーといっても誰にとっての「バリア」なのかもわからないし、当事者の方がバリアと感じているのかもわからない。

すべての人が当事者意識を持つのはとてつもなく難しいし、不可能に近いと思うんですね。それにバリアフリーという言葉があまりにも前に出ることで、障がいを持つ方々が一括りにされてしまい、一人ひとりが見えにくくなるところもあると思う。

和田:『対話する衣服』を見て、「そもそも身体は自由なのか?」と考えてしまったんですよ。

たとえば、どこかの星に5万ヘルツまで聞くことのできる宇宙人がいたとしたら、5万ヘルツまで聞けない僕らは「不自由」ということになると思うんです。指が20本ある宇宙人からすると、10本の指でピアノを弾く僕らは「不自由」ということになりかねない。

身体性と道具が結びついて多様な文化が生まれてきたわけですけど、僕はそれぞれの身体に合わせた楽器が創造されてもいいと思ってるんですよ。あるいは逆に身体的限界を超越した楽器が生まれてもいい。『対話する衣服』では実際、それぞれのモデルさんの身体を出発点にこれまでにない服をデザインしていくわけですよね。そういうことがさらに音楽で行われていったらいい(関連記事:音楽や楽器の新しい定義を見つける。ドレイク・ミュージックの実践)。

蓮沼:うん、本当にそう思う。

和田:ヒップホップだってNYブロンクスの持たざる人たちが衝動的に発明してしまった文化ですけど、ある種の制約や障壁のなかから新たな表現が生み出されたわけですよね。全員が全員やるのは難しいかもしれないけど、それぞれの身体や道具でしかできない表現をクリエイションをしていくことに、尊い価値や可能性が渦巻いているように感じますね。

6人のデザイナーが身体・心の異なるモデル6人に向き合うドキュメンタリー映画。なお、蓮沼執太は同作品の音楽と『THEATRE for ALL』のサウンドロゴも手がけている(サイトを開く

芸術文化の前では、誰もが何かしらの「バリア」を感じている

―「バリア」とひと言でいってもさまざまな形をとって社会に存在していて。身体的な話に限らず、経済的な制約や「知識や技術が必要とされること」が障壁になっている場合もあるし、見方を変えればこの話は誰もが当事者でありますよね。

和田:そうですね。たとえば、僕らが演奏しているブラウン管楽器は、演奏にあたって何も確立されてないんですよ。教典もなければ、師匠もいない(笑)。誰もが初心者で、演奏方法は編み出していくしかない、いや、勝手に編み出していける。そういう発想で考えれば、車椅子の人たちも参加できる盆踊りの型を自分たちで作っちゃえばいいと思うんですよ。ある種の桃源郷は仲間を集めてDIYしちゃう。

蓮沼:それもひとつの方法だよね。ハンデキャップを抱えた方と音楽を奏でるという試みは、大友(良英)さんが「音遊びの会」でやられていることでもあるし、鹿児島のしょうぶ学園でも興味深い活動が行われていますよね。言い方が正しいかわからないですけど、どちらもとてもクリエイティブなものになっていると思うんですよ。そういうことが身近なところで行われたらおもしろいですよね。

蓮沼:僕が普段やっていることでいえば、たとえば楽器の奏法ひとつにしても「こうじゃなきゃいけない」という固定概念を少しずつ解きほぐしてみるんです。そうやって固定概念に縛られない楽器や音が、合奏したときにどう響くか。一人ひとりの音があるはずだし、合奏というのは一人ひとりを見ていかないといけないですらね。

和田:一人ひとり違いますからね。

蓮沼:和田くんはエレクトロニコス・ファンタスティコス!でそれを実践してるもんね。

和田:全員音楽ジャンルはバラバラで、「家電」という共通項で繋がっている。でも、そういう身近な共通項で普段出会わないような人たちが繋がることで、アクロバティックな場が生まれている気がするんです。「初めて弾いた楽器が自宅の扇風機」「私が17年間使ってきたエアコンの晴れ舞台を観に来ました」ということが起きていますね(笑)。

和田による鉄工所での滞在制作中、一服しに来た80歳の職人が突然踊り出した瞬間。この後、長年使ってきた工場扇風機を貸し受ける。

蓮沼:人間が作ったものには「型」があるし、みんなで何かをするときにはある種の「社会性」がないと難しいんですよね。

盆踊りであれば、外国の人は入りにくいだろうし、僕らだってジャマイカ人みたいにレゲエのリズムを捉えることはなかなかできない。それを「社会性」とすることもできるだろうし、バリアになっているとも思う。

「型」やルール、メソッドを形作ろうとする「社会性」と、それを乗り越えようとする「人間性」が芸術文化を動かしてきた

蓮沼:ただ、そうしたバリアは大きなところから小さなものまで無限にあるし、それを超えるためには「型」を崩す必要があると思うんですよ。そうした「型」は当時の社会の価値観のもとに生まれたもので、価値観も時代によってどんどん変わってきますよね。

―そうですね。ジェンダーなんかはまさに。

蓮沼:音楽の「型」という意味でいえば、長い時間をかけて作られてきたものでもあるし、そこには知恵も詰まっているので、それを崩すことにもメソッドが必要になってくる。なので、音楽をやる側も聴く側も、できるかぎり音楽を楽しみつつ、人間的にやっていく。そういうやり方しかないんじゃないかと思っています。

和田:ある種、人類は「型」を形作ることに情熱を傾けてきたといえますよね。でもひとつ「型」が固まると、それが特権的なものになったりする。するとその「型」を崩していく、ということも歴史的に繰り返されている。

―ルールや仕組み、理論というのも「型」であり、「社会性」ですよね。もちろんそれらも大事なんだけど、そこを踏まえた上で拡張していくのもある種人間的な営みというか。

蓮沼:和田くんはまさにそういうことをやっていますよね。

和田:本当はそもそも「型」なんてないところからいろんなものが生まれてきたわけですよね。僕の場合、妄想上の師匠と会話しながら、メソッドとか「型」は勝手に作ってる(笑)。と言いつつも、もちろん先人たちが積み上げてきた膨大なものから多大な影響を受け、受け継いでいることで僕らがいます。「拡張」という言葉はしっくりきますね。

蓮沼:しかも和田くんの場合、それを「無目的」的というか、純粋な行為として、目的から解き放たれたところでやっているように見えるんですよね。何も考えずに散歩するように音を出してていこうというスタンスを感じる。だから電化製品を扱っているけど、すごく人間的なやり方だと思います。

「バリア」を解きほぐす、二人の具体的な実践について

―『THEATRE for ALL』では、エレクトロニコス・ファンタスティコス!が2017年に開催した『電磁盆踊り』が、多言語の字幕と音声ガイドがついた形で公開されています。

和田:そうですね。最初は一般的な音声ガイドをつけるという話だったんですよ。でも、それだったら自分で喋っちゃったほうがいいんじゃないかなと思って。「これは何から鳴っている出音でしょう? 実はこれは扇風機の鳴き声です。それをこのように電気信号を拾うことによって音を鳴らしているんです」と解説していくという。だから、音声ガイドじゃないんですよ(笑)。

―そうですよね、ナレーションというか。

蓮沼:副音声だ(笑)。

和田:そうそう。僕の表現の場合、ビジュアルアート的な側面もあるので、絵のない状態でおもしろい部分はどこなのか、探りながらやりました。音だけで想像を膨らませるようなものもおもしろいんじゃないかと思って。

―蓮沼さんは『対話する衣服』の音楽を担当していますね。6人のデザイナーが、6人の異なるモデルに向き合って作品制作。最終的にはファッションショーで公開される予定でしたが、コロナの感染拡大防止のためシューティングのみが行われ、そちらの映像に蓮沼さんが音をつけています。

蓮沼:シューティングの現場にも立ち会いまして、衣装の擦れる音を録ったり、モデルの方に発話してもらったりして、それらの音の要素を元に音楽を作っていきました。僕自身はモデルさんと「どう向き合うか」ということよりも「どう向き合っていないか」というほうが大切だったし、そのことを6人のデザイナーが示してくれていたと思うんですよ。いくらデザイナーがモデルに向き合うといっても、シューティングの場では両者の関係が如実に出てくる。なので、僕は音で橋渡しできたらと思っていました。

制作するうえでは、すべての音を「意味」として受け取らなくていいと思っていました。もちろん目の見えない方に対しては丁寧な説明が必要なんですけど、意味になる前の、ざらざらしたものやモヤモヤしたものが(音に)含まれているだけでいいと思っていて。

和田:衣服の物理的な音や、意味になる前の声が音楽となって飛び交っていて、出来上がった服の肌触りや、着る人の心情の変化が伝わってくるようでした。

―蓮沼さんは『THEATRE for ALL』のサウンドロゴも作っていますが、あちらもまさに、意味になる前のざらざらしたものだけで構成されていますよね。さまざまな声で成り立っているものの、意味を剥ぎ取られた「音」だけで構成されている。

蓮沼:サウンドロゴの場合、最初の段階で使用する文言が決まっていて、それを15秒でまとめなくちゃいけなかったんです。でも、普通に読んだら絶対入らない。「これ、どうやっても15秒で収まらないだろ」と思って(笑)。

『THEATRE for ALL』の「ALL」は、一人ひとりに対して、いろんなものの条件を解放していくということでもあると思うんですね。なので、誰が読んでるかわからないものにしようと。男性でもなければ女性でもなく、子どもでも大人でもない声を作ろうと思って、ああいう「声」を作ったんです。

「普段は聴いていないものを音として聴いてみよう」。和田永が視覚障がい者と取り組んだワークショップ

―和田さんは今年の2月27日に視覚障がい者向けのワークショップ「電磁な耳の開き方」を『THEATRE for ALL』で開催しましたよね。どういうことをやったんでしょうか。

和田:「身近にあるものから電磁音を鳴らしてみよう」というリモートワークショップをやりました。参加者にはボーダーのシャツを着てもらって、僕はシャツの柄を映した相手のカメラの映像信号をオーディオミキサーに突っ込むんです。そうすると、映っているボーダーによってノイズの音程が変わるんですよ。参加者の方にはまずそれを体験してもらいました。

1:50あたりから、ボーダーシャツの柄が音に変換される様子を確認することができる

―やってみて、いかがでした?

和田:「シャツの柄がわからない」という参加者がいらっしゃって、いざZoomでつないでみたら、なんと偶然にも高周波のいいボーダーシャツを着ていて、動いてもらったらすごくいい電磁音が出たんです。

蓮沼:高周波のボーダー(笑)。

和田:そうやって普段は聴いていないものを音として聴いてみよう、ということをやりました。テレビやエアコンのリモコンをラジオに向けて押すと、メーカーや機種によって変わる赤外線信号に反応して色んな音が鳴るんですけど、すごくいいテクノなグルーヴを鳴らすリモコンがあったりして(笑)。

最後に「音として聴いてみたいもの」というテーマで参加者の方々といろんな話をしました。「山の形や海の波をスキャンして音として聴いてみたい」「天気や体内をもっと音として聴いてみたい」という話も出ましたし、いろんな着想が生まれましたね。

―和田さんが視覚障がいのある方とワークショップをやったのは初めて?

和田:初めてでした。3時間ぐらいやったんですけど、すごくおもしろかったですね。

―『THEATRE for ALL』は作品の配信に加え、ワークショップを含むラーニングプログラムも重視していますよね。

和田:そうですね。『電磁盆踊り』に字幕をつけるとき、「翻訳じゃないクリエイティブがどこにあるのか」をすごく考えさせられたんですが、ワークショップはそのひとつだったのかもしれないですね。家にあるもので体感しながらイマジネーションを膨らませるという意味では、上映とも翻訳とも異なる創作の現場だったと思います。

『THEATRE for ALL』の取り組みから両者が得た感覚を聞く

―おふたりはバリアフリー化という観点から今後やってみたいことは何かありますか?

和田:今まさに、家電楽器の作り方のマニュアルを多言語で作っているんですよ。「あなたの家の家電も、こうすれば電磁な楽器になります」という。かなりのボリュームになりそうなんですけど。

蓮沼:電磁楽器の全書じゃん(笑)。

和田:そうですね(笑)。PDF化して世界中どこからでもダウンロードできるようにして、プログラミングのソースコードもオープンにしようと思っています。最終的には言語を超えて電磁のビートでコミュニケーションがとれたら最高だなって。流動的で分散的な電磁部族による新たな音階やリズムが生まれていったらおもしろいなって。

蓮沼:それはおもしろいね。

和田:いつかワールドツアーもやりたいんですよ。各国の家電楽器演奏家を訪ねていって、おもしろい人はそのままツアーに連れていくという(笑)。

―蓮沼さんはいかがですか。

蓮沼:今回『対話する衣服』に関わるなかで考えたことはすごく多かったんです。できるかぎりニュートラルに、固定概念なしに考えようと思っていても、なかなか難しい瞬間もあって。サウンドロゴですら無意識に抱えてしまうイメージをできるだけ排除しながら作っていました。

こういう経験って自分の生き方にフィードバックがあるんですよね。そういう意味でも、こういう経験をもっと積んでいきたいと思いました。

サービス情報
『THEATRE for ALL』

日本で初めて演劇・ダンス・映画・メディア芸術を対象に、日本語字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などを施したオンライン劇場。現在、映像作品約30作品、ラーニングプログラム約30本を配信。様々なアクセシビリティに対してリサーチ活動を行う「THEATRE for ALL LAB」を立ち上げ、障害当事者やその他様々な立場の視聴者、支援団体などと研究を重ねている。また、作品の配信に加え、鑑賞者の鑑賞体験をより豊かにし、日常にインスピレーションを与えるラーニングプログラムの開発も行う。

作品情報
『True Colors FASHION ドキュメンタリー映像「対話する衣服」-6組の“当事者”との葛藤–』

監督:河合宏樹

和田永
『「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」~本祭I:家電雷鳴篇~』
プロフィール
蓮沼執太 (はすぬま しゅうた)

1983年、東京都生まれ。国内外でのコンサート公演を開催する。映画、ドラマ、舞台など、多くの音楽制作を展開している。個展形式での展覧会を行い、2014年にアジアン・カルチュラル・カウンシル(ACC)グランティでアメリカ・ニューヨーク、2017年に文化庁・東アジア文化交流使に任命され中国・北京へ。主な展覧会に『Compositions』(Pioneer Works, NY、2018)、『 ~ ing』(資生堂ギャラリー、2018)など。第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。4月23日Bunkamuraオーチャードホールにて蓮沼執太フィル公演『○→○』開催予定。

和田永 (わだ えい)

1987年生まれ。大学在籍中より音楽と美術の領域で活動を開始。2009年に年代物のオープンリールテープレコーダーを演奏するグループ「Open Reel Ensemble」を結成してライブ活動を展開する傍ら、ブラウン管テレビを楽器として演奏するパフォーマンス作品『Braun Tube Jazz Band』にて第13回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。『Ars Electronica』や『Sónar』を始め、各国でライブや展示活動を展開。2015年より、役割を終えた電化製品を楽器として蘇生させ、徐々にオーケストラを形作っていくプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」を始動させ、その成果により『第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞』受賞。2018年には、『Prix Ars Electronica 栄誉賞』と『Starts Prize '18 栄誉賞』のダブル受賞を果たした。



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