フランソワ・オゾンにDAFT PUNK。90年代に開花した才能の成熟を見る『フランス映画祭』

フランス映画の話題作をいち早く鑑賞できるフェスティバル

例年、ここでしか観ることができない日本未公開作品の上映や、話題作がどこよりも早く上映されることで、広く映画ファンから注目を集めている『フランス映画祭』。今年上映される新作11本と、巨匠マックス・オフュルスの晩年の作品『たそがれの女心』デジタルリマスター上映を含めた全12作品から伝わってくるのは、「成熟」と「多様性」に満ちたフランス映画の現在だ。

「成熟」というのは他でもない。オリヴィエ・アサイヤス(同映画祭では『アクトレス ~女たちの舞台~(原題:シルス・マリア)』が上映される)、フランソワ・オゾン(『彼は秘密の女ともだち』)といった継続的に新作が日本で紹介されてきた映画作家。さらにマルタン・プロヴォスト(『ヴィオレット(原題)』)、グザヴィエ・ボーヴォワ(『チャップリンからの贈りもの』)といった近年まで日本では新作をリアルタイムで観ることができなかった映画作家まで。1990年代に入ってから頭角を表してきた映画作家たちがキャリア的にも、その作品世界においても、まさに成熟期を迎えていることを知らしめる力作が勢揃いしているのだ。


90年代とはつまり、80年代後半にそれぞれの頭文字をとって「BBC時代の到来」と世界的にもてはやされていたジャン=ジャック・ベネックス、リュック・ベッソン、レオス・カラックスが巻き起こした「フランス映画バブル」の余韻がまだ残っていた時代のこと。その時期のフランス映画を実際に質、量ともに支えてきた映画作家たちの現在地こそが、今年の『フランス映画祭 2015』最大の見所と言っていいだろう。そういう意味でも、『ヴィオレット(原題)』に主演したエマニュエル・ドゥヴォスが『フランス映画祭 2015』の団長を務めていることは感慨深い。90年代半ば、アルノー・デプレシャン監督の傑作『そして僕は恋をする』のヒロインとして鮮烈な印象を残し、現在女優としてのキャリアのピークを刻んでいる彼女は、まさにこの映画祭の「顔」に相応しい。

エマニュエル・ドゥヴォス ©Emanuele Scorcelletti/uniFrance Films
エマニュエル・ドゥヴォス ©Emanuele Scorcelletti/uniFrance Films

90年代パリのダンスミュージックシーンとフランス映画界のつながり、その後を描いた一作

上映作品の中で個人的に最も心動かされた『EDEN エデン』も、実は90年代フランスの「青春」とその後の「成熟」をテーマにした作品だ。もっとも、同じ90年代でもその舞台となるのは映画界ではなく音楽界。DAFT PUNK、Air、PHOENIXらの人気ダンスミュージックユニットが次々に登場した90年代中盤~後半のパリは、一躍「音楽の新しい都」として世界中から注目を集めるようになっていた。『EDEN エデン』は、そんな90年代から00年代にかけてのパリのクラブシーンの黎明期とその後の隆盛を背景に、1人の人気DJの人生の浮き沈みを描いている。


興味深いのは、本作の女性監督ミア・ハンセン=ラヴが、『フランス映画祭 2015』にも新作を出品しているオリヴィエ・アサイヤス監督の『8月の終わり、9月の初め』(1998年)で女優としてデビュー、『カイエ・デュ・シネマ』(フランスの映画批評誌)での批評活動を経て、2007年に『すべてが許される』で監督デビューを果たすという、まさにフランス映画界の申し子のような映画作家であること。『EDEN エデン』の主人公ポールのモデルは人気DJとして活躍していたスヴェン・ハンセン=ラヴ、つまりミアの兄であり、そこにはミア自身の人生や家族も反映されている。まったく別の世界のようにしか見えなかった90年代のフランスの映画界と音楽界がこうして1つの作品で繋がっているのを観るのは、当時を知る者としては実にスリリングな体験だった。

現代フランス社会の「多様性」をそのまま投影したかのようなラインナップ

他にも、巨匠ヴィム・ヴェンダースがブラジル出身の天才写真家セバスチャン・サルガドの人生と、未来への啓示ともいえるその哲学に迫った『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』(ヴィム・ヴェンダースとセバスチャンの息子ジュリアーノが共同監督)。マリ共和国の古都ティンブクトゥでイスラム過激派の弾圧に苦しみながらも音楽を愛し続ける父と娘の姿を描いた『ティンブクトゥ(仮題)』。敬虔なカトリック教徒の4人姉妹がユダヤ人、アラブ人、中国人、コートジボワール出身の婿を迎えることになる大ヒットコメディー『ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲』などなど、大陸も文化も宗教も横断した、現代のフランス社会をそのまま投影したかのような「多様性」に満ちた作品がラインナップされている。


才能の「成熟」も、社会の「成熟」も、「多様性」のないところにはあり得ない。『フランス映画祭 2015』の上映作品からは、そんな共通するメッセージが聞こえてくる。

イベント情報
『フランス映画祭 2015』

2015年6月26日(金)~6月29日(月)
会場:東京都 有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇
上映作品:
『エール!』(監督:エリック・ラルティゴ)
『ヴェルヌイユ家の結婚狂騒曲』(監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン)
『ボヴァリー夫人とパン屋』(監督:アンヌ・フォンテーヌ)
『彼は秘密の女ともだち』(監督:フランソワ・オゾン)
『EDEN エデン』(監督:ミア・ハンセン=ラヴ)
『夜、アルベルティーヌ』(監督:ブリジット・シィ)
『アクトレス ~女たちの舞台~』(監督:オリヴィエ・アサイヤス)
『ヴィオレット(原題)』(監督:マルタン・プロヴォスト)
『ティンブクトゥ(原題)』(監督:アブデラマン・シサコ)
『チャップリンからの贈りもの』(監督:グザヴィエ・ボーヴォワ)
『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』(監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド)
『たそがれの女心』(監督:マックス・オフュルス)

イベント情報
『FRENCH TOUCH !』

2015年6月27日(土)OPEN 22:00
会場:東京都 Le Baron de Paris-Tokyo
出演:
Sven Løve
ほか
料金:2,000円(1ドリンク付)



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