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田根剛が見た、現代美術界のスター ダン・フレイヴィンの光の魔力

『ダン・フレイヴィン展』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:野村由芽、飯嶋藍子
田根剛が見た、現代美術界のスター ダン・フレイヴィンの光の魔力

芸術、宗教、すべては人間の想像力の産物? 光と時間の密接な関係を探る

田根さんがフレイヴィンに大きな興味を持つのは、建築家であり、アートに対する親しみ人一倍あるからだが、「光」に関して、じつはさらに踏み込んだ共通点をこの二人は持っている。2016年、世界最大のデザイン見本市『ミラノサローネ』で発表したインスタレーション『time is TIME』は、光、水、そして時間をテーマにしたのだという。

田根剛『time is TIME』 ©Hiroba
田根剛『time is TIME』 ©Hiroba

田根:大量の水を雨のように降らせて、そこにLEDの光を当てるという作品です。蛍光灯などと違って、LEDはコンピューターで点滅速度を自由に変えられます。毎秒2000回という、人の目では判別できない超極小の光を発することも可能で、それを落下する水滴に向けると、水滴の一部分だけを光らせたりできるんです。すると、光の粒で埋め尽くされたような不思議な空間が生まれるんですね。

ここで言われている「点滅速度」とは、1秒ごとに繰り返される電気振動の頻度、つまり「周波数」のことだ。

周波数は光にもあり、人間の網膜に備わった光学センサー(錐体細胞)は周波数や波長の違いによって、光を様々な色として認識している。例えば、夕日が赤く見えることにも周波数が関係している。田根さんは、周波数を変化させることで、作品のなかで光の見え方を変えたというのだ。

田根:周波数を低くしていくと、それまで粒に見えていた光が、線のようにすーっと伸びていく。光の変化を通して、時間が伸び縮みするような感覚が生まれるんです。

田根剛

光と時間。この2つの関わりは、この数年田根さんが継続的に研究・実践しているテーマだ。昼から夜へ、夏から冬へ……時間の変化にともなって起こる光の変化は、人類が猿から人間へと進化する過程や、そこで起きた意識の変化に影響を与えたのではないか? そんな仮定のもとに、田根さんは光と時間に向き合っている。

田根:太陽が動くことで影は日時計の役割を果たしますが、光がなければ時間を測ることができないなら、時間=光、という答えを見出しました。でも、これは数年前の仮説。今は、そもそも時間は存在しないんじゃないか、と睨んでいるんです。

え? 時間が存在しない? 哲学的すぎてちょっと混乱……。

田根:地球上では、生命や自然環境の変化と照らし合わせることで、相対的に時間の変化を感じることができます。でも真空状態の宇宙ではあらゆる現象が厳密で、予想外の変化や現象は起き得ない。すべてが光と重力といったエネルギー、そして物質の問題になるんです。

そこでの時間というのは、人間の想像の産物かもしれない。言い方を変えれば「時間があってほしいな」と人間が思うから、時間は「ある」ことになっているんです。難しいですよね(笑)。

む、難しいです……! でも、即物的に宇宙を把握するという考え方は、フレイヴィンにも通じる気が。蛍光灯は蛍光灯でしかなく、そこに永遠的なもの、神聖なものを見出してしまうのは、人間の主観・想像力の問題でしかない、という主張は、ミニマリズムや1960年代における現代美術の大きなテーマでもあったからだ。

田根剛

田根:作品を作品たらしめているのは想像力かもしれないですし、宗教も同じかもしれないですよね。自然にある石や木を物理的に彫って、十字架や人のかたちを与えることで作られるのがイコン(偶像)ですが、そこにいるはずのないものを、イコンを介して信仰する働きというのは、芸術に対する僕らの想像力のあり方によく似ている。

さっき僕は、フレイヴィンの蛍光灯の白い光に吸い込まれそうになりました。それはある意味ヤバい体験だけれど、とっても魅力的なんですよね。この引力はなかなか否定できないです。

「フレイヴィンの光は真っ向勝負」。建築家・田根が想像する、フレイヴィンが求めたもの

光そして時間という概念を通して、思いもよらぬ個人的な共有体験をしたフレイヴィン作品と田根さん。今度は視点を変えて、建築家として聞いてみた。建築家にとって光とはどのようなものなのだろうか。

田根:もっとも重要なもの。なぜって、光がないと何も見えないですから。今のところ、僕は特殊な採光窓を作ったりして、光を劇的に演出し、空間の精神を表現する、みたいな仕事はやっていません。もちろん興味はあるけれど、建物と光の関係は、ただ建物が大地に建っているだけでも生まれるんですよ。

昨年10月に開館したエストニア国立博物館で、オープン前に丸1日滞在できるチャンスがありました。写真撮影の立会いだったのですが、僕が写真を撮るのではないので、一人で館の内外をぶらぶら散策したんです。夜明けから日没まで、太陽が建物をスキャンするように動いていく様子と、そして生じる陰影は、言葉にならないほど美しかった。

特にエストニアは光が柔らかい土地なので、シンプルに建物をどんと置けば、それだけで最高なんです。建物と周囲の環境が一体化していって、ああ、他に何もいらない、余計なことはしなくていい、って感じました。

でも逆に言えば、あらゆる建築は光と絶対に関係を断つことはできない。だから僕に限らず、すべての建築家は光を意識して仕事をしているんです。

田根剛

では、建築家の視点から見るとフレイヴィンの光の扱いは、どのように感じるのだろう。

田根:真っ向勝負、ですね(笑)。建築家の仕事は、自然光を受け入れるところから始まりますが、フレイヴィンはイコン的な象徴を発生させる装置として光を捉えている。言葉、感情、感性がなくても、ただ「光がある」ことで成立する絶対的な光を、究極的には求めていた気がします。

もちろん、そこで生じるイリュージュンに対して彼は否定的だったのでしょうが、同時にその力を認めてもいたんじゃないかな。確固たる自分の思想と、どうしても抗い難く生まれてしまう感情の高まりとの間で、模索を続けていたからこそ、フレイヴィンは面白い。

田根剛

今回、エスパス ルイ・ヴィトン東京では展示照明を用いていないという。田根さんが訪ねた午前中は、自然光のなかでなお魅力を失わない輝きを作品は見せてくれたが、夜になれば空間は完全にフレイヴィンが意図した人工の光だけで満たされるという。

田根さんが魅せられた白い蛍光灯のシリーズだけでなく、緑や、さらにカラフルな蛍光灯のコンポジションも会場では観ることができる。時間を変えて、何度も訪ねたい。そんな空間が待っている。

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イベント情報

『ダン・フレイヴィン展』

2017年2月1日(水)~9月3日(日)
会場:東京都 表参道 エスパス ルイ・ヴィトン東京
時間:12:00~20:00
料金:無料

プロフィール

田根剛(たね つよし)

1979年、東京生まれ。2006年、パリにて建築設計事務所DGTをダン・ドレル、リナ・ゴットッメと共に設立。エストニア国立博物館をはじめ世界各国でプロジェクトを手掛ける。2012年には新国立競技場国際設計競技で「古墳スタジアム」がファイナリストに選ばれ国際的な注目を集めた。2014年には『ミラノ・デザインアワード』2部門受賞など多数の受賞歴を持つ。2016年末にDGT.を解散、独立。2017年には新たな事務所「ATELIER TSUYOSHI TANE ARCHITECTS」を設立。引き続きパリを中心に活動している。

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