脚本家・藤咲淳一が語る「孤独」からアイデアを生む企画術。傑作アニメの発想の源泉を探る

(メイン画像:©Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会)

新型コロナウイルスのパンデミックにより、取り巻く環境が目まぐるしく変化する現代で、ビジネスパーソンは日々新しい企画を提案することが求められている。その反面、感染リスクを低減するためのニューノーマルな働き方によって、クリエイティビティを刺激する新たな出会いやちょっとした雑談の機会が奪われてしまっている。

このような逆境のなかにおいて、一流のクリエイターはどのようにアイデアをかたちにしているのだろうか?

本稿では、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『BLOOD+』などを手がけ、長年アニメ業界の第一線で活躍する藤咲淳一にインタビュー。ゲーム制作からスタートした35年のキャリアを持ち、Production I.Gに所属して26年目。2月25日に公開の劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた⾳が、今も響く-』(以下、劇場版『DEEMO サクラノオト』)では、世界的な人気音楽リズムゲームの映画化という一大プロジェクトを総監督・脚本の立場から支えた。そんな藤咲の話からは、クリエイターにとどまらないビジネスパーソンにとっての普遍的なヒントが見えてきた。

企画を通すプロセスは「仲間集め」

ーそもそもアニメの企画は、どのようなプロセスを経て決まるのでしょうか?

藤咲:最近はマンガや小説などの映像化が多いので、まず企画者が原作の出版社さんに「アニメ化していいですか?」と問い合わせます。そして、プロデューサーや脚本家のような企画の中心になるメンバーを探し、出資者にプレゼンする流れが一般的です。

もっとざっくり言うと、熱意のある企画者が仲間集めをしていくんです。企画を成立させるためには、周りを巻き込んで、人間と人間を結び合わせる必要があります。「お金出すからこれつくって」では、だいたい後が続きません。

ー仲間集めの起点になる方は、やっぱりプロデューサーや監督のケースが多いのですか?

藤咲:そこは誰が担ってもいいんです。アニメの企画にはストーリーにキャラクターデザイン、世界観などの設定が必要で、最近はビジネスプランも求められます。

たとえば脚本家のぼくが企画を立てる場合は、プロットをつくって、構成をしっかりと組むスキルがあるので、ストーリーづくりから始めます。つまり、自分の一番得意分野や、人から信用されている部分を提供して、足りない部分を仲間にサポートしてもらって、実現性のあるかたちまで持っていくんです。企画書1枚で通るケースは、いまはほぼありませんね。

ごくたまに、信用のおける言葉、突き抜けた強いコンセプト一つで、企画が動く場合もあります。『やるドラ』シリーズの企画書は、アニメーションでアドベンチャーゲームつくるというコンセプトに、4つの季節の物語、フルボイスといったキーワードを並べて、「アニメーションはProduction I.Gがつくります」って、たった一言だけでスタートしました(笑)。

ただ、こういうケースは企画全体の1%もないほど、極めてレアですね。

すり合わせより取捨選択。藤咲が劇場版『DEEMO サクラノオト』に加わった意義

ー藤咲さんが総監督・脚本を担当されている劇場版『DEEMO サクラノオト』の場合は、どんなかたちで企画が進んだのですか?

藤咲:じつは劇場版『DEEMO サクラノオト』は当初、テレビアニメ化の予定で現場が動いていて、ぼくはプロジェクトが劇場版に変更したタイミングで加わったんです。このシフトで、より幅広い層に届くかたちにする必要が出てきましたが、すでに企画は動き出していて、脚本もある。そこでまず、ヒアリングから入りました。

松下周平監督に構成案を見せてもらい、脚本家の藤沢くん(藤沢文翁)には脚本のどこを立てたいのかを聞いて、クライアントからはどういう規模でやりたいか、どんな物語なら観客も原作側も満足するかを聞いて。この企画の実現に必要な要素は何なのか、みんなの意見を統合して整えるのが、企画づくりの「仲間」としてぼくが加わった意義でした。

ーステークホルダーが多いと、すり合わせも大変そうですね。

藤咲:そういうときは、すり合わせというよりは取捨選択ですね。「これをやるとこっちがダメになるので、こちらを生かすのがいいと思います」と、具体的な提案に落とし込んで、前へ進めていきます。大切なのは、全体を見て実現するにはどうすればいいかを考えること。どんなに優れたアイデアでも、うまく使えなかったら意味がありません。

ー企画に使えるかどうかの取捨選択は、何を基準に考えるのでしょうか?

藤咲:シンプルに「コンセプト」ですね。物語のわかりやすいキーワードがものさしになります。

劇場版『DEEMO サクラノオト』は、「音楽と物語の融合」をコンセプトとした上で、プロジェクトのトップから「やさしい物語にしてほしい」というテーマをいただきました。それで観る人にやさしさをどう感じてもらうかを軸に、キャラクターやストーリーを変えていったんです。

具体的には、当初渋めな雰囲気だったキャラクターを、子どもにも受け入れられやすいようにアレンジしました。あと、物語の「謎」にまつわる複雑な部分をカットしました。仕掛けに凝ってしまうと、どうしても観ている人の頭がそちらに向いてしまうじゃないですか。それでは物語で表現したいやさしさを伝えられないので、ギミックを少し下に沈めましょう、と説明して設計し直しました。

企画の3大要素「テーマ」「コンセプト」「設定」

ー藤咲さんの指す「コンセプト」とは、ストーリーの設定のことですか?

藤咲:いえ、まったく別のものです。ぼくが企画を固める上で、大きく分けてコンセプトとテーマ、設定の3つの要素があります。

まずコンセプトは、どう伝えたいか、作品で何がしたいのか。「5W1H」のHOWです。そこにテーマである、何のために「WHY」が乗っかってくるんですよね。作品に触れた人に何を伝えたいのかという感覚に近いものです。この2つの要素だけでは抽象的なので、設定でいつ・どこで・誰が・何をという具体性を与えるんですよ。この3つの要素が噛み合って初めて、企画が実現します。核となるコンセプトとテーマがはっきりしていれば、設定の部分はいくらでも変えられます。

ー劇場版『DEEMO サクラノオト』のように、原作があると設定も縛りがありそうですね。

藤咲:たしかに原作ゲームにもストーリーはあるんですけど、『DEEMO』の場合はプレイヤーの想像に任せてある余地が非常に大きく、劇場版としてぼくらなりの解釈でストーリーを紡いでいくことができました。

ゲームに登場するメインキャラクターって、主人公アリス、Deemo、仮面の少女だけなんですよ。それを踏襲して、もしアリスと言葉を発さないDeemoだけで物語を進めていったら、アリスが独り言を喋るだけの単調なお話になってしまいます。だから劇場版では設定を加えて、客観的な視点でアリスの謎について考えてくれるオリジナルキャラクターを登場させることで、観客が参加できる入り口を用意しました。

師匠・押井守に学んだ企画書の通し方

ー先ほど「企画書1枚では企画は通らない」ともおっしゃっていましたが、企画書づくりで意識していることはありますか?

藤咲:これから話すポイントは、ぼくが企画の師匠である押井守さんの「押井塾」で教わった内容がベースになっています。

ー「押井塾」とは何でしょう?

藤咲:押井さんがProduction I.G社内の若者を集めて、毎週1本企画書を書かせていたんです。ぼくはトータルで3〜4か月くらい参加しました。押井さん自身の通らなかった企画を元にテーマを出して、提出された若手の企画をフルボッコにしていました(笑)。

そこで教られたのは、まず企画書の表紙には必ず、タイトルと一緒に絵を入れろと。そして、2枚目は作品のテーマとか核になるキャッチコピーを載せろと。要するに、相手に興味を持たせて、ページをめくらせる仕掛けをつくれ、と。押井さんらしい考え方だなと思います。

ただ、実際に自分の仕事を通じてわかったのは、企画書って相手によって何を見るかが全然違うんです。現場のメンバーはストーリーのような中身を見るけど、プロデューサーは一番最後のページにある製作期間や予算のような、具体的な数字しか見ていなかったり。相手を見て「この人はどういう話をすればこの企画を受け止めてくれるんだろう?」と考えて、企画書を使い分けてプレゼンするのがポイントですね。

藤咲:もう一つぼくの経験から言わせてもらうと、「現物」をつくるといいですよ。ぼくはアニメシリーズの企画提案なら、ほぼ必ず第1話の脚本を書いていきます。

ーそこまでするんですか? まだ実際に動き出すか決まっていないのに。

藤咲:動く前だからこそですよ。具体的なかたちを見せないと、周りが信用しないじゃないですか。

よくプロデューサーが企画段階でプロットライターを雇ってプロットを書かせるんですが、それだけで納得できる人って少ないと思うんですよね。もう少し踏み込んで脚本までつくってあれば、あるいは1枚キービジュアルが入れば、間違いなくもっと具体的になる。

誤解を恐れずに言えば、クライアントもプロデューサーも、世の中の人はみんな想像力が足りないと思ったほうがいいです。だから自分の頭のなかにあるアイデアについて、他人が想像力をもうちょっと働かせられるように、具体的な案を添えてあげる。企画を実現させる確度を上げるには、じつは手間を惜しまずにハイレベルにつくり込むほうが早道なんです。

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企画が通らなくても「折れないマインド」のつくり方

ーとても実践的な企画の準備のポイントが理解できました。ほかに押井塾や経験から得たいまに生きている学びはありますか?

藤咲:とにかく押井さんにダメ出しされ続けて、「いかに企画が通らないものか」という前提を教わったのは大きいですね。

ただ、ぼくらの世代はまだダメ出しを受け止められるメンタルの世代だったと思うんですけど、いまのProduction I.Gの若手やデジタルハリウッド大学で教えている若い世代を見ていると、この育成法はもう通用しないとも思っています。だから褒めて伸ばす。

なんとなく感じるのは、みんな自己肯定感が高い割に周囲をすごく気にするので、否定されるとリカバリーできないんです。特に、自分にとっての最高の1本が世に通用しなかったときに、心が折れて立ち直れなくなる。

ーたしかに自分を否定されたように感じてしまうかもしれませんね。藤咲さんは、心が折れないようにどんなことを意識されているんでしょうか。

藤咲:たとえ企画が通らなくても、「アイデアのストックができた」くらいに思うようにしています。捨てるわけじゃなくて、チャンスが巡ってくるまで、引き出しにしまっておいて使えるときに出せばいいっていう感覚です。30年も仕事を続けていると、実際にそういうことがあるんですよ。

たとえばNHK Eテレで放送した『ピカイア!』という作品がそうです。教育テレビで放送するお子さん向けの科学アニメなので、表向きは古代世界に行って、生物と戯れる楽しいストーリーですが、そこにずっと昔にボツになった「地球が滅びた後、人類はどう生きるか」というアイデアを引っ張ってきました。このハードなテーマが、作品の脇を固めるのに生きました。

逆を言えば、当時企画が通らなかった理由も見えてきますよね。企画のコンセプトにはならないアイデアだったということです。

あとは、周囲からフィードバックをもらうのも、折れないために大切です。タイミングが悪かったとか、我が強すぎて周りがついてこなかった、とか。「これ1本ダメでもいいや。自分の糧になるんだ」という感覚さえ持てれば、次に続くはずです。

アイデアの発想は、自分自身との孤独な戦い

ー設定に縛られず、自由に発想できるとはいえ、アイデアをどんどん出すのは難しいものです。具体的にどんなふうに発想されていますか?

藤咲:ぼくはだいたいいつも、「転がす」と「拡げる」で発想しています。

まず散歩しながらアイデアを転がすんです。何も使わず、考えることに集中しない。たとえばコンビニに入って「いまこんなスイーツがきてるんだ」と眺めたら「これってあのキャラクターが食べそうだな」とか、目に飛び込んでくるものからのフラッシュアイデアを出す作業です。

机に向かいながら転がすときは「アイデアしりとり」ですね。「∞(むげん)プチプチ」を作った高橋晋平さんの発想法で、核となる言葉と、しりとりで出てきた単語を掛け合わせて、それぞれ思い浮かぶアイデアの種を3つずつくらい出すというものです。

アイデアを拡げるときは、思考経路も記録したいので、「マインドマップ」や「マンダラート」のフレームワークを使います。マンダラートはプロ野球選手の大谷翔平さんが、高校生の頃にプロになるための目標設定で使ったので有名ですね。

─コロナ以前のように、みんなで集まってブレインストーミングするようなアイデア出し会議ができずに困っていたのですが、1人でもいろんな発想法がありますね。

藤咲:友だちがいないぼくだからできたやり方かもしれません(笑)。作家や監督って孤独なんです。基本的にアイデアを求められる側で、誰にも相談ができない。ぼくの経験で言えば、複数人のアイデア出しも、結局はだいたい誰か1人がやっているように感じます。

─アイデアを出すコツはありますか?

藤咲:なるべく瞬発力で、考えずに書く作業を繰り返すのがポイントです。つい、うまく考えようとかすごい閃きを狙おうとするんですけど、熟考したところで良いものなんて出ませんから。

アイデアは絶対に、自分のなかからしか出てこない。つまり、自分の記憶と知識との勝負なんです。そのなかで自らの知識の乏しさを自覚したら、足りない部分を仕入れればいいんです。普段のインプットも大切ですが、人間なので忘れちゃうんですよね。だからぼくも都度、必要な知識を補充します。

たとえばいま、脚本として携わっているマンガ『攻殻機動隊 THE HUMAN ALGORITHM』で、砂漠を調べなきゃと思って、先日は1日中ずっとナミブ砂漠のライブ配信を見ていました。

藤咲:ぼんやりしながらでも砂漠の映像からフラットに情報を仕入れたり、サバイバルゲームをやってみて「生きるって大変だな」という感覚を得たり。あとは散歩しながら「もしいまここが砂漠だったらどうか」と空想したりする。その上で、机に向かってもう1回アイデアを拡げる。こんな繰り返しです。

ー藤咲さんのお話は、クリエイターに限らず、アイデアや企画づくりで悩みを抱えるビジネスパーソンにも参考になりそうです。

藤咲:たぶんアイデアが出ない方の多くは、いろんなものを見てないのが原因の1つです。周りにたくさんあるヒントを貪欲にインプットしてください。

押井さんの言葉を借りると「映画ってもうオリジナルは生まれてこない」。それはアイデアも同じなんです。新たな技術開発で革新的なものが生まれてくる場合もありますが、過去にあった作品のいいとこどりだったり、かたちを変えたものだったり、ぼくらはいかにうまく模倣していくかしかない、と。

だから「自分はダメだ」じゃなくて、周りにいっぱいある答えを柔軟に取り入れてください。アイデアの種をどうやって転がして拡張していくかを、諦めずにやれるかどうかなんです。

作品情報
劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた⾳が、今も響く-』

2022年2月25日(金)公開

原作:Rayark Inc.『DEEMO』
総監督:藤咲淳一
監督:松下周平
脚本:藤咲淳一、藤沢文翁
キャラクターデザイン:めばち
主題歌制作:梶浦由記
主題歌:Hinano“nocturne”(PONY CANYON)
制作:SIGNAL.MD、Production I.G
製作・配給:ポニーキャニオン

出演:
竹達彩奈
丹生明里(日向坂46)
鬼頭明里
佐倉綾音
濱田岳
渡辺直美
イッセー尾形
松下洸平
山寺宏一

©Rayark Inc./「DEEMO THE MOVIE」製作委員会
プロフィール
藤咲淳一 (ふじさく じゅんいち)

茨城県出身。脚本家、小説家、ゲーム製作者、アニメーション監督。『BLOOD+』の監督・シリーズ構成を務めるほか、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』(2002年)『ダイヤのA』(2013年)『ポケットモンスター サン&ムーン』(2016年)では脚本を担当。『MARS RED』(2021年)『ガル学。~聖ガールズ・スクエア学院~』(2020年)ではシリーズ構成と脚本を務めた。



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