インタビュー

KERAが見てきた東京のインディ・アングラ音楽シーンを振り返る

KERAが見てきた東京のインディ・アングラ音楽シーンを振り返る

インタビュー・テキスト
村尾泰郎
撮影:山本華 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

ロックを聴く前に身体に染み込んでいた、子ども向けの曲やノベルティーソングからの影響

―そんななかで、『NHKみんなのうた』の歌が4曲収録されています。それは意図したわけではなかったとか。

KERA:そうなんですよね。『みんなのうた』を熱心に見てたわけではないんです。調べてみたらあの番組のためにつくられた曲や、あの番組によって紹介された曲だった。自分が好きなタイプの曲が多くて。

―こういう子ども向けの歌とかノベルティーソングは、KERAさんがつくる音楽のエッセンスになっているんだな、とアルバムを聴いてあらためて思いました。

KERA:CMソング、アニメの主題歌、映画音楽。そのへんの音楽がロックを聴く以前に身体に染み込んでいたんです。先日、小林亜星さんが亡くなりましたけど、子ども心に、亜星さんがつくるようなコンパクトでキャッチーな曲に憧れていたんでしょうね。真っ当なラブソングには関心がなかった。

みんなのうた“まるで世界”を、シアトリカルに歌い上げる

―今回カバーされた“まるで世界”(1984年)のオリジナルを聴くと、KERAさんの曲のようにも思えました。サウンドはディキシーランドジャズ風で、歌詞はシュールだし。

KERA『まるで世界』収録曲“まるで世界”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:この曲を知ったのは最近のことなんです。歌詞を別役実さん(劇作家、童話作家)が手掛けていて、まさに別役節なんですよ。

―別役さんにオマージュを捧げて、ということなのか、KERAさんは珍しくシアトリカル(演劇的)に歌われていますね。

KERA:有頂天ってシアトリカルなバンドだと評された時期もありましたけど、個人的にはかなり抑えてきたつもりなんです。やろうと思えばいくらでもできるんですけど、ちょっと気恥ずかしさがあって。でも、最近こういう歌い方をする人がいなくなったから、やってみたら自分ならではのものになるんじゃないかと思ったんです。自分史上、これまででいちばんシアトリカルに歌ってますね。

みんなのうた“誰も知らない”×P-MODELのリズムパターンを、ネジで結合

―植木等さんとかエノケン(榎本健一)さんのような、喜劇人が歌っているような雰囲気もありますね。同じく『みんなのうた』から選ばれた“誰も知らない”は子どものころに聴いて好きになった曲だとか。

KERA『まるで世界』収録曲“誰も知らない”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:僕は小学2年生のときに転校して、まだ友達ができなかったころ、ひとりで黙々と給食を食べてたんです。食べているあいだに放送で流れてきたのが、この“誰も知らない”で。すごく憶えてるんですよね。

―そんな切ない思い出の曲に、ヒカシュー、プラスチックスと並んで1970年代に「テクノ御三家」と呼ばれたバンド、P-MODELの“Art Blind”のリズムパターンを結合したわけですね。

KERA:スタジオでアレンジしているときに思いついたんです。P-MODELを丸ごとカバーするのは、ちょっと照れくさいところがあって。というのも、当時P-MODELは僕が最もリスペクトしていたバンドなんですよ。

今回のアルバムはアナログでも出すんですけど、アナログのみのボーナストラックに1990年代のライブ音源を収録していて。そこでヒカシューの“マスク”をカバーしているんですけど、間奏でP-MODELの“Marvel”を歌っているんです。そんなふうに、いろんなかたちでP-MODELへの想いが漏れてる(笑)。

KERA

五つの赤い風船“遠い世界に”。ナイロン100℃の劇中歌でも使用したフォークソング

―『みんなのうた』とP-MODELが結合した“誰も知らない”は、KERAさんの音楽人生を象徴するような曲ですね。ここからはオリジナル曲の年代順に話を伺いたいと思うのですが、まずは五つの赤い風船(1967年~1972年に活動したフォークグループ)の“遠い世界に”。これは1969年の曲ですが、当時の若者たちのナイーブな想いが伝わってくるフォークソングです。こういう曲もお好きなんですね。

KERA『まるで世界』収録曲“遠い世界に”を聴く(Apple Musicはこちら

五つの赤い風船“遠い世界に”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:子どもだったから政治のことはわからなかったけれど、新宿西口のフォークゲリラの写真や映像をリアルタイムで見て、1960年代の若者たちがフォークを合唱する姿には憧れがありました。親戚のお兄さんお姉さんに、連れて行ってくれとねだったこともあります。多くは幻想、妄想なんでしょうけどね。なんかいいなぁ、と思っていた。2017年にナイロン100℃で『ちょっと、まってください』というお芝居をしたときに、この曲を劇中歌として使ったこともあるんです。

彼らがやがて挫折することを、未来人である僕は知ってしまっているから、彼らのまっすぐさに妙な感動を覚えるんです。悲しくもあり、いま歌うとどこかシニカルな響きを伴う。たとえば<これが日本だ 私の国だ>っていう歌詞とか、いま聴くと当時とは違ったものに聞こえる。そうしたことを検証してみたかったんです。

(1960年代に世界各国で若者文化が生まれ、日本でも五つの赤い風船のメンバーをはじめ当時の若者たちは未来に希望を抱いていた。しかし、学生運動の失敗などによって、若者たちは理想が実現しないことを知って落胆。1970年代に入ると個人主義で虚無的なムードにとらわれるようになった)

―KERAさんはストレートに歌っていますが、歪んだ弦の音色や軋むようなビートが、原曲とは違った風景を生み出していますね。

KERA:がれきのなかから始まって、だんだんポジティブになっていく、というイメージでアレンジしました。原曲はアルペジオのギターとオートハープで構成されているんですけど、西岡たかしさんのオートハープがまだ使い慣れてなかった状態でレコーディングしたのか、力任せに弾いているようなところがあって、それが感動的なんですよね。今回、僕は“マリリン・モンロー・ノー・リターン”の楽曲でオートハープを弾いているんですけど。

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リリース情報

KERA『まるで世界』
KERA
『まるで世界』(CD)

2021年7月7日発売
価格:3,300円(税込)
CDSOL-1972

収録曲(オリジナルアーティスト)
1. 誰も知らない(みんなのうた 歌・楠トシエ)
2. 遠い世界に(五つの赤い風船)
3. 地球を七回半まわれ(みんなのうた)
4. クイカイマニマニ(民謡)
5. 中央フリーウェイ(荒井由実)
6. 時間よ止まれ(矢沢永吉)
7. SUPERMARKET LIFE(コンクリーツ)
8. サ・カ・ナ(リザード)
9. まるで世界(みんなのうた 作詞・別役実 歌・山田康雄)
10. マリリン・モンロー・ノー・リターン(野坂昭如)
11. LAST TANGO IN JUKU(じゃがたら)
12. COPY(プラスチックス)
13. SAD SONG(ルースターズ)
14. 別れの曲(ショパン)

KERA『まるで世界』カラーヴァイナル重量盤
KERA
『まるで世界』カラーヴァイナル重量盤(2LP)

2021年7月7日発売
価格:6,050円(税込)
TYOLP1035/6
ゲートフォールドジャケット仕様

[SIDE A]
1. 誰も知らない
2. 遠い世界に
3. 地球を七回半まわれ
4. クイカイマニマニ
5. 中央フリーウェイ

[SIDE B]
6. 時間よ止まれ
7. SUPERMARKET LIFE
8. サ・カ・ナ
9. まるで世界

[SIDE C]
10. マリリン・モンロー・ノー・リターン
11. LAST TANGO IN JUKU
12. COPY
13. SAD SONG
14. 別れの曲

[SIDE D]
1. 変なパーマネント-LIVE ver.-(突然段ボール)※
2. マスク-LIVE ver.-(ヒカシュー)※
3. Row Hide-LIVE ver.-(あぶらだこ)※
4. ねじりの法則(セルフカバー)※
5. ALL OF ME(ジャズ・スタンダード)※

※アナログ盤のみ収録曲

プロフィール

KERA
KERA(ケラ)

ナイロン100℃主宰 / 劇作家 演出家 映画監督 音楽家。1963年東京生まれ。横浜放送映画専門学校(現・日本映画学校)を卒業後、学生時代からの愛称KERA(ケラ)の名前で、ニューウェイヴバンド「有頂天」を結成。86年にメジャーレーベルデビュー。インディーズブームの真っ只中で音楽活動を展開。またインディーズレーベル「ナゴムレコード」を立ち上げ、70を超えるレコード・CDをプロデュースする。80年代半ばから演劇活動にも進出。劇団「健康」を経て、93年に「ナイロン100℃」を結成。結成30年近くになる劇団のほぼ全公演の作・演出を担当。99年、『フローズン・ビーチ』で岸田國士戯曲賞受賞、現在は同賞の選考委員を務める。また、自らが企画・主宰する「KERA・MAP」「ケムリ研究室」などでの演劇活動も人気を集める。2018年11月、脚本家・演出家としての功績を認められ紫綬褒章を受章、ほか受賞歴多数。音楽活動では、ソロ活動の他、2014年に再結成されたバンド「有頂天」や、「ケラ&ザ・シンセサイザーズ」でボーカルを務めるほか、鈴木慶一氏とのユニット「No Lie- Sense」などで、ライブ活動や新譜リリースを精力的に続行中。また2013年にはナゴムレコード設立30周年を機に、鈴木氏と共同で新生ナゴムレコードをスタートしている。隔月ペースでロフトプラスワンにて開催している犬山イヌコとのトークライブ「INU-KERA」は12年を超え継続中。

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