ギョーカイ列伝 ―並べて、伝えて、つなげる。つながる。―(CINRA)

大山卓也が語る、ナタリー創業から社長退任までの10年間

日本のエンターテイメント業界の最前線で戦い続ける人物に話を聞く連載『ギョーカイ列伝』。今回お招きしたのは、2月1日に10周年を迎えたニュースサイト「ナタリー」を運営する株式会社ナターシャの取締役会長・大山卓也。

雑誌の編集者時代に個人で始めたニュースサイト「ミュージックマシーン」を経て、2007年に音楽ニュースサイトとしてスタートした「ナタリー」は、その後、マンガ、お笑い、映画、舞台・演劇と取り扱う分野を拡張し、今では日本最大のポップカルチャーサイトとしての地位を確かなものとしている。

今回の取材では、「ナタリー」の10年の歩みを振り返ってもらうと同時に、「WELQ問題」によって信頼度の揺らいだウェブメディアの現状についても、たっぷりと話を伺った。そして、既報の通り、大山は2月1日付でナターシャの代表取締役を退き、取締役会長に就任することを発表。その理由についても、テキストの中でいち早く言及している。「ナタリー」のこれまでとこれから、ぜひじっくりと読んでいただきたい。

「やってたら10年経っちゃいました」っていう方が近いかなぁ。ずっと手探りで、やりながら覚えていったというか、開拓していったというかね。

―まずは10周年を迎えての率直な感想を話していただけますか?

大山:始めたときはまさか10年続くとは考えてもいなかったので、「よくやってきたなあ」とは思います。何度もの倒産危機を乗り越えてね(笑)。

もともと起業家体質では全然なくて、「会社をやろう」みたいな気持ちもなかったんだけど、とにかくナタリーみたいなメディアを作りたくて。そのためには一人じゃできないから、会社にしなきゃいけないなっていうのが始まりです。

大山卓也
大山卓也

―やりたかった「ナタリー」のイメージって、最初から明確だったんですか?

大山:うん、前は雑誌の編集をしていた人間なので、「こういうものを作りたい」っていうイメージは最初からはっきりあって、そこはずっとぶれてないんです。ただ、それが続けられるかどうかはまた別の話なので、いろいろラッキーだったとは思いますけど。

―経営者的な目線は途中から芽生えてきたわけですか?

大山:「やってたら10年経っちゃいました」っていう方が近いかなぁ。ウェブメディアって、「出版社のウェブ部門で」みたいな始まり方が多かったと思うんですけど、ナタリーは母体になるものが何もなかったから、何をどうしたらいいかもわからず、ずっと手探りで。「広告ってこうやって入るんだ」とか、「バナーってこうなってるんだ」って、ホントにやりながら覚えていったというか、開拓していったというかね。

大山卓也

―ビジネスとして軌道に乗るまでは、かなり苦労されたんですね。

大山:「ナタリー始めました」って言って、すぐにお金が入ってくるわけじゃないので、最初はホントに日々回していくだけで精一杯。当時は年賀状イラスト集みたいなムック本の編集とか、請け負いの編プロ仕事もたくさんやってました。最初の2年くらいはそういう時代で、そこから徐々にナタリーの存在が認知されていって、ナタリーだけで食える状態になれたのは嬉しかったですね。

―Wikipediaには「Perfume、ももいろクローバーZなどをいち早く特集紹介するなどの編集方針の先見性が評価されたため支持を拡大した」とありますが、それについてはどう思われますか?

大山:そこに関してはちょっと違和感があって。結果としてPerfumeやももクロが売れたから、今そう言われてるだけであって、僕らのポリシーは「何でもかんでもやる」ということなんです。

僕らが面白いと思うものも、思わないものも含めて、全部フラットに取り上げてきて、結果としてその中に売れたものがあったから、そこに注目が集まりがちなだけ。僕たちとしては「先見の明」とか「目利きとして優れてる」とか、そういうことを意識したことはないです。

―「速い、フラット、ファン目線」という編集方針は、今やナタリーの代名詞になっていますね。

大山:そこは最初からぶれてないと思うし、これからも変わらないんじゃないかな。

KDDIのグループ会社っていう道を選んで、結果よかったと思いますね。いいところを見習いつつ、好きにやれてるっていう感じです。

―2014年にKDDIの連結子会社になったことは、ナタリーの大きな転機だったと思います。その経緯について、改めて話していただけますか?

大山:それまで完全にインディペンデントな形でやっていて、何の後ろ盾もなく続けてきたんですけど、だんだん大きくなるにつれて、組織を回していく方法論みたいなものが、自分たちには欠けてるなってすごく感じるようになって。

20~30人なら何も考えなくても回していけるけど、会社が70~80人になってくると、いろいろ難しいところも出てきて、このままだと行き詰まるなと。だから、思い切って大きな会社と一緒になって、経営や組織運営のノウハウを組み入れたいと思ったんです。

―なるほど。

大山:あともうひとつ、映画ナタリーを始めたいと思ったのも大きくて。「マンガ」や「お笑い」はほぼ競合がいない場所でのスタートだったけど、「映画」に関してはすでに軌道に乗っている既存のサイトがいくつかあって。やるからにはちゃんとスタートダッシュでアクセルを踏む必要があったので、そのためにはある程度の資本力が必要だと思ったんです。

大山卓也

―「メディアとしての独立性をどう保つか」というところがポイントだったと思うのですが、そこに関しては結構やりとりがあったのでしょうか?

大山:最初にひとつ約束したのが、ナタリーの編集方針には一切干渉しないってことで、そこはわりとすんなりOKでした。もともとKDDIはコンテンツの会社ではないので、「俺らはわかんないから、任せるよ」って割り切っているところもあるだろうし、そこにはお互い信頼関係があると思う。

だから、KDDIのグループ会社っていう道を選んで、結果よかったと思いますね。いいところを見習いつつ、好きにやれてるという感じです。

やっぱり経営者っていう意識は今もあまりないかもしれないです。金儲けしたかったら、ナタリーみたいなめんどくさいことやんないで、もうちょっと賢い商売するし(笑)。

―卓也さん個人で言うと、徐々に編集長的な業務から、社長として経営業務にシフトしていったのかと思うのですが、その変化に関してはどう感じていますか?

大山:確かに、会社が大きくなるに連れて、全体を見なきゃいけなくなったし、もう一つひとつの原稿全部は見てないんですけど……まあ、今は経営みたいなことを成り行きでやってますけど、さっきも言ったように、もともと自分の資質としては編集者っていう意識の方が強くて。編集者として作りたいものを作っているだけなので、意識としては、今でも編集者なのかな。

―そこもブレないんですね。

大山:いいものを作れば、ビジネスとしても何とかなるでしょうっていうね。それをビジネス的に「もっとこうした方がいいよ」みたいなところは、KDDIから出向してきている取締役が上手く回してくれるので、やっぱり経営者っていう意識は今もあまりないかもしれないです。

―この連載で最初に取材をさせていただいた『ミスiD』の小林さん(なぜ見た目重視ではないアイドルを探す?『ミスiD』小林司の発想)も、「座組みありきで考えるのではなく、まずコンテンツとして面白いかが重要」ということをおっしゃっていて、その考えは共通していると言えそうですね。

大山:そうですね。小林さんも竜馬さん(連載初回に登場していただいたunBORDEレーベルヘッドの鈴木竜馬 / unBORDE・鈴木竜馬を取材。ゲス乙女を巡る報道に対して提言も)もそうだと思うけど、ものを作る人なわけでしょ? 金儲けとかビジネスが先にあってやってるわけじゃないっていうのは、シンパシーを感じるところですね。金儲けしたかったら、ナタリーみたいなめんどくさいことやらないで、もうちょっと賢い商売するし(笑)。

大山卓也

―(笑)。

大山:でも、だから10年やれたっていうのもあると思うんです。ちゃんと自分が面白がれることを選んでやってきたから。「お金になるよ」って言われても、つまんないことをやったら、結局自分が嫌になって続けられなくなってしまう。

例えば、広告でも、パチンコ屋のタイアップ広告とかは入れないんですよ。たぶんお金にはなると思うけど、それをやっちゃうと自分で自分のメディアを愛せなくなっちゃうから、結果的にマイナスだろうなって。まあ、鳥山明先生がやってないことを、俺らができるかっていうさ(鳥山明は自分のキャラクターがパチンコに使われることを断固拒否している)。そういう一つひとつのやせ我慢の連続というか、それでメディアの信頼みたいなものが作られていくと思うし、そこだけは大事にしていますね。

ナタリーって、恩返しなんですよ。自分は音楽とかマンガに人生を変えられて、それで今の自分がいるから、その恩返しをちゃんとやりたい。うちのスタッフ全員そう思ってると思います。

―「メディアの信頼度」という話が出ましたが、昨年はWELQ問題によって、改めてウェブメディアの信頼度が問われるようになりました。卓也さんはあの問題をどのように見ていらっしゃいましたか?

大山:最初にあのサイトを見たときから、ありえないと思ってたので、「なんでこれがお天道様の下で会社としてやれてるんだろう?」って気持ちしかなかったです。なので、今やっとあるべき姿になりつつあるのかなって。

―卓也さんはネットメディアのリテラシーに関して、Twitterなどで度々発言されていますね。

大山:なんかね、腹立つっていうかさ。自分が個人として立派な人間だとは思わないし、育ちの悪い野良犬みたいなもんだと思うけど、だからこそナタリーだけは真面目にやろうというか、ちゃんとしようと思ってるから。

ナタリーって、恩返しなんですよ。自分は音楽とかマンガとか、ポップカルチャーと言われるものに人生を変えられて、それで今の自分がいるから、その恩返しをちゃんとやりたい。それは俺だけじゃなくて、うちのスタッフ全員そう思ってると思います。

単に仕事として考えたら、やっぱりいろいろ効率悪いんです。毎日の作業量は膨大だし、夜中でもニュースがあれば書かなきゃいけないし。それができてるのは、うちのスタッフみんな、記者だけじゃなくて、営業もデザイナーもエンジニアも、ポップカルチャー好きしかいないからだと思うんですよね。

大山卓也

―WELQ問題の背景にあるのは広告至上主義で、アクセスを稼ぐために、大げさだったり、真実と異なるような見出しが乱発されたことも問題視されました。「見出しの付け方」に関して、卓也さんはどのようにお考えでしょうか?

大山:見出しに関しては気を使ってるつもりですけど、上手くやれてるかどうかは難しいところですね。社内SNSやミーティングで、「この記事の見出しのここがよかった」とか「この表現はこうじゃないんじゃないか」みたいな議論を日々繰り返していますけど。

煽り過ぎない、かといって地味すぎない、「これだとスポーツ新聞になっちゃうから、もうちょっと抑えよう」とか、「これだとフックがないよね」とか、そのちょうどいい塩梅を探りながらやっていかないといけなくて。逆に言うと、そこに媒体のらしさとか色が一番出ると思うから……見出し道は長く遠い道ですよね(笑)。

―ナタリーとして特にこだわっている「らしさ」は、どんな部分ですか?

大山:例えばナタリーのニュースの見出しって、最後に「!」は絶対つかないんです。一度つけちゃうと、キリがなくなっちゃうから、そこは決まりにしてて、そういう細かいことはいろいろありますね。

ノウハウをみんなで共有して、積み重ねていくことが大事だと思うので、ナタリーのニュースに関しては、全部社内の記者が書いてるし、そこは意識的にやってます。クオリティーがどうこうというよりも、トーン&マナーを揃えたい。そういう部分がメディアの色を作ると思うし、そこがジワジワ効いてくると思うんですよね。

「僕たちはフラットな、無機質なメディアなんです」って言ってますけど、たぶんホントはそうじゃないんだろうなって。

―読者側の視点に立ったときに近年よく言われるのが、「情報量が多過ぎる」ということかと思います。ウェブメディアが乱立していて、いいも悪いも混在している中、何を選んでいいのかわからない。「情報過多」と言われる現状に対しては、どうお考えでしょうか?

大山:確かに、情報はめちゃめちゃ多いと思うけど、「一人ひとりが実際に見られるものはわずかだし、みんな見たいものしか見ないから、それでいいんじゃない?」とも思ってます。図書館に行って、「こんなにたくさん読み切れない!」って言って怒る人はいないわけだし。

ナタリーは月に3500本のニュース、70本くらいの特集記事を出してるので、毎日新書1冊分くらいの文字を載せてることになるんですよ。普通に考えて、狂ってるなって思うけど(笑)、でも出す情報量は多ければ多い方がいいと思っている。そこも最初からぶれてないところですね。

大山卓也

―それこそ、前身の「ミュージックマシーン」から情報量は膨大でしたもんね(笑)。「情報過多」ということに関してもう少し話すと、先日ぼくのりりっくのぼうよみが「情報が洪水状態のような現代社会において、人々はどう生きていくべきか?」をテーマとしたオウンドメディア「Noah's Ark」を開設しました。こうした動きに対しては、どんな印象をお持ちでしょうか?

大山:そのメディア自体を見てないので何とも言えないんですけど……単純に、今情報が10000あるとして、プラス1で10001になるだけだったりしないんですか? まあ、見てないんで無責任なことは言えないし、きっとそうじゃないものを考えてるんだとは思いますけど。

―今に始まったことではないですけど、アーティストが自ら情報を発信できる時代になって、メディアの役割が問われていますよね。

大山:ひとつ思うのは、「ナタリー好きです」って言ってくれる人が少なからずいて、それはすごくありがたいなって。数多あるニュースサイトの中で、情報が拾えればそれでいいはずなのに、ナタリーってサイトをまるで人格があるかのように見てくれて、「好き」とか「嫌い」とか「キモい」とか言われるのって(笑)、すごく嬉しくて。だから、「僕たちはフラットな、無機質なメディアなんです」って言ってますけど、たぶんホントはそうじゃないんだろうなって。

―そこは大きなポイントですよね。サイトとしてのわかりやすい主張があるわけではないけど、それでもファンがつくっていうのは、途中の見出しの話でおっしゃったように、トーン&マナーをこだわっているということが、サイト全体からジワジワと伝わって、そこにファンがついてるんだと思います。

大山:メディアとしての強いオピニオンがあって、それに賛同するっていう形ではないですもんね。「こいつらこんな狂ったことを10年間毎日続けてるから、まあ認めてやるか」ってことなのかもしれないし(笑)、そこはやってる自分たちもちゃんとは理解できてないんですけど、何かはあるんだと思います。

それをなくさないように、毎日コツコツやってるっていう……まあ、僕ら真面目にやってますよ、すごく。人間としては不真面目な人間が集まって……って言うと他の社員に悪いけど(笑)、ナタリーに関してはきちんと作ろう、誠実であろうっていうのは強く意識しているところですね。

何年か前は、自分が死んだらナタリーも一緒に終わると思ってたけど、もうそんなこともないなって。

―10周年のタイミングで、代表取締役を退任されて、取締役会長に就かれるとのことですが、その理由をお聞かせいただけますか?

大山:もともと自分の中で会社って、創業者が同じやり方でずっと続けていくんじゃなくて、代替わりしながら、新しい血が入ってくる方が健全だと思っていて。

あとはそもそも、「どうしても自分がやりたい」っていうタイプじゃないんです。もともとナタリーを始めたのも、ナタリーみたいなものが世の中になかったから、「しょうがない、自分でやるか」って始めたようなところがあるので、自分以外の人がやってくれるんだったら、全然それでよくて。

今は、各編集長はもちろん、スタッフ一人ひとりとも「ナタリーこうあるべし」っていうのを共有できていて、自分があれこれ言わなくても、ちゃんとナタリーとして続いていくという確信が持てたので、10年っていい区切りだし、現場からは離れて、一歩外から見守る立場になれたらいいかなって。

大山卓也

―今後は何か別のことを始める予定なのでしょうか?

大山:いや、まるっきり白紙です。実際の業務はそんなにないとしても、会長の肩書きはあるから、その間は他のことはそんなにできないし。とりあえずちょっとのんびりして……このまま隠居する可能性もあるし(笑)。

―いやいや(笑)。でも、唐木さんの退社(唐木元 / コミックナタリー、おやつナタリー、ナタリーストアなどを立ち上げた元取締役。2015年にナタリーを辞め、バークリー音楽大学に進学)に続いて、卓也さんも現場を離れるとなると、本当に代替わりですね。

大山:それでもちゃんとナタリーイズムみたいなのがキープできてるから、安心感はあるんですよね。何年か前は、自分が死んだらナタリーも一緒に終わると思ってたけど、もうそんなこともないなって。

ただ、今あるコンセプトにこだわり続ける必要もないというか、僕がこのままトップで指揮を執り続けて「同じことを続けていく」みたいになっちゃうのも怖いから。あとを引き継いだメンバーには、自分が信じる通りにナタリーをどんどん変えていってもらえればと思ってます。

ちゃんと正しいことをし続けるというか、真っ当なことをしていれば、自分の仕事にやりがいを持って、一生懸命できる。そういう10年だったんじゃないかなって。

―この連載記事はCINRA.NETとCAMPFIREの合同企画なのですが、卓也さんはクラウドファンディングについてはどのような印象をお持ちですか?

大山:僕もクラウドファンディングは支援という形で何度も参加しているので、すごく面白いなって思ってます。ただその一方で、「そのくらいの金はバイトすりゃあいいんじゃないの?」って思うようなのもありますね。

そう思う場合って、金額の大小に関わらず、クラウドファンディングという場所を宣伝目的で使っていたり、もしくは支援者との共犯関係を結ぶことによって、何かを大きく見せようとしていて、そういう動機でやってるクラウドファンディングは不純だと思います。「ファンディング」っていうぐらいなんだから、お金を集めることが第一の目的であってほしいとは思いますね。

大山卓也

―では最後に、エンターテイメント業界に入りたいと思っている人、また興味はあるんだけど、業界の未来に不安も感じている人に対して、何かメッセージを伝えていただけますか?

大山:ナタリーで編集記者募集って告知を打つと、すごくたくさん応募が来るんですよ。でも、「書きたいです」って言うわりに、書いてない人がすごく多いから、書きたいんだったら、まず書けばいいのにって思う。

今はブログでも何でもあるんだから、まずは実際書いて、それを見せてくれれば、技術だけじゃなく、「書くのが好きなんだな」ってわかるから、こっちも一緒に働きたいって思える。ZINEを作ったりするのもいいですよね。それはエンジニアでもデザイナーでも一緒で、しょぼくてもいいから自分のサービスを立ち上げてみるとかサイトを作ってみるとか、そういうことが最初の一歩になるはずで。

―僕もライターになる前に自分のホームページで4~5年ひたすら文章を書いてた時期があったので、非常によくわかります。「ミュージックマシーン」にしても、ほぼ毎日更新されていましたもんね。

大山:5~6年くらい毎日やってた。何かの狂気があそこにあったんだと思うけど(笑)。

―自分の狂気に素直になって、まずはやってみろと(笑)。

大山:それができないんだったら、「そんなにやりたくないんじゃない?」っていうね。

―卓也さんご自身は、今の仕事をやっていてどんなときに一番やりがいを感じますか?

大山:自分が現場で記事を書くことは減ってきて、今はナタリー全体のプロデュースが大きな仕事なので……それで言うと、スタッフ一人ひとりが楽しそうにやってるのを見るのが好きですね。100人近い社員がいて、会社が回ってるのってすげえなって、他人事みたいに思うんですけど、それぞれがこの場所で自分のやりたいことをやれてたら最高だなって。

10年やれたのは、ここで働く一人ひとりが自分の仕事に意義みたいなものを感じてくれたからだと思っていて、「世の中に」って言うと大きくなっちゃうけど、ポップカルチャーのシーンみたいなものに対して、自分たちの仕事が多少なりとも貢献できているという実感があるからだと思うんです。どんなにお金になったとしても、年寄りを騙したりする仕事は嫌じゃないですか(笑)。

―その通りです(笑)。

大山:そうじゃないからこそ、自分の仕事に誇りとやりがいを持って続けられるんだと思うし、そういう場が作れたのは、今の自分にとってすごく嬉しいことですね。

―でもホント、スタッフが100人いるウェブメディアって、すごいです。

大山:みんなそれぞれ個性的で趣味もバラバラだけど、メディア作りに関してはちゃんと同じ方向を向いてやれてる。で、それは僕のカリスマによるものではないんです。ホントにカリスマがあるリーダーは、白いものを黒って言っても、みんなが「はい、黒です」ってついてくるんだと思うけど、僕にはそんな力はない。その代わり、白いものをちゃんと白って言うのが僕の仕事だと思っていて、「確かに白だ、正しい」って思えたら、みんながそっちの方向に進めると思うんですよね。

そうやって、ちゃんと正しいことをし続けるというか、真っ当なことをしていれば、自分の仕事にやりがいを持って、一生懸命できる。そういう10年だったんじゃないかな。最初はそんなこと考える余裕もなかったけど、節目だなって思うと、そういう気持ちになる。

大山卓也

ウェブサイト情報
CAMPFIRE

群衆(crowd)から資金集め(funding)ができる、日本最大のクラウドファンディング・プラットフォームです。

ナタリー

ポップカルチャー専門のウェブメディア。独自取材による音楽、マンガ、お笑い、演劇、映画などの最新ニュースや特集記事を毎日リアルタイムで配信しています。

プロフィール
大山卓也 (おおやま たくや)

1971年7月25日、北海道札幌市生まれ。北海道大学文学部卒業。株式会社メディアワークス(現KADOKAWA)にて7年間にわたり雑誌やウェブメディアの編集を手がける。在職中の2001年に個人運営の音楽ニュースサイト「ミュージックマシーン」を立ち上げ。2006年に代表取締役として音楽ニュースサイト「ナタリー」などを運営する株式会社ナターシャを設立。2007年2月から自社運営のニュースサイト「ナタリー」をスタートさせる。2017年2月、ナタリー10周年を機に取締役会長に就任。



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