史上初の『M-1グランプリ』連覇、吉本興業の退所、映画での俳優デビュー。話題に事欠かないお笑い界のキーパーソンの一人である令和ロマン・髙比良くるまが、「笑い」を拡張すべく、新しい挑戦をはじめている。
5月16日に横浜・Kアリーナで開催された単独ライブ『RE:IWAROMAN』で、初監督・脚本を手がけた短編映画『BREAK SHOT』をサプライズ上映した。
サルゴリラ・児玉智洋を主演に迎え、オダギリジョー、高良健吾、森川葵など錚々たる役者が集結した本作。自動運転が標準化された2045年を舞台に、たまたま居合わせた人々の会話や出来事が思わぬかたちで交錯し、この時代に起きるはずのない玉突き事故が起きてしまうというストーリーだ。
なぜ今短編映画だったのか? 漫才というフィールドから映像表現へと活動の幅を広げるくるまと、主演を務めた児玉にインタビューした。
M-1優勝の「次」を考えていたら映画に辿り着いた
—くるまさんが映画監督にチャレンジというニュースにまず驚きました。どのような経緯だったんでしょうか?
髙比良くるま(以下、くるま):遡ると、『M-1』で初優勝したあと「次どうしようかな」って漠然と考えていた時期があって。「来年も出ます」というノリでいたからとりあえず劇場には出ているけど、この先チャンピオンとしてどうしていけばいいんだろうと思ってたんです。
くるま
くるま:そのタイミングで松居大悟監督の映画『ミーツ・ザ・ワールド』のオファーをいただいて、それ以外にも出演の相談を受けて、なんとなく「演技系なのかな」とか考えてたんですよ。粗品さん(霜降り明星)は音楽、野田クリスタル(マヂカルラブリー)さんはゲームや筋トレをやっているけど、芸人でがっつり本腰を入れてお芝居をやっている人ってあまりいないじゃないですか。そういう状態で自粛期間に入り、退所になって環境の変化も重なって、「自分は演技や映像の方向に進んでいく流れなのかもしれない」と感じるようになりました。
で、今年のKアリーナの単独ライブ(『RE:IWAROMAN』)で幕間映像を用意する必要があって、せっかくでかい会場で予算もあるし、それをスケールアップしてやってみたらどうかなと。最初は「何も知らないケムリを内緒で映画に出すドッキリ動画」を作るって発想でした。
児玉智洋(以下、児玉):ドッキリから始まってあのメンバーが揃ったってことなの?
児玉智洋
くるま:そうなんですよ。本人が知らないうちに映画に出て大事になってたら面白いかなと思って。そんなときに同年代で映画プロデューサーをやっている雨無麻友子さんと知り合って、彼女がすごい人を集めてきて、「あれ、これちゃんとした映画じゃん」って(笑)。
児玉:もうケムリのリアクションとかどうでもいいよね。
くるま:そうですね、どうでもいいんすよ(笑)。でも児玉さんは芸人の先輩だし、児玉さんに出てほしいということは最初から言っていて。そうしたらオダギリジョーさんとか決まってきちゃって。
児玉:もう俺の存在もどうでもいいよね。別に全然主人公でもないし。
くるま:いや、児玉さんは主人公でメインなんで。ポスターみましたか?
児玉:みたよ。一番でかく映っててふざけんなと思ったよ。オダギリさんはなんかちっちゃいし……。
―(笑)。くるまさんが児玉さんに頼みたかった理由は何なのでしょうか?
くるま:サルゴリラさんって、本当に一番面白いコンビだと思っていて。(『キングオブコント』の)チャンピオンだから当然なんですけど、昔からネタがめちゃくちゃ好きで、大先輩ですけどライブに呼ばせていただいたりして、その一環でぜひお願いしたかったんです。
だって、顔が面白すぎるじゃないですか。ドライブレコーダーの絵が変わらない定点の視点で芝居をしてもらうので顔がすごく大事だったんですけど、児玉さんは顔が最高に面白いので。相方の赤羽(健壱)さんももちろん面白いんですけど。
—児玉さんにとっても映画の主演は初めてですよね。作品に参加されていかがでしたか?
児玉:そうですね。映画自体はちょい役で何本か出させていただいたことはあるんですけど、こんなすごいメンバーが揃った作品で主演というのは初めてです。でも演出するときにくるま自身が役を演じながらイメージを共有してくれるので、めちゃくちゃやりやすかったです。
くるま:嬉しいです。
「誰が悪いのかわからない」短編映画で描きたかったこと
—『BREAK SHOT』は玉突き事故が起きるまでの顛末を様々な人物の視点から群像劇的に描く作品です。ドライブレコーダーの視点から撮るという設定にはどんな背景があるのでしょうか?
くるま:この映画でテーマにしたかったのは、「誰が悪いかわからない」みたいなことで。この作品の中では事故が起きてしまったけど、その顛末を見てみると、誰が悪いかわからないじゃないですか。
みんないつ事故るかわからないような状況じゃないですか。みんなちょっとずつ悪いところがあって、つまり誰がいいのか悪いのか、全部有耶無耶だってことです。そして、みんな何らかの事情や問題を抱えていた。
―エンドロールで起きる仕掛けも印象的でした。
くるま: AIやテクノロジーの視点で人間の愚かさを描いて問いを残すような映画ってよくあると思うんですけど、そういう問いかけが苦手で、「問うな!」と言いたくなるんですよね。テクノロジーの側にメッセージを背負わせないようにしたくて、撮影の直前にあのシーンが生まれました。
―初めて映画監督として作品を作ってみて、面白かったことと、逆に大変だったことは何でしたか?
くるま:面白かったのは、そもそも自分が置かれた状況が「東京ですごい高いダウンを着て歩いてる」みたいに常にオーバースペックな状態なので、もう俺が現場で何を言っても大丈夫だったってことです。
撮影のスタッフさんも、できるならできると言ってくれて、できないことはできないとはっきり言ってくれる。みんなプロだから。友達と「何かやってみようよ」というノリでやったら絶対こうはならないと思うんですよね。出来もしないことをやってうまくいかず、撮影が押すとか、そういうことには絶対にならないので気持ちよかったですね。
『さんまのお笑い向上委員会』と一緒です。さんまさんもいるし、絶対誰かがオチをつけてくれるじゃないですか。スベってもおいしいみたいな。
―技術もレベルも高い人が集まっているから何も心配することがなかったと。
くるま:だから楽しかったですけど、難しかったのは撮影のあとの編集作業でした。「このシーンとこのシーンを並び替えるべきか」とか、膨大なパズルみたいで、「これ以上変えられない」みたいな場面もあったり。それも含めて楽しかったんですけど、とにかく大変でした。
目指すのは劇団かもめんたるのスタイル
―児玉さんから見て、くるまさんは芸人としてどんな存在ですか?
児玉:チャンピオンになったのは同じ年だったんですけど、大きな存在ですよね。すごいことになっちゃって。
くるま:2023年の優勝者の顔ぶれは不思議で面白いんですよね。『R-1グランプリ』の王者は田津原理音で。
児玉:あと紅しょうが(『THE W』2023年の王者)。でも、とにかくくるまには本当にどんどんいろんな挑戦をやってほしいですよ。僕もお芝居にすごく興味があってやってみたいと思っているし。「児玉を世界へ」で頑張ってほしいですよ。
くるま:理想は国際映画祭で賞を取って、児玉さんに日本語でスピーチしてほしいですよ。
—くるまさんは今後、「お笑い」を軸に映画などの作品制作をしていく予定なんでしょうか。
くるま:そうですね。お笑いをサークル時代も含めて10年くらいやってきて、一定の結果が出たとき、これを何かに活かさないといけないなっていう感覚になっちゃうんです、僕は。漫才をずっとやり続ける先輩方もいて、それはすごく尊敬しているんですけれど、自分の場合は、このパワーを別の場所でも使えたほうが、やっている意義があるなと思ってしまう。
自粛を経て相方とも話したんですけど、今は自分は「作る」ことをやっていったほうがコンビとしても楽しいかなと思ってるんです。相方はいろんなところに出て、僕は作っていて、どこかで合流したり僕の作品に出てもらったり。劇団かもめんたるスタイルですよね。う大さんが作って槙尾さんが出るという。
児玉:ケムリはくるま作品に出続けるの?
くるま:そこは細かく入れ込みたいですよね。
—映画だと、漫才よりもチームの規模も変わってきますよね。
くるま:関わる人数の桁が違くて、エンドロールとか見ると、人が多すぎて本当に面白いです。
児玉:それこそ「くるま組」だよね。いずれはメトロンズ(しずる、ライス、サルゴリラの3組と、作家・演出家の中村元樹による7人組演劇チーム)のメンバーを丸ごと全員使ってほしいですよね。
—今後も楽しみにしています。
- 作品情報
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『BREAK SHOT』
監督・脚本:くるま
出演:児玉智洋 高良健吾 森川 葵 前田旺志郎 高橋 侃 遠藤雄斗 くるま 松井ケムリ 浅野千鶴 楠田悠人 神保悟志/オダギリジョー
プロデューサー:雨無麻友子 桂田 匠
撮影:村松 良
制作プロダクション:スタジオねこ
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