レビュー

安藤桃子が写真展を開催、映画監督はなぜ、東京で活躍する女性とその生活空間を写真に収めたのか

小林英治
安藤桃子が写真展を開催、映画監督はなぜ、東京で活躍する女性とその生活空間を写真に収めたのか

都会で生き生きと暮らす女性たちを応援する、新しいタイプの写真

映画監督の安藤桃子が撮り下ろした写真展『one “1” woman living in Tokyo』が伊勢丹新宿店で開催中だ。被写体となるモデルには、東京を拠点にさまざまな分野で活躍し、自身の生き方やクリエイティビティーを追求し続けている女性が選ばれた。10月18日には、安藤と本展のキュレーターを務めた後藤繁雄によるトークイベントが行われ、プロジェクトの発端から撮影現場のエピソードまでを交えたトークが繰り広げられた。

『one “1” woman living in Tokyo』トークイベント
『one “1” woman living in Tokyo』トークイベント

本プロジェクトのきっかけとして、「東京で単身生活する女性たちの魅力的な生き方を肯定的に表現していきたいと思った」という後藤。それは、「女性単身者たちのリアルな生活を写真で表現する」ことであると同時に、「時代とともに変化し続ける『東京』という都市そのものを表現する新しい提案にもなる」と考えたという。そのためには、通常のドキュメンタリースタイルでもなく、セットアップして作り込んだインテリア雑誌のような写真でもない、新しいタイプの写真の必要性を感じ、そこで白羽の矢が立ったのが映画監督の安藤だった。

安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』
安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』

安藤は、東京で生まれたのち、ロンドン、ニューヨークなど海外で9年余りを過ごした経験をもち、現在は映画監督として注目を浴びている。「安藤さん自身が魅力的だし、新作映画『0.5ミリ』を見たら、生活を虚構にするセンスがすごくあって、都会で生き生きと暮らす女性たちをリアルに応援するような視点を持っていると感じた」と後藤は語る。

映画のキャスティングにも通ずる、被写体とのコミュニケーションのとり方

映画監督の安藤にとって今回のプロジェクトは、写真というフィールドでの新しい挑戦となるわけだが、依頼を受けて最初に思い浮かんだことは、海外と日本の「家」に対する文化の違いだったという。「海外ではホームパーティーをよくやりますし、ルームシェアも以前から当たり前の文化です。でも日本人にとっての家、まして自分の部屋というのはプライベートな空間。私がいきなり部屋を見せてくださいといっても許可が下りないだろうと思いました」。そこで、映画のキャスティング時と同じように、撮影を依頼する前に、人と人同士としてしっかりとコミュニケーションをとることを心がけたという。

モデルの選定には、東京で暮らしていることに加えて、生活空間にその人の宇宙観がよく表れると考えて、「プロフェッショナルな職業についていること」を条件に絞り込んだ。その結果、国内外で活躍する現代美術のアーティスト(荒神明香)、若くして師範の資格を持つ日本舞踊家(藤間蘭翔)、世界50か国以上を旅した経験を持つシェフ(寺脇加恵)、東京での生活をスタートさせたばかりの女優(中澤梓佐)、ファッションの世界でマルチに活躍してきたモデル事務所のマネージャー(藤本祐)といった、さまざまなキャリアを持つ女性5名が抜擢された。

安藤桃子写真展『one
安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』イメージビジュアル(中澤梓佐)

映画監督が写真を撮る意味とは?

実際の撮影をスタートさせる前に安藤が改めて考えたのは、映画監督である自分が写真を撮ることの意味だった。「映画監督としての誇りがあるからこそ、写真家・安藤桃子というのは違和感がありました。でも、私しかできないことがあるとしたら、映画監督としてその場所の空気感や人物をきっちり演出すること」。そこで、映画で作られたセットで俳優が演じるのと逆の発想で、「実際にある部屋と住んでいる人を、映画の現場のように照明を当て、構図を作り込んで撮ったら面白いのではないかと考えました。そうすることで妙な生々しさは消える。でもそこには確実にリアリティーがあり、リアリティーとファンタジーが表裏一体なものだということを表現できるんじゃないかと思ったんです」と安藤は話す。実際に普段映画の仕事をしているベテランの照明技師とコンビを組むことで、キュレーターの後藤が目論んだように、これまでにない新しい写真表現が生まれることとなった。

安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』イメージビジュアル(荒神明香)
安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』イメージビジュアル(荒神明香)

また、被写体となった方が驚いたというのが、安藤の観察力だ。撮影当日にモデルの家に入ると、その部屋の住人が何を一番大切にしているのかを瞬時に見抜いて、何をどう切り取るのか構図を決めていくのだという。日本舞踊家の蘭翔の部屋では、ぬいぐるみに注目。「蘭翔さんはすごく穏やかで美しい方なんですけど、ちょっと日本舞踊のポーズをとってもらうと、その瞬間にバッとエネルギーが放出されて、舞台で見せる妖艶さや少女っぽさが一気に出るんです。それなのに、部屋にはぬいぐるみがたくさん置いてあったりして、そのギャップが面白いと思いました」。

安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』イメージビジュアル(藤間蘭翔)
安藤桃子写真展『one “1” woman living in Tokyo』イメージビジュアル(藤間蘭翔)

メディアが生き抜くためには、クリエイティブな文化の交流が必要

今回の展示では、あえて写真のプリントを大きくせずに、周りに白地のマウントを広めにとって額装している。これは「『窓』を覗いているような感じで見てもらって、よく見ると他の写真とリンクしていたり、ちょっと違和感があったり、お客さんに秘密を発見してもらいたい」という想いが込められている。実際に、買い物のついでに展示に立ち寄ったお客さんが、近寄ってじっと見入ってしまうという光景も見られた。

『one “1” woman living in Tokyo』展示作品

撮影を通して安藤が実感したのは、「それぞれの人と部屋が持つ『宇宙』は違えども、一目瞭然なのは、みな共通してそこが自分にとっての『巣』になっているということ」。実は安藤は、新作『0.5ミリ』の撮影をきっかけに、ロケ地となった高知県に引っ越したが、「やっぱりどこにいようが、人間は自分の巣を作るんですよ。私も移住した高知で、自分の映画を上映するために仮設の映画館を作っています。移動遊園地みたいに、映画館を中心にいろんなことが起こる場所にしたい」と嬉しそうに語った。そして、『one “1” woman living in Tokyo』プロジェクトについても、今後も継続していきたいと話す。「今はすべての文化がノーボーダーの時代。みんながボーダーを外して、クリエイティブな文化が交流していかないと、どのメディアも残っていかないと思います。そういった意味でも、自分が映画監督だから写真は撮らないのではなくて、映画人としての自尊心を持ちながら写真を撮るというのが面白いんじゃないかと思っています」。安藤の力強い言葉に、会場に集まった人々も共感を込めて頷いている様子だった。

『東京女子部屋』イメージビジュアル
『東京女子部屋』イメージビジュアル

なお、本展は、マンガ、写真、コラム、インタビューなど様々な切り口から女性が「住」について興味を持つ機会を提供する『モチイエ女子project』と三越伊勢丹ホールディングスによる初めてのコラボレーション企画。写真展にあわせて、「東京で働き、遊び、暮らす女性たちの部屋」をイメージした雑貨や小物を展示販売する『東京女子部屋』が同時開催されているので、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。

イベント情報

安藤桃子写真展
『one “1” woman living in Tokyo』

2014年10月15日(水)~10月28日(火)
会場:東京都 新宿 伊勢丹新宿店本館5階センターパーク/ザ・ステージ#5
時間:10:30~20:00
料金:無料

『one “1” woman living in Tokyo』トークイベント

2014年10月18日(土)14:00~14:30
会場:東京都 新宿 伊勢丹新宿店本館5階センターパーク/ザ・ステージ#5
出演:
安藤桃子
後藤繁雄
定員:20名

プロフィール

安藤桃子(あんどう ももこ)

1982年生まれ。高校時代よりイギリスに留学。その後ニューヨークで映画作りを学ぶ。2010年4月、監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が、ロンドンのICA(インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京で同時公開され、国内外で高い評価を得る。2011年に幻冬舎から初の書き下ろし長編小説『0.5ミリ』を刊行。同作を自ら監督した映画『0.5ミリ』が2014年11月、「有楽町スバル座」ほか全国順次公開。

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