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坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

『HOKUSAI』
インタビュー
九龍ジョー
構成:中島晴矢 撮影:タイコウクニヨシ 編集:井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

色も言葉も単一ではない。現実を観察することで見えてくるグラデーション

九龍:北斎が科学者っぽいということに関連すると、有名な『冨嶽三十六景』の『神奈川沖浪裏』も、高速シャッタースピードで波を撮影したらこの絵とそっくりになる、なんていわれていますよね。かなり精密に描かれている。

坂口:ちゃんと遠近も出しているし、直線は一つもなく、すべて曲線で構成されている。つまり頭のなかの妄想じゃなくて、北斎の見ている「現実」なんですよね。

坂口恭平

九龍:坂口さんのパステル画も、風景をかなり高い解像度で描いていますよね。

坂口:パステル画はまさに、「現実をちゃんと見る」ための実験ですね。実際、パステル画を描くようになって、現実の見方が完全に変化してきました。

僕の絵の空の色は、一枚一枚すべて違うんです。ブルーだけでも7、8種類あるし、さらにそこにパープルや赤も入れて、奥行きを出してる。

坂口によるパステル画

九龍:北斎が当時の日本では入手しづらかった顔料「ベロ藍」(プルシアンブルー)を用いて、青の表現を深めていったこととも通ずるところがありますね。

坂口:なるほど、北斎もそういう顔料を使ってあの波の色を出してたのか。ほんと、空ひとつとってもいろんな色や奥行きがあるんですよ。しかも場所や時間によっても刻々と変化している。

この話って、絵だけじゃなく、言葉にもいえるんですよね。「いのっちの電話」(坂口が自らの電話番号を公開し、死にたい人からのメッセージを受けつけるシステム。番号は090-8106-4666)で、よく「死にたい」ってフレーズを聞くんですけど、ちゃんと聞くと、同じ「死にたい」のなかにもその人なりの要素がいろいろと入ってて。

九龍:厳密には「死にたい」じゃない場合もあるわけですね。

坂口:そう。でもそのグラデーションに気づけないから、ちょっと苦しいとすぐ「死にたい」になっちゃう。

あと、そもそも「死にたい」の前に、まずほとんどの場合が修行不足だったりもしますからね。「毎日、何か訓練してる?」って聞くと、「いえ、何も……」って。

これ、少林寺拳法の世界とかに置き換えてみてほしいんです。「死にたい」なんてつぶやいたら、師匠に言われますよ。「お前、まだ白帯じゃろが!」って(笑)。

坂口恭平

坂口:いまの社会って、人が「生育」しにくい状態なんですよね。「二十歳になったら自立」みたいな意識だけが植えつけられて、実際に「自立」する方法がわからない。体だけが大人になっちゃってる。

だから、生育できてないことに対して落ち込み過ぎず、「ちょっとずつプラクティスする」っていう文化を、もっと思い出すべきなんだと思います。

九龍:そうすれば北斎のように、90歳近くまで生きのびる余地があるぞと。

坂口:プラクティスの対象として「現実」があるのはありがたいことなんです。だって、死ぬまで空は永遠に変わり続けますから(笑)。その先で、世界をひっくり返すような見方ができるようになるんじゃないかな。

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作品情報

『HOKUSAI』
『HOKUSAI』

2020年5月28日(金)から全国公開

監督:橋本一
脚本:河原れん
出演:
柳楽優弥
田中泯
玉木宏
瀧本美織
津田寛治
青木崇高
辻本祐樹
浦上晟周
芋生悠
河原れん
城桧吏
永山瑛太
阿部寛
ほか
配給:S・D・P

書籍情報

『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』
『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』

2021年4月28日(水)発売
著者:坂口恭平
価格:1,760円(税込)
発行:新潮社

プロフィール

坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。

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