レビュー

退廃的な姿勢はなぜ魅力的? 愛すべき奇人 J・マスキス(Dinosaur Jr.)が生んだピュアなソロ作

黒田隆憲
2014/08/20
退廃的な姿勢はなぜ魅力的? 愛すべき奇人 J・マスキス(Dinosaur Jr.)が生んだピュアなソロ作

Sonic Youthに認められ、NIRVANAなど同世代バンドにも影響を与えたJ・マスキス

Dinosaur Jr.のボーカル&ギター、J・マスキス(ファミリーネームの日本語表記が「マスキス」と「マスシス」の2種類混在しているが、本稿ではリリース元の商品表記に準じて「マスキス」とする)がスタジオレコーディング作品としては通算2枚目のソロアルバム『Tied to a Star』をリリースする。レーベルは前作『Several Shades of Why』(2011年)に引き続き、NIRVANAやThe Shins、Fleet Foxesなどを輩出してきたシアトルを拠点とするUSインディーの代表格、Sub Pop。Dinosaur Jr.のトレードマークの1つは、轟音ギターによるノイジーなサウンドであろう。しかしJのソロ作はガラリと趣向が異なり、極めて繊細で穏やかなメロディーを聴かせるアコースティックなアルバムとなっている。

その理由に迫るべく、まずはJのキャリアを振り返ってみたい。今年の12月で49歳になる彼は、高校時代に同級生らと結成したDEEP WOUNDのメンバーだったルー・バーロウ、ライブ仲間のマーフと1983年にDinosaur Jr.を結成。デビューアルバム『Dinosaur』(85年)がSonic Youthに認められ、続く『You're Living All Over Me』(87年)、『Bug』(88年)で一気にUSインディーズシーンの中核へと躍り出る。フォーキーで哀愁漂うJの歌声&メロディーと、それをかき消すような乾いた爆音ギター、3ピースによるソリッドな演奏はアメリカのみならずイギリスでも注目を集め、NIRVANAやPixies、My Bloody Valentineなど同世代のバンドにも大きな影響を与えた。その後も様々な名義での活動のほか、俳優や映画のサントラ制作など、多岐にわたり精力的に活動をしている。

奇妙な言動と表裏一体、パブリックイメージと美しい音楽のギャップ

そんな彼にとっての、ソロ名義での活動である。前作ではカート・ヴァイル(フィラデルフィア出身のシンガーソングライター)やケヴィン・ドリュー(Broken Social Scene)、今作ではショーン・マーシャル(Cat Power)など一筋縄ではいかないゲストを迎えているものの、冒頭で述べた通り基本的には弾き語りを基軸としたアコースティックな仕上がりで、そのぶん彼のソングライティング能力が大きくフィーチャーされた内容である。なぜ彼は、バンドとは異なるテイストの作品を発表するに至ったのだろうか?

「元はといえば、ミーガン・ジャスパー(Sub Pop)からのオファーで始まったんだ。Dinosaur Jr.との差別化でこういうサウンドになったけど……」

「このようなアコースティックな作品もDinosaur Jr.でやる音楽と同じくらい作るのが楽しいですか?」と尋ねると、「う~ん……たぶん、それはないな。轟音で演奏するほうが楽しい」と、いまいちやる気のなさが漂う回答だが、そもそも彼はファンの間では愛すべき奇人として有名である。銀色の長髪にベースボールキャップ、B級ガレージサイケバンドのTシャツ姿という、どこか浮世離れした見た目もそうだし、Dinosaur Jr.の最高傑作と名高い『Bug』(2005年)の発表時、「最低の駄作だ」などコメントしたこともある。もちろん、このアルバムがバーロウとの確執の中から生まれたという状況も配慮しなければならないし、今も“Freak Scene”などライブのレパートリーとして組み込まれている曲も多いことから、彼が本心でこのようなコメントを残したわけではないだろう。彼のそうしたパブリックイメージと、ニール・ヤングなどフォークミュージックから影響を受けた、やるせなくも美しいメロディーセンスとのギャップも、大きな魅力なのである。

J・マスキス
J・マスキス

ライフスタイルの変化がもたらした、曲作りの新しいモチベーション

曲作りには4か月かけ、自宅のスタジオにてレコーディングがおこなわれた。そんなJが書く歌詞には、これまで同様、世界を俯瞰的に眺めているような倦怠感と焦燥感が入り交じった言葉が並ぶ。

「They Always Come“Every Morning”は、朝目覚めたときの、現実に気付かされて自分を再起動させる感じを歌っているよ。夢の中では違う世界にいたはずなのに、元の世界に引き戻されるようなね」


<朝 身支度を整えて 午後には 走り回ってる 朝を過ぎれば 出ずっぱりで しぶとく 集団にしがみついてる>(“Every Morning”より)

毎朝決まった時間に起きて、働きにいかなければならないビジネスマンの諦観を歌っているようにさえ感じられるこんな歌詞が、浮世離れしたように見えるJの日常から生まれたことに、何やら不思議な親近感を覚えてしまう。また“Heal the Star”は、自然破壊や紛争が終わらないこの世界に警鐘を鳴らしているようにさえ思えるが。

「自分ではよくわからないや……思いつくがままに書いているだけだから。後々になってから、(歌詞の)意味がより明確に見えてくることが多いよ」

またしても掴みどころのない回答に翻弄されながらも、DEEP WOUND時代から振り返れば30年以上もの間、曲を書き続けているJ。そのモチベーションは、一体どこから来ているのだろうか。親友のケヴィン・シールズ(My Bloody Valentine)と同様、時間の感覚が常人より何倍も何十倍もゆっくりしているような彼が、(ケヴィンと違って)ここまでワーカホリックな理由は?

「う~ん……。もしかしたら……子どもができて、父親になったことが、何か関係しているのかもしれない。子どもからインスピレーションをもらっているのか、それとも良き父親でありたいと思っているのか、どっちもあると思うけど……。単純に、いろんな音楽をたくさん世に出したいって思うようになったんだ」

意外な答えが返ってきた。父親になったJの、優しい眼差しが注ぎ込まれた本作。そう思って聴き返してみると、また新たな感動が湧き上がってくる。聴けば聴くほど味わい深いアルバムだ。

リリース情報

J Mascis
『Tied to a Star』日本盤(CD)

2014年8月20日(水)発売
価格:2,376円(税込)
TRCP-169

1. Me Again
2. Every Morning
3. Heal the Star
4. Wide Awake
5. Stumble
6. And Then
7. Drifter
8. Trailing Off
9. Come Down
10. Better Plane
11. Outside I(ボーナストラック)
12. Sail Away Clean(ボーナストラック)

プロフィール

J・マスキス(じぇい ますきす)

1965年、USマサチューセッツ州出身。83年にDinosaur Jr.を結成。85年デビューアルバム『Dinosaur』リリース。91年4thアルバム『Green Mind』でメジャーデビュー。97年解散。J MASCIS+THE FOGを結成し、『More Light』(2000年),『Free So Free』(2002年)をリリース。2005年にはDinosaur Jr.を再結成し、2012年『I Bet on Sky』まで通算10枚のオリジナルアルバムをリリース。2011年、初となるソロ名義スタジオアルバム『Several Shades of Why』、2014年に『Tied to a Star』をリリース。

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