詩人から転身した映画監督・中川龍太郎に、太賀らの証言で迫る

海外で高い評価を得る、平成生まれの映画監督

小松菜奈&菅田将暉主演の映画『溺れるナイフ』(2016年)の山戸結希(1989年生まれ)、間宮祥太郎主演の映画『全員死刑』(2017年)の小林勇貴(1990年生まれ)、あるいは高橋一生も出演した桜井ユキ主演の『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』を経て2019年には岡崎京子原作の映画『チワワちゃん』の公開が予定されている二宮健(1991年生まれ)など、平成生まれの若手映画監督たちの活躍が目覚ましい昨今。

そこにまたひとり、新たな名前が加わろうとしている。昨年6月に行われた『第39回モスクワ国際映画祭』で、「国際映画批評家連盟賞」と「ロシア映画批評家連盟特別表彰」のダブル受賞を果たした映画『四月の永い夢』の監督、脚本を手掛ける中川龍太郎(1990年生まれ)だ。

中川龍太郎監督
中川龍太郎監督

と言っても、その名前が最初に注目されるようになったのは、いまを遡ること約3年半前、『東京国際映画祭』の公式部門のひとつである「日本映画スプラッシュ」――日本のインディペンデント映画を積極的に紹介し、海外進出を応援する部門に、当時25歳だった彼の映画『愛の小さな歴史』(2014年)が選出されたときだった。

さらにその翌年に、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2015年)で、同部門に2年連続で選出するなど、その才能にいち早く注目した『東京国際映画祭』のプログラミングディレクター矢田部吉彦は、中川龍太郎監督作品の魅力を、次のように語っている。

矢田部:(中川映画のいちばんの魅力は)感情の描き方がフェアであるところです。激情を描いても過剰にならず、死を描いてもドラマチックになり過ぎず、ニヒルにもなり過ぎない。ドラマをしっかりと構成した上で、いたずらに観客の感情をあおり過ぎず、余韻を残し、リアル感を出す。この感性が見事だと思います。リアルな余韻は詩情にもつながり、詩人でもある中川監督ならではと言えるかもしれません。

『東京国際映画祭』プログラミングディレクター矢田部吉彦
『東京国際映画祭』プログラミングディレクター矢田部吉彦

中川監督のキャリアに多大な影響を与えた、親友の死

高校在学中に、まずは「詩人」として頭角を現し、弱冠17歳にして『詩集 雪に至る都』(2007年)を出版。2010年には、やなせたかし主宰の『詩とファンタジー』誌の年間優秀賞に輝くなど、異例のキャリアを持つ中川龍太郎。

その後、大学時代に独学で映画を作り始めた彼は、初監督作品『Calling』(2012年)で、いきなり『ボストン国際映画祭』で「最優秀賞」を受賞。2作目の『雨粒の小さな歴史』(2012年)が、『ニューヨーク市国際映画祭』に入選するなど、キャリア早々にして、国際的なデビューを果たすのだった。

しかし、それと同じ頃、彼はのちに自らの「作家性」の中核をなす、ある衝撃的な出来事に遭遇する。自身のよき理解者であり、一番の相談相手でもあった親友の死だ。「彼のような友人を、果たして今後、作り得るのだろうか」。長らく苦悩し、煩悶し続けた彼は、その翌年に、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』を撮り上げる。

親友の自死を、どう受け止めればいいのか? 中川が落ち込んでいたとき、その親友が英語でメールしてきてくれた言葉からとったというタイトルを冠したその映画は、「亡くなった親友へのレクイエム」であり「自身にとってのメモワール」だった。

その映画に主演し今日の活躍の礎を築いた俳優、太賀(1993年生まれ)は、中川監督と初めて出会ったときのことを振り返りながら、その印象と映画監督としての魅力について、こう語っている。

太賀:(中川監督との出会いは)友人の紹介で、渋谷にある居酒屋でした。情熱的な人だと思いました。その熱さに作家としての知性と、表現者としての切実さを感じたのを覚えています。いま思うと、当時の中川君は人生のどん底にいたんじゃないかと思います。この人の力になりたい。そう思わせる何かがありました。

太賀
太賀

「人間の善意」を実直に描く、中川監督の最新作『四月の永い夢』

その太賀をして、「真新しさや、奇をてらう事ではなく、美しいものを美しいままに、その実直さで勝負ができる監督」と言わしめた中川監督。そんな彼の最新作『四月の永い夢』は、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』と双子のような関係性を持った映画になっている。監督の言葉を借りるならば、「前期青春期」と「後期青春期」のような関係性。

『四月の永い夢』場面写真  ©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
『四月の永い夢』場面写真 ©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

「世界が真っ白になる夢を見た。(中略)ふと目を覚ますと、私の世界は真っ白なまま、醒めない夢を漂うような、曖昧な春の日差しに閉ざされて、私はずっとその四月の中にいた」

満開の桜を背後に喪服姿でたたずむ主人公・初海(朝倉あき)の、詩情に満ちたモノローグで幕を開ける『四月の永い夢』。それは、恋人を亡くしたひとりの女性が、その喪失感と、誰にも言えない秘密から、徐々に解放されてゆく様子を描き出した映画である。

前作が「レクイエム」であり「メモワール」であったのに対し、本作は「恋人の死」を乗り越える、喪失と再生の物語でありーー監督の言葉を借りるならば、「失われたものへのラブレター」である。さらに監督はこう続ける。

中川:例えば恋人が亡くなっても、何もかも失ったわけではなく、その肌触りや声、ふとしたときの言い回しなどは、失われることによって、より鮮明に残るのではないか。初海は「失った」という事実を通して、不在を実感として記憶する。死、人と知り合うこと、新たな経験をすること、それらがすべて同じ地平にある様を描きたいと願って撮りました。

ちなみに、先述の矢田部吉彦は、この『四月の永い夢』の中に感じた「中川監督らしさ」と、その「成長」について、次のように語っている。

矢田部:ネタバレを避けますが終盤に映画の鍵となる手紙が読まれる場面の演出には心が震えました。全体として過去作よりはエネルギー量を抑え、穏やかだけれどまだ肌寒い春の風のような雰囲気に、中川監督の能力の幅の広さを感じさせます。中川監督作品において死者は常に身近な存在であり、それは肯定的な意味を持つように描かれます。あの世との距離感を埋めるのが詩情であるとすれば、やはり詩情が中川監督らしさなのだと思います。

『四月の永い夢』場面写真  ©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
『四月の永い夢』場面写真 ©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

「人生って失っていくこと。失い続けることで、その度に本当の自分を発見していくしかないんじゃないかな」

劇中、ある人物の口から告げられる、そんな台詞が、観る者の心に深い余韻を残す本作。それは監督自身の個人的な「思い」であると同時に、現在の日本に生きる若者たちの「いま / ここ」を射程する言葉でもあるようだ。『モスクワ国際映画祭』の受賞会見で監督は、こう語っている。

中川:いまの日本は表では平和に見えるが、同時に生きている実感を持ちづらい社会。そんな中で、悲しみややりきれなさを抱えながらも、どのように次のステージへ向かっていけるのかということを、静かなトーンで描きたかった。

同年代の若い監督たちの中でも、ひと際異彩を放つ実直さと作家性を持っているように見える映画監督、中川龍太郎。「人間の善意について恥じらうことなく語っている映画を作っていきたい」と語る彼の映画は、いまの日本を生きる若者たちに、果たして、どう響くのだろうか?

『四月の永い夢』ポスター / ©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema
『四月の永い夢』ポスター / ©WIT STUDIO / Tokyo New Cinema(サイトを見る

作品情報
『四月の永い夢』

2018年5月12日(土)から新宿武蔵野館ほか全国で順次公開

監督・脚本:中川龍太郎
音楽:加藤久貴
挿入歌:赤い靴“書を持ち僕は旅に出る”
出演:
朝倉あき
三浦貴大
川崎ゆり子
高橋由美子
青柳文子
森次晃嗣
志賀廣太郎
高橋惠子
上映時間:93分
配給:ギャガ・プラス

プロフィール
中川龍太郎 (なかがわ りゅうたろう)

1990年神奈川県生まれ。詩人としても活動し、17歳のときに詩集「詩集 雪に至る都」(2007)を出版。やなせたかし主催「詩とファンタジー」年間優秀賞受賞(2010)。国内の数々のインディペンデント映画祭にて受賞を果たす。初監督作品『Calling』(2012)がボストン国際映画祭で最優秀撮影賞受賞。『雨粒の小さな歴史』(2012)がニューヨーク市国際映画祭に入選。東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門では『愛の小さな歴史』(2014)に続き、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』(2015)と2年連続の出品を最年少にして果たす。本作『四月の永い夢』(2017)が、世界四大映画祭のひとつである第39回モスクワ国際映画祭コンペディション部門に正式出品、国際映画批評家連盟賞、ロシア映画批評家連盟特別表彰をダブルで受賞。第19回台北映画祭、第10回バンガロール国際映画祭にも正式出品された。

太賀 (たいが)

1993年2月7日生まれ。東京都出身。2006年、俳優デビュー。2007年の『風林火山』を皮切りに、2009年には『天地人』、2011年『江~姫たちの戦国~』、2013年『八重の桜』と過去に4作のNHK大河ドラマに出演。このほかのドラマ出演作にNHK連続テレビ小説『あまちゃん』、『恋仲』(フジテレビ系)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『仰げば尊し』(TBS系)など。主な出演映画に『ひゃくはち』、『桐島、部活やめるってよ』、『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』、『走れ、絶望に追いつかれない速さで』、『アズミ・ハルコは行方不明』など。2018年は5月26日公開『海を駆ける』や6月1日公開の『50回目のファーストキス』などの出演作が控えている。

矢田部吉彦 (やたべ よしひこ)

1966年、仏・パリ生まれ。小学生時代を欧州、中学から大学までを日本で過ごす。大学卒業後、大手銀行に就職。在職中に留学と駐在でフランス・イギリスに渡り、その間年間300本以上の映画を鑑賞し続け、帰国後、海外から日本に映画を紹介する仕事への転職に踏み切る。以後、映画の配給と宣伝を手がける一方で、ドキュメンタリー映画のプロデュースや、フランス映画祭の業務に関わるように。2002年から東京国際映画祭へスタッフ入りし、2004年から現在まで上映作品の選定を行う作品部の統括を担当。2007年よりコンペティションのディレクターに就任。



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