小谷実由らが学ぶ、ファッションと環境問題の関係。地球を救うのは「ストーリーのある服」

気候変動、大気汚染、海洋汚染、森林破壊。地球環境に関するさまざまな課題が積み上がってゆくなかで、ものを生み出すことや消費することに、私たちはどのように向き合っていくべきだろうか。

こうした状況について、農業や食の視点から学びを深めようとしているのが、渋谷パルコ内のGAKUで開催されている「農暮らす / agri class」だ。ファッションを中心にカルチャーを牽引してきたパルコ、10代に向けたクリエイティブな講義を行なうGAKU、宇宙から人工衛星で地球環境の変化を観測しているJAXAが手を取り合い、サステナブルな取り組みを行なうクリエイターや専門家を招いた講義やワークショップを開催している。

今回は「農暮らす / agri class」で実施された、ファッション産業と環境問題をめぐる現状について考察した授業「綿花と水」を元に、講師を務めたJAXA第一宇宙技術部門地球観測研究センターの山本晃輔、本講座の立ち上げに携わったパルコの安藤里奈、ファッションを愛し、服への思いについて発信し続けるモデルの小谷実由の3名が、持続可能なファッションとのつき合い方について考えた。

小谷実由、パルコ、JAXAが、農業視点からファッション産業の未来を考える

パルコとGAKUに、JAXAがプログラム協力として加わっている授業シリーズ「農暮らす / agri class」。意外な組み合わせの3者によるこのコラボレーションは、そもそもどのように始まったのだろうか。

安藤

私たちパルコは、都市生活者の方々にファッションやエンターテイメントを通じたワクワクを提供してきたのですが、今後、農業や食についても考える機会を持ちたいと思っていて、GAKUさんに相談させていただいたんです。もともとGAKUさんが10代を対象にした教育の場ということもあり、これからの社会を担っていく若い世代の方々が農業や食を通じて、サステナビリティについて考えるきっかけになればと、この授業シリーズを始めることになりました。

そして、ちょうど同じタイミングでJAXAさんとお会いする機会があり、お互いがサステナビリティに関する取り組みを生活者の方に届ける方法について考えていたこともあって、ご一緒させていただくことになったんです。

もともとは暮らしのなかで一番身近な「食」に関することから始めたいと思っていたので、第1回は「野菜とダイバーシティ」、第2回は「食肉とCO2」という内容で授業を行なってきたのですが、ファッションも、もとをたどれば農業が関わっているということに思い至り、3回目のテーマは「綿花と水」になりました。

モデルとしての活動や、SNSなどを通して、写真や自身の言葉でファッションの魅力を伝えてきた小谷。10代のころからファッションに高い関心を寄せるなかで、この10年ほどは、サステナビリティについても意識するようになったのだそう。

小谷

まずは自分がきちんと現状を知って実践していないと、人に伝えることができないと思うんです。人によって服に対する考え方も違うし、繊細な内容でもあるので、わかりやすく伝えたいけれど、言いたいことが多くなりすぎてしまったりして、難しさを感じています。

だから、早く伝えなければという焦りもありつつ、自分のなかでもどのように伝えるのが良いかを模索している段階です。

宇宙から地球を見ると明らかになる「ファッションと水の関係性」

今回のテーマである「綿花と水」を考えるうえで、地球の水はいまどのような状況にあるのだろうか。JAXA地球観測研究センターでは、国内外の研究機関などと協力しながら人工衛星から得られるデータを日々解析している。山本は、宇宙から降水を観測する衛星を担当しており、得られたデータを用いて日々変化する地球上の水の様子を分析している。

山本

じつは、太陽系のなかでこんなに水に恵まれている星って地球のほかにないんです。それだけ水がたくさんあるなら、どれだけ使っても大丈夫じゃないかと思ってしまいそうになりますが、地球にある水のほとんどは海です。海は塩水なので、そのままでは使えませんし、真水にするためには、多くのエネルギーが必要になります。

それに、地球上に存在する淡水のほとんどは、氷河や簡単には人が掘り起こせないくらい深いところにある地下水なので、すぐに使える川や湖などの淡水は、地球全体の水のたった0.01%ほどなんです。

「水資源」という言葉があるくらいですが、限りある水を計画的に使っていくためには、地球のいまをきちんと見て、どこにどれだけの水が存在しているかを把握したうえで、将来的にどんなふうに変化していくかを予測していく必要があって。ぼくらはその一部を研究しています。

水に恵まれた日本での暮らしでは、なかなか意識しづらい水の問題。しかし、じつは私たちの日々の生活も、世界中の水資源を消費することと決して無関係ではないのだと、山本は言う。

山本

農産物などを輸入している国が、それらを自国で生産する場合、どれほどの水を必要とするかを推定する「バーチャルウォーター」という考え方があります。

ダイレクトに水を輸入しているわけではないので、少しイメージがつきづらいかもしれませんが、日本は多くの資源を輸入に頼っているので、日々普通にご飯を食べているだけでも、食糧の輸入元の国の水をたくさん使っていると言えるんです。だから、じつは水の問題は、ぼくたちの暮らしにもつながっている身近な問題だということを、頭の片隅に置いておくだけでも少し意識が変わるのではないかと思います。

小谷

オーストラリアにホームステイしていたときに、少し降っただけでもニュースになるくらい、雨が降らなくて。食器を洗うときにも、溜めた水ですすいでから洗剤で洗って、その後はすすがずにタオルで洗剤を拭き取っていたんです。

私は毎日シャワーを使っていいよと言われたけれど、ホームステイ先の家族は毎日は使わなかったり。日本にいると、普段の生活のなかでそういうことを意識したことがなかったけど、私たちが直接的に感じていなくても水の問題に関わっているんですね。

そして、水を大量に使う農業の1つが綿花だ。ファッション産業は、すべての産業のなかでワースト2位の環境汚染産業と言われている(1位は石油やガスなどのエネルギー産業)。製造過程で多くの二酸化炭素が排出されることはもとより、毎年、東京ドーム約75万杯(9,300億立法メートル)の水を使用しており、染色に使われた廃水は、全世界の廃水の2割を占める(「農暮らす / agri class」第3回 綿花と水 より)。

山本

服に使われる繊維には、化学繊維と天然繊維がありますが、化学繊維が環境に良くないということはなんとなく想像しやすいと思います。しかし、じつは天然繊維であれば環境に良いとも言い切れないのです。

ぼくはファッション産業の専門家でも、環境問題の専門家でもないので、今回の講義を担当するにあたり勉強したのですが、天然繊維の場合、綿花の栽培に大量の水を使います。Tシャツ1枚をつくるのに約2,700リットル、ジーンズ1本をつくるのに約7,500リットルの水を使うと言われていて、無計画な綿花栽培を続けてしまうと、当然環境破壊にもつながってきます。

例えば、ウズベキスタンとカザフスタンにまたがるアラル海は、かつて世界4位の大きな湖でしたが、無計画な綿花栽培などに取水された影響で60年前と比較して20分の1程度に縮小してしまい、付近の生態系にも大きなダメージを与えてしまいました。

ファッションは悪なのか? 私たちにできるファッションとのつき合い方

綿花栽培という1つの切り口から見ても、新しい服がつくられる過程で地球環境に大きな影響を与えている。こうした状況のなかで、私たちはファッションとどのようにつき合っていけば良いのだろうか。山本は、「世界一貧しい大統領」として知られるウルグアイの元大統領、ホセ・ムヒカの国連でのスピーチを参照しつつ、こう話す。

山本

根本的な問題は、大量に買って大量に捨てないと成り立たないという悪循環を抱えた社会システムにあるんですよね。

あまりにも長持ちする製品が世の中に溢れていると、その産業が成り立たないし、景気も経済も良くならず、雇用も生まれない。いまぼくたちはそうしたシステムのなかで生きています。だから、環境問題だけに焦点を当てるのではなく、その手前のシステムそのものについて考えないと、解決にならないんです。

また、そうしたマクロな視点とともに、一人ひとりにできることもあるのではないか、と山本は続ける。

山本

1着の服を大切に着るということが、誰にでも取り入れやすい、身近な取り組みなのではないかと思います。大切な人からもらったものや、思い入れがあって買ったものなど、「ストーリーのある服」が増えていけば、自然と1着の服を大切にできると思うんです。

「ストーリーのある服」を大切にする姿勢は、小谷にも共通している。小谷自身はいま、服とどのように向き合っているのだろうか。

小谷

10代のころは新しい服を取っ替え引っ替えしていて、1度しか着ない服もたくさんあったけれど、大人になるにつれて、一時の気持ちの盛り上がりだけでなく、着回しが効くものや、長く着られる良いものを、きちんと選ぼうという気持ちになってきたんです。

それと同時に、私は美術品を買うのと同じような感覚で服を買っているところがあるので、所有するだけで意味を持つ服もあると考えていて。心を掴まれて、絶対に大事にしたいという思いを持ったうえで買うことが大切なんだと思います。

だから、これから買おうとする服や、すでに自分の持っている服に対して、みんなにより想いを馳せてもらえたら良いなと思って、私は服への思いについて発信を続けているんです。

手にしてきた服への思い入れが強いからこそ、着ることがなくなった服の手放し方も大切にしたいという小谷。この数年は、フリーマーケットを行なうことが多いのだそう。

小谷

フリマだと、顔が見える相手に「こうやって合わせるとかわいいですよ」といった言葉も込みで手渡すことができるので、そうやって買ってくれた方なら、きっと大切にしてくれるんじゃないかと思えて、少し安心できるんです。

自己満足かもしれないけれど、手放して良かったと思えるし、その服との思い出を良い形で終わらせられるように思います。イベントなどに、私のフリマで買った服を着て来てくださる方がいると、「元気にしてた?」みたいな気持ちになって嬉しいです。洋服を通して、お互いに思いを共有できたように感じられます。

ファッションは人間ならではの嗜み。服を着ることの喜びをあらためて考える

環境問題をめぐる状況について知ると、変えるべきことはあまりにも多く、個人にできることはあまりにもささやかなように感じてしまう。けれども、まずは1人でも多くの人が目の前にある課題を認識し、我がこととしてとらえなければ、変化は起きない。知識と意思を共有し、いまを変えようと願う思いが、さざなみのように広がっていくことで、大きな変革につながるはずだ。締めくくりに、今回の時間を通じて3人が感じたことや、それぞれのファッションへの思いについて話してもらった。

山本

宇宙って、日常生活のなかであまり馴染みがないものだと思うんです。でも、意識していないだけで、天気予報やGPSのように、宇宙から地球を観測したデータは意外と我々の身近なところで使われています。

より多くの人たちにそうしたことを知ってもらえたらと思っていたのですが、今回のようにファッションと宇宙、それぞれの分野に関心のある人たちの架け橋になるような企画があると、両方の世界に関わる人が増えますし、小さな1歩かもしれないけれど、環境問題について知ってもらうきっかけにもなると思うんです。

衣食住は、ほかの生き物とは違う、人間らしさがいっぱい詰まっているものだと思っていて。歴史を振り返っても、ファッションは国や時代を象徴する文化として嗜まれてきましたし、シチュエーションや気分に合わせたり、個性を出すことを、多くの人が楽しんできたものですよね。

そうした文化に喜びを見出せることは、「人間でいて良かった」と思える部分なのだと、今回あらためて気づかされました。

安藤

私たちは、洋服がつくられるまでの過程や、お客さまの手元に届いたあと、お洋服がどうなっていくかは見えない部分もあるので、山本さんがお話しされていたような現状をまず知ったうえで、どのように販売して、どうやって着ていただくのかについて、ファッションに携わる企業として、真摯に考えなければならないとあらためて思いました。

デザイナーの方が思いを込めて服をつくることや、それに共感したお客さまが手に取った服を愛着を持って着るという、日常のなかの素敵な営みを大事にしていくためにも、そう思います。

小谷

環境問題についていろいろな人から話を聞くなかで、ものを買うこと自体に問題を感じてしまうことが多かったんです。私は服が好きで、着ることの喜びを伝えたくてモデルの仕事をしているけれど、自分が何かを紹介するたびに、良くないことが起こっているんじゃないかという葛藤も抱えていて、自分の仕事の必要性についてまで、考えてしまうことがありました。

でも、服があることで、好きなものについてのコミュニケーションが生まれたり、人との出会いがあったりもして、私は本当に素晴らしいものだと思っているから、良い面もたくさんあるはずだと、希望を持ちながらこれまでやってきたんです。

10代のころは「サステナブル」という言葉を聞いたこともなかったので、思い返すと恥ずかしい気持ちにもなるし、「どうして誰も教えてくれなかったんだろう」という思いもあります。だからこそ、これから自分が学んだことについて、若い世代をはじめ、いろいろな人たちに伝えていけたらいいなと思います。

3人が大切に着る「ストーリーのある服」

環境に配慮しながらファッションを楽しむために実践したい、1着を大切に着るという考え方。最後に、3人が大切に着ている「思い入れのある1着」を持参してもらい、その服に宿るストーリーを話してもらった。

①小谷の1着 母が父のために編んだニット

小谷

母が若いころに父のために編んだもので、祖母が大事に取っておいてくれたんです。母の名前が書かれたオリジナルのタグまでついていて。多分父は着なかったんじゃないかな……?(笑)

母はあまりそういう話を自分からしてくれないのですが、母が父に手編みのニットをつくるような時代があったことも面白くて。着ていると毛玉がついてくるので、いまは自分でブラシを使って手入れしているけれど、最初のうちはワンシーズン着たら祖母が毛玉を取って綺麗な状態に戻してくれて。デザインも気に入っていますし、祖母が大事にしてくれていた、母の手編みのニットを、娘の私が着ていること自体が面白いなと思っています。

②山本の1着 オックスフォード大学の非公式パーカー

山本

留学していたころに買ったものなんですけど、じつは公式のグッズじゃないんです。公式のパーカーも売っていたんですけど、すごく高くて、当時の自分に買える金額ではなかったので、仕方なく大学の近くの露天で売られていたパチモノを買ったんです。本物を買いたいけれど買えなかったという、そのときの思いが詰まっていて、いまでも大事にしている一枚です。

③安藤の1着 母から受け継いだバッグと指輪

安藤

このバッグと指輪は、中学生のころに母がくれたものです。どちらも父が母にプレゼントしたものなんですけど、私に似合うのではないかということで譲ってくれました。父が母に渡すときに、頑張って選んだところを想像すると愛らしいし、母も捨てずに取っておいていたから、きっと嬉しかったんだと思います。そこにすごく愛を感じて、大事に使っています。

イベント情報
GAKU 農暮らす / agri class『綿花と水』

2022年1月16日(日)
会場:東京都 渋谷パルコ内「GAKU」
講師:山本晃輔(JAXA)、石川クリス陽大(Felix House)
GAKU 農暮らす / agri class『地球とミライ』

2022年3月27日(日)
会場:東京都 渋谷パルコ内「GAKU」
講師:安部眞史(JAXA)、大塚智(ADK Marketing Solutions)

温室効果ガス観測衛星「いぶき」の認知拡大を目的に行なわれた、「未来レストランいぶき」プロジェクトを題材に「地球の環境課題にどのように取り組んでいけばいいのか」を考え、環境課題を多くの10代に伝えていくためのクリエイティブなアイデアを学ぶ講義。現在受講生募集中。
スペース情報
GAKU

10代の若者たちが、クリエイティブの原点に出会うことができる「学び」の集積地。
プロフィール
山本晃輔 (やまもと こうすけ)

JAXA第一宇宙技術部門地球観測研究センター研究開発員。全球降水計画(GPM)主衛星の利用研究や陸上の水循環シミュレーションシステム(Today’s Earth)の研究開発・運用などに従事する

安藤里奈 (あんどう りな)

株式会社パルコ コラボレーションビジネス企画部所属。GAKU「農暮らす / agri class」では授業の準備や当日の運営サポートを担当。所属部門では世のなかに新しい価値を提供する新事業をつくることを目的に、外部企業・組織とのコラボレーションを行なう。

小谷実由 (おたに みゆ)

ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。いっぽうで、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。



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