注目の電子音楽家ASUNA、『100 Keyboards』を金沢21世紀美術館で上演へ。100台のおもちゃ製キーボードで生み出す音の模様

石川県出身の電子音楽家・ASUNA(アスナ)が11月25日、第38回国民文化祭 第23回全国障害者芸術・文化祭 いしかわ百万石文化祭2023 かほく市地域文化発信事業 ナイトミュージアムの企画で同県にある石川県西田幾多郎記念哲学館で音楽パフォーマンス『100 Keyboards』を上演した。

100台にも及ぶおもちゃ製のキーボードを使い、不思議な「音のモアレ」を生み出す『100 Keyboards』とはどんなパフォーマンスなのか。12月8日〜9日に金沢21世紀美術館でも上演を予定(※)している本作について、レポートとともに紐解く。

※チケットは好評につき完売。

100台以上のおもちゃ製キーボードを用いたパフォーマンス『100 Keyboards』とは?

90年代後半から演奏活動を始めたASUNAは、いわゆるCDやレコードのかたちをとった音楽作品の制作から、即興演奏のライブ活動、レーベル「Aotoao」の主宰、サウンドアートやインスタレーションに分類されるようなパフォーマンスの創作と上演まで、多岐にわたる活動を行なっている。

海外の芸術祭や音楽祭での演奏活動も数多くこなし、2023年10月から11月にかけて新作『Falling Sweets / Afternoon Membranophone』を引っさげてヨーロッパツアーを敢行した。

2013年に発表した『100 Keyboards』は、ニューヨーク・ブルックリンにある米国アートの殿堂「BAM(ブルックリン アカデミー オブ ミュージック)」からの招聘による単独公演をソールドアウトさせ、これまで世界25ヶ国以上の音楽祭や芸術祭で披露されてきた代表作の一つ。

題名のとおり100台(以上)のキーボードを用いた音楽パフォーマンスだが、使用されるのはミュージシャンのためのハイエンド製品ではなく、ハードオフなどの中古品店で買い集められたおもちゃのような楽器だ。

会場には色とりどりの小さなキーボードが曼荼羅のように同心円上に並べられる。大量の楽器が並べられているだけでも壮観だが、パフォーマンスはASUNAがそのキーボード群を使いひとつひとつ音を鳴らしていくことで進む。

奏でられるのはいわゆる旋律ではない。ASUNAは物理的に鍵盤を固定することで、音を(無理やり)持続させ、複数の音を重ねる。一見すると、表面的には単に和音が聞こえるだけだ。

しかし、実際のところ、これらのキーボードは安価であるがゆえに個体差がある。個体差は音程の微妙な差異をもたらし、また電池駆動による電圧変化で音程もまた変化する。

「音は波である」と物理の授業で習ったことを覚えている人もいるかもしれないが、それを思い起こせば、音=波が少しずつずれることで新たな音の模様が生まれることが理解できるだろう。

『100 Keyboards』では複数の少しずつピッチのずれた音が鳴らされることで、音同士が干渉し、音圧の上昇と下落が複雑な周期で発生する。

「干渉音」や「モアレ」を生み出すことで、肉眼で見ることはできないものの確実に感知できる音響的な模様を描いていく作品だといえるだろう。

ASUNA - 100 KEYBOARDS (Moire Resonance by Interference Frequency)

出身地・石川県での初公演をレポート

11月25日には、金沢21世紀美術館での公演に先立ち、石川県西田幾多郎記念哲学館で『100 Keyboards』の公演が行なわれた。

パフォーマンスの前にはASUNAが登壇するトークを実施。自身の音楽制作の影響源や『100 Keyboards』の創作に至った経緯、最新作『Falling Sweets / Afternoon Membranophone』のコンセプトなどについて語った。とりわけ、技術偏重の風潮に対して「楽器ができない人でも(アイディアがあれば)できる」作品をつくるというASUNAの姿勢が印象に残った。

本公演の会場となった石川県西田幾多郎記念哲学館は、建築家の安藤忠雄が「考えること」をテーマに設計。作品が演奏されたホワイエは、すり鉢状に吹き抜けの広がるコンクリート打ちっぱなしで、円形の「瞑想空間」と位置付けられている。

これまで美術館や劇場、工場や火葬場の跡地など国内外の様々な場所で上演されてきた同作。場所が変われば音の運ばれる物理的条件も変化を被るため、会場それ自体がとても重要な要素となっている。

ASUNAは干渉音とモアレ共鳴が効果的に発生するよう、会場ごとに楽器の配置や鳴らす音を少しずつ変えており、石川県西田幾多郎記念哲学館でも長い時間をかけて配置やリハーサルを行なったという。

パフォーマンスには老若男女が訪れ、会場は満員。子どもたちも多く来場しており、素朴な疑問を口にする姿も見受けられた。

冒頭、中央に置かれた照明が点く。すると、ASUNAはキーボードに近寄り、音を鳴らし、キーボードを固定していく。その慎重な作業をASUNAは1時間ほど繰り返す。

音と音の干渉の様子がゆっくりと変わっていくとともに、全体の音量も増大していく。最初のころは1か所にとどまって聞いていた鑑賞者たちも、だんだんとモゾモゾ動き出し、そのうち円周に沿って歩きながら場所によって聞こえ方が異なる音の変化を楽しんでいた。

今度は30分ほどかけて音が引かれていく。だんだんと音量が小さくなり音の織りなす模様が徐々にシンプルになる。キーボード群の音に隠れていた周りの環境音も少しずつ聞こえてきて、それもまた鳴らされている音楽の一部に思えてくる。鑑賞者は最後の一音が消されるまで、微かな音に耳を澄ませていた。

12月には金沢21世紀美術館で上演

来週に迫る金沢での公演は、妹島和世+西沢立衛/SANAA設計の「金沢21世紀美術館」で開催される。これまた特徴的な建物での上演で、異なった音の響きを楽しめることだろう。

アフタートークも予定され、8日は畠中実、9日は佐々木敦が登壇。これまでASUNAの作品を追ってきた畠中、佐々木との対話も含めて、出身地である石川県での公演を楽しみにしたい。残念ながらチケットは完売しているが、12月23日(土)に京都市の京セラ美術館でも『100 Keyboards』の公演が急遽決定。こちらは予約受付が始まったばかり。近年は海外公演が中心となっているため、国内では数少ないこの貴重な機会をお見逃しなく。

また、12月13日(水)、14日(木)には横浜国際舞台芸術ミーティング2023(YPAM2023)のプログラムで新作の『of a voice, its two shadows / ひとつの声、ふたつの影』を男女共同参画センター横浜南(フォーラム南太田)にて初上演する。

イベント情報
ASUNA
『100 Keyboards』


日程:2023年12月8日(金)、9日(土)
会場:金沢21世紀美術館 プロジェクト工房
チケット取扱:好評につき完売

日程:2023年12月23日(土)
会場:京都市京セラ美術館
チケット取扱:予約受付中
イベント情報
横浜国際舞台芸術ミーティング2023(YPAM2023)
『ひとつの声、ふたつの影/of a voice, its two shadows』

日程:12月13日(水)、14日(木)
プロフィール
ASUNA (アスナ)

石川県出身の日本の電子音楽家。語源から省みる事物の概念とその再考察を主題として作品を制作。同時に音の物理現象に関する美術作品の制作/パフォーマンスも行う。代表作に「organ」の語源からその原義である「機関・器官」としてオルガンを省みた「Each Organ」(2002)、本の語源としてのブナの木を元に情報の記録・運搬について扱った作品「Epidermis of Beech」(2012)などがある。近年は、干渉音の複雑な分布とモアレ共鳴に着目した作品「100 Keyboards」(2013)で、「メルボルン国際芸術祭」(2018)、「シンガポール国際芸術祭」(2019)、「ベルファスト国際芸術祭」(2019)、「ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージック(BAM)」(2021) など、海外のアート・フェスティバルから多数の招待を受け展示/パフォーマンスを行う。並行した音楽制作では、10代の頃から東京の実験音楽/即興/音響シーンに関わり、様々なアコースティック楽器やコンピュータによる作曲作品から即興演奏を行いつつ、無数のオモチャ楽器と電子音楽によるパフォーマンス「100 Toys」を中心に、多岐に渡りつつも一貫した作品制作を行う。これまで海外25カ国以上で演奏/展示、CDやレコードなどをリリース。ドイツの電子音楽家のヤン・イェリネクや、美術家の佐藤実-m/s、トラックメーカーのshibataらと長年に渡るコラボレーションによる制作も行なっている。今回の演奏は新作となる「Falling Sweets / Afternoon Membranophone」での1ヶ月以上にも及ぶヨーロッパ・ツアーから帰国直後の演奏となる。



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