9mmが新曲“白夜の日々”を生配信ライブで初披露

「俺たちの目の前にお客さんはいなくても、ライブしているときの、音楽が始まったときの気持ちは、意外とみんなが目の前にいるときと変わっていないと思っています」(菅原)

7月24日、9mm Parabellum Bullet(以下、9mm)が、ライブハウス「マイナビBLITZ赤坂」にて無観客生配信ライブを行った。このライブ生配信は、スペースシャワー、J-WAVE、CINRAの三団体が共同で立ち上げた「UNITED FOR MUSIC」プロジェクトの一環として行われたもの。オンラインチケットの売り上げはそれぞれの立場へのギャランティ含むライブ制作経費に充てられ、残った金額は、新型コロナウイルスの影響によって仕事を失ったライブハウス、アーティストやコンサートのスタッフ、収録スタッフといった人々に還元していくための、ライブエンタメ従事者支援基金「Music Cross Aid」へ支援金として寄付される。

1曲目“ロング・グッドバイ”が始まったときから、まず見惚れたのは、そのカメラワークや照明の見事さだった。大きなワンマンライブの模様を、後から発売された映像作品で見るときと遜色のないレベルの鮮明な映像だったと思う。生配信で、しかも9mmのようにめちゃくちゃ「動く」バンドを捉えるのは相当に難しいのではないかと推測するが、フロントマン・菅原卓郎(Vo / G)の歌う表情はもちろん、激しく躍動する中村和彦(B)の姿も、獰猛なビートを叩き出すかみじょうちひろ(Dr)の姿も、滝善充(Gt)の圧倒的なギター捌きも、サポートギターを務めた武田将幸(HERE)の姿も、生々しく、美しく、パソコンの画面に映し出されていた。

9mm Parabellum Bullet

この日は、ライブ中にシングル『白夜の日々』(9月9日リリース)のアーティスト写真とミュージックビデオが撮影されることが事前告知されていた。それ故に、照明やカメラの台数も多かったのだと推測するが、改めて、ライブとはステージに立つミュージシャンだけでなく、様々な立場の職人たちが作り上げる「総力戦」なのだと実感したし、それは現場で体感するライブでも、こうした配信ライブでも変わらない。

途中のMCで、菅原はこんなふうに言っていた。

菅原:6月30日に7か月ぶりのライブをやりましたが、今日が実質的に、9mmの2020年最初のワンマンライブです。今まで、こんなにライブの期間が空いたことはなかったし、配信ライブもあまりしたことなかったけど、俺たちの目の前にお客さんはいなくても、ライブしているときの、音楽が始まったときの気持ちは、意外とみんなが目の前にいるときと変わっていないと思っています。そんなことがあるのか、信じるかどうかはあなた次第ですけど。でも、「観てるぞ」っていうオーラを送ってくれると、きっと俺たちにも届くと思います。俺たちに、「ライブ観てるぞ、9mm」っていう気持ちを送ってください。

菅原卓郎(Vo / G)

私はこの配信を見ていて、菅原の言っていることは本当なんだろうと思った。そのくらい演奏は迫真のものだったし、なにより、この日の9mmは本当に嬉しそうに音楽を鳴らしていた。音楽を奏でることが、バンドをやることが、楽しくて楽しくて仕方がない――そんな空気が画面越しでも伝わってくるようだった。菅原がカメラの奥に向けてハンドクラップを促す瞬間もあった“反逆のマーチ”、ステージ前方で荒れ狂うように楽器を奏でる滝と中村の強烈な姿が画面に映し出された“Vampiregirl”、バンドの表現力の豊かさを強く感じさせるインストゥルメンタル曲“Calm Down”が終わり、儚くも雄大な旋律を響かせる“カモメ”が始まる美しく激しい瞬間――あらゆる瞬間に、9mmの、ひいてはバンドミュージックのカタルシスが宿っていた。

滝善充(Gt)
中村和彦(B)

特に、6曲目“Termination”から11曲目“カモメ”へと至る中盤の流れは、サポートギターの武田はステージから1度去り、4人での演奏だったのだが、実は9mmが2曲以上楽曲を4人だけで演奏をするのは、この日が4年ぶりのことだったのだ。2016年に滝が左腕の負傷からライブ活動のみ休養に入り、復帰後もサポートギターを加えた5人体制でライブ活動を基本としてきた9mm。ここに来て「4人の9mm」という最もプリミティブな姿が映し出されたのは、画面の向こうにいる我々にとっても光明が差すような瞬間だったし、なにより9mmのメンバーたち自身が最も待ちわびた瞬間だっただろう。バンドが原点に返っていくような、そこで何かを確かめ合うような、そんな光景だった。そして、終盤には再び武田が加わり、“Answer and Answer”、“名もなきヒーロー”、“Talking Machine”、“新しい光”、“Punishment”へと、畳みかけるような楽曲の連鎖が……圧巻だ。衝動がとめどなく湧き出てくるような、強烈なバンドの野生が画面越しでもひしひしと伝わってきた。

かみじょうちひろ(Dr)

9mmはコロナ禍以降、この日の配信以外にも、YouTubeやLINE LIVEを通してライブや番組を配信し、リスナーとコミュニケーションを取ってきている。予定されていた自身のツアーは中止・延期となってしまったが、年に1度の彼らのメモリアルな日である9月9日には、再び生配信ライブをする予定だ。オーディエンスのいない会場でライブをすることの意味とはどこにあるのか? 本当にいつも通りのプレイをすることができるのか? そういうことを、彼らも逡巡する瞬間があったのかもしれない。人が目の前にいない状態で、「誰に向けて演奏するのか?」「なんのために演奏するの?」――しかしながら、「いつもと変わらない」と菅原が言うように、ひとたび演奏が始まれば、きっと胸の内に巣食う逡巡は消失するのだろう。理由も、目的も、必要ない。とにかく、奏でなければ、歌わなければ、音楽は始まらないのだ。パソコンの画面越しに見る9mmの威風堂々とした佇まいは、そんな覚悟のうえに成り立っているように思えた。

この日は、9月9日にリリースされるシングル表題曲“白夜の日々”が、セットリストの9(!)曲目に、ライブ初披露された。MCで語られたところによると、この曲は緊急事態宣言下の2か月間でレコーディングされたようで、「今しかできないやり方でやった」というレコーディングは、ベース録りなどが一部、リモートで行われたのだという。歌詞もまた、緊急事態宣言下における菅原の想いが綴られているという。以下、歌詞は私の聴き取りになってしまうが、歌い出しはこんなふうだった。<君に会えなくなって100年くらい経つけど>――。

疾走感のある楽曲で、そのサウンドに、緊急事態宣言下の息が詰まりそうな重たさや不安は感じられなかった。むしろ、重くのしかかる現実を突破するために、これだけの力強い楽曲が生まれたのだろう。永遠に思える暗闇のなか、遠い向こう側に見える1点の光に向かっていくような、そんな直線的な力強さのある楽曲だ。しかし、そんなサウンドの力強さとは裏腹に、<今を生きるんだ、それが問題だ>……そう歌われる歌詞には、明確に、このコロナ禍における菅原の内省と、彼が見た景色が描かれている。「忘れたくない」「会いたい」――そんな衝動にも似た感情が、曲のなかで発露していく。なにかにすがりたくなるほど不安なとき、言い知れぬ悔しさに満ちたとき、それでも音楽家が手に取るのはペンと楽器であり、そして、作品は生まれる。とても「今」のリアルと生命力が刻まれた楽曲で、この2020年に、またひとつ大切な曲が産み落とされたのだと実感した。

イベント情報
『UNITED FOR MUSIC-Live 60- 9mm Parabellum Bullet』

2020年7月24日(金・祝)
料金:2,800円
※7月31日までアーカイヴ動画の視聴が可能

『UNITED FOR MUSIC-Live 60- 阿部真央』

2020年8月5日(水)
料金:前売2,000円 当日2,500円

プロフィール
9mm Parabellum Bullet
9mm Parabellum Bullet (きゅーみりぱらべらむばれっと)

2枚のミニアルバムをインディーズレーベルからリリースした後、2007年Debut Disc「Discommunication e.p.」でメジャーデビュー。これまでに7枚のオリジナルアルバムをリリース。2009年9月9日、初の日本武道館公演を開催。結成10周年を迎えた2014年、日本武道館2Days公演を開催し、初のBest Album「Greatest Hits」をリリース。2016年自主レーベル”Sazanga Records”を立ち上げ、その年に発表した「インフェルノ」はテレビアニメ『ベルセルク』の第一期オープニングテーマに、また翌年に発表した「サクリファイス」は同アニメの第二期オープニングとなった。メジャーデビュー10周年を迎えた2017年、5月に7thアルバム「BABEL」リリース。2018年には期間限定無料ダウンロードというバンド初の試みを行った「キャリーオン」(2018年全国公開映画『ニート・ニート・ニート』主題歌)と、9月に開催した「カオスの百年TOUR」会場限定シングルとして「21g/カルマの花環」を発表した。バンド結成15thアニバーサリーイヤーとなった2019年には、4月に東京・大阪にて野音フリーライブ開催、シングル「名もなきヒーロー」映像作品「act VII」、8枚目となるオリジナルアルバム「DEEP BLUE」をリリースし、全10公演の「FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019」を開催した。



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