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『チェリまほ』作者が「Marriage For All Japan」へ寄付をした思いとは?

Twitterから人気に火がつき、コミックの発行部数が200万部を突破した豊田悠のBL漫画『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』。俳優の赤楚衛二と町田啓太を主要キャストに迎えたドラマ版がテレビ東京の木ドラ25枠で放送され、国内だけではなく海外でも反響を呼んだ。2022年4月には映画版が公開され、7月にはタイでも上映が決まっている。

作者の豊田は映画公開に際し、原作使用料の一部を結婚の平等(同性婚)の実現を目指す団体「Marriage For All Japan - 結婚の自由をすべての人に」に寄付したことを明らかにしている。寄付を公表した理由は何だったのか。その背景や、コミック10巻という節目を迎えたいまの心境、映画版への印象について、メールインタビューで聞いた。

※記事では、10巻や映画の内容に関する記述があります。

(メイン画像:10巻通常版表紙 ©Yuu Toyota/SQUARE ENIX)

「当初は魔法が無くなったところで『チェリまほ』は終わりにするつもりでした」

「30歳まで童貞だと、魔法使いになれる」――。そんな迷信が現実となり、30歳の誕生日を機に「触れた人の心が読める魔法」を手に入れた安達清と、彼に思いを寄せる同期・黒沢優一の恋愛を描いた本作。

自分に自信が持てなかった安達が黒沢との関係を経て変化していく姿や、お互いが心を通わせていく様子が丁寧に描かれ、熱狂的な支持を得るBL漫画だ。

第1巻が発売されてから4年が経ち、最新刊の10巻でも映画版でも、安達と黒沢は結婚式を挙げ、ふたりの関係性は一つの大きな節目を迎えた。

10巻のあとがきで豊田は、「最初に1話を描いた頃には想像もしていませんでした」と率直な思いを綴っている。

「最初に1話を描いた頃はその4Pだけのつもりだったので、まさかこんなに長く続けさせていただけるなんて当時は思いもしませんでした。続きを読みたい、というお声を絶えず届けて応援してくださった読者の皆様のおかげだと思います。

当初は魔法が無くなったところで『チェリまほ』は終わりにするつもりでした。魔法が無くなったら現実社会を生きる二人を描くことになるし、あくまで楽しいラブコメだけを見たいという方の期待には応えられないだろうと思ったからです」

「『チェリまほ』はラブコメでBLでそれ以上でもそれ以下でもないですが、いまある現実を全部ないことにして描くのは個人的に嫌だったし、悩みましたが、魔法という補助輪が無くなった後どう二人で生きていくのかが大事だな、と思って続けることを決めました。

あとはキャラクターの性格的に黒沢は絶対結婚したい人だろうなと思いましたしね」

魔法が解けてからの二人は、たしかに「現実社会」の道を歩んでいる。長崎への転勤と遠距離恋愛、それを機に考え始めた、「ずっと一緒に暮らす」未来をどう実現するかということ――。

お互いの両親への挨拶や職場でのカミングアウトも描かれ、さらに10巻では、安達と黒沢が同居のため部屋探しをするも、入居審査が通らなかったり、式場探しに苦労したりする場面もあった。

これは現実社会でも浮き彫りになっている問題だ。大阪府の追手門学院大学地域創造学部の葛西リサ准教授研究室が実施した性的マイノリティーの住宅問題についてのWebアンケート調査(*1、2)によると、回答者のうち48%が「セクシュアリティを理由に不動産屋に行くことに抵抗や不安がある」と答えた。実際に経験した困難について、「不動産業者の対応を不快に感じることがある」などの回答も多くを占めている。

「選択肢がないわけじゃない ただ 選べないだけで」。作中、安達がそんな思いを吐露する場面があるが、それはまさしく、いま起きている現実を反映している。

10巻32ページ ©Yuu Toyota/SQUARE ENIX
10巻33ページ ©Yuu Toyota/SQUARE ENIX

作者に聞く、『チェリまほ THE MOVIE』の魅力。赤楚衛二、町田啓太への印象は

4月には『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』が公開され、赤楚衛二、町田啓太のタッグで大反響を呼んだ「チームチェリまほ」がドラマ版から1年以上のブランクを経て再集結した。

映画版では、恋人同士となった安達と黒沢のその後が描かれ、原作と同様に、「現実社会」を生きるふたりへとストーリーが展開する。

「映画版は、いろいろなテーマがあってどれもぐっと来たんですが、やっぱり安達と黒沢がドラマで成就したあと、そこからどう生きていくか、と二人がそれぞれ彼等らしく考えるなかだんだんと恋が愛になっていく過程を映画館の美しいスクリーンで見られたことが、何よりも贅沢な時間だったなと思いました。

風間(太樹)監督の撮られる穏やかで生活感ある日常がより二人がこの世界で生きているんだ、と実感させてくれて、ドラマや原作ファンが嬉しくなるようなこだわりもあり、何度見ても発見がある映画だったと思います」

豊田は映画版を観た感想について、そう振り返る。安達役を演じた赤楚と、黒沢役の町田への印象についても、熱を込めて語ってくれた。

「安達役の赤楚さんは、ドラマの時から徐々に変化していく安達の心情を本当に繊細に演じてくださっていたのですが、映画では内向的だったり優しい部分だけでなく、長崎の事故をきっかけに強くなっていく姿まで見せてくださって、初期は怯えるように動いていた目に、黒沢への愛しさだけでなく包容力まで満ちていくのが目に見えて分かって、愛情というかたちに見えないものをこんなにも美しく表現していただけるのかと心が震えました。

映画の見所は数えきれないほどありますが、内向的だった安達が黒沢の家で思いを伝えるシーンは安達の真摯さ、決意、黒沢への愛情と、ご両親に納得いくかたちで受け入れて欲しいという優しさすべてが赤楚さんの表情と言葉から伝わってきて本当に感動しました」

「黒沢役の町田さんは数々のアドリブエピソードも震えたのですが、エレベーターからおりたあとくるっとターンした瞬間が黒沢200%すぎて椅子から落ちそうになりました。

映画では、『完璧でなければ』とつねに装ってきた黒沢の弱さや脆さが見られたことが本当に嬉しかったです。長崎の夜に安達を失うかもしれないという恐怖からやっと本音を口に出して、硬かった黒沢の殻にひびが入ったのが、町田さんの『寂しかった』と震える声ひとつで明確に見えた時、なんてすごい方に黒沢を生きていただけたのだろうかと心から感動しました。

後半につれてどんどんと殻がやぶれていって、最後の海では心からリラックスした顔で笑っていたのがとても印象的でしたね」

「Marriage For All Japan」へ原作使用料の一部を寄付。その背景とは?

映画化にあたり、豊田は原作使用料の一部を「Marriage For All Japan」に寄付したことをTwitterで発表した。

日本では同性同士の婚姻が認められていない。現在、札幌や東京、大阪など日本各地では、結婚の平等(同性婚)を認めないのは婚姻の自由や法の下の平等を定めた憲法に違反するなどとして、複数の同性カップルらが国を訴える裁判を起こしている。今月20日には、全国2例目となる大阪地裁の判決が出る予定だ。「Marriage For All Japan」は訴訟を手がける弁護士や支援者らが設立した団体で、結婚の平等(同性婚)の実現を目指して啓発活動などを行なっている。

豊田によると、以前から同団体に寄付をしていたものの、『チェリまほ』はエンタメ作品であり問題提起をメインにした作風ではなかったことなどから、公表はしていなかったという。

寄付を公表した背景には、どんな思いがあったのか。

「お金だけがすべてではないですが、私自身子供の頃に阪神大震災に被災し支援に助けられた記憶があるので作品のテーマにしたものに還元したい気持ちがあり、以前から細やかですがシングル家庭や『Marriage For All Japan』さんのサポーターはさせていただいておりました。

ただ、『チェリまほ』はエンタメ作品で、漫画の中で問題提起がメインに出来ている作品ではないですし、BL作家には現実のLGBTQ当事者の活動に関わってほしくないと思われる当事者の方もいらっしゃるのではないかと思い、いままで公表する気はありませんでした。

けれど、作品が実写化されたことでたくさんの方の目にふれる機会が増えたこと、映画の製作に関わったスタッフやキャストの皆さんが同性婚というテーマに対して撮影中、真摯に向き合って下さったのを見て、勇気が出せたように思います」

映画版は原作と同様に、お互いの家族へ挨拶に行くシーンが描かれ、黒沢の母が戸惑いをあらわにする場面も盛り込まれた。

さらにオリジナルのストーリーとして、安達が長崎出張中、過労が原因で事故に遭いそうになり、病院に運ばれるというシーンがある。職場に連絡はいったものの安達と黒沢の関係は知られていないため、携帯電話が壊れてしまった安達は黒沢に連絡をとることができなかった。

有事の際に連絡がとれなくなるかもしれないという、現実で当事者が直面する問題を描いた理由について、ドラマ版・映画版に携わったテレビ東京の本間かなみプロデューサーは、「BLの地続きの世界には、実際に今を生きるLGBTQ+の方々がいる」ということを製作陣と共有していた、とマイナビニュースの取材に明かしている(*3)。

「もう一歩先で実際にそのために活動されている方々がいまいる」。作者の思い

『チェリまほ』は、「こんな世界が本当になってほしい」と願わざるをえない気持ちになる作品だ。安達と黒沢の関係性はもちろんのこと、二人を取り囲む友人、会社の同僚、家族、みながあたたかく優しい。

「映画や漫画を見て、安達と黒沢のようにすべての愛し合う人達が性別に関係なく添い遂げられるようになればいいな、と思われた方がいたら、ただ願うだけでなくもう一歩先で実際にそのために活動されている方々がいまいることを知るきっかけになればと思い、公表させていただきました」

豊田はそう綴る。

安達と黒沢の関係は節目を迎えた。しかし、二人の生活は今後も続いていく。

この先の展開について豊田は、「物語として結婚式で大団円というのはとても美しいと思う一方で、結婚がゴールというのも二人らしくないかな、と思うので今後の生活も描けたらと思っています」とコメント。「柘植と湊はまだまだこれからですし、今後も見守っていただけると幸いです」と呼びかけた。



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