稀代の芸術家・大木裕之の追悼展が開催中。収入は作品のアーカイブ化、遺品整理へ

アーティストの大木裕之さんが2025年10月14日、逝去した。

映像作家でありながら、ドローイングやパフォーマンス、ライブ上映など領域を軽やかに横断し、全国各地を移動しながら表現を続けた稀代の芸術家だ。日常のなかにふいに、けれど圧倒的な存在感であらわれる人でもあった。

横浜・Art Center NEWではいま、大木さんと親交があった160人以上のアーティストらが参加するトリビュート展『大大木裕之展』が開かれている。昨秋、代表の小川希さんが大木さんと交わした「NEWで展示をやろう」という「約束」が、ここで果たされた。

入場とともに配布される特別冊子には、参加者それぞれの寄稿も。「意外なところで偶然出会って、一緒にご飯を食べた」「交差点で大の字になっている人がいると思ったら大木さんだった」——神出鬼没で、チャーミングな人柄を感じさせるエピソードも語られる。

なぜこれほどまでに、愛されたのか。人々に鮮烈な記憶を遺していったのか。特別な一冊を手に、その足跡を辿った。

以下、敬称略。

昨秋の「約束」がきっかけに。大事にしていた「ライブ感」をここでも

『大大木裕之展』はまず、大木の私物からはじまる。

キャンバス、頭のなかをそのまま写したような走り書き、積み上がった新聞紙、ビデオテープ、履き慣らされたたくさんの靴……。私物の一部が、まるで大木の部屋の一角のように展示されている。

大木のパートナーであり、参加作家の一人である西村知巳が、日々その私物を動かしたり、変えたり、足したりしているという。それは、大木が大事にしていた「ライブ感」を少しでもここであらわしたい、という思いからだと話していた。

Art Center NEWは、横浜・みなとみらい線新高島駅地下1階にある芸術複合施設。東京・吉祥寺の芸術複合施設Art Center Ongoing代表の小川希が、ディレクターを務めている。

もともと大木と親交があった小川。昨秋、大木の見舞いに行った際に「NEWで大木さんの個展をやりましょう」と伝え、大木は「もちろんやるよ」と答えたのだという。それが本展開催の「約束」になった。

160人以上の人々が集った理由とは——「大木裕之」という人の軌跡が見えるよう

本展は、大木の誕生日である3月23日からスタートした。親交のあったアーティスト、映画関係者、パフォーマー、ミュージシャン、建築家、キュレーター、批評家、プロデューサーらに声をかけ、160人以上が集まった。

出品された作品は、映像から立体、ドローイングにペインティング、刺繍など、かたちはさまざま。オープニングや週末に開かれるイベントでは、ライブパフォーマンスも行われている。

さらに、参加者それぞれが綴った大木との思い出やメッセージが、特別冊子に収録された。学芸員やキュレーターらも言葉を寄せていて、寄稿のみで参加している人もいる。

並ぶ作品のなかには、大木の絵画作品をはじめ、大木がかつて展覧会で展示した作品や、作品にまつわるフローチャートやスケッチも展示されている。

ずらり並ぶ展示作品のなかから、いくつかをピックアップして紹介したい。

studio Ghost (渡辺志桜里+高田ユウ)『まれぴと』(2026)。翁面と大木の面影をオーバーラップした「ピロ面」に、移動式の構造体を融合することで大木の漂泊し続けた身体性をあらわす試みだという
進藤冬華『イクラご飯』=手前=、『積み重なる』=奥=(両作品とも2011)。叩いて柔らかくした鮭の皮に、草木染めの糸で刺繍がほどこされている。寄稿にて、かつて展覧会で、展示していた魚の皮を大木が食べていたエピソードが語られた。「そのとき大木さんが私に向けた表情を何となく覚えています。その場にいた誰かが、大木さんの代わりに作品を食べたことを私に謝りました。食べたあとには、乾いた背びれだけが残っていました」(寄稿より抜粋)
タツルハタヤマ『展示に来てくれた大木さん』(2024)=手前=、『食堂前のタマムシ』(2024)。寄稿では、大木の作品制作に向かう姿勢から学んだことについて語られていた

漂泊を続けた大木だからこそ、全国各地から作品や言葉たちが集う

高知、東京、岡山、京都など各地に拠点があり、移動を続けながら活動していた大木。だからこそ、本展は全国各地から参加者が集い、また語られるエピソードの舞台も日本にとどまらず幅広い。

大木とともにつくった作品、大木に見てほしかった作品、大木を思ってつくった作品——そして、添えられた言葉の数々。関わった人々の記憶や言葉から、大木裕之というひとりの人間の軌跡が、ここに立ち上るような感覚にさせられた。

田中義樹『小大木裕之展』(2026)。寄稿では、大木との出会いからいままでのエピソードが綴られていた
『小大木裕之展』には、米粒一つひとつに文字が書き込まれていた
永畑智大『大オオキペインティング』(2026)=手前。「大木さんのような全身芸術家に憧れます」(寄稿より抜粋)
金川晋吾『明るくていい部屋(大木さん)』(2022)。「そんな私たちのとらえがたい生を、なんとかして動いているままにとらえること。大木さんがやろうとしていたのはそういうことだったのではないかと私は思っている」(寄稿より抜粋)
松本玲子『アクション、重ね着』(2026)。かつて大木とともに東京の一角をぶらついた夕方の「アクション」と、大木の重ね着の配色から「発生した」という作品

会場の一角には大きなスクリーンがあり、そこでは参加作家が出展した映像作品が上映されている。

本展収入はすべて遺品整理と作品アーカイブ化へ。作品を未来に残す一助に

Art Center NEWは、本展覧会で得られる収入のすべてを、大木の遺品整理と膨大な量の作品のアーカイブ化に使うとしている。

「衣服や松ぼっくりやレシート、とんかち。貴重なフィルム作品がそれらに混じって置かれていて、あまりに無造作なためにすぐにそれとは気付かない」(西村知巳の寄稿から抜粋)

西村が語るように、大木が遺した作品は膨大であり、またフィルムやビデオテープのままで保管されているものも多いため、データをデジタル化して保存する必要があるということだった。

会期中には毎週末イベントが開かれている。残るイベントは以下のとおり。

▼4月11日(土)17:00〜「Art Bar vol, 5 三田村光土里 ・CRY ME A RIVER Bar」
三田村光土里が一夜限りのバーのマダムを務めます。
参加費:入場料+ワンドリンクオーダー

▼4月11日(土)19:00〜「また会えると思いますか」
工藤冬里 ミュージックライブ
参加費:入場料+1500円

▼4月12日(日)15:00〜「大木裕之を考える part2」
登壇:佐々木敦(HEADZ)、朝倉芽生(高知県立美術館学芸員)。トーク前に大木裕之作品特別上映。
参加費:入場料+1000円

▼4月12日(日)19:00〜20:00「60分三本LIVE・動く展示品 〜大木裕之さんへ捧ぐ〜」二本目(夜)
TASKE パフォーマンス
参加費:入場料+投げ銭制

▼4月18日(土)14:00〜「大木裕之を考える part3」
登壇:柳下毅一郎(映画評論家 / 特殊翻訳家)、千葉真智子(豊田市美術館学芸員)。トーク後に大木裕之作品特別上映。
参加費:入場料+1000円

▼4月18日(土)19:00〜「私は死を消費しない。ストラヴィンスキー『春の祭典』ジャン・ジュネ『女中たち』そして、いま、「儀式」に寄せて」
田口アヤコ パフォーマンス
参加費:入場料+1500円

▼4月19日(日)13:00〜14:00「60分三本LIVE・動く展示品 〜大木裕之さんへ捧ぐ〜」三本目(昼)
TASKE パフォーマンス
参加費:入場料+投げ銭制

▼4月19日(日)14:00〜22:00「大大木裕之展フィナーレ」
大木裕之作品特別上映
参加費:入場料のみ

以下、本展の展示アーティスト。

大木裕之、青木真莉子、Aokid、青木陵子、淺井裕介、有馬かおる、Anne Eastman、池田泰教、伊阪柊、伊佐治雄悟、石川多摩川、石田尚志、泉太郎、磯村暖、井出賢嗣、出津京子、伊藤仁美、伊藤存、糸崎公朗、岩井優、鵜飼悠、宇治野宗輝、うちなーぐち演劇集団比嘉座、遠藤薫、大原由、大和田俊、小川格、落合多武、オル太、利部志穂、堅田尚、金川晋吾、北村和也、鬼頭健吾、キュンチョメ、工藤千尋、久保田晃弘、窪田美樹、coomikosky、小鷹拓郎、小西紀行、斎藤玲児、齋藤春佳、阪中隆文、鷺山啓輔、櫻田宗久、桟敷北斗、佐塚真啓、佐藤篤、宍戸遊美、地主麻衣子、柴田祐輔、島崎桃代、白川昌生、神祥子、進藤冬華、鈴木光、studio Ghost (渡辺志桜里+高田ユウ)、曽根裕、高石晃、高橋大輔、高嶺格、髙山陽介、竹川宜彰、竹崎和征、竹田篤生、田代一倫、TASKE、タツルハタヤマ、田中義樹、玉塚充、玉山拓郎、千葉正也、張竣凱、戸田祥子、冨井大裕、友清ちさと、トモトシ、中ザワヒデキ、永畑智大、二藤建人、西村知巳、二艘木洋行、ヌケメ、能勢伊勢雄、花代、濱田公望、林靖高 (Chim↑Pom fSG)、韓成南、潘逸舟、比嘉陽花、東野哲史、彦坂尚嘉、布施琳太郎、前田真二郎、増村純子、松井ゆきの、松岡美江、松本玲子、松本力、Martyna Miller、三田村光土里、港千尋、三野綾子、宮川貴光、宮坂斉秀、宮下美穂、村田冬実、MES、メランカオリ、百瀬文、森山泰地、山根一晃、横江孝治、Linz、和田昌宏、渡辺小夏、渡邉洵

イベント情報
『大大木裕之展』

会場:Art Center NEW(横浜市西区みなとみらい5-1 新高島駅地下1階)
会期:2026年3月23日(月)〜 4月19日(日)
時間:12:00〜20:00(入場は閉館の30分前まで)
入場料:一般2,000円、大学生1,500円、高校生以下無料、障がい者手帳提示で同伴者1名まで無料
※特別冊子付き(一般、大学生のみ)。本冊子持参で会期中何度でも入場可能。
プロフィール
大木裕之 (おおき ひろゆき)

1964年、東京生まれ。高知県や東京都、ほか各地に拠点。2025年10月、逝去。東京大学工学部建築学科在学中の80年代前半より映像制作を始め、1989年より北海道松前町を中心とした映像作品群「松前君シリーズ」を開始。1990年に『遊泳禁止』がイメージフォーラム・フェスティバル審査員特別賞を受賞、1996年には『HEAVEN-6-BOX』が第45回ベルリン国際映画祭ネットパック賞を受賞。その表現活動は映像制作にとどまらず、ドローイング、ペインティング、ライブ上映、インスタレーション、身体パフォーマンスなど多岐にわたる。高知県では、2000年にアーティスト集団「M・I」を結成し、その代表として毎年よさこい祭りに参加した。




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