京都・只本屋の店主がおすすめするフリーペーパー5選

京都の東山五条にある只本屋は、フリーペーパーの専門店。毎月、月末の土日のみオープンする幻のようなお店ですが、全国より集められた800種類以上のフリーペーパーが並べられており、関西圏のフリーペーパーフリークだけでなく、日本各地や海外からの旅行者にも人気の本屋として知られています。今回はそんな只本屋の店主・山田毅さんが、京都で出会ったお気に入りのフリーペーパーを紹介します。

本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

こんにちは。只本屋の山田です。東京で生まれ育った僕が京都に移住したのは、2013年の春のこと。震災をきっかけに働くことや生きていくことについて、改めて考えてみようと思い、一念発起で京都へとやってきました。来てみてわかったんですが、京都って、東山とか嵐山とか、地域ごとにすごい特色があるんですよね。それぞれの地域で祭りやマルシェが毎月のように開催されているので、個人レベルで仕事をしている人がいっぱいいます。そういう方々が、魅力的な冊子やフリーペーパーをつくっていたりします。

もともと僕は、東京で作家支援や美術大学で教鞭をとったりと、美術・芸術関連の仕事をずっとしてきました。そして京都に来てからもそういった方々との繋がりも広がり、2015年春より只本屋を仲間と始めました。当初は仲間内だけが集まるこじんまりとしたお店を考えていましたが、SNSでの広がりや、海外の方からの厚い支持、そして各フリーペーパー媒体の方からの応援もあり、フリーペーパーというメディアの可能性に毎日驚かされています。全国に存在しているフリーペーパーの数は、5000とも6000とも言われていますが、只本屋では800程度の媒体を扱っています。今回はそんななかから出逢った、オススメのフリーペーパーを紹介します。

音読

『音読(おとよみ)』は、「京都の音楽を、読む」をテーマに、季刊で発行しているフリーペーパーです。配布しているのは京都を中心に、大阪・名古屋・東京など首都圏。僕がこの音読を手にしたのは、第3号の「ほんやら洞」の特集がきっかけでした。

「ほんやら洞」とは、シンガーソングライターの岡林信康らのミュージシャン、文化人、多くの市民らによって1972年に開店した、京都の喫茶店。この店では、詩人たちが詩の朗読を行い、その録音物がレコードや書籍となったり、美術家たちの個展やミュージシャンがライブを行うなど、文化人たちが集う場所として知られていました。その店づくりは、今日のギャラリーカフェなどに代表されるカフェ文化の先駆けともいわれ、来店経験がなくても、店の名前や存在を知る人も少なくない、伝説の喫茶店です。

京都って、なににしてもディープな世界がいっぱいあって、音楽の世界でもそう。京都大学の西部講堂とかライブハウスの拾得(じっとく)、それからボロフェスタとか、そういうディープな京都の音楽文化を取り上げてくれるのがこの音読です。

めいが通信

『めいが通信』は、イラストレーターの中西晶子さんがお気に入りの映画を可愛いイラストで紹介するフリーペーパー。まず『めいが通信』は、紙一枚のフリーペーパーなんです。フリーペーパーって、固定概念なのか、なぜか冊子のもの・もしくは新聞形式のものを思い浮べるかもしれません。でもそんなことはなくて、紙一枚ものって結構あるんです。そんな固定概念を優しくほどいてくれるのが、この『めいが通信』です。作者・中西さんのお気に入りの映画のワンシーンや映画に出てくる人物の些細な仕草までユーモラスに描かれています。

取り上げている映画作品も、『家族ゲーム』『楽日』『ナイト・オン・ザ・プラネット』『うなぎ』など、幅も広く、紙一枚というこの手軽さなのに情報量はいっぱい、そういうところがいいんですよね。

服をめぐる

『服をめぐる』は、京都服飾文化研究財団(KCI)が所蔵する膨大な西洋服飾コレクションを手がかりに、服飾の歴史や文化を分かりやすくお伝えする小冊子。文学者やアーティストからの視点、日本の伝統産業との関わり、研究現場からのレポートなど、さまざまな観点から服飾の世界にアプローチをしています。

中でも、著名人がKCIのコレクションから一品を選んで寄稿する「一人一品」というコーナーが面白い。第1号では、2013年に『爪と目』で芥川賞を受賞した藤野可織さんに短編小説を、第2号では、堀畑裕之・関口真希子(matohuデザイナー)がエッセイを寄稿しています。まず見たことのない洋服に関心を寄せるとともに、そこから生まれる小説とかエッセイとして書かれる言葉に、かなり満足できる内容になっています。

冊子のデザインは坂田佐武郎さんが担当していて、この方は、『Swinging』という京都のNPO法人スウィングが発行するフリーペーパーのデザインもしているんですよね。フリーペーパーの世界って狭いので、同じデザイナーが手がけているなんてことも多く、そういう観点でも面白かったりします。

右京じかん

『右京じかん』は、京都でもファンが多く、有名なフリーペーパーです。「右京に住む人、右京で働く人、右京を訪れる人の小さな愛読書を目指します!」というコンセプトのもと、右京区という地域に根ざした情報を発信しています。

ちなみにみなさん、右京区って文化財・世界遺産の保有率、京都NO.1だって知っていますか? こういう情報もこの『右京じかん』で知りました。ただ、そういう京都らしい情報だけを紹介しているわけではなくて、皆さんの知らない京都の一面も見せてくれる、ローカルな京都をちゃん紹介してくれる媒体なんです。そういう地道な活動がファンを増やしていって、他の地域の人も自分の地域の情報を発信していきたいという想いから、「じかん」シリーズとして京都府各地で広がっていきました。

2014年3月の『山科じかん』創刊を皮切りに、南丹、中丹、乙訓、下京とその数なんと5誌!つくっているのは、その土地土地でつくりたいという想いを持った方々で、フリーペーパーのフランチャイズ化が起こっていて面白い。この冊子を求めて、店舗に訪れる方も多いので、見つけたら是非手に取ってほしい一冊です。

FASTNER.

学生フリーペーパーは数あれど、京都の代表格としてあがってくるのは、やっぱり『FASTNER.』です。『FASTNER.』は、今まで日の目を浴びてこなかった京都を発信し、日常に取り入れてより豊かで彩りのある生活になるきっかけを提供していくフリーペーパーです。

現在15号まで発刊されているこのフリーペーパーですが、最新号のテーマは「ハイカラ浪漫」。毎号テーマが決まっているというのも面白く、バックナンバーを集めたくなるんですよね。内容も学生らしい視点で、それでいて読まれることや 手に取られることをちゃんと意識しているからすごく読みやすい。学生だからといって侮れないのが、フリーペーパーの面白いところです。

只本屋
月に一度だけ開くフリーペーパーのお店。毎月末の土日にだけ清水寺のお膝元・東山五条で、全国各地の魅力溢れるフリーペーパーを取り揃える。少ない営業日ながら、ただの本屋としてだけではなく、フリーペーパー製作者やクリエイターともつながれるなど、カルチャースペースとしても注目されている新しい本屋。
http://tadahon-ya.com/


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