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カルヴィン・ハリスの2017年の新作は、10年後のシーンの鍵を握る

カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol. 1』
テキスト
宇野維正
編集:山元翔一
カルヴィン・ハリスの2017年の新作は、10年後のシーンの鍵を握る

過去のセルフイメージのみならず、音楽シーンすらも塗り替えるカルヴィン・ハリスの現在

6月30日にフィジカル(CD、アナログ)と配信(ダウンロード、ストリーミング)で世界同時リリースされるカルヴィン・ハリスのニューアルバム『Funk Wav Bounces Vol. 1』。もったいつけた導入部やスキット(曲間に挿入される短いトラック)はまったくなし、5分以内のコンパクトなポップソングがぴったり10曲シンプルに並べられたこのアルバムが世に放たれた瞬間、これまでのように「世界で最も稼いでいるEDM界を代表するDJ」だとか「テイラー・スウィフトの元恋人」だとか、そんな使い古された枕詞でカルヴィンを語る人はいなくなるはずだ。

実際のところ、状況はもう大きく動いている。今年2月、本作から最初のリード曲となる、フランク・オーシャンとMigosという現在最もプロップスの高い(≒同業者から一目置かれている)シンガーとラップグループをゲストに迎えた“Slide”がリリースされると、世界中のヒットチャートを席巻。これまでカルヴィンの音楽を積極的に支持してこなかったR&B / ラップのコアなファン層も巻き込んで、結局“Slide”はアメリカ国内でミリオンセールスを記録してプラチナムディスクに輝くことに。さらに、米ビルボードは2017年上半期ベスト50ソングの特集で同曲を堂々ベスト1に選出した。

過去のカルヴィン・ハリスと現在のカルヴィン・ハリスとの違いは、一体どこにあるのか? もちろん「脱EDM」というのはわかりやすいキーワードではあるだろう。しかし、2010年代前半をピークに海外ではブームが過ぎ去っていたEDMのシーンにおいて、長年そのトレンドを牽引してきたカルヴィンがいち早く次のモードへと移行したのは、必然であったとも言える。既に2016年に彼が発表した“This Is What You Came For”(ボーカルはリアーナ)や“My Way”(カルヴィン自身がボーカル担当)では、まだEDMのマナーに片足だけは突っ込みながらも、よりメロディー主体でウワモノのサウンドやリズムブレイクが抑制されたトロピカルハウス的な方向性が模索されていた。

しかし今作には、いずれも大ヒットになったにもかかわらず、今となっては「過渡期」であった2016年の曲は一切収録されていない。やはり、カルヴィン・ハリスにとって「本当の新しい季節」は今年の“Slide”、そしてそれに連続して発表された“Heatstroke”“Rollin”“Feels”という一連のアルバムリード曲から始まったのだ。

現時点で考え得る限り最も豪華で、最も旬なゲスト勢

アルバムのゲストの詳細についてそれぞれ触れると、それだけで何千字にもなってしまうので、駆け足で名前を列記していく。前述した“Slide”ではフランク・オーシャン、Migos、“Heatstroke”ではヤング・サグ、アリアナ・グランデ、ファレル・ウィリアムス、“Rollin”ではフューチャー、カリード、“Feels”ではファレル・ウィルアムス、ケイティ・ペリー、ビッグ・ショーン。アルバム全体ではさらにスクールボーイ・Q、パーティネクストドア、D.R.A.M.、トラヴィス・スコット、A-TRAK、スヌープ・ドッグ、ジョン・レジェンド、テイクオフ(Migos)、ニッキー・ミナージュ、ケラーニ、リル・ヨッティー、ジェシー・レイエズといった面々が参加している。誰もが指摘できるように、現時点で考え得る限り最も豪華で、最も旬なゲストたちが大挙して参加した夢のようなアルバム。しかし、それだけではなく、そのゲストの選び方と使い方にはいくつかの注目すべき傾向があることに気づかされる。

二人の世界的スーパースター、アリアナ・グランデ、ケイティ・ペリー、そして昨年デビューしたばかりのシンガーのジェシー・レイエズの三人を例外として、他はいずれもアメリカのラップシーン、R&Bシーンの最前線で活躍している人気アーティストであること。そして、アコースティックサウンド主体で奏でられるアルバムのクロージング曲“Hard To Love”を除いて、他のすべての曲でボーカルパートとラップパートが織り交ぜられたスタイルがとられていること。だから、ほぼすべての曲で複数のシンガーやラッパーがフィーチャーされているが、歌もラップも超絶スキルを誇るニッキー・ミナージュは“Skrt On Me”において単独でどちらも任されている。

この傑作アルバムを、カルヴィン・ハリスがものにした理由とは?

『Funk Wav Bounces Vol. 1』と名付けられた今回のアルバムで、カルヴィンは新しいポップミュージックのスタイルを提示している。「Funk Wav Bounces」という「ブラックミュージック」と「海の波と音の波」と「カルヴィンの刻印」(“Bounce”は彼の初期の代表曲のタイトルでもある)をイメージさせる単語の連なりは、彼がその新しいスタイルに付けた名前だ。

そのベースとなっているのは1970~80年代のファンク、ディスコ、R&B、そして80年代オールドスクールから現在に至るまでのヒップホップ / ラップ。つまり、彼がスコットランドの田舎町で過ごしていた少年時代から、ラスべガスのビッグパーティーでレジデンツDJを務めるようになった現在まで、個人的に最も深い愛着を寄せてきたアメリカのブラックミュージックだ。したがって、その音楽を構成する一つひとつの要素を取り出してみれば、取り立てて目新しいものではないかもしれない。しかし、カルヴィンは本作でそれらを組み合わせる上での「秘密のレシピ」を生み出し、オリジナルなスタイルでありながらも普遍的なポップミュージックへと昇華することに成功している。

どうしてカルヴィンはそんな「魔法」みたいことを実現できたのか? 本作において重要なポイントは、彼がソングライターとしてだけではなく、プレイヤーとしても覚醒したことにある。“Slide”が世界中でヒットしている真っ最中、カルヴィンは自身のSNSとYouTubeに“Slide”のレコーディング風景の映像をアップした。彼がたった一人でピアノを弾き、ギターを弾き、ベースを弾き、シンセを操り、ビートを打ち込む姿が収められたその映像は、言わばカルヴィンの「ミュージシャン宣言」だった。DJとして長年頂点を極めてきたカルヴィンは、その先見性とセンスと嗅覚を総動員して、今度は頭の中で鳴っている音を一分違わず自分自身の手で再現するスキルを身につけたのだ。

この先10年の音楽シーンを決定づける今作。そのキーマンであるファレルの証言

つい先日、カルヴィンも住むLAで、本作においてただ一人、複数の曲(“Heatstroke”と“Feels”)にゲスト参加しているファレル・ウィリアムスに単独インタビューをする機会を得た。そこで、(インタビューの本題は別にあったのだが)本作のことをファレルに訊いてみたところ、彼はアルバムの信じられないほど素晴らしい仕上がりへの驚きと賛辞を述べた後、最後に一言、「He is a good player」と付け加えた。グッドDJであるだけではなく、グッドソングライターであるだけでもなく、グッドプレイヤーであることが『Funk Wav Bounces Vol. 1』の音楽的達成の原動力となったのだと、その言葉は念を押すものだった。

近年ファレルがキーパーソンとして複数の曲に参加したアルバムと言えば、誰もが思い浮かべるのは2013年にDaft Punkがリリースした『Random Access Memories』だろう。自分は、あのアルバムはその後の音楽シーンのトレンドを決定づけたという意味においても、この10年で最も重要な作品であったと考えているし、当時から機会があるごとにそのように原稿に書いたり公言をしたりしてきた。その言葉を訂正する必要は2017年の現在もまったく感じていないが、『Funk Wav Bounces Vol. 1』の10曲すべてをまるで中毒症状のようにずっと聴き続けている今(この夏は部屋のスピーカーで、外出中のヘッドフォンで、車で、海で、このアルバムをエンドレスで聴き続けることになるだろう)、最後に一つだけ言っておかなくてはいけないことがある。きっと、この『Funk Wav Bounces Vol. 1』から、新しい10年が始まる。

カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol. 1』ジャケット
カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol. 1』ジャケット(Amazonで見る

リリース情報

カルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol. 1』
カルヴィン・ハリス
『Funk Wav Bounces Vol. 1』(CD)

2017年6月30日(金)発売
価格:2,160円(税込)
SICP-5428

1. Slide (ft. Frank Ocean & Migos)
2. Cash Out (ft. ScHoolboy Q, PartyNextDoor & D.R.A.M.)
3. Heatstroke (ft. Young Thug, Pharrell Williams & Ariana Grande)
4. Rollin (ft. Future & Khalid)
5. Prayers Up (ft. Travis Scott & A-Trak)
6. Holiday (ft. Snoop Dogg, John Legend & Takeoff)
7. Skrt On Me (ft. Nicki Minaj)
8. Feels (ft. Pharrell Williams, Katy Perry & Big Sean)
9. Faking It (ft. Kehlani & Lil Yachty)
10. Hard To Love(ft. Jessie Reyez)

プロフィール

カルヴィン・ハリス
カルヴィン・ハリス

スコットランド出身、2007年にデビュー。2012年発表のアルバム『18Months』から“We Found Love feat. Rihanna”を始め計8曲のシングルが全英トップ5入りを果たし、マイケル・ジャクソンの7曲を超える新記録を樹立。2014年発表のアルバム『Motion』は日本を含む世界55か国のiTunesで1位、2015年にはシングル“How Deep Is Your Love”が世界75か国のiTunesでトップ5入りを果たし、人気モデル、ジジ・ハディッドが出演するミュージックビデオも話題に。2016年には世界最高峰の野外フェスティバル『Coachella Valley Music and Arts Festival』にDJとしては初のヘッドライナーを務め、これまでのYouTube総再生100億回以上、米経済誌『フォーブス』誌による「世界で最も稼ぐDJ」ランキングで2013年から4年連続1位に輝いている。昨年シングル“This Is What You Came For feat. Rihanna”や“My Way”を発表しどちらも大ヒットを記録。ダンスミュージックとしての垣根を越えて、世界の音楽シーンをリードするスーパースターとして圧倒的な人気を誇っている。2017年6月に、3年振りとなるアルバム『Funk Wav Bounces Vol. 1』をリリースすることが決定し、同年『SUMMER SONIC 2017』に、単独のDJとして同フェス史上初となるヘッドライナーとしての来日も決定している。

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