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なぜ、デヴィッド・ボウイは特別なのか? 奈良美智が語る

なぜ、デヴィッド・ボウイは特別なのか? 奈良美智が語る

『DAVID BOWIE is』
インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:豊島望 編集:野村由芽、山元翔一

男の人を美しいと思ってしまう自分の感性は、大丈夫なんだろうかって思って、友だちには、恥ずかしくて言えなかったんですよね。

―性別不詳な容姿に近未来的な衣装、異星から来たというジギーの設定もこれまでにないものだったでしょうし。

奈良:音楽雑誌を読んでみたら、ファッションデザイナーの人がデザインしたような、いろんなタイプの衣装を着ていて。それのどれも、これまでとは異質な、すごく新しいイメージばっかりだったので、「なんだこれは!」って思ったんですよね。曲だけ聴いても普通にカッコいいのに、本人のとにかく強烈なイメージにやられてしまったんですよね。

鋤田正義の撮影による1973年のデヴィッド・ボウイ。衣装を手がけたのはフレディ・バレッティ / ©Sukita , The David Bowie Archive
鋤田正義の撮影による1973年のデヴィッド・ボウイ。衣装を手がけたのはフレディ・バレッティ / ©Sukita , The David Bowie Archive

1970年代から90年代にかけての、デヴィッド・ボウイの衣装 / Photo by Shintaro Yamanaka(Qsyum!)
1970年代から90年代にかけての、デヴィッド・ボウイの衣装 / Photo by Shintaro Yamanaka(Qsyum!)

―当時は賛否両論あったようですが、奈良さんはすぐにそのビジュアルを受け入れられたのですか?

奈良:賛否も何も、彼のことは宇宙人だと思っていましたから(笑)。他のミュージシャンはロッカーだったりヒッピーだったりしたけど、デヴィッド・ボウイはそのどれでもない……自分からはかけ離れたところの人だったんですよね。

他のミュージシャンは、街を歩くと似たような感じの大学生がいたりしたけど、ボウイみたいな格好をしている人は全然いなかった。少なくとも、僕が住んでいた田舎には、全くいなかったです。

奈良美智

―簡単に真似できるような格好じゃないですもんね。

奈良:そうですね。だから僕は、最初からカッコいいと思っていたんですけど……なんか友だちには、恥ずかしくて言えなかったんですよね。男の人を美しいと思ってしまう自分の感性は、大丈夫なんだろうかって思って。中学生の自分としては、ちょっと戸惑うところがいっぱいあった。

子どもが見てはいけない陰のある美しさというか、すごく耽美的な感じがして、これは近寄っちゃいけないものなんじゃないかなって思っていましたよ。でも、音楽自体はすごくカッコよかったから、そのギャップみたいなものに、中学生のときはドギマギしていたことを、今、思い出しました(笑)。

―当時は、男の子たちよりも先に、女の子たちから支持されていたと聞きましたが。

奈良:ああ、確かに女の子たちは、僕とは違う観点で好きになっていたような気がします。少女漫画に出てくるようなきれいな男の子が実在したような感じでしたからね。

山本寛斎のデザインによるストライプ柄のボディースーツをまとったデヴィッド・ボウイ。撮影は鋤田正義 / ©Sukita , The David Bowie Archive
山本寛斎のデザインによるストライプ柄のボディースーツをまとったデヴィッド・ボウイ。撮影は鋤田正義 / ©Sukita , The David Bowie Archive

奈良:でも、やっぱりデヴィッド・ボウイは……『ジギー・スターダスト』にハマったあと、その前のアルバムとかも聴いたんですけど、ロックの人というよりも、どこかフォークソング的な感じというか、「詩人」のような印象をすごく受けたんです。だから、ロックをやっていても、他のものとは違って聴こえたのは確かですね。

たとえば、『ジギー・スターダスト』のなかで言うと、“Suffragette City”がいちばん激しい曲だと思うんですけど、そこにも何か物語的なところがあって。単に鬱憤を晴らすような曲ではなく、聴いているとその街のなかに連れていってもらえるみたいな感じがあった。

奈良:ジギーが誘い込んでくれた夢のなかで、一緒にロックさせてもらえるような感じがあったんですよね。それがやっぱり、他のミュージシャンたちとは全然違っていた。

―見た目はセンセーショナルですけど、音楽はむしろやさしい感じがありますよね。

奈良:そう、歌詞もどこかやさしいんですよ。まあ、謎な歌詞もいっぱいあるんだけど。だから、デヴィッド・ボウイは、すごくイギリス的なものを持っているなと思っていました。アメリカ人のような土の匂いのする感じやラフな感じではなく、もっと繊細な表現だなと。

「霧のロンドン」っていう言い方がありますけど、デヴィッド・ボウイの音楽は、そういう感じなのかなって、当時はロンドンに行ったこともなかったのに、いろいろ勝手に想像したりしていました(笑)。

奈良美智

デヴィッド・ボウイは単なるミュージシャンではなく、明らかにクリエイターなんですよ。

―今回の回顧展を観て、改めてボウイとは、どんな存在だと感じましたか?

奈良:デヴィッド・ボウイは、時代ごとで、いろんなことに挑戦し続けた人というイメージが強いですよね。ひとつの道を極めることではない強さが彼の表現にはあると思う。というか、誰も挑戦したことのない道を必然的に選んでいったような気がするんです。

ニコラス・ローグ監督による、デヴィッド・ボウイの初主演映画『地球に落ちて来た男』(1977年)より / Film stills by David James ©STUDIOCANAL Films Ltd., Image ©Victoria and Albert Museum Courtesy of The David Bowie Archive
ニコラス・ローグ監督による、デヴィッド・ボウイの初主演映画『地球に落ちて来た男』(1977年)より / Film stills by David James ©STUDIOCANAL Films Ltd., Image ©Victoria and Albert Museum Courtesy of The David Bowie Archive

奈良:だから、デヴィッド・ボウイは、クリエイターとしてすごく尊敬できる。そのとき流行っているものや王道を絶対行かずに、彼がやったことが、そのあと流行や現象になったところはあると思います。

それは音楽以外のことでも、たとえばビジュアルとかに関しても同じで、アレキサンダー・マックイーンを起用したのも相当早かったし、日本の歌舞伎とか、非欧米的な要素を表現活動に取り入れたのも、たぶんボウイが最初だったんじゃないかな。当時、日本なんていうのは、海外のミュージシャンから見たら辺境の地だったと思うし、来日公演も、ほとんどなかったですから。

『Earthling』(1997年)のジャケットに使用された写真。着用している衣装はアレキサンダー・マックイーンのデザインによる / ©Frank W Ockenfels 3
『Earthling』(1997年)のジャケットに使用された写真。着用している衣装はアレキサンダー・マックイーンのデザインによる / ©Frank W Ockenfels 3

―音楽の周辺にあるカルチャーまで取り入れたボウイの表現活動は、当時すごく斬新だったんでしょうね。

奈良:そうですね、音楽だけに目が向いていなかった。音楽的にプロフェッショナルなミュージシャンって、他に素晴らしい人はいっぱいいるんですよ。でも彼は、ファッションや文学、演劇をはじめとした、音楽以外の表現も全部ひっくるめた「カルチャー」として、精神性も取り入れたうえで、最終的に音楽に向かっていったんですよね。そういうところが、クリエイターだなって思うんです。

アメリカの小説家ウィリアム・バロウズとデヴィッド・ボウイ / Photo by Terry O'Neill with colour by David Bowie, Courtesy of The David Bowie Archive, Image ©Victoria and Albert Museum
アメリカの小説家ウィリアム・バロウズとデヴィッド・ボウイ / Photo by Terry O'Neill with colour by David Bowie, Courtesy of The David Bowie Archive, Image ©Victoria and Albert Museum

奈良:ちょうど同じ時期に、The Rolling Stonesの回顧展も海外で観てきて思ったのは、彼らはやっぱりミュージシャンだってことなんですよね。今回のボウイ展と同じように、彼らが描いたステージのスケッチ画みたいなものが展示してあったんですけど、あんまり上手くないんです(笑)。もちろん、それはそれでカッコよさはありますよ。でも、デヴィッド・ボウイの描く絵は本物なんです。趣味で描いたようなものではなかった。

1978年に描かれたデヴィッド・ボウイの自画像 / Courtesy of The David Bowie Archive , Image ©Victoria and Albert Museum
1978年に描かれたデヴィッド・ボウイの自画像 / Courtesy of The David Bowie Archive , Image ©Victoria and Albert Museum

奈良:だから、ストーンズ展を観たことで、ミュージシャンとクリエイターの違いが、改めてよくわかりましたね。デヴィッド・ボウイは、明らかにクリエイターなんですよ。

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イベント情報

『DAVID BOWIE is』
『DAVID BOWIE is』

2017年1月8日(日)~4月9日(日)
会場:東京都 品川 寺田倉庫 G1ビル
時間:10:00~20:00(金曜は21:00まで、最終入場は閉場の1時間前)
休館日:月曜(3月20日、3月27日、4月3日は開館)
料金:
一般 前売2,200円 当日2,400円
中高生 前売1,000円 当日1,200円
※16時以降入場の会場販売当日券はそれぞれ200円引き

プロフィール

奈良美智(なら よしとも)

1959年青森県生まれ。愛知県立芸術大学修士課程修了。1988年渡独、国立デュッセルドルフ芸術アカデミーに在籍。ケルン在住を経て2000年帰国。2001年国内で初めての大規模な個展「I DON'T MIND, IF YOU FORGET ME.」を横浜美術館で開催。独特のひねた表情の子どもを描く絵画やドローイングが国境や文化の枠組みを越えて絶賛される。2000年中頃、大阪のクリエイター集団grafとの共同プロジェクト「Yoshitomo Nara+graf: A to Z」を展開。音楽を愛し、山々を望むアトリエで制作する。

デヴィッド・ボウイ
デヴィッド・ボウイ

移り変わり行くロック・シーンの中で、時代と共に変化し続ける孤高の存在にして、英国を代表するロック界最重要アーティストの一人。60年代から、その多彩な音楽性をもって創作された、グラム時代を代表する『ジギー・スターダスト』、ベルリン三部作と呼ばれる『ロウ』、『ヒーローズ』、『ロジャー』、80年代を代表する『レッツ・ダンス』などの名盤の数々は、その時代のアート(芸術)とも言え、全世界トータル・セールス1億4,000万枚以上を誇る。「20世紀で最も影響力のあるアーティスト」(NME/ミュージシャンが選ぶ)や「100人の偉大な英国人」(チャーチル、ジョン・レノン、ベッカム等と並び)にも選出される。2004年の『リアリティ』ツアー中に倒れ心臓疾患手術を行い、第一線から退いてしまい、もはや引退か??と囁かれた中、2013年世界中の誰もが驚いた予期せぬ復活劇は、「事件」として瞬く間に全世界を駆け巡り、10年振りの新作にして、ロック史上最大のカムバック作となった『ザ・ネクスト・デイ』を発表、アルバム・チャート初登場全英1位、全米2位を獲得し、世界的な大ヒットとなった。その後も大回顧展『David Bowie is』がイギリスはじめ世界で開催され話題を集めている。 ウォルター・テヴィス著『地球に落ちてきた男』(The Man Who Fell to Earth)がインスピレーション基となって、デヴィッド・ボウイと劇作家エンダ・ウォルシュによって書かれた『ラザルス』は、演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェが監督、舞台作品として2015年12月7日からニューヨーク・シアター・ワークショップ(NYTW)にて上演中。舞台の中ではボウイのバック・カタログからの楽曲に新鮮なアレンジを施したものや、新曲「ラザルス」がフィーチャーされている。2016年1月8日(金)69回目の誕生日に、ニュー・アルバム『★』(読み方:ブラックスター)が発売。その2日後、2016年1月10日(金)にこの世を去った。

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