インタビュー

KERAが見てきた東京のインディ・アングラ音楽シーンを振り返る

KERAが見てきた東京のインディ・アングラ音楽シーンを振り返る

インタビュー・テキスト
村尾泰郎
撮影:山本華 編集:川浦慧(CINRA.NET編集部)

野坂昭如“マリリン・モンロー・ノー・リターン”。<この世はもうじきおしまいだ>――まるで現代社会のような不穏さ

―小説家で歌手としても活躍した野坂昭如さんの“マリリン・モンロー・ノー・リターン”、曲が発表されたのは1971年。当時の世相を皮肉った、やけっぱちな怒りに満ちた曲です。その混沌としたエネルギーをサイケデリックなアレンジで引き出していますね。

KERA『まるで世界』収録曲“マリリン・モンロー・ノー・リターン”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:6年ぐらい前かな。No Lie-Senseのレコーディングのときに、慶一さんからサイケの名盤をいろいろ教えてもらったんです。おもに1967年と1968年に発表されたアルバムです。それらがすごく新鮮で、ニューウェイブを聴いたときと同じくらい衝撃だったんです。機材的な問題も大きかったのでしょうが、音の処理が大胆なんですよ。 その衝撃はケラ&ザ・シンセサイザーズの『ブロークン・フラワー』(2015年)というアルバムにダイレクトにフィードバックされています。今回のアルバムでサイケ仕様にするんだったらこの曲だと思ったんです。

―<この世はもうじきおしまいだ>という歌詞から始まりますが、いまの社会にぴったりな不穏さがありますね。

KERA:<おれたちゃ毎晩 おまつりだ>とかね。ヤケクソな感じというか、政府の言うこときかないで酒をバンバン出してる飲み屋のマスターが歌ってるみたいな(笑)。

KERA

荒井由実“中央フリーウェイ”。「心中に向かう2人の道中」にアレンジ

―そういう、やさぐれた曲の5年後、1976年にリリースされたのが荒井由実“中央フリーウェイ”。熱気あふれる1960年代を抜けて、いまでいうシティポップ的な洗練された曲です。

KERA『まるで世界』収録曲“中央フリーウェイ”を聴く(Apple Musicはこちら

荒井由実“中央フリーウェイ”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:世の中が、しゃにむにやっても無駄だっていう空気になってきたころですよね。当時、僕は中1くらいかな。

―今回はXTC(イギリスのニューウェイブバンド)が1979年にリリースしたシングル曲“Making Plans For Nigel”のイントロをネジでがっちり結合しています。

KERA:やってみてダメだったら、この曲をカバーするのはやめようと思っていました。ともあれミュージシャンに集まってもらって録音してみたものの、イントロはうまく繋がったんだけど、サビの展開がちょっと物足りなかった。この曲をカバーするのは二度目なんですよ。サビは裏打ちのリズムだったんですが「これじゃあ、ただの元気な曲だな」と思って、さて、どうしたものか、と。

それでちょっと時間をおいて再度のレコーディングに臨みました。今度はサビをマイナーコードにしてスウィングしてもらったら面白くなったんです。決して楽しいドライブじゃないような雰囲気が出て(笑)。

―サビで雲行きが怪しくなりますね(笑)。

KERA:心中に向かう2人みたいな感じになる。死ぬ直前も日常的な会話をするじゃないですか。いや、心中したことないからわからないけど(笑)、きっとそうじゃないかなっていうリアリティーがあるでしょ?

―たしかに(笑)。そう思って聴くと<二人して 流星になったみたい>という歌詞が不吉です。いまも人気のデートソングが心中ソングになる、というのもすごいアレンジですね。原曲とまったく違う風景が広がっている。そこには最近のシティポップ再評価に対するアンチテーゼみたいなものもあるのでしょうか?

KERA:いやいや、それはないです(笑)。やっているうちにこうなったっていうだけで。でも、こういうメジャーな曲も入れておいてよかったと思ってます。この曲と“時間よ止まれ”が入ってなかったら、ちょっとマニアックすぎる選曲になっていたかもしれない。

矢沢永吉“時間よ止まれ”を、細野晴臣とネジで結合

―矢沢永吉“時間よ止まれ”は1978年リリースですが、“中央フリーウェイ”と並んで1970年代を代表する都会的な曲ですね。それをここではニューオリンズファンク風のアレンジで聴かせる。“中央フリーウェイ”と並ぶネジの強さです。

KERA『まるで世界』収録曲“時間よ止まれ”を聴く(Apple Musicはこちら

矢沢永吉“時間よ止まれ”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:最初はこのアイデアでアレンジした“中央フリーウェイ”をやってみようかと思っていたんですけど、この曲のほうが合ってるかなと。ニューオリンズサウンドに琉球音楽も混ぜた細野(晴臣)さんの“Roochoo Gumbo”(『泰安洋行』収録曲 / 1976年)風のアレンジをネジで結合しました。「細野さん風」なんて、細野さんには恐れおおくて聴かせられないですけどね(笑)。

コンクリーツ“SUPERMARKET LIFE”が「昭和40年代の歌謡曲としてリリースされていたら?」を再現

―アルバムでは、この細野さん風“時間よ止まれ”からコンクリーツ“SUPERMARKET LIFE”(1982年)と続きますが、その流れもいいですね。無国籍感が漂っていて。

KERA『まるで世界』収録曲“SUPERMARKET LIFE”を聴く(Apple Musicはこちら

KERA:コンクリーツというバンドは突然変異みたいな存在で、東京ロッカーズ(1970年代後半に六本木の貸しスタジオ「S-KENスタジオ」を中心として活躍していたバンドの総称。フリクション、LIZARD、ミラーズ、ミスター・カイト、S-KENの五つが代表的)の人脈を中心に集まった人たちが、趣味的にやっていたんじゃないかな。ボーカルの清水さんはS-KENのマネージャーさんでした。僕や平沢進さんは彼らの大ファンでした。シリアスなパンクバンド中心のイベントに、ドドンパやチャチャのリズムで歌謡的な楽曲をやるバンドが出るのは楽しかった。

今回はそんな彼らの曲がパンクの時代じゃなく、もし昭和40年代に歌謡曲としてリリースされていたらどんな感じだったんだろう? なんてことを考えてレコーディングしてみました。

KERA
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リリース情報

KERA『まるで世界』
KERA
『まるで世界』(CD)

2021年7月7日発売
価格:3,300円(税込)
CDSOL-1972

収録曲(オリジナルアーティスト)
1. 誰も知らない(みんなのうた 歌・楠トシエ)
2. 遠い世界に(五つの赤い風船)
3. 地球を七回半まわれ(みんなのうた)
4. クイカイマニマニ(民謡)
5. 中央フリーウェイ(荒井由実)
6. 時間よ止まれ(矢沢永吉)
7. SUPERMARKET LIFE(コンクリーツ)
8. サ・カ・ナ(リザード)
9. まるで世界(みんなのうた 作詞・別役実 歌・山田康雄)
10. マリリン・モンロー・ノー・リターン(野坂昭如)
11. LAST TANGO IN JUKU(じゃがたら)
12. COPY(プラスチックス)
13. SAD SONG(ルースターズ)
14. 別れの曲(ショパン)

KERA『まるで世界』カラーヴァイナル重量盤
KERA
『まるで世界』カラーヴァイナル重量盤(2LP)

2021年7月7日発売
価格:6,050円(税込)
TYOLP1035/6
ゲートフォールドジャケット仕様

[SIDE A]
1. 誰も知らない
2. 遠い世界に
3. 地球を七回半まわれ
4. クイカイマニマニ
5. 中央フリーウェイ

[SIDE B]
6. 時間よ止まれ
7. SUPERMARKET LIFE
8. サ・カ・ナ
9. まるで世界

[SIDE C]
10. マリリン・モンロー・ノー・リターン
11. LAST TANGO IN JUKU
12. COPY
13. SAD SONG
14. 別れの曲

[SIDE D]
1. 変なパーマネント-LIVE ver.-(突然段ボール)※
2. マスク-LIVE ver.-(ヒカシュー)※
3. Row Hide-LIVE ver.-(あぶらだこ)※
4. ねじりの法則(セルフカバー)※
5. ALL OF ME(ジャズ・スタンダード)※

※アナログ盤のみ収録曲

プロフィール

KERA
KERA(ケラ)

ナイロン100℃主宰 / 劇作家 演出家 映画監督 音楽家。1963年東京生まれ。横浜放送映画専門学校(現・日本映画学校)を卒業後、学生時代からの愛称KERA(ケラ)の名前で、ニューウェイヴバンド「有頂天」を結成。86年にメジャーレーベルデビュー。インディーズブームの真っ只中で音楽活動を展開。またインディーズレーベル「ナゴムレコード」を立ち上げ、70を超えるレコード・CDをプロデュースする。80年代半ばから演劇活動にも進出。劇団「健康」を経て、93年に「ナイロン100℃」を結成。結成30年近くになる劇団のほぼ全公演の作・演出を担当。99年、『フローズン・ビーチ』で岸田國士戯曲賞受賞、現在は同賞の選考委員を務める。また、自らが企画・主宰する「KERA・MAP」「ケムリ研究室」などでの演劇活動も人気を集める。2018年11月、脚本家・演出家としての功績を認められ紫綬褒章を受章、ほか受賞歴多数。音楽活動では、ソロ活動の他、2014年に再結成されたバンド「有頂天」や、「ケラ&ザ・シンセサイザーズ」でボーカルを務めるほか、鈴木慶一氏とのユニット「No Lie- Sense」などで、ライブ活動や新譜リリースを精力的に続行中。また2013年にはナゴムレコード設立30周年を機に、鈴木氏と共同で新生ナゴムレコードをスタートしている。隔月ペースでロフトプラスワンにて開催している犬山イヌコとのトークライブ「INU-KERA」は12年を超え継続中。

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